霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 歴朝の施政方針

インフォメーション
題名:第2章 歴朝の施政方針 著者:出口王仁三郎
ページ:389
概要: 備考:2023/10/04校正。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-10-04 17:55:06 OBC :B121802c161
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]『敷島新報』大正5年5月11日
 崇神(すじん)天皇(てんわう)即位(そくゐ)(ねん)(ぐわつ)(みことのり)(いは)
(おも)ふに(わが)皇祖(みおや)諸々(もろもろ)天皇(てんわう)(たち)宸極(あまつひつぎ)光臨(のぼり)(たま)へるは、(あに)一身(いつしん)(ため)ならむや、(けだ)人神(じんしん)司牧(ととのへ)牧の字は底本では「禾+攵」という文字を使つているが一般に日本書紀では「牧」が使われている。「禾+攵」は「牧」の異体字か?て、天下(てんか)経綸(けいりん)(たま)所以(ゆえん)なり、(ゆゑ)()世々(よよ)玄功(げんこう)(ひら)き、(とき)至徳(しとく)()(たま)へるなり云々(うんぬん)』と(おほ)せられて()りますが『人神(じんしん)司牧(ととのへ)て、天下(てんか)経綸(けいりん)す』とは(すなは)祭事(まつりごと)(もつ)つて政治(せいぢ)(おこな)はせらるる()であります。
 (また)()()()天皇(てんわう)御製(ぎよせい)にも
(あま)(かみ)(くに)(やしろ)(いは)ひてそわが葦原(あしはら)(くに)(をさ)まる
とありますが、祭事(まつりごと)(わが)神国(しんこく)唯一(ゆゐいつ)治国(ちこく)(はふ)でありまして、(わが)国家(こくか)施政(しせい)方針(はうしん)は、(いづ)れも()()根本(こんぽん)原則(げんそく)から()()されたのであります。
 (ゆゑ)古来(こらい)国家(こくか)(こと)は、臨時(りんじ)大事(だいじ)勿論(もちろん)平時(へいじ)恒例(くわんれい)(こと)でも、(あるひ)神意(しんい)()ひて(をしへ)()け、(あるひ)祈願(きぐわん)奉告(ほうこく)して(おこな)はれ、(こと)(をは)つて(のち)にはまた奉告(ほうこく)謝賽(しやさい)せられたもので、(これ)今日(こんにち)にも(おこな)はれて()るのであります。元来(ぐわんらい)この国家(こくか)祭礼(さいれい)といふ(こと)は、(その)形式(けいしき)差異(さい)があり、(また)(こと)大小(だいせう)(べつ)がありましても、一家(いつか)戸主(こしゆ)(なに)(こと)()すに(あた)つて(おや)報告(ほうこく)(また)相談(さうだん)するのと意義(いぎ)(おい)ては(かはり)()い、()れが(おや)死後(しご)(おい)如在(じよざい)(れい)(もつ)(おこな)はれる(とき)は、(すなは)一家(いつか)祭祀(さいし)であります。(ゆゑ)国家(こくか)祭祀(さいし)起原(きげん)(たづ)ぬる(とき)は、(とほ)神代(かみよ)(おい)伊邪諾(いざなぎ)伊邪册(いざなみ)二尊(にそん)修理(しうり)固成(こせい)(まつり)(はじ)まつて()るのであります。神代紀(じんだいき)()ると、(はじ)(なぎ)(なみ)二尊(にそん)男女(だんぢよ)(みち)先後(せんご)(あやま)られましたが(ため)に、不具(ふぐ)なる蛭子(ひるこ)()()みになり、(さら)天神(てんしん)(をしへ)()けて(ここ)(こう)(そう)せられたのでありますが、()れは(あたか)息子(むすこ)最初(さいしよ)家業(かげふ)失敗(しつぱい)して、(さら)老練(らうれん)なる(おや)(をしへ)()けて成功(せいこう)したのと(おな)(こと)で、(なぎ)(なみ)二尊(にそん)としては()天神(てんしん)(まつ)(たま)ひ、息子(むすこ)としては()(おや)(まつ)つたのであります。(しか)今日(こんにち)所謂(いはゆる)祭祀(さいし)(すなは)一種(いつしゆ)形式(けいしき)(そな)へた祭祀(さいし)は、天孫(てんそん)瓊々岐(ににぎの)(みこと)降臨(かうりん)濫觴(らんしやう)して()るのであります。神代紀(じんだいき)()ると天孫(てんそん)瓊々岐(ににぎの)(みこと)降臨(かうりん)(たま)ふに(さい)し、天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)()()づから寶鏡(はうきやう)()りて()れを天孫(てんそん)(さづ)けて(のたまは)
()れの(かがみ)は、(もは)(あが)御魂(みたま)として、(あが)(まへ)(いつく)がごと、(いつ)(まつ)れ』
と、()(わが)国典(こくてん)に「(いつ)きまつる」といふ言葉(ことば)()えた(はじめ)でありますが、また()(とき)高皇(たかみ)産霊(むすびの)(かみ)(あめの)兒屋(こやねの)(みこと)太玉(ふとだまの)(みこと)(みことの)りし(たま)はく。
()(すなは)天津(あまつ)神籬(ひもろぎ)(かま)へ、天津(あまつ)磐境(いはさか)(おこ)()(まさ)吾孫(すめみま)御為(みため)(いは)(まつ)らむ、(いまし)(あめの)兒屋(こやねの)(みこと)(ふと)(たまの)(みこと)(よろ)しく、天津(あまつ)神籬(ひもろぎ)()ちて、葦原(あしはらの)中津(なかつ)(くに)(あまくだり)て、(また)吾孫(すめみま)御為(みため)(いは)(まつ)れ』と、()(また)臣下(しんか)(たい)して祭祀(さいし)(をし)(たま)うたのであります。磐境(いはさか)斎境(いはさか)斎場(さいじやう)()であります。神籬(ひもろぎ)霊籬木(ひもろぎ)祭典(さいてん)(とき)神霊(しんれい)招請(せうせい)して()する()のことで、(さかき)または(まつ)(もち)ひるのであります。されば爾来(じらい)歴代(れきだい)天皇(てんわう)祭祀(さいし)(もつ)為政(しせい)大本(たいほん)()(たま)ひ、一令(いちれい)(はつ)一事(いちじ)(おこな)はるるにも私意(しい)(くは)(たま)(こと)なく、(ほと)んど(みな)神意(しんい)奉伺(ほうし)(うへ)にて(おこな)はせられたのであります。それで国家(こくか)祭祀(さいし)荘重(さうちよう)熾盛(しせい)でありまして、上下(じやうげ)貴賎(きせん)ともに祖神(そしん)(たい)して敬虔(けいけん)愛慕(あいぼ)(じやう)(ねつ)して()(とき)は、(がい)して天下(てんか)泰平(たいへい)で、(くに)少々(せうせう)(らん)があつても(ただ)ちに(おさま)り、国威(こくゐ)国光(こくくわう)海外(かいぐわい)(かがや)くと()状態(じやうたい)であつたが、(これ)(はん)して祭祀(さいし)(おとろ)へた時代(じだい)国家(こくか)はどうも(はなは)だしい内乱(ないらん)(おこ)るとか、海外(かいぐわい)諸国(しよこく)との関係(くわんけい)面倒(めんだう)であるとか()事故(じこ)比較(ひかく)(てき)(おほ)かつた(やう)であります。
