五月十四日露艦の来冦ふせがむと開祖沓島に出発せらるる
一行は大月伝吉後野市太郎二人の供人のみなりにけり
吾れ一人神経痛になやまされ龍宮館に留守をつとむる
バルチツク艦隊対馬水道に向つて来る国難時機なり
御開祖は二人の供を従へて荒波猛る沓島に渡れり
三人にただ三升の麦粉もちて孤島に祈る開祖の雄々しさ
鹿造難癖
朝夕に神を祈りてありしをり大槻鹿造入り来りけり
鹿造は声荒らげて吾が忰無断に連れ出しけしからぬと言ふ
伝吉の日当を出せいやならば今伝吉を渡せとなじる
出口竜子この場にあらはれ鹿造さん無茶を言ふなとたしなめにけり
チヨコザイな女のくせに何ぬかすと鉄拳ふるふ鹿造おそろし
腰痛めやすらひ居れば鹿造は海潮起きよと夜具をめくれり
鹿造の鉄拳あびて竜子等は泣き声しぼりかみつきにけり
鹿造の妻のよね子は入り来りこの態を見て呶嗚りちらせり
鹿造の血をぬぐひつつ妻よね子西町さしてつれ帰り行く
文助や与平は驚き鹿造の家居をさして挨拶に行く
鹿造は因縁つけの名人故金をやらねば承知せぬと言ふ
ありもせぬ金をさらへて届けやれば未だ足らぬとて駄々こねてをり
流血騒動
見かねたる澄子は姉の応援と平手でぴしやぴしや鹿造を打つ
こら待てと吾が制しをる間もあらず古谷下駄にて鹿造を打つ
古谷に額を割られ顔面に流血淋漓見るもいやらし
古谷はそしらぬさまを装ひつ机の前に筆先読みをり
四方文助中田善助小島寅その他数名集まり来る
乱痴気のさわぎの音を聞きつけて隣の巡査入り来りけり
牛田巡査は乱痴気さわぎの跡をみて兄弟喧嘩は慎めといふ
古谷卑怯
御開祖の留守に騒動をおこせしは済まぬと文助おそれ入りをり
役員会俄かに開き下手人は古谷なれば自首せよと言ふ
古谷は知らぬ知らぬと首を振り平素の言葉に似合ぬ卑怯さ
八人の御子のためなら命でもあげると言ひし古谷の醜状
出口竜子は罪をかぶりて自首すると言へば古谷にこにこ笑ふ
お竜さま御霊の因縁で御苦労とにこにこ笑ふ古谷にくらし
国のため道のためなら生命を捨てると言ひし古谷のうそ