二十三四歳の頃
われ二十三歳の夏田植すまし修学のため園部に出でゆく
吾が従兄獣医井上直吉のもとにいたりて獣医学まなべり
獣医学研究のかたはら牧場に牛乳しぼりていそしみにけり
数頭の牛の手いれとくさかりと搾乳配達寸閑もなし
寸閑を得し時医学を学べどもあまりくたぶれ頭にはいらず
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獣医学研究を兼ね敷島の歌まなびせし惟平翁に
南陽寺境内安養亭に宿し炊事一さいまかなひにけり
和歌の道搾乳のすべ飯をたく方法などをはじめて知りぬ
園部町藤坂薬店にいとまあれば通ひて薬学研究をなせり
藤坂の家に行くとて井上にいつも小言をいはれとほせり
薬の名さへも読めない獣医師にあきたらなくて薬屋に学ぶ
産科学生殖生理の研究は趣味深かりき若き吾れには
牛乳を野犬に与へて連れ帰り撲殺なして解剖を学ぶ
猫鼠犬など解剖学のため見付け次第に殺して解きぬ
獣医学研究なして自ら殺伐気分漂ひし吾れ
獣医学研究よして国学を研究せよと惟平翁宣らせり