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昭和維新に対する一考察 ──挙国更生運動と青年──

インフォメーション
題名:昭和維新に対する一考察 ──挙国更生運動と青年── 著者:神本泰昭
ページ:586 目次メモ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-20 13:41:52 OBC :B195502c2202080
初出[?]この文献の初出または底本となったと思われる文献です。[×閉じる]『昭和青年』昭和8年1月号
昭和維新に対する一考案
──挙国更生運動と青年──

      神本泰昭

 昭和の青年は如何にして挙国更生の実を挙ぐべきか?
 この問に対して私は直ちに答へたい『昭和大維新の志士として神理に立脚し国事に勤労せよ』と。
 近時到る所に昭和維新なる叫びを聞く。而して維新とは更生と同意義であるのだ。昭和維新に関連して直に想起するものは明治の大維新である。
 当然日本の主師親であらせらるべき天津日嗣の大君がその三大極徳を隠させ給ひ、当然下として仕ふべき征夷大将軍が武力と財力と権力とを行使して六十余州を支配し、天下将軍あつて、朝廷あるを知らぬ冠履顛倒の世を来したのであつた。
 この天地開闢以来の日本の国是──正道本則に逆行する事実が当然として怪しまれない世の中──逆様の世を本様(ほんさま)に立替立直したのが明治の大維新であつた。
 権道覇道を退けて皇道を樹立し、我建国の本義を全うしたのが明治維新であつた。
 この正当過ぎる程正当なる国事に勤労する人々──所謂志士は、時の政権を掌握せる幕府当局よりは謀叛人としてその殆ど過半数は極刑に処せられたのである。
  妻は病床に臥し子は餓に泣く
  今朝の生別死別を兼ぬ
 国事に奔走する勤王の志士は一家一身など、もとより顧みるに遑がなかつた。
 西郷南洲は『金も要らぬ、名も要らぬ、生命(いのち)も要らぬといふ人物程始末に困る者はない、しかしこの始末に困る人物でなくては共に大事を語る事は出来ない』と述懐した。勤王の志士はただ大君あつて我身なく、日本神国あつて我家はなかつた。大君が十万石の格式で加賀の前田が百万石、四国の蜂須賀が二十五万六千石。君貧しうして臣何の面目あつて富貴を求めんや。
 大義名分は紊れ臣を以て大君の権を私す。一天四海に君臨し給ふべき大君をその御名の如く表に現した奉るに、何れに我が私の名を求むべき、我はただ御馬前に新日本建設の埋草(うめくさ)となつて斃るれば無上の光栄である。ただ正しきは大君の御名を名実共に将軍の上に輝かせ度きのみである。
 天下を掌握せる幕府を向ふにまはし一介の痩浪人の分際を以て大義名分を天下に争ふ。神ならぬ身の生命の安全は保証の限りではない。もとより義は山岳よりも重く死は鴻毛よりも軽しと覚悟の上である。
 兵書に一人が生命を捨ててかかれば千人をして懼れしめるといふ事が訓へられてゐる。即ち一人の決死の士を千人の捕手が追跡する。死者狙ひの士、何時物影から飛び出して斬つてかかるかも知れぬ。窮鼠却て猫を噛むのたとへ──追つかけて行く千人、悉くが戦々恟々として我身の危険を懼れてゐる。
 ここの呼吸である。──斬られ、流され、幽閉せられて幾多の犠牲を払つたが、遂に正義は最後の勝者として王政復古の大業は成就し、天日晃々として全日本国の津々浦々に光被し、更にその余光を世界に放つに至つたのである。
 明治維新の功労者に対しては満腔の敬意と感謝を捧げて尚足らないのであるが、省みて昭和維新の志士たるべき昭和の青年吾等、果して明治維新の青年──西郷、大久保、木戸、高杉、久坂、橋本、頼等々に対して顔色ありやなしや。
 昭和の青年吾等は明治維新の志士以上の真理と大業の為に須らく大死一番の覚悟を以て此の非常時に際し報国の赤誠を(つく)さねばならない。即ち嚢に日本を舞台とした明治の維新は今やそのまま世界を舞台とし昭和の維新として眼前に展開せんとしてゐるのである。
 天祖の御神勅によつて当然全世界(豊葦原瑞穂国)に君臨すべき神国日本は、幕府に対する朝廷の如く久しく雌伏し、当然治めらるべき将軍たる米国(世界の覇権も亦鎌倉、室町、江戸と同様、漸次移動してゐる)大小名たる六十有余の列強列国は年久しく世界(大日本)を我物顔に振舞つてゐた──天運循環、日本は明治維新以来正義を真向に振りかざして恰も志土の如く猛然として起ち上つた。そして当然の世界統治権を復古せんとしてゐる事は恰も明治維新に於ける朝廷のそれと変りはない。──将軍たるアメリカ、幕府に比すべき国際連盟、大小名に比すべき列強列国は陰に陽にあらゆる妨害と圧迫を敢てして之を撃滅せんとつとめた事は明治以来の外交史上に明かな事実であつて今更贅言(ぜいげん)を要しない。
