二十八歳の春
五万円大金の夢やぶれしゆ西塔いかりて祭壇こはてり
神様も先生も糞もあるものかとつとと帰れといきまきて居り
眼つり顔ふくらせて睨つけるその形相のすさまじき西塔
こりや喜楽馬鹿にさらすな昔から庄屋をつとめた家の主だ
今でこそ貧乏はすれ穴太では公爵顔だとつんと空向く
五万円だましたゆゑに大島天狗のもう公園は造らんといふ
神様は公園造れと仰有らぬお前が勝手に云つてゐるのだ
やい喜楽何をつべこべぬかすのだ頤はじくと為にならぬぞ
相場には負ける神にはだまされる喜楽の奴めが馬鹿にしやがる
こんな事他人に話しも出来はせぬよい馬鹿見たとくやむ西塔
○
喜楽にはお世話にならぬ自分から修行をすると川に飛び込む
素裸体になりて西塔里川に飛び込みふるうて祝詞をあげる
洗ひ場の石に向脛すりむきて血を流しつつ這ひ上りたり
大先生実にわたしがわるかつた罰は覿面怪我したと泣く
済まぬ事腹立ちまぎれに云ひましたお詑頼むと手を合せ居り
罰当てるやうな小さい神でない君のこころが罰あてたのだ
ともかくも私は心をあらためる鎮魂頼むとしきりに拝む
祭壇を元へ直して心から悔いあらためよとわれ教へたり
西塔は家族一統に指揮為して祭壇きよめ詑びつつまつる
向脛一寸あまりの裂傷に繃帯を巻き汗かきくるしむ
祭壇を清めすまして大神を祀ればたちまちいたみ止まれり
有難しこの激痛が止みました神さん済まぬと大声に泣く
西塔の妹忰娘までいよいよ幽斎修行にかかる
村中の資産家なりし西塔は相場に手を出し破産せし人
家も倉も山も田地も他人の手にわたりし西塔金にあこがる
金なくば生きて居られぬ気がすると口癖のやうに言へる西塔
神様の修行をなして米相場勝ちて復活せんと西塔いへり