第七章 皇国の使命
畏くも、天下統治の天権を天賦に享有し、万世一系の皇統を保全して、大日本国に君臨し玉ふ、天津日継天皇が、神聖なる天下統治の神権、大日本皇道を、未だ完全に発揮し給ふに到らざりし神代は草昧混沌として、天下は実に無道なるやの感ありしなり。古往今来天運未だ到らず、国体の精華を隠伏し、和光同塵の御神策を以て、御皇運発展の時運を、期待し給ふのを止むを得ざりしが故に、世界到る処、草昧なる権謀を発生し、以て治乱興廃の活劇を反復す。人生の不安、世路の困難なるは、是れ天下挙つて、体主霊従主義に心酔せる無道の微証ならずや。由来王道、覇道、憲政、共和政治と称し、或は聖賢大哲の唱導せる教理、道徳説は、天歩艱難の時代を忍耐すべく、凌駕すべき方便たりしなり。然り而して、是を以て時代の人智を啓発し、練習、研磨せしめ、以て皇運扶翼の資に供せしめ給へるなり。皇祖天照大御神の命以て、此の地球即ち豊葦原千秋長五百秋の水穂国は、吾御子正哉吾勝々速日天忍穂耳命の知所国と、言依し給ひて、天降し給ひし、豊葦原中津国なる、極東日本国に、天壌無窮の皇統を垂れ給ふが故に、天下の真正なる大道は、皇国に実在せり。天佑を保全し、万世一系の皇祚を践み玉ふ、皇宗崇神天皇は、畏くも神器を敬遠し、和光同塵の御神策を垂れさせ給ひし以来、茲に二千有余年、天歩艱難の凌辱を隠忍し給ひし御事は、実に吾等臣民たるもの、恐懼措く能はざる所なり。
嗚呼尊き哉、三千世界一度に開く梅の花、天運循環の神則に因り、天下の大道は皇運発展に伴ひ王政復古にその曙光を発し、明治維新の皇謨は、和光同塵の御神策をして、棹尾の大局を終結し玉へり。古語に曰く、彼を知り己を知るは百戦殆からずと。世界大経綸の用意は、畏くも、明治天皇御一代の偉業たりしなり。
畏くも明治天皇は、天運循環して、皇運御発展の時運に到着せる事実を洞察し給ひ、戊申の詔書を下させ給ひて『抑々我ガ神聖ナル祖宗ノ遺訓ト、我ガ光輝アル国史ノ成跡トハ、炳トシテ日星ノ如シ。寔ニ克ク恪守シ、淬励ノ誠ヲ輸サバ、国運発展ノ本近ク斯ニ在リ。朕ハ方今ノ世局ニ処シ、我忠良ナル臣民ノ協翼ニ倚藉シテ、維新ノ皇猷ヲ恢弘シ祖宗ノ威徳ヲ対揚セムコトヲ庶幾フ』と詔命し給ふ。然りと雖も、挙国上下の臣民は、斯深遠なる御聖慮を解し奉らず、道聴途説の如く軽視し奉り敢て聖旨を奉体せざるは、誠に恐懼に耐へざる次第ならずや。維新の皇謨の要素は、実に斯に在り。神聖なる祖宗の御遺訓皇道大本は、是実に天下統治の大道なり。是断、是遷、天威以て厳戒を加へ給ふこと、国本発展の基本なり。古今の弊政、累惑の学説、憲政の悪用は、是古今天下無道無明の産物なり。百度維新、これ開闢以来、未曾有の盛事なり。世界の平和は、斯に其基礎を厳立し、皇国の使命は、言向和す皇化の顕彰なり。済世、済民の皇道は、天理人道を明かにし、祭政一致の教政は、国体の精華を発揚し、国威は四海を風靡して、天下の無道を糺明し、世界の無明を光被す。天津日継天皇が、皇憲を世界に宣布し給ひ、以て其御天職を実践し給ふや、茲に国際的競争は、忽ち文明の競争と化し、生活の不安は、直ちに鼓腹和楽と化すべし。日本国教たる、皇道大本の奨励は、驕慢怠惰奢侈淫邪を殲滅し、社会を刷新して、世界永遠の真の平和始て茲に成就す。万世一系の天皇は、日本皇道大本を宣揚して、世界の平和を確保し給ひ、以て天下統治の御天職を完成し給ふ。嗚呼神聖なる神器は万古に存す。宇宙の大中心、世界の中心、日本国の中心にして、言霊学より見たる、アオウエイ五大父音の総轄たる、アの言霊の幸ひ、助け、天照り給ふアヤの霊域、是れ皇道大本奉釈者発祥の聖地なり。世界妖気の発する所、神軍一過忽ち平定す。偉なる哉、大正維新の皇謨、大なるかな、皇祖経綸の大謨。
