茨木ゆ三等汽車に身を托し梅田の駅にやうやく着きたり
梅田駅くだれば車夫は近寄りて人力車に召せとしきりにすすめる
車夫帯亀
ふりかへり車夫の面をながむれば昔の友の帯亀なりけり
帯亀は女房ある身を家出して人の娘とかけ落ちせしもの
喜楽さんかおお帯亀かと停車場で不思議の邂逅をめづらしみけり
ともかくも吾が家に来れと帯亀は人力車に乗せて吾をひきゆく
帯亀の家
大阪の町はづれなるあばら家の二階に吾を連れかへりたり
吾が行けば亀の愛人松本イトは顔赤らめて迎へ入れたり
帯亀はわが居どころを村人に言うてくれなと口止めしてをり
大和屋の三公がイトをねらふ故とられぬ先に逃げ出したと言ふ
大阪に逃げては来たが金はなし人力車夫を稼ぐと語る
貧家の一夜
この家に一夜をとまり神がみの道の話に夜を明しけり
蚊帳もなく夜具さへもなきあばら家に一夜のとまりは苦しかりけり
壊れたる家に一夜をとめられて安眠もせず蚊にくはれけり
ヂツとしてこの丗でくはれる商売は蚊帳つらずして眠ることなり