 抑々(そもそも)人皇(じんわう)(だい)(だい)神武(じんむ)天皇(てんわう)が、日向(ひうが)より東征(とうせい)(ぐん)(おこ)夥多(くわた)賊徒(ぞくと)誅戮(ちゆうりく)して天下(てんか)平定(へいてい)(こう)(そう)(たま)ふや、皇祖(くわうそ)天神(てんじん)(まつ)つて荘重(さうちやう)なる()即位(そくゐ)(しき)(おこな)はれましたが、()れが今日(こんにち)大嘗祭(だいじやうさい)であります。(また)()即位(そくゐ)()(ねん)
(わが)皇祖(みをや)(みたま)(てん)より降臨(こうりん)して(ちん)()光助(くわうじよ)(たま)へり、(いま)諸虜(しよりよ)(すで)(たひら)海内(かいだい)無事(ぶじ)なり、(もつ)天神(てんしん)郊祀(こうし)大孝(たいかう)()ぶべきなり』と(おほ)せられて、霊畤(れいじ)大和国(やまとのくに)宇陀郡(うだぐん)榛原村(はりはらむら)鳥見(とみ)山中(さんちう)()てて皇祖(くわうそ)天神(てんじん)大祭(たいさい)(おこな)はせられたのであります。(くだ)つて(だい)(だい)崇神(すじん)天皇(てんわう)(また)格別(かくべつ)神祇(しんぎ)崇敬(すうけい)()らせられ、従来(じゆうらい)のやうに神人(しんじん)同床(どうしやう)では神祇(しんぎ)冒涜(ぼうとく)するの(おそ)れありとて、別人(べつじん)別処(べつしよ)(せい)(おこ)(たま)ひ、(また)疫病(えきびやう)流行(りうかう)して百姓(ひやくしやう)流離(るり)三韓(さんかん)関係(くわんけい)して辺境(へんきやう)(おい)背叛(はいはん)するものあるや、天神(てんしん)地祇(ちぎ)(いの)りて(ゆめ)大物主(おほものぬしの)(かみ)諭告(ゆこく)()て、天下(てんか)順伏(じゆんぷく)し、後世(こうせい)御肇国(はつくにしらす)天皇(すめらみこと)(もう)(たてまつ)つた(ほど)であります。(つい)(だい)十一(だい)垂仁(すいにん)天皇(てんわう)(また)御父(おんちち)崇神(すじん)天皇(てんわう)()同様(どうやう)神祇(しんぎ)崇敬(すうけい)(たま)ふて二十五(ねん)(はる)(ぐわつ)(みことのり)して(のたまは)
(わが)先皇(せんわう)御間城(みまき)入彦(いりひこ)五十瓊殖(いにゑの)天皇(すめらみこと)は、()(さかし)(ひじり)(まし)ます、欽明聰達(つつしみあきらかさとく)(ふか)謙損(ゆづりすつる)ことを(とり)て、(こころざし)(むなしく)退(しりぞくる)ことを(いだ)き、機衡(まつりごと)綢繆(すべをさめ)神祇(しんぎ)礼祭(いやまつ)り、(おのれ)()()(つと)め、()一日(いちにち)(つつし)む、(これ)(もつ)人民(おほみたから)(とみ)(たり)天下(てんか)太平(たひらか)なり、(いま)(ちん)()(あた)つて神祇(しんぎ)祭祀(いはひまつ)ること、(あに)(おこた)()るを()()
 かくして伊勢(いせ)大神宮(だいじんぐう)(おこ)(たま)うたのであります。(つぎ)神功(じんぐう)皇后(くわうごう)神明(しんめい)救助(きうじよ)()三韓(さんかん)(せい)(たま)ひたるが(ごと)きは、(じつ)祭祀(さいし)(ため)国威(こくゐ)発揚(はつやう)したのであります。かくて神功(じんぐう)皇后(くわうごう)三韓(さんかん)征伐(せいばつ)結果(けつくわ)応神(おうじん)天皇(てんわう)底本では「応神」ではなく「応仁」だが誤字であろう。御代(みよ)(いた)り、百済国(くだらのくに)より論語(ろんご)(およ)千字文(せんじもん)(けん)じて仏教(ぶつけう)伝来(でんらい)(たん)(ひら)き、欽明(きんめい)天皇(てんわう)の十二(ねん)百済(くだら)聖明王(せいめいわう)仏像(ぶつぞう)経論(きやうろん)(たてまつ)りて仏教(ぶつけう)東漸(とうぜん)先導(せんだう)()してより物部(もののべ)蘇我(そが)()軋轢(あつれき)()たし、疫病(えきびやう)流行(りうかう)となり、蘇我(そが)()専横(せんわう)となり、馬子(うまこ)大逆(たいぎやく)となり、(つひ)推古(すいこ)天皇(てんわう)(てう)(おい)聖徳(しやうとく)太子(たいし)崇仏(すうぶつ)政治(せいぢ)()るに(およ)んで国情(こくじやう)一変(いつぺん)し、我国(わがくに)固有(こいう)(まつり)(すなはち)(まつりごと)大義(たいぎ)衰頽(すいたい)()たしたのであります。元来(ぐわんらい)我国(わがくに)民性(みんせい)(がい)して楽天的(らくてんてき)雄壮(いうさう)闊達(かつたつ)であつて、過去(くわこ)現在(げんざい)未来(みらい)などの観念(くわんねん)なく、(したが)つて宗教(しゆうけう)なるものも()らう(はづ)()かつたのであります。(しか)るに仏教(ぶつけう)伝来(でんらい)(さい)百済王(くだらわう)
