二十五六歳の頃
二三日たちて彼女の水茎のあとくろぐろと父の手に入る
朝夕の仕事もろくに手のつかぬ子養子にやらんときり出す垂乳根
同情の親の言葉に感激しうれしなみだにしばしくれたり
双方より吉日良辰あひえらみいよいよ結婚式を挙げたり
斉藤の家の養子となりながら依然と牧畜業をいとなむ
今までの恋びとに比して背はひくく色浅黒きをもの足らず思ふ
牧場に毎夜とまりて養家へは十日に一度かへりていねにし
養父母はわが身を近くまねきよせ気に入らぬことばかりいひ出す
一人の大事の娘を大切にしてくれぬならかへれときり出す
大望をかかへし身には女房位かまうて居れぬと与太をいひけり
牧畜業ぐらゐしてゐて大望も糞もあるかと養父はおこる
人間は行先を見ねばわからない何時まで牧畜する気はなしと応ふ
牧畜をせぬなら養子にほしくないあて外れたとおどろく両親
両親はわしが気に入らぬわしは又嬶がいやだと駄駄ツ子をいひみし
女房は側にしくしく泣ける見て一寸自分も気の毒になりぬ
斉藤の家風にあはぬこの養子出てうせろよと養父追ひ出す
そちらから放り出さずともこちらからほり出てやるといふ捨台詞
斎藤の家庭をおそふ低気圧暗雲低迷かみなりごろごろ
結婚の式挙げしより百ケ日たちし夕暮縁きれにけり