今年こそ日露戦争始まると雄猛び狂ふ十二の信徒
明治三十七年
風さむき三十七年一月の朝より役員地の雪を払ふ
竹箒手握り持ちて町町の街路の雪を払ひてほほゑむ
豊年のしるしと降り積む白雪を終日かきのけ余念なかりし
大江山ゆ吹く寒風におくられし綾部の町は吹雪に包まる
科料
三歳の直日に種痘をなすべしと町役場より報告来たれり
水晶の身魂に種痘はゆるさじと開祖は厳しくとどめ給へり
役場よりは吾に向ひて幾度も種痘をさせよと促し来たる
三歳の直日の種痘をなさざれば科料をとると役場の通達
幾らなりと科料を取るならとるがよい種痘はさせぬと役員いきまく
種痘すべき口となりぬれば竹村は直日を背負ひて姿をかくせり
警官も役場の吏員も警察医も吾を呼び出し詰問はじむる
狂人の役員多く吾が長女かくして見えずとわづかに答へし
わが生める娘を他人になくされて晏然たるは其の意を得ずと言ふ
探せども直日の所在判らなく二十銭の科料を搾られりにけり
罰金二十円
年年に種痘を役員こばみつつ遂には罰金二十円しぼらる
罰金を吾取られたる事知らずして神の力と誇り傲ぶる
何事も神の力に叶はじと得意然たる役員をかしも
水晶の身魂に牛の血液をつける司は曲津とさけぶ
官憲と役員の中に挟まれて年年吾は苦しみにけり