(この)(のり)は、諸法(しよはう)(ちう)(もつと)殊勝(しゆせう)(かい)(がた)()(がた)し、周公(しうこう)孔子(こうし)()()ること(あた)はず、(この)(のり)()無量(むりやう)無辺(むへん)福徳(ふくとく)果報(くわほう)(しやう)じて乃至(すなはち)無上(むじやう)菩提(ぼだい)()(わきま)ふ、(たと)へば(ひと)随意(ずゐい)(たから)(いだ)随所(ずゐしよ)(もち)ゐて、(ことごと)(こころ)(まま)なるが(ごと)し』など出鱈目(でたらめ)表文(へうぶん)(たてまつ)つて、()単純(たんじゆん)なる敬神(けいしん)思想(しさう)惑乱(わくらん)せしめた。(これ)()当時(とうじ)(おい)ても、迷信(めいしん)()つたに(ちが)いは()いけれども、(いづ)れも仏教家(ぶつけうか)(はい)のいふやうに仏教(ぶつけう)(やとひ)()れてまで、国民(こくみん)思想(しさう)統一(とういつ)する必要(ひつえう)()かつたのであります。(いな)()仏教(ぶつけう)なるものが()て、国民(こくみん)思想(しさう)統一(とういつ)(はか)つて()れたが(ため)に、(かへ)つて国民(こくみん)本性(ほんしやう)(にご)して(しま)うたのであります。聖徳(しやうとく)太子(たいし)(やう)聡明(そうめい)叡智(えいち)御方(おんかた)さへも、我国(わがくに)固有(こいう)大道(たいだう)(すなは)敬神(けいしん)大義(たいぎ)閑却(かんきやく)されたのは(かへ)(がへ)すも遺憾(ゐかん)至極(しごく)であります。(その)証拠(しやうこ)には太子(たいし)()事業(じげふ)として仏教(ぶつけう)(ため)には非常(ひじやう)尽力(じんりよく)なされたが、神祇(しんぎ)(ため)尽力(じんりよく)なされた(こと)史実(しじつ)()りませぬ。(また)国家(こくか)憲法(けんぱふ)()(つく)りに()つたが、(その)十七()(でう)(なか)一言(いちげん)一句(いつく)神祇(しんぎ)(かかは)つて()ない。(これ)(はん)して仏教(ぶつけう)(こと)になると『()(たから)(うやま)へ、三宝(さんぽう)仏法僧(ぶつぽふそう)なり。(すなは)四生(しせい)終帰(しうき)万国(ばんこく)極宗(きよくしゆう)なり。(いづ)れの()(いづ)れの(ひと)(この)(のり)(たつと)ばざらむ。(ひと)(はなは)()しきもの(すくな)し、()(をし)ふるをもて(したが)ひぬ。()三宝(さんぽう)()らずば、(なに)(もつ)(まが)れるを(ただ)さむ』とまで()はれて()ります。(いやしく)憲法(けんぱふ)にさへ()(とほ)りでありますから、()推知(すいち)することが出来(でき)るではありませぬか。果然(くわぜん)国家(こくか)未曽有(みぞう)(だい)紊乱(びんらん)()たし、民性(みんせい)楽天(らくてん)(てき)なりしは悲観的(ひくわんてき)となり、闊達(くわつたつ)なりしは卑屈(ひくつ)となり、後世(こうせい)今日(こんにち)(いた)つても()(こと)出来(でき)ない(ほど)禍根(くわこん)()ゑて仕舞(しま)うたのであります。かくて皇極(くわうきよく)天皇(てんわう)(てう)(およん)蘇我(そが)()専横(せんわう)悪徳(あくとく)()んで(ちう)せられ、孝徳(かうとく)天皇(てんわう)()即位(そくゐ)あつて中大兄(なかのおほえの)皇子(わうじ)藤原(ふぢはら)鎌足(かまたり)(はか)大化(たいくわ)革新(かくしん)断行(だんかう)(たま)ふや、聖徳(しやうとく)太子(たいし)仏教(ぶつけう)政治(せいぢ)(はい)し、我国(わがくに)祭政(さいせい)一致(いつち)主義(しゆぎ)として儒教(じゆけう)(およ)唐制(とうせい)参酌(さんしやく)されました。
 (けだし)()れは当時(とうじ)国情(こくじやう)として()むを()()かつたのであります。(まへ)(まを)した(とほ)聖徳(しやうとく)太子(たいし)崇仏(すうぶつ)政治(せいぢ)(ため)に、国民(こくみん)思想(しさう)益々(ますます)混乱(こんらん)して一般(いつぱん)風習(ふうしう)追々(おひおひ)()しく()つて()たけれども、(その)本元(ほんげん)仏教(ぶつけう)には(これ)整理(せいり)する(ところ)道具(だうぐ)()い。仏教(ぶつけう)には個人(こじん)(みづか)制裁(せいさい)する(ところ)戒律(かいりつ)()つても、国家(こくか)としての政治(せいぢ)(はふ)(いう)せぬから()()けやうがない。(また)我国(わがくに)古来(こらい)政治(せいぢ)(はふ)固有(こいう)風儀(ふうぎ)習慣(しうくわん)()つて()たのであるから、判然(はんぜん)たる法度(はつと)(もつ)一一(いちいち)明細(めいさい)記述(きじゆつ)するといふような(こと)出来(でき)ませぬ、(ゆゑ)此際(このさい)(もつと)現世(げんせ)(てき)であつて道徳的(だうとくてき)政治(せいぢ)(がく)たる儒教(じゆけう)(およ)()れに(もとづ)いて出来(でき)()唐制(とうせい)採用(さいよう)せられたのは適当(てきたう)(こと)であります。(しか)儒教(じゆけう)により唐制(とうせい)模倣(もはう)せられたとは()ひながら、聖徳(しやうとく)太子(たいし)仏教(ぶつけう)耽溺(たんでき)せられたやうに、儒教(じゆけう)(まよ)はれたのでは()りませぬ。(その)(いちぢる)しき証拠(しやうこ)としては、孝徳(かうとく)天皇(てんわう)大化(たいくわ)元年(ぐわんねん)に、右大臣(みぎのおほおみ)蘇我(そが)石川麻呂(いしかはのまろ)が、『()神祇(かみ)鎮祭(まつ)りて(のち)政事(まつりごと)(はか)らせ(たま)へ』と(そう)するや、(ただち)嘉納(かなふ)(たま)ひて、其日(そのひ)倭漢直(やまとのあやのあたへ)比羅夫(ひらふ)尾張(をはり)(くに)に、忌部首(いむべのをびと)子麻呂(こまろ)美濃(みの)(くに)(つか)はして供神(けうしん)(へい)(くわ)せられたるに()つて明白(めいはく)であります。(また)中大兄(なかのおほえの)皇子(みこ)天智(てんち)天皇(てんわう))の帝位(ていゐ)(のぼ)(たま)ふに(およ)びて近江(おほみ)(れい)制定(せいてい)せられ、其後(そのご)天武(てんむ)文武(もんぶ)両朝(りやうてう)少々(せうせう)づつ修訂(しうてい)(くわ)へられましたが、文武(もんぶ)天皇(てんわう)大宝(たいほう)年間(ねんかん)出来(でき)(あが)がつたから(これ)大宝(たいほう)(れい)()ひます。(その)(れい)()りますと、神祇官(しんぎくわん)なる職官(しよくくわん)特別(とくべつ)(まふ)けて(これ)太政官(だいじやうくわん)(うへ)()き、職員(しよくいん)国家(こくか)祭祀(さいし)(こと)綿密(めんみつ)規定(きてい)してあります。
