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寝巻

インフォメーション
題名：寝巻 著者：出口王仁三郎
ページ：172 目次メモ：
概要： 備考：『故山の夢』p332-336 タグ： データ凡例： データ最終更新日：2023-11-06 18:07:28 OBC ：B121808c77
─二十六七歳の頃─
ねぼけたる顔をかくして尻からげ一目散に牧場にかへる
牧場にかへりて見れば村上(むらかみ)氏はや搾乳(さくにう)を終(をは)りてありけり
喜楽さんまた昨晩(さくばん)もお楽しみなどとからかふ村上老人
遅刻してすまぬといへば村上氏毎度の事よと声あげて笑ふ
村上氏曽我部(そがべ)へわれは稗田野(ひえだの)へ法被(はつぴ)装束(しやうぞく)牛乳(ちち)くばりゆく
○
稗田野(ひえだの)の歌舞(かぶ)の師匠の家に入(い)り牛乳(ちち)くさらして顧客(とくい)におこらる
その夜(よる)は歌舞(かぶ)の師匠の家にとまり寝巻の袖(そで)に尿(ゆまり)かけらる
歳(とし)はまだ十五の歌舞の師匠さんに尿(ゆまり)かけられ憎しと思はず
火の如く顔あからめて歌舞の師匠部屋の小隅(こすみ)にうつむきてをり
小便にぬれし寝巻を帰り路(ぢ)の小川にそつと投げ捨てにけり
朝の牛乳(ちち)をしぼりてまたも稗田野(ひえだの)に配達してゆく顔を見にゆく
吾(わ)が捨てし寝巻の袖(そで)に二十円入(い)れたることを思ひ出したり
二十円の金(かね)思ひ出しおどろきて捨てし小川に衣(きぬ)さがしゆく
幾度(いくたび)も川の上下(かみしも)さまよひて探せどさがせどあとかたもなし
天川(てんがは)の部落の小(ち)さき家の軒(のき)にわが捨てし衣(きぬ)ほしてありけり
衣(きぬ)ほせし家をたづねて袂(たもと)より色の変(かは)りし紙幣(さつ)ひき出しぬ
この着物あなたのなれば返しますとその家(や)の主(あるじ)おとなしく言ふ
金(かね)あれば着物なんかはいりませぬと吾(われ)おとなしくおいて帰りぬ
春の日の花にたはむる蝶のごと父なき吾(われ)はむなしく日を消す
牛乳(ぎうにう)を近き村村(むらむら)に配りながらうら若き日を希望(きばう)に暮れつつ
大(おほい)なる希望(きばう)はあれど貧しければ事業励(はげ)みて身を固めむと思ふ
若き女(め)に吾(われ)は心を奪はれず希望(きばう)にいきて時(とき)にたはむる
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