永き日の書斎に疲れし吾身体慰むるものは春の花なり
本宮山頂に匂ふ厚桜ながめんとして吾のぼりゆけり
山の主改森六左衛門はよろこびて渋茶をくみてもてなしにけり
うつくしい桜が満開してゐるに綾部の奴は不粋者とぼやく
『改森』厚桜満開したるこの春を不粋な綾部の奴は見に来ぬ
お前さん桜の花のま盛りをよく見に来たと爺さんはよろこぶ
この桜一枝ほしいとわが言へば爺さんは手折りて吾にくれたり
わが肩に桜の枝をかざしつつ広間に帰れば竹村目をむく
『竹村』大本は竹と桜は神様のおきらひものよ心得なされ
『上田』桜花は木花姫の御神体よお前の名まで竹村ぢやないか
わが活けし床の桜をひつつかみ庭に投げつけ竹村がふむ
これこそは真の落花狼藉と心地よげなる竹村の面
なにごとも吾に反対する癖のつきたる彼にもてあましけり
本宮山桜の花も散り果てて木木の梢は若芽もえつつ
ほのぼのと春陽は照れど朝夕は肌寒みつつ綿入来て居り
やうやくに蕗の若芽は萌えにつつ妻をいざなひ山に遊べり
須知山の谷間に蕗を妻と刈りて朝夕べの膳に添へたり
ほろにがき味ひなれど春の香のただよふ蕗は風味よろしも
朝夕の飯に山蕗の茎まぜて米の節約はからひにけり
御開祖が三千世界の獅子吼より十年目なる春のさみしさ
開教十年綾部本宮の大本は迷信頑愚の集ひなりけり
天の下に神の道布く苦しさを吾はつくづくなげかひにけり
天も地も曇り果てたる教界の灯火は細りて暗世は近づく
この世界この儘にして進みなば修羅畜生の世と変るべし
何も彼も世界の型なる大本は没分暁漢のみの集団なりけり
世の中の大勢に暗き熱烈なる信徒に教ふる道は無かりき
大勢を知らずにさわぐ忠臣と自称義士とは世を乱すなり