二十五歳の頃
懇切な姉の依頼の手紙みていのちの恋を捨てしわれかな
男らしく恋は捨つれどどこやらに名残惜さの背骨がいたむ
垂乳根の父は吾が子と提げくらべしたりといひて憤慨なし居り
恋人を他人にとらるる弱き男末の見込みがたたぬと父いふ
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遠くともみづから行きて結婚を破りて来よと友そそのかす
恋びとをとらるるごとき弱虫は青年会をのぞくと友いふ
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牛乳の得意が大切一朝もかかせぬわれの身こそつらかり
恋愛と事業と二つくらべあひ吾はいのちの恋を捨てたり
貧しければ恋もかなはぬ世の中と知りて朝夕事業にいそしむ
○
恋捨てしこころの苦しさひねもすの業ををはりて浄瑠璃学ぶ
夜な夜なに吾妻太夫の許にゆきて浄瑠璃稽古友となしけり
浄瑠璃の恋の文句につまされてわれ時折に忍び音に泣きぬ
黄金の万能力の社会には南瓜も美人をめとりて澄ませる
地位と金とばかりが結婚すなる世は今業平の君ももてなく