万人が心から喜ぶ政治
──日本人も満洲人も西洋人も総ての人が満足する工作
出口王仁三郎
一
皇国固有の言霊の活用を知らざる国民は、今や外国と同様に強食弱肉の露骨な紛争に、日も足らざる状態である。国民は軽佻浮薄なる功利主義に傾注し益々社会の不安を醸成し、自ら生活難の苦しみに没入して、真理に基きて国家を守り繁栄を来す道程を知らず、徒らに世界の不景気に藉口して何等の手段も方法をも講じない。坐して亡国の惨を見るより手のつけやうがない有様である。これは要するに、皇道の真髄に生くる事を、国民の上下一般が認識して居ない結果である。吾人は明治三十一年来一日も欠かさず皇国日本の使命に生くべく皇道を唱導して来たものである。
皇道の真髄が了得されたならば、生活難の如き問題は自然に解消さるべきものである。
声調の揃はぬ不完全なる外国人の真似計りして来た皇国上下の民衆は、今や漸く眼を皇道に転ずるに到つたが、何れも皮相の研究にして、之を完全に生かし、国家を泰山の安きに救ふ事は知らないのである。
吾人は未だ皇道政治を行はむとするには、余りに不利益な地位に立つて居るので、万人の耳にはいりがたく、又はいりても自尊主義の為政者や国民の多数に徹底しないのは、実に遺憾千万である。要するに皇道言霊学の普及が足らないからである。否普及せむと日夜焦慮するも、西洋崇拝者、学問万能主義の人物多き現状の皇国には如何ともする方法がないのである。
二十億円や三十億円の一ケ年間の経済に泡を吹いて居る様な政治家では全然駄目である。
皇道の神政策を用ふるならば、富豪の懐中をあてにせなくとも百億円や一千億円の産出は易々たる茶飯事である。吾人は已に其の経綸を蔵してゐるのである。嗚呼言霊の天照る国よ。
現代人生活を目撃する時、実に神聖なる祖宗の御遺訓に悖戻してゐることは最も明かな事実である。安逸飽食して巨万の財を収め、且つ之を増殖して益々蛮的欲望を逞ふする。一方には僅々少額の資財を得んとして得られず、艱苦辛労其生を終るに至るものあり、他方には日夜孜々として勤労し猶妻子を養ふに困難せるものもある。貧富の懸隔激甚なること斯の如く其状の惨然たる斯くの如きは何故ぞ。全くこれ人生悖理上より湧起せる国家経済矛盾の因果的現象と謂はねばならぬ。然るに古今東西の学者や為政者輩はこれを以て人生不離の必然的結果なるが如く信じ居るは、即ち人文未開の証拠である。
天運循還、茲に世運の進展は、国祖国常立尊の世界の中心に顕現せられ神聖なる皇祖の御遺訓を顕彰し給ひ、済世安民鴻業を大日本皇国に因つて大成せしめ給ふ千載一遇の時機となつたのである。現代世界の惨状を根本から消滅せしめ、神国の世に復活せしめる天地神明の大経綸を、経済的国家家族制度と為すは、畏くも皇祖の御遺訓に垂示し給ヘる人本主義的社会経済の根本要素である。
二
総て宗教を信ずるも、仁義を守るのも、道徳を守るのも根本は経済である。経済が豊かでないと義理をかいだり、或は人に怨まれる事も已むを得ず出来て来る。
日本は今、あらゆる方面が行詰つてゐるけれども本然の日本の皇道といふことを悟つたならば五十億円位の借金なんか直ぐすんで了ふ。これは今日の為政者、経済学者等には夢にも判らない事であるが、私は約四十年間程、皇道を調ベてその中から皇道経済を発見したのである。
皇道経済によれば、日本は世界一の富強国となり、国民はさう苦しまなくても、安楽に行ける結構な国である。
今日の経済学者や為政者は総て外国の精神が頭に入つて了つて居るので、今の金銀為本のやり方より外に方法がないと思うて居るが、西洋もその経済方法を試みて行詰つた。その行詰つたやつを又日本がやつてゐる。これではどうしても行詰るに極つてゐるのである。然らば何が金銀為本政策に代るべきか。これは今の為政者や経済学者等が束になつて何千年研究しても、テンデ見当さへつくまい。それが『皇道経済』だ、と教へた位では、その糸口さへ発見し得ないといふ情ない連中ばかりである。
