十一歳より十二三歳頃まで
学校の授業ををはりて午後三時松葉刈らんと野山に出で行く
松の柴刈りたるあとはたそがれの山に相撲とり友とたのしむ
日の暮るるさへも忘れてわが友と相撲をとりて腰いためつつ
黄昏て山よりかへればたらちねの父は怒りて頭なぐりぬ
泣きながら家を飛び出し友の家に一夜しのびしことさへありぬ
われうちし父おどろきてよもすがら村の家ごとたづねまはりつ
○
日曜の午後山に入り火をはなちひと山焼きて叱られしかな
驚きて友と四五人もゆる火を消さんとあせり頭髪やきたり
髪の毛も眉も残らず焼きつくし黒焦となり家にかへれり
村人は交番巡査にわたさんと吾をさまざまおどしていましむ
棍棒をふりあげながらわが父は村にすまぬと追ひかけまはる
水冷ゆる水道の中にひと夜さをしのびて腹をいため苦しむ
○
幼かりし時の田舎者の足蹟は余りに恥かしきことばかりなる
神の道つたふる身には幼どきのこと歌ふさへ心ひかるる