霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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(六)

インフォメーション
題名:(六) 著者:浅野和三郎
ページ:257
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-01-24 22:22:00 OBC :B142400c71
 I少将の憑霊は詰問の結果訳なく往生してその正体を白状して了つた。狐の中でもこの種のものは甚だお手柔(てやはら)かなもので、審神者(さには)の一喝に逢つて忽ち尻尾を(あら)はして了ふのであつたが、シタタカものの狐にでも成ると、中々陰険で老獪(らうくわい)で、審神者を手古摺(てこず)らせる事(おびただ)しい。自分も十月の(なかば)頃に一度(ひど)い奴に出会(でつくわ)した。
 ある日M大佐の夫人が、其姉といふ人を()れて訪問した。其人は日本橋のさる実業家の妻君(さいくん)で、年齢(とし)は三十八九位の年増(としま)(ざか)りであつた。兎に角鎮魂して貰ひたいといふので、自分は二人を一緒に並べて坐らせた。
 神笛(しんてき)を吹き鳴らして居る(うち)に、早くも(あね)さんの方の態度が妙に変り始めた。鎮魂前の様子は上品で温雅(をんが)で、あつぱれ淑女の典型と云うてもよい位であつたのに、何時の間にかそれが(はなは)野卑(やひ)な、蓮ツ葉な、行儀の悪い女に化けて来た。キチンと坐つて居たのが次第に腰を崩し、組んだ両手を左右に離して、ヒラリヒラリと舞踏(をどり)のやうな事を始めた。例へば蝋人形が熱に当つて(とろ)け出したといふ状態で、何時(いつ)何所(どこ)境界(さかひ)といふこと無しに、とても同一の人とは受取れぬ位に変つて了つた。顔までが、唇が歪み、眉根(まゆね)(いや)しい(しわ)が寄り、その(ほか)すべてが悪化して、一目見てぞツとするばかりになつた。
 自分は呆気(あつけ)に取られて、覚えず眼を(みは)つた。何処ともなく冷たい風が背中を襲うて、ゾクゾク悪気(さむけ)を感ぜしめる。
『こりア随分(いや)な奴だ』
(はら)に思つたが、兎も角も質問をして見る。
何誰(どなた)か?』
 暫時(ざんじ)その両手がヒラヒラと舞ひつづけるばかり、まるで人を莫迦にした様子が見える。
何誰(どなた)か? 早く名乗るやうに』
 二三回(うなが)すと言葉を切り出したが、いかにも軽い砕けた調子だ。
『実はわたしは本所(ほんじよ)なの。本所(ほんじよ)の女つ行者に萢いて居る(これ)なの』と言つて、指で狐の形を作つて見せた。
『狐さんだネ、あなたは、何時からこの肉体についたのかい?』
『ツイ今年の春()いたばかりさ』
『何の為めに憑いたのかネ』と自分も成るべく(おだ)てるやうに、軽い句調で質問をつづけた。
『判つて居るぢやないの、このセチ(から)い世の中に、(ほか)目算(もくさん)があつて(たま)るものですかネ。ただこれが欲しいばかりさ』今度は指で輪を作つて見せた。
『フム金銭(かね)か。欲ばりだネ。(うま)く目的を達したかナ?』
『ところが旦那駄目でしたよ。すつかり失策(しくじ)つて了つて、数々(さんざん)骨を折つて(やうや)く捲きあげたお金額(かね)が、たつた五円の祈祷料ぢや()り切れはしません。斯う見えてもこの女は中々堅造(かたざう)で、キユーツと財布の口を()めて居るのですからネ、私すつかり見立違(みたてちがひ)をやつて了つたの……』
 ペラペラ際限もなく(しゃべ)り出した。ものの一時間もやつて居る(うち)に、段々前後の事情が自分にも明瞭になつて来た。
 夫人は若い時分には中々の美人で、盛装して外出(そとで)でもすると()なり人目を惹いたらしい。今から二十年も前に、両国(りやうごく)中村楼(なかむらろう)に琴のお温習(さらへ)があつた時、夫人はそれに出席したさうである。
()んなしろものをひツかけるとお金になりさうだ』
 ()う目星をつけたのは、その場に居合(ゐあは)せた本所(ほんじよ)の女行者の(なにがし)であつたが、その時は単にそのままに済んで了ひ、知らず識らずの(うち)に長いが歳月(としつき)が経過したが、今年の春、夫人は人には余り漏らされぬ病気に(かか)り、人から(きい)て偶然右の女行者の許へ祈祷を頼みに行つた。
『占めた! 永い間(ねら)つて居たが、今度(やうや)く目的を達したのはまア嬉しいことだ』
と女行者は思つた。女行者に憑依して居るのは狐の霊である。気のきいた憑霊は常に当人の胸中を察して、其目的を遂げさすべく活動を開始する。かくて其瞬間に夫人に憑依したのが此狐であつた。
 鎮魂中夫人の態度用語がいかにも下品で、淪落(りんらく)の魔性の女らしい(おもむき)が見えたのは誤り、右の女行者の前身が、田舎まはりの酌婦(しやくふ)であつたからで、酌帰(しやくふ)じみた様子がそツくり夫人に感染(うつ)つて居たのである。
『本当に今度は(あて)が外れて了つた』と狐は(しよ)(きつ)て『このままぢツと憑いて居ても(うま)い汁を吸へさうもなし、さればと言つてポツツリ五円のお土産で、おめおめと帰つて行くも器量が無さ過ぎるし、什麼(どう)して()いか判りアしない……』
『お前も随分目先きが見えな過ぎるぢやないか。()んな堅気(かたぎ)の人から金子(かね)を絞らうと思ふなどは、随分見当外れ過ぎるといふものだネ』
『全くさうですよ。わたしも余程ヌケて居ますね』
『お(まけ)に此人はモウ大本の信者になりかけて居るからネ。大本の神さんの(こは)い事は(しつ)て居るだらう』
『そりや知らなくツて什麼(どう)しませう!』とだらしがないながらも幾分真面目になつて、『艮の金神さまは(こは)い神さんです。神官(かんぬし)さんでも、行者さんでも、但しはお寺の坊さんでも、わたしどもは()つとも(こは)くはないですが、ただ綾部の神さんに(にら)まれると、おたまりこぼしがありはしない。本当に彼様(あん)なイケ好かない、薄気味のわるい所ツたらありアしない』
『全く悪霊から見ればさうだらう。お気の毒さまだ』と自分は空嘯(そらうそぶ)いて冷笑してやつた。
 先刻からの問答にM大佐の夫人は、鎮魂どころでなく、()うに席を立つて、(へや)の隅の方へ行つて、薄気味悪さうに傍聴して居た。
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