抑も我が日本皇国は世界無比の皇道国であつて、万世一系天立君主立憲国である。外国には帝道国(立憲君主国)あり、王道国(専制君主国)あり、覇道国(強食弱肉国)あり、為に勢を得たときには、君となり、或は主権者となるが勢を失つた時には奴となり家来となり、或は殺されて了つたりする。さういふ様に殆んど畜類に等しい政体を持つて居る国々であるから、どうしても金とか銀とかいふ様な形のものが無ければ、皆が承知しないのである。
これに反し我国は、万世一系の神様直々の御系統たる陛下があらせられるのである。世の中にこれより尊い御方はない。神様が世界で一番尊い、その御系統であり、御直系であらせられるから陛下より尊い御方は断じてないのである。
その陛下の御稜威といふものを元にして行つたならば、総てに行き詰りといふことは無いのである。経済なんか一切心配することはない。
皇道経済の根本は実に此処にあるのである。
三
現今の為政者には皇道のコの字も判つてゐない。だからそのいふこと為すこと悉くが国家の不利益となり、国運の進展を害し、国民をして益々困窮のドン底へ墜し入れて、何も彼も行詰り、メチヤメチヤになつて行くばかりである。
為政者ばかりではない、世の指導的地位にある者の頭の中は殆んど欧米の唯物的思想で満され、金銀を以て本とするその国家経綸策に心酔してゐる。だから皇道も帝道も同じ位にしか考ヘてゐない。その証拠には「日本帝国」と公然称し、且つそれを怪しむ者がないではないか。
帝道国とは立憲君主国のことである。日本は万世一系天立君主立憲国である。即ち皇道の国、皇国皇御国である。畏れ多くも我天津日継天皇陛下は天立君主現人神にあらせられる。外国に見るが如ぎ帝王と同一視するが如きことあらんか不敬も甚たしいものである。
皇国は世界に日本一国のみで、帝国と混同することは絶対に許されない。即ち、皇国の皇は「スベル」とも「スメ」とも訓む。故に主、師、親の三徳を惟神に具有し給ひ、地球上を知食す大君を、皇御門と申上げ、皇御孫命と申上げ、日本神国は道義的に世界を統治すべき天賦の大使命を有するが故に、皇御国と称へまつるのである。
要するに世界の宗教も教育も政治も経済も総て皇道によりて統一され、清められ、生命を与ヘられ進展して行くのである。即ち地獄的世界の惨状を救ひ、大和楽世界を建設するの道は、皇道より他には絶対に無いのである。
これは畏くも天武天皇が「邦家之経緯」「王化之鴻基」と詔らせ給ひし、皇典古事記の序文中明示されてある事で一言半句の私見も挿んでない。しかし欧米心酔者には中々理解出来ぬであらうが神の分霊たる大和魂を持つ日本人なれば必ず諒解出来る筈のものである。
この皇道による救済策の第一歩は、現代の金銀為本の国家経綸策を根本より改め、神稜威を本とする国家経綸を行ふことである。即ち、皇道経済を先づ運用すべきであるが、現代の為政者等には到底出来さうもなく、具体的に示せば狂人に正宗の名刀を持たす様な結果になるから、今しばらく、その運用の具体的方策については述べないことにする。
私は徒らに大言壮語するものでもなく、独断の放言でもない。私には皇道経済による現社会の救済具体案が完全に出来上つて居り、既にその試験的工作は終つて居るのである。前にも述べた如く皇道経済によれば富士山を崩して太平洋を埋める様な事をしなくとも、富士山も太平洋も其儘にしておいて──言葉を換へていへば、上層階級も下層階級も、北海道の人も台湾の人も、インテリもルンぺンも皆一様に喜んで、一人も不足をいふ者はなく、恵良々々に歓ぎ賑ひ、永遠に栄え行く大神策である。
しかも明日からでも直ちに実行出来得る国家の大経綸策なのである。