人皇第一代神武天皇を、神日本磐余彦天皇と称す。彦波劔武鵜鵜草葺不合尊の第四の御子なり。御母を玉依姫とまをす。我国の太古は神も人も皆私心私情無ければ、必ず兄を以て、世を継ぐ事を為さず、唯その徳の優れるものを選ぶが故に、皇兄五瀬命、稲飯命、三毛野命を置て立て太子となりたまふ。天皇生れながらにして明達、意志確如まします。長となり給ひて、日向国吾田の邑吾平津姫を娶りて妃となす。手研耳命を生たまふ。御年四十五歳に成り玉ひし時、其兄五瀬命等と御子手研耳命と、高千穂の宮に在し坐して、相議たまふは、『此日向国は辺僻にして、王化を普く天下に及ぼすに便宜ならず。何れの地に遷りてか、大業を成就せむ。昔我天神高皇産尊と大日霊尊此豊葦原の瑞穂国を、我天孫彦火々瓊々杵尊に授け給へり。是に於て瓊々杵尊、天の磐座を離れ五百重の雲を排開き、御前を駈足して、此土に戻止たまひしが、運は鴻荒に属ひ、時は草昧に鐘りぬれば、唯その屯蒙たるまゝの淳素なる風俗に随ひ、唯専一に正直の道を養ひ玉ひて、此西の偏に在りて世を治め玉ひ、我皇祖皇宗いづれも神聖にましまして、慶を積み量を重ねて、多くの年所を歴たること、天祖の斯国に降跡たまひてより以来、今に逮りて二千四百七拾余歳なれども、遼遠なる地は猶いまだ王沢に霑はず、村に長あり邑に君あり、恣に彊界を分ちて相互に凌ぎ轢るもの多くして治まり難し』アゝ是れ二千六百年以前の世界の現象なり。即ち現代に於ける世界列強が、各国を侵略割拠し、各自彊界を分ち用ひ、相凌轢せるの状態と古今相等し。是れ天下無道、無明の証徴にして、皇国の天職、皇道大発揚の必要時機ならずや。畏れ多くも日本神国天皇が、万世一系の皇統を享有し玉ふ所以は、豊葦原瑞穂国なる世界を統治経綸し給ふ天職を帯び玉ふ故なる事、是れ国史に炳として日月の如く、記し賜ふ所なり。畏くも神聖にして、天壌無窮の皇運を保ち給ふところ、敢て古今の差別ある事なし。夫れ豊葦原の瑞穂国とは人類の生活し得て、以て国家社会を組織し得る、全世界の総称にして、大日本皇国は、是れ豊葦原の中津国、即ち世界の中心枢軸なり。醒めよ我同胞、自覚せよ其天職を。
第八章 和光同塵の世
畏くも皇孫瓊々杵命は、天地経綸の薀奥を極致し給ひ、筑紫の日向の高千穂の久士布流多気に天降り坐て、万世一系の皇統を垂れ給へり。是に因りて詔たまはく『此地者向韓国真木通笠沙之御前而朝日之直刺国。夕日之日照国也。故此地甚吉地詔而。於底津石根。宮柱布斗斯理。於高天原日木高斯理而坐也』是れ神聖なる、皇祖御遺訓に示し給ふ所。嗚呼降臨の霊域、筑紫の日向国は、これ朝日の直射す国と詔給へる。所謂威弦の発溂的弯威あり。彼の桜島の爆発、高千穂の爆煙は、是百度維新の神威ならずとせんや。天下の無道、暗黒無明の世界を照し玉ふ、神聖なる大日本皇道の顕彰すべき事を知らしめ給へる、朝日の直射す曙光を示し給へるものなる可し。
現代物質文明の淵源地は、西欧諸国にして、是れ即ち夕日の日照る国なり。嗚呼夕日の日照る国、この国より御稜威の発せるは、即ち西欧米等の大戦乱は、皇運発展の導火線たる事、国祖の神諭に由りて明瞭なり。
(一)敢て日本国と謂はず、世界を挙げて、累卵に陥りつつ在るは、目下の惨状なり。由来古今東西の聖哲が、世道人心を治安せむと欲して、唱導せる倫理、宗教、道徳、政治は、之を反復練習せる事幾千年、未だ以て真に社会を平和にし、人心を安息せしむる事能はざりき。然り而して幾種の宗教、幾種の道徳、幾種の倫理、幾種の政治は、各その学者の口に因りて主張せられ、各学派を樹立し、以て相凌轢する所、二千六百年以前の状態なりし、所謂神武天皇の詔ふところの『遂使[#下]邑有[#レ]君、村有[#上]長、各自分[#レ]彊用相凌轢』と幾許の差異かあらむ。
