十二三歳の頃
金剛寺門にかけたる雀蜂の巣をとらんとてあたまをささる
蜂の巣を執念ぶかくつけねらひ袋つくりて夜襲こころむ
やうやくに蜂の巣ぶじに捕獲なし蜂の子あぶりて舌鼓うちぬ
蜂の子をあまり沢山くひすごしからだいちめん腫物となる
背に腹に腰にはれもの続出し身うごきならず昼夜くるしむ
一ケ月あまりも床に起き伏して友のあそびをうらやみにける
わが家の西南隅の地のしたに巣くふ土蜂とるとまたささる
土蜂の穴の入口に夜火たきて蜂一疋ものこらずとりたり
屋敷にて火をたきたるは危険なりと父にしかられおひだされたり
真夜中に家追ひだされやむをえず観音堂の床下に寝ねぬ
朝まだき観音堂のゆかしたゆ蜘蛛の巣あびて這ひだしにけり
朝詣せしコブ安はおどろきて化物とおもひ杖にてうちたり
コブ安の杖に天窓をたたかれてキヤツとなきつつ殿山に逃ぐ
殿山にかくれみたれど腹すきて堪へがたきままそと家にかへる
両親や近家のひとびとあつまりてわが行方をばあんじてゐたりき
どこにゐた空腹だらう飯食へと打つてかはりし父のふるまひ
追ひだされ家居なきまま観音の床下に寝ねしと実状かたる
これからは追ひ出さないから百姓に勉強せよと父やはらかに宣りぬ