霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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白影

インフォメーション
題名:白影 著者:出口王仁三郎
ページ:468
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-10-30 20:57:00 OBC :B119300c106
二十八歳の春
幽斎の修行せんとて小夜(さよ)()けの山路(やまぢ)一人(ひとり)たどりてぞゆく
車瀬(くるませ)奥山(おくやま)川橋(かははし)わたらへば顔くづれたる()藪蔭(やぶかげ)に立てる
おどろきの胸を(おさ)へて立寄(たちよ)れば故郷(こきやう)に名高き歌人(かじん)なりけり
この女襁褓(むつき)に火がつき()さき時半面(はんめん)火傷(やけど)したるなりけり「襁褓」とは産着のこと。
二目(ふため)とも見られぬ(おも)()にあひて淋しくなりぬ修行の夜道(よみち)
風の(くち)山辺(やまべ)(さと)を乗り越えていよいよ医王(いわう)山路(やまぢ)にかかる
医王山(いわうざん)谷間(たにま)の池の青き波にしづかにうかぶ春の()の月
しんしんと(わが)()に淋しさせまりけり月をくだきて真鯉(まごひ)の飛ぶ音
大いなる雲のかたまり襲ひ来て谷間の月を呑める小暗(をぐら)
つぎつぎに雲かさなりて池の(おも)打つ春雨の(おと)たかみけり
常磐木(ときはぎ)の松にふきしく小夜(さよ)(あらし)雨を(まじ)へてものすごき山道
人魂(ひとだま)の飛ぶととなふるこの谷の大池(おほいけ)()の淋しさせまる
物凄(ものすご)さひしひし胸にせまり来て咫尺(しせき)弁ぜず()きなやみたる
目を閉ぢておどろが(した)にかがみ()れば忍び寄り()る足音()こゆる
足音の(ぬし)如何(いか)にとおそるおそる(まなこ)(ひら)けば白き影ゆらぐ
思ひきり大声あげて(うな)り見ればキヤツと叫んで倒れし白影(しろかげ)
倒れたる影は幽霊か化者(ばけもの)か胸とどろきて言葉も()でず
むくむくと(やみ)に動ける白き影()の鳴くごとき細き声しぼる
何神(なにがみ)か知らねどお助け下されと人だのめなる白影(しろかげ)の言葉
白き影は生ける人間とさとりてゆ(やや)落着(おちつ)きぬ胸の動悸(どうき)
何人(なにびと)と言葉はげしく(たづ)ぬれば稲荷(おろ)しの修行者と答ふ
この池に水行(みづぎやう)をはり稲荷山(いなりやま)尾の()(いはや)(もう)づと宣れるも
何故(なにゆゑ)にこの真夜中に(いはや)(もう)でするかとなじればコンコンとなく
この女(きつね)(れい)のかかり()しかわれを見捨てて飛び去りにけり
()みぬ風は()まりぬ白衣(びやくい)()けしをんなの姿(つき)にほの見ゆ
白妙(しろたへ)(ころも)(まと)ひし稲荷(おろ)し尾の()をさしてはせのぼり行く
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