 北畠(きたばたけ)親房(ちかふさ)(きよう)職原抄(しよくげんしやう)()(こと)説明(せつめい)して『以当官(たうくわんをもつて)置諸官之上(しよくわんのうへにおく)(これ)神国之風儀(しんこくのふうぎにして)重天神地祇(てんしんちぎをおもんずる)故也(ゆゑなり)。……(また)祭官(さいくわん)()(しよく)()上古(じやうこ)()重任(じゆうにん)(なり)(また)神国(しんこく)之故以当官(なるのゆゑにたうくわんをもつて)置太政官之上乎(だいじやうくわんのうへにおく)』と()ふてあります。(その)神祇(しんぎ)(れい)()ると、恒例(かうれい)祭典(さいてん)(はる)に二回(なつ)に七回(あき)に四回(ふゆ)に六回あつて、臨時(りんじ)祭典(さいてん)(とう)(すくな)くなかつたので()ります。(また)当時(たうじ)日本(につぽん)全国(ぜんこく)大国(たいごく)上国(じやうごく)中国(ちうごく)下国(げごく)(および)大宰府(だざいふ)といふやうな(ふう)等級(とうきふ)()けてありましたが、(いづ)れも(その)国々(くにぐに)長官(ちやうくわん)(すなは)今日(こんにち)知事(ちじ)をして国内(こくない)神社(じんじや)祭祀(さいし)(とう)(こと)(つかさど)らしめられたので、職員令(しよくゐんれい)地方官(ちはうくわん)職掌(しよくしやう)(ちう)神祇(しんぎ)(こと)(だい)()()いて『大国守(たいこくしゆ)一人(ひとり)掌祠社戸口簿帳(ししやここうぼちようをつかさどる)云々(うんぬん)上余守准此(じやうよのかみこれにならへ)』とあります。また大宰府(だざいふ)には長官(ちようくわん)たる(そつ)(ほか)主神(しゆしん)なる役目(やくめ)のものがあつて、(りやう)主神(しゆしん)(そつ)(うへ)()いて職掌(しよくしやう)としては主神(しゆしん)(もろもろ)祭祀(さいし)(こと)(つかさど)り、(そつ)祠社戸(ししやこ)口等(こうとう)其他(そのた)行政(ぎやうせい)事務(じむ)(つかさど)るやうに()いてありますが、如何(いか)(その)国体(こくたい)(おも)んじ本末(ほんまつ)(あやま)らぬやうに(こころ)(もち)ひられたかがしのばれるではありませぬか。(また)天武(てんむ)天皇(てんわう)我国(わがくに)古伝(こでん)亡滅(ばうめつ)(かへ)せむことを憂慮(いうりよ)あらせられて、記憶力(きおくりよく)(つよ)丹波国(たんばのくに)桑田郡(くわたごほり)稗田(ひえだ)(さと)稗田(ひえだの)阿礼(あれ)(ちよく)して(しよう)せしめられたのを、元明(げんめい)天皇(てんわう)和銅(わどう)(ねん)(おほの)安万呂(やすまろ)朝臣(あそん)筆記(ひつき)せられ古事記(こじき)出来(でき)(あが)りました。(つい)元正(げんしやう)天皇(てんわう)養老(ようろう)(ねん)修史(しうし)事業(じげふ)があつて、各々(おのおの)旧説(きうせつ)異伝(いでん)集輯(しうしふ)した日本(にほん)書紀(しよき)出来(でき)(あが)りました。(もつと)修史(しうし)事業(じげふ)推古(すいこ)天皇(てんわう)(とき)聖徳(しやうとく)太子(たいし)蘇我(そがの)馬子(うまこ)協力(けうりよく)して天皇記(てんわうき)国記(こくき)編録(へんろく)せられたのが、(ちゆう)せられる(とき)(あづか)(ざう)して(をつ)たのを()いて(しま)うた。しかし其時(そのとき)船史(ふねのふびと)恵尺(ゑさか)火炎(くわえん)(なか)()()んで国記(こくき)だけを()()したと()(こと)であります。して()ると聖徳(しやうとく)太子(たいし)当時(たうじ)国情(こくじやう)(かんが)みて国体(こくたい)(くわん)する記伝(きでん)必要(ひつえう)(かん)じられたに相違(さうゐ)()いけれども、(また)(その)事業(じげふ)に、大逆(たいぎやく)馬子(うまこ)(とう)(たづさ)はつたとして()れば、(はた)して()記録(きろく)正確(せいかく)神聖(しんせい)()つたか(いな)かが(うたが)はれる。斯様(かやう)(かんが)へて()ると焼滅(しようめつ)して(かへつ)国家(こくか)後世(こうせい)(ため)利益(りえき)()つたかも()れぬのであります。(おも)ふに千載(せんざい)今日(こんにち)(また)(いく)千万(せんまん)(さい)後々(のちのち)までも、(わが)国体(こくたい)淵源(ゑんげん)()皇道(くわうだう)大義(たいぎ)闡明(たんめい)して、金甌(きんおう)無欠(むけつ)国体(こくたい)維持(いじ)し、祖国(そこく)として神国(しんこく)として世界(せかい)(ほこ)()ることは、(まつた)大化(たいくわ)革新(かくしん)以後(いご)歴代(れきだい)天皇(てんわう)が、外教(ぐわいけう)輸入(ゆにう)(ため)思想(しさう)(かい)(だい)紊乱(びんらん)(きた)した(のち)掃蕩(さうたう)して(ちから)国体(こくたい)保護(ほご)(うへ)集注(しうちう)(たま)うた結果(けつくわ)であります。(かつ)本居(もとをり)宣長(のりなが)(をう)
()(こと)禍事(まがこと)いつぎ禍事(まがこと)()(こと)いつぐ()(なか)(みち)
()はれましたが、(みぎ)(やう)因果(いんぐわ)関係(くわんけい)(かんが)へぬ次第(しだい)であります。ところが、聖武(せいむ)天皇(てんわう)御代(みよ)(いた)つて仏教(ぶつけう)非常(ひじやう)興隆(こうりゆう)すると反対(はんたい)に、我国(わがくに)固有(こいう)神道(しんだう)(はなは)だしく衰微(すゐび)()たしたのであります。(もつと)(この)以前(いぜん)(すなは)聖徳(しやうとく)太子(たいし)時代(じだい)以来(いらい)仏教(ぶつけう)漸次(ぜんじ)弘布(ぐふ)せられ、朝廷(てうてい)(おい)ても仏会(ぶつえ)修法(しうはふ)などがありましたけれども、大化(たいくわ)革新(かくしん)(ため)(おさ)へられて目立(めだ)(ほど)(こと)もなかつたが、(やうや)(とき)()ぎて改革(かいかく)一段落(いちだんらく)()くと(とも)に、入唐(にうたう)して()三論宗(さんろんしゆう)(そう)道慈(だうじ)唯識宗(ゆいしきしゆう)(そう)玄昉(げんばう)帰朝(きてう)(およ)律宗(りつしゆう)唐僧(たうそう)鑑真(かんしん)来朝(らいてう)(とう)際会(さいくわい)して、(かしこ)くも聖武(せいむ)天皇(てんわう)(みづか)三宝(さんぽう)()(しよう)(たま)ひて大仏(だいぶつ)(つく)り、戒壇(かいだん)(きづ)き、諸国(しよこく)国分(こくぶ)(でら)()てて田地(でんち)(あた)へ、国司(こくし)をして(これ)検校(けんかう)せしめられた(ほど)帰依(きえ)信仰(しんかう)()て、(その)結果(けつくわ)僧侶(さうりよ)暴慢(ばうまん)となり、(そう)玄昉(げんばう)(ごと)きは(おそ)(おほ)くも光明(くわうみよう)皇后(くわうごう)昵近(ぢつきん)(たてまつ)り、また一方(いつぱう)には藤原(ふじはら)広嗣(ひろつぐ)(つま)美貌(びぼう)なるに横恋慕(よこれんぼ)して広嗣(ひろつぐ)不在(ふざい)(ちう)()れを(かん)せむとし、(つひ)広嗣(ひろつぐ)をして(はん)せしむるに(いた)つた。