二十八歳の春
三日四日と日のたつままに 驚く母上隣り人
法華坊主や天理教の教師 稲荷降げ来て祈祷する
口も動かず目も見えねども 耳に聞ゆる人の声
狸ついてる燻て出そと 殺人行為の準備する
燻られては生命がないと 思へど動かぬ目も口も
青い松葉で唐辛くすべ 鼻にあてむと松がする
一寸待つてと泣きます母の 熱い涙が頬に落つ
頬に落ちたる涙の愛の 綱にひかれて蘇へる
眼開けば周囲の人が 嬉し涙にくれてゐる
吾れの行方を尋ねて泣いた 女いそいそ飛んで来る
あなたこれ程心配させて ほんに恨めし罪な人
いかに私が気にいらぬとて 逃げて行くとは情ない
わしはこれから女はいらぬ たつた一すぢ神の道
人の恋までさまたげようと なさる神様恨めしい
わたしやこれから色気をはなれ ついて行きます空気毬
色気はなれし空気の毬も 横面はられりやふくれ出す
暇やらうと女にいへば 左右に首ふり泣き出す
七日七夜のこの床縛り とけて嬉しい梅の春