 勤王の為に先づ起つた志士は薩長土肥のそれであつた。これ等が固い握手をする迄には幕府を倒すの力は出なかつた如く、昭和維新の志士たる日本の先覚──青年の団結──日本上下の協力一致なき間はアメリカの為に屈辱的の圧迫を受けた。しかし挙国一致君国の為に身命を賭して進む所徳川幕府は遂に帰順の意を表明してゐる。アメリカ及び国際連盟の将来亦此の如くであらねばならぬ。要は団結と実力である。日本上下の政党、学閥、財閥、宗派教派等々小異を捨てて大同につき鉄桶の如き鞏固なる団結を作る事が神洲刻下の急務である。青年の起つて叫ぶべき所為すべき所はこの一事に存する──吾等が挙国更生の旗幟を押立てて天下に呼号する所以も亦此に存するのである。
 明治維新は王政を復古して聖徳太子の頃から千二百六十余年事実に於て民間に落ちてゐた実権を大君の御手に復しまつつたのであるが、これで以て日本の建国の目的は達せられて了つたものではない。明治大帝は祭政一致の詔を発し給ひ皇道による神の政治を地上に布かん事を企図し給ふたのであつた。欧米文化の模倣追随を急務とした明治の初年に於て、この大皇謨(くわうぼ)、が重んぜられなかつた事は或は時勢の然らしむる所であつて多く咎むるに当らないといふ人もあらうが、今日となつては最早追随模倣の時代ではない。若干の模倣はその必要もあらうが、大局に於ては日本独自の境地から万事を律すべきである。予言者イザヤ(伊勢)は『シオンよ醒めよ! 醒めて汝の力を衣よ!』と叱咤した。シオンは日照すの意であるからこれを日本と解し、そのままを今日の日本に対する伊勢大神の警告として同胞に叫び度い。我等の久しく模倣し追随し来つた所の支那印度及び欧米文明は日本本来の力ではない。見よ! 彼等の文明は既に既に到る所として行詰りに行詰つてゐるではないか。之を一切中の一切とする日本の上下亦行詰りつつあるを論よりの証拠とせよ。
 日本は天地開闢以来独自の進路を辿つてゐる。過去二千年海外から文化の多くを輸入した事は事実である。がしかし、日本の過去は悠久であり、文化は著しく進んでゐた。而も外来文化は直ちに之を消化し之を活用するの力を存してゐた。この潜在せる力、一切を抱擁し、摂取して更にまさる一切を生み出すこの力こそ日本本来の力であり、独特の魂であるのである。
 欧米人は日本人の模倣の巧妙なる一面を見て黄色い猿と呼ぶ。若し単に模倣するのみであるならば黄色い猿とも呼ばれて置かう。暫く模倣を続けてゐるうちに本家本元よりも更に勝れたものを造り出す。軍艦然り、大砲然り、潜水艦、飛行機亦然り。日本の場合、模倣は単にスタートに於て遅れたるものの捷路として選ぶ賢明なる一方法と看做すべきであつて、黄色い猿は常に白い人の頭を抑へずには置かない。世界最優秀の人種が白人であるならば、その上を行く日本人は確に神であらねばならぬ。少くも神の選び給ふた神民でなくて何であらう。この生きたる事実、生きたる存在こそ日本の力であつて、イザヤの所謂『母の力』なるものはこれである。
 日本はこの力を衣る事を忘れて常に外来の衣即ち唐衣を纏つて来たのである。衣て用を弁じ得た間はそれでよかつた。しかし最早この唐衣は製造元に於ても着用に堪えない悪衣弊衣である事が証明せられ、吾等も亦六十余年否二千年を使用してその不便を痛感した今日、何時迄もこの弊衣の弥縫(びほう)に腐心するよりは、汝の力なる錦の新衣を花々しくまとふて世界の経綸を行ふべきである。
 一切の外来文化の利用すべきは利用せよ。されどそれが主となつてはならない。我等が持つ力の補助とせよ。
 思想も、政治も、宗教も、教育も、経済も『総ては日本の足取りで』この自覚の上に立つて昭和の青年は挙国更生の実をあげ歩武堂々世界の舞台を活歩すべきである。
 外来文化思想のみによつて培はれたる青年の認識は多く誤つてゐる。汝の今纏つてゐる衣は──真理の錦衣と思つて衣てゐる衣は背理の弊衣であるのだ。イザヤがシオンよ醒めよと叱咤してゐるのは、この迷夢よりこの錯誤より覚めよとの警告である。醒めて本来の日本魂に帰り日本の歩調で進む時、そこに本当の日本並に世界を一貫する救済の道が輝いてゐるのだ。
 昭和大維新の志士として起つべき昭和の青年吾等の報告の至誠より近り出づる挙国更生運動は先づその第一歩をこの信念より力強く踏み出さねばならない。(完)
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