(おな)叛臣(はんしん)でも広嗣(ひろつぐ)(ごと)きは(たう)()事情(じじやう)から(かんが)へると(じつ)()(どく)次第(しだい)であります。(また)(そう)行基(ぎようき)()でて本地(ほんち)垂跡(すゐじやく)(せつ)(とな)へ、民心(みんしん)欺瞞(ぎまん)して一層(いつさう)仏法(ぶつぱふ)弘通(ぐつう)し、(その)(へい)たる(つひ)孝謙(かうけん)天皇(てんのう)御代(みよ)(およ)びて、朝紀(てうき)大紊乱(だいびんらん)となりて(あら)はれ、恵美(ゑみ)押勝(おしかつ)(つい)妖僧(えうそう)道鏡(だうきやう)寵幸(ちようかう)(ほしいまま)にするに(いた)り、(じつ)忌々(いまいま)しき一大(いちだい)汚点(をてん)国史(こくし)(うへ)(のこ)して仕舞(しま)うたのであります。()当時(たうじ)(こと)歴史(れきし)物語(ものがた)りに()つて()ますと、(むね)一杯(いつぱい)()つて(なん)とも()とも()へぬ(じつ)遺憾(ゐかん)次第(しだい)であります。
 かくて孝謙(かうけん)天皇(てんわう)(はう)(たま)光仁(くわうに)天皇(てんわう)藤原(ふじはら)百川(ももかは)(ため)迎立(げいりつ)され(たま)ひてより、代々(よよ)英明(えいめい)天皇(てんわう)継承(けいしよう)(たま)ひ、藤原(ふじはら)()外戚(ぐわいせき)として漸次(ぜんじ)勢力(せいりよく)()専横(せんわう)には()つて(まゐ)りましたけれ(ども)(あま)(はなは)だしい紊乱(びんらん)(しよう)する(ほど)(こと)()く、(こと)宇多(うだ)天皇(てんわう)(ごと)きは、一段(いちだん)英明(えいめい)(きみ)にましまして、菅原(すがはらの)道真(みちざね)卑家(ひけ)から(ぬき)()げて一方(いつぱう)藤原(ふじはら)()(おさ)へ、国家(こくか)施政(しせい)細則(さいそく)たる延喜式(えんぎしき)五十(くわん)修定(しうてい)せられたのであります。()れは平田(ひらた)篤胤(あつたね)(をう)の『たまだすき』に(こま)やかに解題(かいだい)がしてあります。
 延喜式(えんぎしき)()ふは全部(ぜんぶ)で五十(くわん)ありまして式条(しきでう)御典(みふみ)でありますが、(その)初巻(しよくわん)より(だい)(くわん)までを神祇式(じんぎしき)とて神祇(じんぎ)(くわん)する御式(おんしき)()せられ、あとの四十(くわん)神祇(じんぎ)(こと)(つづ)まる(くらゐ)で、八巻目(くわんめ)諸々(もろもろ)神々(かみがみ)(まつ)らせ(たま)(とき)祝詞(のりと)(とう)()せられ、その第一(だいいち)にある祈年祭(きねんさい)祝詞(のりと)より最末(いやすゑ)にいたる大祓詞(おほはらひごと)まで、(ことごと)天下(てんか)人民(じんみん)(ため)()(たま)神祭(しんさい)御文(みふみ)にて、(さら)天皇(てんわう)()自体(じたい)(ため)(いの)らせ(たま)はず、天下(てんか)(こと)(いの)(たま)ふに(つい)(おん)(みづから)御事(おんこと)にも(およ)ぼせる御文(おんふみ)であります。()てその九巻目(くわんめ)巻目(くわんめ)神名帳(しんめいちよう)とて、朝廷(てうてい)より御祭(おまつ)りある国々(くにぐに)神社(じんじや)()()せられてありますが、(その)(すう)三千百三十二()(やしろ)(かず)すべて二千八百六十一(しよ)(これ)延喜式(えんぎしき)(ない)(やしろ)()ふのでありますが、(これ)によりて()れば如何(いか)神祇(じんぎ)(おも)きを()かれたかを()(こと)出来(でき)るのであります。()神社(じんじや)(かず)()(しき)()れたのも(すく)なくはなかつたので、同書(どうしよ)(おい)て、()(ほか)国史(こくし)()えたる式外(しきぐわい)(やしろ)、また国史(こくし)()れたる御社(みやしろ)朝廷(てうてい)より(まつ)らせ(たま)ふものも(おほ)くありまして(これ)官知(くわんち)(やしろ)(まを)しました。また()官知(くわんち)(やしろ)(まを)して朝廷(てうてい)御祭(おまつ)りに()れたる(やしろ)(すう)は、(いま)(くは)しくは(たづ)()(こと)出来(でき)ませぬ。(けだ)各国(かくこく)神階記(しんかいき)()せたる(やしろ)(おほ)きに(なぞら)へて(かんが)へられませう。
 諸書(しよしよ)に、(あるひ)大社(たいしや)小社(せうしや)一万三千七百()(しや)とも、(あるひ)神宮(じんぐう)二万七千七百十三(しや)成宮(せいぐう)(じん)二千七百五十(しや)()成宮(せいぐう)(しん)一万九千(しや)とも、(あるひ)大小(だいせう)神祇(じんぎ)三千七百()(しよ)(うへ)なるは一万三千(しや)(した)なるは(あは)石数(ごくすう)などあるを()ても、(その)(かず)(おほ)(こと)弁知(べんち)されるのであります。また平田(ひらた)(おう)諸国(しよこく)総社(そうしや)(いち)(みや)由来(ゆらい)(つい)(つぎ)(ごと)()いて()られます。総社(そうしや)(しよう)する(やしろ)は、(おほ)くは(むか)国府(こくふ)()りし()にありて式内(しきない)にて()(かみ)(やしろ)とある(やしろ)(しよう)することも(おほ)くありますが、(また)式外(しきぐわい)にて(ただ)総社(そうしや)(しよう)するのも(おほ)くあります。