急ぎつつ野路をたどれば朝明けをわが師の家に走りつきたり
灰田には冠句の師匠度変窟烏峯宗匠住みたまひけり
朝明けの雨戸叩けば宗匠はわが声ききて起き出でにけり
喜楽さんこの朝明けをと不思議げに烏峯宗匠とひかけにけり
一部始終つつまずかくさず宗匠に語れば黙してうなづき給へり
烏峯師問答
烏峯『天才のあなたが何故宗教に迷信したか』とあやしみ問はせり
正信と迷信の道はわれ知れり国家のために黙せずと答烏峯『とも角も八木の福島といふ人は正直なれど迷信家ですよ』
壮年のあなたが迷信宗教に入りしとききて惜しみしとのらせり
信仰もよけれど君は壮年よ生産事業にいそしめと宣らせり
わが国の前途思へば私利私慾資産を造る心になれず
玉の緒の命の限り国のため誠のためにつくさむと思ふ
時期の来るまで綾部をばたちのきて浪速に道をしかむと答ふ
烏峯『大阪は信仰強き所なり君行きませば成功なすべし』
石斛の花
庭の面の桜は青葉となりにつつ牡丹の大輪ここだ咲きをり
春の日をひねもす宗匠とかたりつつ川柳などをつくりて楽しむ
大いなる古木の松に石斛の花紫に梢に匂へり
この家の松の梢にからみたる大石斛は有名なりけり
植木屋が千円に売れと進むれど売らずにゐると宗匠はいふ
ひねもすを語らひにつつ夕さりて一夜を楽しく師の家に宿せり
朝明けを待ちて浪速にたたむかと心急がる晩春の夜半
東雲の空ほのぼのと家鶏の声藁家の軒より聞え来にけり