二十五歳の頃
何時までも埒のあかねば双方より和解せんかと吾言ひ出しぬ
大和屋はわが提案によろこびて門口あけて庭に入り来ぬ
やうやくに男を売つた大和屋が男下げたと言はれる苦しさに
双方より十五円づつ出し合うて和解の宴会することとなりぬ
日をさだめ亀岡町の料理屋でいよいよ和解の宴をひらけり
治郎松と長吉をひきつれたそがれて亀岡京町料理屋にゆく
吾が方は三人大和屋五人連れいよいよ和解の盃を為す
宴会の最中長吉は階段下り大和屋負けたと得意気にかたる
喜楽様が負けたぢやないかと女言へば長吉はウフンと空むき笑ふ
大和屋はのつぴきならず双方から十五円出したと長吉はうそぶく
大和屋は五円をポチに十円を宴会の費にあててゐたりき
治郎松の渡した金のみで大和屋は約にそむきて一文も出さず
長吉公がすつぱぬいたる相方は大和屋内縁の妻なりしなり
そのをんな二階にのぼり大和屋に耳うちすれば顔色かはる
大和屋はそれとも言へず階上にひつぱりあげて長吉公をなぐる
○
この喜楽親から長吉をあづかつた明日の朝まではかまふなと詰じる
大和屋は吾が一言に尾をまいて喪家の犬のごとくちぢまる
○
大和屋に別れを告げて治郎松や長吉をともなひ夜道をかへる
大和屋の乾分等吾を松の下にひそみてしかへしせんとたくらむ
抜け道を新家にとりて三人はひそひそ穴太をさしてかへりゆく
不鳴川月夜に石橋ふみはづし治郎松川にばさりと落ちたり
ぬれねづみになりし治郎松抱き上げ袖しぼりつつ野道を帰れり
大和屋とお玉のたくみし美人局はなしまだまだあれど筆擱く