(これ)(おも)ふに、往昔(わうせき)国々(くにぐに)国司(くにのみこともち)()かれたる(とき)に、その入府(にふふ)(はじ)めに(おい)国守(こくしゆ)神拝(しんぱい)(まを)して、(その)(くに)にある諸々(しよしよ)(やしろ)(ことごと)巡拝(じゆんぱい)し、(また)(しか)らぬ(とき)にも巡拝(じゆんぱい)する(しき)でありまして、()社々(やしろやしろ)(すべ)(いは)ひて総社(そうしや)とせられましたが、また(あらた)(やしろ)()てたのも(おほ)くありました。(なか)には(その)国府(こくふ)()なる(いち)(みや)(あは)(いは)(たてまつ)りたるものもありましたので、(ただ)総社(そうしや)()ふと式内(しきない)にて、(その)(やしろ)()(やしろ)(しよう)するも(おほ)しとの(こと)であります。(これ)()つて()るも我国(わがくに)敬神(けいしん)(てき)政治(せいぢ)事実(じじつ)()られます。(しか)るに遺憾(ゐかん)(こと)には(そう)行基(ぎやうき)()でて本地(ほんち)垂跡(すゐぢやく)(せつ)(とな)へてより、()いで伝教(でんけう)空海(くうかい)(とう)()でて本地(ほんち)垂跡(すゐぢやく)両部(りやうぶ)習合(しうごう)(せつ)敷延(しきのば)し、(たくみ)上下(じやうげ)信仰(しんかう)撹乱(かくらん)してからは仏教(ぶつけう)思想(しさう)国内(こくない)一般(いつぱん)()(わた)り、天照(あまてらす)大神(おほみかみ)大日(だいにち)如来(によらい)加茂(かも)住吉(すみよし)(かみ)正観音(しやうくわんのん)春日(かすが)(かみ)釈迦(しやか)松尾(まつを)(かみ)毘婆尸仏(ひばしぶつ)底本では「毘婆尸神(じん)」だが神の垂迹が神だとおかしいので「仏(ぶつ)」に修正した。垂跡(すゐぢやく)となり、社内(しやない)僧房(そうばう)(まう)宝塔(ほうたう)鐘樓(しやうらう)()て、(かわら)(もつ)社殿(しやでん)()き、丹色(たんせき)(もつ)柱門(ちゆうもん)()り、神前(しんぜん)燈籠(とうらう)()け、樓門(らうもん)(まう)けて山門(さんもん)(こら)し、隋身(ずゐしん)()きて仁王(にわう)()へ、仏刹(ぶつさつ)鎮守(ちんじゆ)(かみ)寺域(じゐき)神祠(しんし)があると()ふやうな状態(じやうたい)()つて神仏(しんぶつ)(まつた)混合(こんがふ)し、(こと)嵯峨(さが)天皇(てんわう)以後(いご)仏教(ぶつけう)帰依(きえ)(あつ)神祇官(じんぎくわん)にも誦経(しようきやう)(もち)ゐるやうになり、清和(せいわ)天皇(てんわう)空海(くうかい)門弟(もんてい)真雅(しんが)(しん)仏教(ぶつけう)(くわん)する(こと)聴従(ちようじゆう)(たま)はざるはなく、宮中(きゆうちゆう)諸司(しよし)をして(そう)()十善戒(じゆうぜんかい)()けしめ、万乗(ばんじよう)尊位(そんい)()落飾(らくしよく)して水尾山()り、苦修(くしう)難行(なんぎやう)体毀(たいき)骨立(こつりつ)して(ほう)(たま)うた(くらゐ)で、(また)最勝(さいしやう)維摩(ゆいま)仁王会(にわうゑ)法華(ほつけ)八講(はちかう)(あるひ)千僧(せんそう)万僧(まんぞう)供養(くやう)など法会(はふゑ)供養(くやう)とは朝廷(てうてい)公事(くじ)大半(たいはん)()める(やう)になり、一般(いつぱん)厭世(えんせい)思想(しさう)(さか)んになつて、妻子(さいし)珍宝(ちんぱう)(およ)王位(わうゐ)臨命(りんめい)終時(しうじ)不随者(ふずゐしや)果敢(はかな)みて(くらゐ)(のが)(たま)ひし花山(かざん)天皇(てんのう)(はじ)(たてまつ)り、厭世(えんせい)不平(ふへい)輩王侯(やからわうこう)貴族(きぞく)出家(しゆつけ)する(もの)(おほ)く、仮令(たとえ)出家(しゆつけ)せずとも薙髪(ちはつ)して入道(にうだう)など(しよう)し、加茂(かも)斎院(さいいん)選子(せんこ)内親王(ないしんわう)すら西方(せいはう)(むか)ひて
おもへどもいむとていはぬ(こと)なれば其方(そのかた)(むか)ひて()をのみぞなく
()ませ(たま)うた(くらゐ)で、貴紳(きしん)()けば(おほ)くは(その)(やしき)寺院(じいん)とし、浄財(じようざい)喜捨(きしや)(おほ)くして(その)勢力(せいりよく)いよいよ強大(きやうだい)になり、(つひ)僧徒(そうと)傲慢(がうまん)()たし、()にも(あし)にも()はぬやうに()つて仕舞(しま)つたのであります。
 (また)一面(いちめん)には、藤原(ふじはら)()世々(よよ)外戚(ぐわいせき)となつて権勢(けんせい)専横(せんわう)(きは)め、一般(いつぱん)文弱(ぶんじやく)(なが)れて豪奢(がうしや)華美(くわび)(おもむ)淫風(いんぷう)(さかん)()(すさ)んで盗賊(たうぞく)所々(しよしよ)横行(わうかう)するも、一(さい)武士(ぶし)一任(いちにん)して歌舞(かぶ)(ふけ)ると()有様(ありさま)で、兵馬(へいば)(けん)何時(いつ)とはなしに武門(ぶもん)()ち、(つひ)には政権(せいけん)までも()武門(ぶもん)(うつ)りて、六百()(ねん)(あひだ)回復(くわいふく)することの出来(でき)ぬやうに()つて(しま)うたのであります。折角(せつかく)宇多(うだ)天皇(てんわう)御宇(ぎよう)に、皇国(くわうこく)古儀(こぎ)(のつと)延喜式(えんぎしき)制定(せいてい)せられても、国家(こくか)大勢(たいせい)(まか)れて、一面(いちめん)には()(みづから)最澄(さいちよう)弟子(でし)円珍(えんちん)信仰(しんかう)灌頂(くわんぢやう)受戒(じゆかい)(たま)うたやうな(わけ)で、祭政(さいせい)一致(いつち)美風(びふう)(ふる)(おこ)(こと)出来(でき)なかつたのは遺憾(ゐかん)千万(せんばん)であります。さり(なが)有難(ありがた)(こと)には(みぎ)(やう)仏教(ぶつけう)(だい)流行(りうかう)(だい)勢力(せいりよく)時代(じだい)()ても、敬神(けいしん)(みち)滅却(めつきやく)されるまでに(いた)らず、()意義(いぎ)多少(たせう)相違(さうゐ)()たし風儀(ふうぎ)変形(へんけい)せられ(なが)らも、上下(じようげ)(あひだ)(つたは)つて(まゐ)りましたので、国体(こくたい)美風(びふう)維持(いじ)する(こと)出来(でき)たのであります。順徳院(じゆんとくいん)禁秘抄(きんぴせう)にも
