折もあれ山田文辰入り来り人造精乳の事を談ぜり
牛乳に経験を持つわれなれば山田の言はよく腹に入りぬ
内藤と相談の上山田氏を園部に連れゆき精乳をつくる
園部町奥村方の離家に人造精乳の販売をなせり
精乳の効能しるく町人は競ひて購買を申込みたり
証明鑑定
精乳を医科大学にもちゆきて坪井博士の鑑定を乞ふ
医学博士坪井次郎氏牛乳より効験将に二十倍といふ
坪井博士橋本綱常両博士の証明書にて販売をなす
京都市販売
京都市を先づひらかむと富小路蛸薬師にて精乳をつくる
二十台の精乳配達車おき京都市中に販売をなす
蛸薬師の家二戸分を一つとし盛んに製造販売なしけり
出資者は京都牧場松原氏販売主任は若林なりき
若林は教員あがり文具店の主なれども腹黒き人
精乳の製造技師は山田文辰われは社長となりて働く
商売敵
製造の秘術をぬすみ大学病院の石塚薬剤師対抗を為す
精乳の隆盛うらやみ同じ町に栄乳と称し販売を為したり
製造の秘法をぬすまれ精乳の顧客は四割激減なしたり
役員妨害
折もあれ綾部ゆ四方平蔵は四五人連れにて店に入り来る
蓑笠を身にまとひつつ四方平蔵竹原村上木下従ふ
近梅の親爺は製造所に入りてわれ追ひ出せと煽動なしけり
平蔵等の蓑笠隊は近梅の内報により入り来しなりける
ぐづぐづとくだらぬことをいひ並べ社員一同をこまらせてをり
上田さん綾部に帰り来るまで此処動かぬと店に頑張る
松原氏若林等は奇貨としてわれに退社をうながしにけり
焚書
折角の事業緒につきし夏の日をさまたげられて園部へ帰る
園部町奥村の家に帰り見ればわが荷物皆綾部ゆ来れり
御教祖の教がいやなら綾部へは帰りてくれなと四方が頑張る
わが著書を残らず焼きて大本の立替できたと四方等威張る
四つ足を残らず出して帰れよとわけのわからぬ事をいふ奴
蓑笠は八本の足を並べつつ園部大橋西に越えゆく
切り取り
蓑笠の帰りし三日目の夕べ掛軸数百本を送り来ぬ
掛軸をひらきて見れば神の字と艮の字はきりぬきてあり
立替と称して信者の床の間の掛軸あつめ切りとれるなり
あまりにも馬鹿ばかしければ言葉さへ出でずをかしく腹もたたなく