朝夕に心にかけし風の日も和ぎて清しき秋日和なり
更生館玻璃戸に響くおどし銃の音冴えにつゝ秋日晴れたり
若人が手握る鎌の光り冴えて蟋蟀鳴きつ栗みのるなり
更生の秋を迎へて過ぎて越し世の荒波を吾れかへりみる
玉の緒のいのちあるうち道の為御国の為に真心尽さむ
しつとりと心落ちつく秋の日のタベの庭に蟋蟀の鳴く
村肝の心若々はやれども吾が身体の重きをかこちつ
稲の穂の重く頭を垂れながら稔れる秋に似たる吾なり
急転直下世はくだちつゝ内外の国に五月蝿の声聞く秋なり
満蒙の野に息づける同胞の悩みを救へ愛善の道に
からやまとめ国のけじめをたてずして救ひゆけかし愛善の道に
青年の意気は天をもつくといへどのぼる足場に心を注げ
世を救ひ人を救ひて名を挙ぐる人こそまことの英雄なるべし
万骨を枯して将となりたるは英雄ならず悪魔なるべし
武を以つてこの世の覇権握りたる昔の英雄悪魔なりけり
博士てふ人の言葉を幾度も聞けど首肯の出来るものなし
自湧的知識乏しき博士等のうけうり言葉に世は乱れゆく
学問の切り売りをして生活をなせる博士の心きたなき
不徹底な学説にても博士てふレツテル持てば世に売れるなり
半生を学校生活に暮しつゝ遂には高等遊民となる
昭和六、九、二〇日於更生舘
昭和青年」昭和六年十月号