凡禁中(およそきんちうの)作法(さはふ)先神事(しんじをさきにし)後他事(たじをのちにす)旦暮(たんぼ)敬神之(けいしんの)叡慮(えいりよ)無懈怠(けたいすることなし)白地(あからさまに)以神宮並内侍所方(じんぐうならびにないじしよかたをもつて)不為御跡(あととなさざれ)万物(よろづのもの)随出来(できるにしたがひ)必先(かならずまづ)置台盤所棚(だいばんじよだなにおき)召女官(じよくわんをめして)被奉(まつらさる)云々(うんぬん)
(おふ)せられてあります。
 ()れに()つて禁中(きんちう)御作法(ごさはふ)(ほど)拝察(はいさつ)する(こと)出来(でき)ます。また(みなもと)頼朝(よりとも)でも敬神(けいしん)(ねん)(あつ)く、屡々(しばしば)(つる)(おか)八幡宮(はちまんぐう)などへ参詣(さんけい)して()るやうでありますし、北条(ほうじよう)()執権(しつけん)として政柄(せいへい)掌握(しようあく)するやうになつてからは、非常(ひじやう)神祇(しんぎ)(たふと)び、泰時(やすとき)制定(せいてい)した貞永(でうえい)式目(しきもく)には劈頭(へきとう)第一(だいいち)(でふ)に『神社(じんじや)修理(しうり)祭礼(さいれい)(もつぱ)らにす()(こと)』と()項目(こうもく)(まう)けて時宗(ときむね)式目(しきもく)未練抄(みれんせう)には(これ)註釈(ちうしやく)して
右神(みぎかみ)(ひと)(けい)()りて()をまし、(ひと)(かみ)(とく)に依りて(うん)()ふ。()れば(すなは)恒例(こうれい)祭祀(さいし)陵夷(りようい)(いた)さず、如在(じよざい)礼奠(れいてん)怠慢(たいまん)せしむること(なか)れ。(ここ)により関東(くわんとう)御分(おんわけ)国々(くにぐに)(ならび)荘園(さうえん)(おい)ては、地頭(ぢとう)神主(かんぬし)()(おのおの)()(おもむき)(そん)し、精誠(せいせい)(いた)すべきなり。(かね)ては(また)有封(いうほう)(やしろ)(いた)りては、代々(よよ)()()小破(せうは)(とき)(しばら)修理(しうり)(くは)へ、(もし)大破(たいは)(およ)ばば子細(しさい)言上(ごんじやう)せしむれば、()左右(さいう)(したが)()沙汰(さた)あるべし矣』と()ふてあります。
 また時宗(ときむね)(とき)は、(あたか)蒙古(まうこ)来襲(らいしう)(くわい)して未曽有(みぞう)危難(きなん)でありました。当時(たうじ)(こと)今更(いまさら)のぶる(えう)もありませぬが、神威(しんい)著明(ちよめい)であつた要点(えうてん)(まを)しますと、後宇多(ごうだ)天皇(てんわう)文永(ぶんえい)十一(ねん)(ぐわつ)賊船(ぞくせん)筑前(ちくぜん)博多(はかた)()(とき)に、()(ぐん)連戦(れんせん)連敗(れんぱい)非常(ひじやう)(くる)しみましたが、一夜(いちや)大風雨(たいふうう)(おこ)つて賊船(ぞくせん)(おほ)岩礁(がんしやう)()れ、元軍(げんぐん)援兵(えんぺい)たる高麗(こま)大将(たいしやう)溺死(できし)()し、(つひ)全軍(ぜんぐん)夜中(やちう)(のが)()つて翌朝(よくてう)我軍(わがぐん)海面(かいめん)(のぞ)むと隻影(せうえい)だにも()かつたと()ふことであります。また弘安(こうあん)(ねん)(えき)(とき)賊船(ぞくせん)鷹嶋(たかしま)()つて()ましたが大風雨(だいふうう)前日(ぜんじつ)会々(たまたま)海中(かいちう)青蛇(せいじや)(あら)はれ硫黄(いわう)()(てん)()ちたので、賊将(ぞくしやう)(はん)文虎(ぶんこ)(おそ)れて(たちま)(ぐん)()(のが)()つたが、七月(しちぐわつ)(みそか)(よる)より(よく)(ぐわつ)一日(いちにち)にかけて、(だい)颶風(ぐふう)(おこ)り十()(まん)(ぞく)(うち)生還者(せいくわんしや)(わづ)かに三(にん)のみで()つたと()ふことであります。(この)当時(たうじ)上下(じやうげ)心地(ここち)如何(いかが)()りましたらうか、(おそれおほ)くも天皇(てんわう)神祇官(しんぎくわん)臨御(りんぎよ)(した)しく(いの)(たま)ふこと七昼夜(ちうや)亀山(かめやま)上皇(じやうくわう)石清水(いはしみづ)(まを)でて(あした)(たつ)するまで黙祷(もくたう)(たま)ひ、(また)大納言(だいなごん)藤原(ふぢはら)経任(つねとう)伊勢(いせ)(つか)はし宸筆(しんぴつ)願文(ぐわんもん)大神宮(だいじんぐう)(たてまつ)り、()(もつ)国難(こくなん)(かは)らむ(こと)御祈(おいの)りに()つたと(まを)すことであります。今日(こんにち)(かみ)(しん)じない科学(くわがく)万能(ばんのう)主義(しゆぎ)人々(ひとびと)は、()れは(あき)から(ふゆ)へかけては(あだか)九州(きうしう)西岸(せいがん)付近(ふきん)暴風(ばうふう)(おこ)折柄(をりから)であつて、神為(しんゐ)でも不思議(ふしぎ)でもない偶然(ぐうぜん)都合(つがふ)であると()ふのでありますが、それは(だい)なる間違(まちがひ)で、国体(こくたい)真義(しんぎ)(くら)いから其様(そのやう)途方(とはう)もないことが()へるのであります。仮令(たとへ)時候(じかう)所変(しよへん)()るとした(ところ)が、二度(にど)賊船(ぞくせん)()(とき)(ごと)(おこ)つたと()ふことは、余程(よほど)不思議(ふしぎ)所変(しよへん)()はなければなりませぬ。
 其後(そのご)南北(なんぼく)両朝(りやうてう)紛争(ふんさう)から室町(むろまち)時代(じだい)()戦国(せんごく)混乱(こんらん)()()りました。()時代(じだい)(もつと)大義(たいぎ)名分(めいぶん)など()観念(くわんねん)なく、日夜(にちや)戦取(せんしゆ)攻略(こうりやく)(もつぱ)らにして()たのでありますが、(かか)(うち)にも長曽我部(ちやうそがべ)元親(もとちか)などは余程(よほど)敬神(けいしん)(ねん)()つたものと()えまして、()の百()(でう)(おきて)第一(だいいち)(でう)
諸社(しよしや)神事(しんじ)祭礼(さいれい)(とう)先年(せんねん)より(あひ)(さだ)むる(ごと)転退(てんたい)()(べか)らざる(こと)
