二十三四歳の頃
南陽寺和尚仲人にて口人で西田のむすめ縫子をもらふ
二三日すれば新婦のおしろいはげて頬のあたりに黒あざが出る
くづものをつきつけられたと井上がぼやくことぼやくこと気の毒なりけり
井上は離婚なさんとあせれども早くも妻は懐胎してをり
やむを得ず妊娠のため泣き寝入り抱き寝入りて終に相和す
新嫁の書生あつかひしよるのが癪にさはつて水桶かやす
狭き庭水に浸りてはき物をぬらしたりとて新嫁泣き出す
井上の徳帰り来て乱暴なことをしよつた俺もするといふ
この嬶は大体おれの気に喰はぬ兄の妻でもいねといふ徳
往診ゆ帰り来りし井上に縫子は泣きつきうつたへてゐる
弟の徳を打たずに井上はわが頭辺を杖にて三つ打つ
前額に凸凹出来たそのままに故郷に五里の道逃げかへる