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髪梳

インフォメーション
題名：髪梳 著者：出口王仁三郎
ページ：159 目次メモ：
概要： 備考：『故山の夢』p305-310 タグ： データ凡例： データ最終更新日：2023-11-06 17:26:11 OBC ：B121808c72
─二十六七歳の頃─
友禅(いうぜん)の派手な蹴出(けだ)しを冬の風にまくらせ彼女は吾(われ)を送れり
高下駄(たかげた)を穿(うが)ちて雪道(ゆきみち)かへるさの田圃(たんぼ)のなかに転げ落ちたる
起きるのは容易なれども彼女(かれ)の手に抱(いだ)かれむ為(ため)そのままにをり
彼(か)の女(をんな)悲鳴をあげてわが身体(からだ)力(ちから)にまかせ抱(だ)きおこしたり
雪道はもう歩けない負うてくれと駄駄(だだ)こねてみし夜明けの野路(のぢ)に
大力(たいりき)の女わが身を背に負ひて人里(ひとざと)近くあゆみつきたり
喜楽さんもう夜(よ)が明ける恥(はづか)しいここから歩いておくれと女(め)のいふ
こんなこと恥(はづか)しやうで神聖の恋出来るかとわらひつなじる
どうなつと勝手におしよ知りませぬこれから家へ帰ると泣き出す
左様なら一人で穴太(あなを)へ帰りますと下駄(げた)を手に持ち跣足(はだし)で走る
走りつつふり返り見れば彼(か)の女(をんな)跣足(はだし)になりて追ひかけきたる
川上(かはかみ)の村にかかれば流石(さすが)にもうら恥(はづか)しく消えたく思ひぬ
○
牧場にかへりてみれば時(とき)おくれ村上(むらかみ)技手(ぎて)のすごき顔付
これからは心得ますと頭掻(か)けば村上にやりと笑うて顔みる
ついて来た彼女は軒(のき)にたたずみて恥(はづか)しさうに泣きわらひせり
村上氏彼女にむかひ寒いのに御苦労さまと皮肉言ひ居り
この頃はどうかしてゐる喜楽さんを気をつけなされとやじる村上
こら親爺かまうてくれなと言ひながら薪(まき)ふりあげて吾(あ)は鍋(なべ)を打つ
叩きたるはづみに鍋(なべ)の耳とれて村上爺(ぢ)さん舌打ちいかりぬ
門口(かどぐち)から小便はこく鍋(なべ)は割るえええ餓鬼やなーとまたも舌うち
彼(か)の女(をんな)三日四日と流連(ゐつづけ)し母の宅までたづねて行きぬ
お母さん私は喜楽の妻ですと初めて逢うた人にかたる彼女
ああさよかお前が伜(せがれ)の女かとすましがほなる気楽な母上
お母さん髪をとかして下さいと母の黒髪(くろかみ)くしけづりをり
女房になるのは可(よ)いが吾(わ)が伜(せがれ)欺(だま)す注意と母いらぬこと言ふ
喜楽さんにだまされましても満足と彼女(かれ)も気楽なことを云つてる
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