三十歳の初春
明らけく治まる御代の三十あまり三年の春を綾部に迎へし
四つ尾山峰の白雪さむざむと新春の風吹きすさぶ綾部
阪鶴線測量隊のひとびとの来りて綾部の里は賑はふ
藁ぶきの家のみならぶ綾部町に瓦ぶきの家買収を為す
本宮下大島景僕氏の家を屋敷地ともに手に入れし春
洗濯屋まへより借りて住ひつつ容易に家を明けむとはせず
世話がかり家明け渡しかけあへど借主頑とし家を渡さず
洗濯屋をわれ訪ひゆけばその主人世話がかりの言を癪にさへをり
情実を述べて頼めば洗濯屋三日の後に家あけるといふ
洗濯屋なりとて借家人だとてやつぱり感情の動物ですといふ
二ケ月分家賃を免じこの家は無事明け渡すこととなりたり
並松へ移転なしたる洗濯屋はその後商売ますます栄えし