この年の二月となりて我国はいよいよ露西亜と戈を交へし
それ見たか日本と露国の戦が始まりたりと得意がる役員
この戦神の力で必ずや日本が勝つと雄猛びするも
日本と露国の戦終りなば世界戦争起るといきまく
日露戦争始まりてより大本の役員信者は色めき立てり
是からは艮金神現はれて立替ありと役員いきまく
信仰をおとし居たりし信徒も再び綾部に帰り来たりぬ
これからはいよいよ世界の大舞台世の立替が初まると勇む
元の神いよいよここに現はれて三千世界をさばくと呶鳴る
筆先をよまねば世界におくれると言ひつつ蝉の空鳴きつづくる
神書執筆
吾にして手を下すべきよしもなく一間にこもりて神書あらはせり
会長さん何してござると竹村が吾が著書を見てあざ笑ひをり
幾何なりとおかきなされよいつか又やいてあげるとにたにた笑ふ
竹村 艮の金神様の仰せ通り戦があるのに何してござるか
『こんな時に一生懸命にならざれば神の御用がいつ勤まりますか』
白梅の花
一本の庭の白梅さき初めて吾ある居間に香をおくれり
梅の花一枝をりて瓶にさし床にかざして楽しみにけり
四方平蔵竹村仲造入り来りて床の白梅とれよと強ゆる
何故に白梅の花を恐ろしやとなじりて問へば面を膨らす
白梅は神の好ます花なるに折りてかざすは不都合といふ
雄猛び
日露戦争始まりたりと蛆虫が肩肱いからす綾部の春なり
非時に飛来る号外の鈴の音に予言が適中たと勇む蛆虫
三千世界立替の時迫りしと迷信連が雄猛び狂ふ
戦争は必ず日本が大勝利露刺亜は負ると大元気なり
会長さん此の大望を余所に見て何を書くかと吾が著書を破る
執筆妨害
今の内に誠の教理を示さむと吾は終日著述にかかれり
吾が書きし毛筆の原稿見るよりも外国人の教と罵る
外国の教と罵るのみならず見付け次第に原稿破りぬ
艮の金神様が現はれて世界桝かけ引き均すとほざく
筆先の真似ばかりして蛆虫が豪傑顔する状態のをかしき
人民三分
朝夕に冷水かぶり祝詞宣り筆先を読む綾部の役員
筆先の通りに世界がなりしとて有頂天になる綾部の役員
神様に信仰篤き人ばかり今度の戦争に助かるといふ
三分まで人民が減ると蛆虫が筆先を見て取違ひせり