霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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(十四)

インフォメーション
題名:(十四) 著者:浅野和三郎
ページ:106
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-01-24 22:22:00 OBC :B142400c31
 走水(はしりみづ)神社では神笛(しんてき)の取得の後、(なほ)神秘な話がつづいて起つた。
 自分達は間もなく神社の上の芝生の所に上つて行つた。(ここ)には前に記した通り三体の石造の宮がある。中央が天照大御神、左右に大国主命と建御名方(たけみなかたの)(みこと)とが祀られてある。出口先生はこれを一見した時に思はず驚歎の声を放たれた。
『昔から御三体の石の御宮が(わし)の目に見えて見えて仕方がなかつたが、矢張(やはり)これどした。大本に祀つてある石のお宮も、これを型取つたものどす。之を祀つた神官は誰やら知らんが、言霊から解釈すると実によく出来て居ります。』
『矢張り神さんから、させられて居るといふものでせうな』と村野滝洲さん、疎髯(そぜん)をしごいて感心する。
 一同は芝生の上に坐して熱誠をこめて祝詞を奏上したが、祝詞が済んでからも、一行はそのまま立ち(あが)るに忍びなかつた。午後の春光は(あく)までも(うらら)かに、空にはそよとの風もなく、東京湾頭の風光は手に取る如く脚下に展開して、さながら一幅の絵をくり拡げたやう、四辺はシンとして、吾等の澄みきつた、浄らかな胸の思ひをかき乱すやうな人ツ子一人居ない。自分()申合(まをしあは)せたやうに、芝生の上にすわつて、そのまま鎮魂の姿勢を取つた。
 鎮魂中に出口先生がいかなる神示に接し、いかなる神霊に接せられたかは知るよしもない。ただそれが済んだ後で、
『今日は有難くて涙が流れて仕方がなかつた』
とただ一言、しんみりと述べられた。
 やがて村野さんが鎮魂の姿勢を崩しながら、出口先生の方を向いて、
『先生、只今私の天眼(てんがん)花木といふ文字が見えましたが、ありや何のことでせうナ』
花木? 一体あなた、何を神さんに伺つたのや?』
『イヤ浅野氏に石笛を授けられた神様の御名(おんな)を伺つて見たところです。さうすると横に花木といふ文字が並んで見えて、其下に小桜(こざくら)といふ文字が(あら)はれました。何ぞ其様(そん)ナ神様があるのでせうかな』
『花木と横に……』と先生と一寸考へたが、(ただち)に『村野はん、あンた読み違ひして居る。花木(はなき)でなく木花(このはな)やナ、木花咲耶姫のことやナ。小桜といふのは、それ丈ではまだ判らんが、兎に角木花咲耶姫の系統の御方(おんかた)に相違ない』
()アる程──イヤ面白いものぢや。モ一遍(くは)しく伺つて見ませう』と言つて村野さんは再び中央の石の祠の前に坐つて鎮魂した。無論その時分のことだから、自分には碌な鎮魂などの出来る筈はない、善い加減に中止して、主に見物(けんぶつ)がかりになつた。
『天眼通といふことは不思議なものだナ、当方(こつち)の注文次第で文字が見えるものと見える、重宝なものだナ』などと(しきり)に心の中に感心したりした。
 十五六分経つた時に村野さんは鎮魂を終つた。
『いかがでした何か見えましたか?』と待ち構へて居た自分は、早速村野さんの説明を促す。
『ヱー見えることは見えたが、皆浅野さんの事ばかりで、神さんも随分ひどい!』とわざと不平らしい(ふり)をする。
什麼(どう)したといふのです?』
『実はあなたが先刻(さつき)拾はれた石笛は、事によると拙者に授けられたのではあるまいかと、神さんに念を押して見たのです、すると今度はイヤに判然(はつきり)した文字で『木花咲耶姫尊の(めい)により小桜姫(こざくらひめ)之を浅野に授く』と(あらは)れてしまつた。神様も随分(きこ)えないと思ひます。私などは、天眼に石笛が見え出してから、(やうや)半歳目(はんさいめ)に其所在地(ありか)を突きとめた位です。(しか)るにあなたは審神者(さには)を始めてからたつた一日で立派なやつを授かる! ()ンまり虫が善過(よす)ぎますぜ』
『アハ……村野さんの愚痴か』
と出口先生は笑ひ出される『神様のなさる事で、いかに浅野はんをつかまへて不足を並べたところが駄目ぢや』
『これも矢張り身魂(みたま)の因縁といふものでせうかな。しかし先生小桜姫(こざくらひめ)といふ神さんは何誰(どなた)でせう?』
『その(うち)、段々判りますぢやろ、歴史に何ぞ其様(そん)な名前の人があつたと思ふが……』
『そりやあります、しかも此三浦半島の人間です』と自分はウロ覚えに覚えて居る油壺(あぶらつぼ)の勇士三浦(みうら)荒次郎(あらじらう)及びその妻の小桜姫の物語をして『しかし私が什麼(どう)して小桜姫から今日(けふ)鎮魂の石笛を授かつたのでせう』
追付(おひつけ)それも判りませう』と出口先生は何か心当りがあるものの如くであつたが、『しかし日も大分(だいぶ)傾きました。ボツボツ出掛けませうか』
 自分達は()かぬ思ひを残して、走水(はしりみづ)神社を辞し、再びガタ馬車にゆられながら帰途に就いた。途中自分の胸には石笛、小桜姫、弟橘姫(おとたちばなひめ)、日本武尊、三浦荒次郎、鎮魂、天眼通などといふ事が入り乱れて、それからそれへと夢のやうな考へが間断なくつづいた。
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