二十五歳の頃
俳諧の席にまみえし十七の女性と視線のあへる夕暮
もの言はぬ彼女の心朧ながら吾に会へりとほほゑみてかへる
大井神社祭礼の夜半に逢はんものとたそがれかけて橋の上に待つ
彼のをんな母と妹に手を引かれ吾に横目をむけてとほりぬ
もう駄目だ今夜は神の御利益が無しとあきらめすごすご帰る
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二三日たてば彼女の玉の文鳩のごとくに飛び入りにけり
封切るもおそしといそぎ見る文の墨色かをる濃紫かな
紅筆の跡すらすらとなまめきて若き男の子の血潮湧き立つ
若き女の文見てしより奪はれし恋の恨みもうすらぎにけり
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朝夕に牧畜業にいそしめどおもひせまりて溜息つきぬ
奪はれし恋の面当と文を見てこころの泉にほこらひの湧く
富豪の家にうまれし彼女等のわれに添ふかと胸は高鳴る
提灯に釣鐘の例へまたしても破れはせぬかと悩ましき朝夕
形ある宝を愛づる世の中にむづかしきかな貧者の恋路は
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学問や知識なくとも富者の子は人の恋までうばひてほほゑむ
神聖の恋愛なりせばかたちある宝も塵のごとくなるベきを
ゆるしあふ互ひのこころ打ち消して終生泣かす無理解の親
生の木を裂かれし恋のわが身にはまたわづらひぬ彼女の上に
プロの家に生れしわれとあなどりて相思のなかも呉れぬ親達
相想ふこころは深き霧の海へだててなきぬ晴れまなきまま
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柿みのる秋の夕暮美装せし彼女の母は吾が家訪ひ来ぬ
喜楽さんの家はここかと訪ねられはいと答へて座布団を出す
彼の女御免と言ひつつ座になほりわが面つくづく眺めてほほゑむ
親切にお世話下さる○○の母です貴方に頼みたいといふ