(二)上流社会と称して、美衣、美食、酒色に耽溺して、大厦高楼に起居し、尸位素餐、閑居不善を極むる者あり。中流社会と称し、営々として子女を教養し、租税の醸造的機関たる枢軸的階級あり。下流社会と称して、家族を挙げて、生活の物資を得るに、汲々乎として奔走し、以て生命糊口を凌ぎつつある者あり。
由来上中下流と称するも、人間として何の差別あるに非ず、人生の目的は、必ずしも生活するが為に生れたるに非ず。更に禽獣と相等しく、生活の物資を得るために、奔走すべきものなるの理由は断じて無かるべし。物資、財力、権威等の獲得を以て、現代人生経綸の本旨と為し、以て大は国際的の競争と、中は政権争奪に党を結び、小は個人として、各営利の為に相競争し、各自相凌轢しで、世に処するの状態は、是二千六百年以前に、神武天皇の詔給へる、所謂『遼遠之地猶未[#レ]霑[#レ]於[#二]王沢[#一]遂使[#下]邑有[#レ]君、村有[#上レ]長、各自分[#レ]彊用相凌轢』此世態と幾許の差異あらんや。
(三)畏れ多くも明治天皇は、教育の根本に関する、大勅語を国民に降下あらせ給ひ、
『斯道ハ実二我ガ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ、子孫臣民ノ倶二遵守スベキ所、之ヲ古今二通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラス、朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ、威其徳ヲ一ニセムコトヲ庶幾フ』と詔らせ給へり。嗚呼日本国民にして、誰か此の大勅語の御本旨を奉体して、以て御国体の精華を発揮し奉り、天壌無窮の皇運を扶翼し奉り、以て祖先の遺風を顕彰したる。誰か、陛下の忠良なる臣民の資格を有する者あるか。六千万の同胞上下を問はず、滔々として世界の濁流に游泳して、私産を作り、虚栄を貪るに、敢て手段の善悪を問はず、偽善詐偽不倫行為が、根本的に天賦の徳器を破壊するも、更に毫も怪しまざるの現状なり。殊に日本の学者にして、神聖なる祖宗の御遺訓皇典古事記は、天武天皇の御勅語にして、斯乃邦家之経緯、王化之鴻基焉と記し給へる御神慮を知らず、恰も西洋印度等の神話と同一視し、布衍教導する洋学に心酔累感せる迂愚学者を輩出するに至れり。彼等は御国体の蝕虫、教育界の蠹魚たるなり。
嗚呼現代は、是れ弊政の窮極なり。無道の政治、無明の教育を以て、曷ぞ能く御国体の精華を発揮し奉る事を得むや。嗚呼、神聖なる皇祖の御遺訓、大日本皇道を奉体せざる輩、曷ぞ皇憲を運用し奉るの資格これ在らむや。
(四)神武天皇詔曰
『是の時運鴻荒に属し、時は草眛に鍾る。故に蒙以て正を養ひ、此西の偏を治む』
嗚呼畏くも崇神天皇が和光同塵、以て世界統治の神策を建て給ひて以来、殆ど二千有余年、蒙倶以て正を養ひ給ひしが故に、御歴代の天皇が天歩艱難を凌ぎ忍び給ひけること、誠に惶き極みにこそ。皇運発展の時代は、畏くも陛下の御代に於て、万世一系の御天職を発揮し給ふに因りて、実現さる可き事は、炳乎たる事実なり。加之天運循環の神律は、日本国に幸ひ助け、天照り玉ふ言霊の復活と、国祖の神聖なる垂訓に因りて、皇道を顕彰し給ひ、以て現代の無道無明を照し給ふ可し、神聖なる天津日継天皇の御稜威を、八荒に照耀し給ひ、壮厳なる国祖国常立尊の神威は、暗黒界を照明して、天下に皇道を実現せられ、以て世の経綸を革正し、茲に神聖なる済世救民の御天職と、永遠の平和を保全し玉ふは明瞭なり。偉なる哉、日本皇国の天職や。