[#前半部は省略する。]
(大正一三、一、一五、霊界物語六九巻 巻頭言)
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現代に行はるる既成宗教や、新宗教なるものの唱導する教義をみるに、何れも霊肉一致の救済には大なる欠点がある様だ。某教の十戒と云ひ、某宗の五戒と云ひ、某宗の七ケ条、某教の十二ケ条、其他粟産的宗教の唱ふる教義を見渡すに、何れも倫理学の範囲を出づるものは一つも無い。偶々霊界を説き天国浄土地獄を説くと雖も、其論旨は不徹底極まる妄断のみで人心を安定させる力の有る教は一つも無い。人間は死後の世界の生涯を気遣はないものは、痴呆者でない限りは一人も無い筈だ。下手な自然界に行はるる倫理の模倣計りを以て、宗教の真体を握んでゐる様に思つて居る宗教家のみだ。倫理なれば倫理の教として布教伝導すれば余りに弊害も大きく成らなからうが、不徹底極まる天国地獄説や、神罰仏責などを捻り出して、世俗を迷妄の淵に陥れむとして居るのだから堪らない。既成宗教の権威と信用は既に己に堕ち、新宗教の頻起するも又何等の権威なく信望なく、旧き道徳は廃れて新しき生命ある道徳の教も起らず、世俗は霊肉共に其の方向を見失ひ、自暴自棄の結果神仏の存在を否定し、心魂日に月に荒廃して自己愛のみに専念し、恰も野獣の如く乱倫不行の徒のみ増加し、世は益々暗黒無明の軌道に向つて最大急行的に驀進しつつあるのである。嗚呼斯る精神界自然界の一大危機に頻し、天下万民のため万有愛護の教旗を翻へし舎身的大活動を試み、霊肉の救済に向つて実行的運動を開始する者出でずむば、世は近き将来に於て猛獣毒蛇の天地と一変するは、火を睹るよりも明かなるべきは具眼者のみと認むる所である。爰に於てか吾人は群肓の妨害や悪罵に撓まず屈せず、人類愛の為天国建設の為一大獅子吼を継続し、日夜活動しつつあるのである。
(大正一四、九、二一号 瑞祥新聞)