十三四歳の頃
土淵に竹の箕をもて魚あさり三尺有余のなまづをすくふ
この鯰めづらしいとてすなどりの友より売れとすすめられたり
売るよりも両親にみてもらはんと勇みわが家にもちかへりたり
大鯰みて祖母上はおどろきつ弁天のつかひだはなてと宣らす
珍らしき鯰をとりしうれしさにはなちもやらず盥にかひたり
二三日たちたるあした大鯰たらひのなかにふんのびてをり
余りにもいやらしきまま煮もやらず惜みをしみつ土中に埋むる
その日ごろまたもや尻に腫ものが七八ツ現はれ身うごきならず
弁天様の御使ひの鯰のたたりぞと祖母上宣りて神祈りませり
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魚漁の文助熊といふひとりもの小さき鯰を売りにきたれり
弁天の使ひも糞もあるものかと熊の鯰を買ひて煮てくふ
文助熊はその翌日も鯰とりて今日も買へよと来りすすむる
鯰くひしその夜半より腫れものはひとしほつよく痛みだしたり
一と夜二た夜泣きあかしつつ腫れものはもろくも破れて痛みとまりぬ
その以後は鯰の名さへわが身には身震ひするまでいやになりけり