世局激変し日本は今や峻烈なる戦後の苦悩に呻吟しつつある。国民生活の窮迫は深刻を極め、道義地に墜ち、民心暗澹として光明を失つている。かかる未曾有の時艱に処し、其根源を究明し、一切の旧弊を去り、天地の公道に基く平和日本を建設するは現下国民の双肩にかかる責務である。
天地の公道は万有を生成し化育せしむる大道である。之に則らずして万世の泰平はない。時代の大恩は自我と現実にのみ捉はれて大道に即せず、上下其嚮ふところを謬りたるにあり、之が匡救は畢竟宗教の使命である。宗教は大道の本源を絶対として帰依信奉し、神の心を理想として之を実現せんとするものである。神の心は愛善にして、人群万類悉く其まことを活かしその処を得しむるにある。神の愛善の心とする強き信念と熱情を以てすれば、時艱克服の途はおのづから開かれる。
いづれの宗教も時代と民族に応じ発生発展したるものであつて、形式は異なれ万教は同根であり真理は一である。宗教本来の面目を発揮すれば、真理の太陽一切の闇を照破し、平和と愛善の世界は顕現する。今日の世態に対し宗教教団の責任は重大である。よろしく旧殻を打破して本然の姿にかへり、相携へて其使命に生きねばならぬ。
我等は大正十四年人類愛善会を結成し、北京に世界宗教聯合会を創り、人類愛善の大義を提唱した。即ち内宗教心の涵養に努め、外人類の融和を期して海外各種の団体と結び、運動漸く世界的に発展し其将来大いに期すべきものがあつた。然るに不幸半途にして当局の弾圧に遭ひ、世局其後急転して支那事変第二次世界大戦勃発し、遂に敗戦日本の今日に至る。我等忍苦反省すること正に十年、終戦と時を同じうして司直の裁断下り、疑雲一掃青天白日の身となるを得た。
我等現下の事態に鑑みて深く期するところあり、茲に「愛善苑」を創り、広く同憂の士と交はり共に語り共に究め天地の公道を明かにして正しき宗教的信念情操を涵養し、人類愛善の大義にもとづき民心を明かにし民生を厚うし、以て道義と愛善に充てる平和日本を建設し、延いては世界の恒久平和に貢献せんとするものである。これ本会を設立したる所以である。
昭和二十一年二月七日