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紅筆

インフォメーション
題名：紅筆 著者：出口王仁三郎
ページ：123 目次メモ：
概要： 備考：『故山の夢』p227-231 タグ： データ凡例： データ最終更新日：2023-11-05 10:12:37 OBC ：B121808c56
─二十五歳の頃─
大(おほ)ぞらの月に薄雲(うすぐも)かかるごと二人の仲になやみの湧きぬ
朝夕(あさゆふ)に彼女の面(おも)の悩ましさ見るわが胸は裂けなむとせり
悲しみの極みは恋と聞きぬれどかほど辛(つら)しとおもはざりしよ
咲き匂ふこころの花は夜嵐(よあらし)にうちたたかれて散らむとぞせし
そよと吹く風にも散らむ桜木(さくらぎ)の花にひとしき恋となりぬる
春の夜(よ)の月に匂へる桜花(さくらばな)を手折(たを)るとしのぶ浮かれ男(を)の腕
かにかくに独り立つ身にあらざれば暫(しば)しさかりて時を待たなむ
花匂ふ月も朧(おぼろ)の夜(よ)なりけり暫(しば)しさかりて時(とき)待たむと誓ひぬ
○
君(きみ)と今別(わか)れて住むはつらけれど末(すゑ)のためよと抱き合ひて泣く
抱き合ひて落(おと)す涙の雨の露(つゆ)に二人の真心(まごころ)かがやく月の夜(よ)
誓ひてし彼女を浪花(なには)に送りおきてわれ牧場(ぼくぢやう)に朝夕(あさゆふ)いそしむ
彼女よりきたる玉章(たまづさ)をひらき見て若きこころはときめきわたる
手紙などかならず送りたまひそと彼女より来(く)る紅筆(べにふで)の文(ふみ)
二ケ月の間隔日(かくじつ)に文(ふみ)おくる彼女のやさしき心根(こころね)に泣きぬ
○
青天(せいてん)の霹靂(へきれき)二ケ月半ののち彼女の手紙におこる低気圧
玉章(たまづさ)を披(ひら)きてみれば手も震ひ色あをざめて歯の根もあはず
父と姉の言葉にそむけず結婚の日に入水(じゆすゐ)すと震へる手の跡(あと)
あたら世(よ)に命(いのち)捨つるには及ばじとなだめすかして返(かへ)し文(ぶみ)送りぬ
若者われもののあはれをさとりてゆ心の空に雲たち迷ふ
あきらめてみむと幾度(いくたび)思へどもむらむらもえたつ胸のほのほよ
身も魂(たま)もやきつくされむおもひにて青息(あをいき)吐息(といき)月(つき)にかこてる
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