 (つい)いては(その)社領(しやりやう)寄進(きしん)(もの)(もつ)()()(ほど)()修理(しうり)(くは)()し。()大破(たいは)(およ)んで(かな)はざる(とき)奉行人(ぶぎやうにん)(まで)(あひ)(ただ)()(もの)(なり)(みぎ)無沙汰(むさた)(おい)ては神主(かんぬし)社家(しやけ)曲事(きよくじ)たる()(こと)
()うてあります。織田(おだ)毛利(まうり)()勤王(きんわう)相待(あひま)つて、()時代(じだい)(おい)ては(まこと)(めづ)らしき(こと)ではありませぬか。また豊臣(とよとみ)秀吉(ひでよし)耶蘇(やそ)(けう)(きん)じたキリシタン法度(はつと)に『日本(につぽん)神国(しんこく)たる(ところ)切支丹(キリシタン)より邪法(じやはふ)(さづ)(さふらう)()(はなはだ)(もつ)不可然事(しかるべからざること)』とあります。(これ)(もつ)てしても日本(につぽん)神国(しんこく)なりと()観念(くわんねん)はあつたが、仏教国(ぶつけうこく)だの儒教国(じゆけうこく)だのと()(ねん)()かつたといふ(こと)(わか)ります。さて徳川(とくがは)()天子(てんし)公卿(くげ)法度(はつと)まで制定(せいてい)した(ほど)であつたが、皇室(くわうしつ)(たふと)ぶべき(こと)神祇(しんぎ)崇敬(すうけい)すべき(こと)(こころ)(もち)ひた(こと)は、(しよ)法度(はつと)史伝(しでん)などにも散見(さんけん)する(こと)出来(でき)るのであります。(ただ)徳川(とくがは)()などのやり(かた)は、大義(たいぎ)名分(めいぶん)(うへ)から()たと()ふよりは、(むし)(しゆ)として政略(せいりやく)(じやう)から()()されて()るので、家康(いへやす)他界(たかい)(ぜん)ある(ひと)が「あなた()他界(たかい)せられたら(かみ)として(まつ)りませうか、(また)(ぶつ)として(まつ)りませうか」と()うたら、「()(まつ)るのであつたら両方(りやうはう)(まつ)つて()れ、神下(てんか)(おさ)むる(もの)は一(はう)(へん)しては()かない」と()うたと(つた)へられて()りますが、これ()覇者(はしや)として天下(てんか)(おさ)むる(うへ)より人心(じんしん)収攬(しうらん)する(てん)よりしては()(かく)も、大義(たいぎ)名分(めいぶん)(うへ)からは出来(でき)ない(こと)であります。さりとて(その)当時(たうじ)では(なが)(あひだ)仏教(ぶつけう)感化(かんくわ)()け、加之(しかのみならず)(だい)戦乱(せんらん)()()()(とき)であるから、皇国(くわうこく)固有(こいう)風儀(ふうぎ)(あきら)かならず、国体(こくたい)といふ(こと)明瞭(めいれう)(なか)つたから()うも()むを()次第(しだい)でありました。(また)一方(いつぱう)には基督(きりすと)(けう)撲滅(ぼくめつ)するために仏教(ぶつけう)保護(ほご)し、戸籍(こせき)寺院(じゐん)(おい)()(あつか)はせた(くらゐ)でありますから、仏教(ぶつけう)非常(ひじやう)勢力(せいりよく)()ましたが、皇国(くわうこく)固有(こいう)肝心(かんじん)(かな)めの神道(しんだう)(じつ)微々(びび)たるものでありました。けれども、(また)徳川(とくがは)()文教(ぶんけう)(おも)漢学(かんがく)興隆(こうりゆう)した結果(けつくわ)国学(こくがく)もそれに関連(くわんれん)して(おこ)り、大義(たいぎ)名分(めいぶん)(あきら)かになり、(つい)明治(めいぢ)維新(ゐしん)大業(たいげふ)()るに(いた)つたのであります。
 以上(いじやう)大略(たいりやく)ながら歴世(れきせい)施政(しせい)方針(はうしん)神祇(しんぎ)との関係(くわんけい)(つい)()べて()ましたが、(これ)(えう)するに欽明(きんめい)天皇(てんわう)以前(いぜん)(すなは)仏教(ぶつけう)伝来(でんらい)までは純然(じゆんぜん)たる祭政(さいせい)一致(いつち)時代(じだい)仏教(ぶつけう)伝来(でんらい)より孝徳(かうとく)天皇(てんわう)(すなは)大化(たいくわ)改新(かいしん)までは神仏(しんぶつ)(りやう)思想(しさう)混争(こんさう)時代(じだい)大化(たいくわ)より延喜(えんぎ)(すなは)宇多(うだ)天皇(てんわう)までは神祇(しんぎ)制度(せいど)制定(せいてい)(およ)形式(けいしき)(てき)祭政(さいせい)一致(いつち)存続(そんぞく)時代(じだい)(その)以後(いご)明治(めいぢ)になる(まへ)までは神道(しんだう)衰微(すいび)時代(じだい)とでも(まを)しませうか。(いづ)れにしても純然(じゆんぜん)たる祭政(さいせい)一致(いつち)仏教(ぶつけう)伝来(でんらい)以前(いぜん)でなければ()(こと)出来(でき)ないのであります。さり(なが)()()に、時代(じだい)(おう)じて(うへ)英明(えいめい)天子(てんし)ましまし、また(した)にも折々(をりをり)見識(けんしき)卓抜(たくばつ)()があつて、上古(じやうこ)祭政(さいせい)一致(いつち)状態(じやうたい)(つた)へられることが出来(でき)ました御蔭(おかげ)で、今日(こんにち)のやうな思想界(しさうかい)(だい)混乱(こんらん)せる時代(じだい)でも、一度(いちど)でも古典(こてん)()()れた(ひと)は、国体(こくたい)御真義(ごしんぎ)()(こと)()て、一点(いつてん)疑惑(ぎわく)(おちい)らず、安心(あんしん)立命(りつめい)()ると(とも)に、東海(とうかい)(おもて)(おい)(べう)たる弾丸(だんぐわん)黒子(こくし)()擁護(えうご)し、金甌(きんおう)無欠(むけつ)国体(こくたい)(たも)ち、世界(せかい)雄飛(いうひ)することが出来(でき)るのであります。()(ひとへ)()先賢(せんけん)()りて(つた)へられたる固有(こいう)敬神(けいしん)崇祖(すうそ)(だい)観念(くわんねん)が、国民(こくみん)全体(ぜんたい)充溢(じういつ)して()るが(ため)で、()観念(くわんねん)消長(せうちやう)()国家(こくか)興廃(こうはい)()たすものなる(こと)は、上述(じやうじゆつ)事歴(じれき)()つて(あきら)かな(こと)であります。
(大正五、五、一一号 敷島新報)
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