霙降る朝なりにけり御開祖は井戸端にたち寒水浴びます
御開祖の肌よりほこほこもえあがる湯気あたたかき朝津日のかげ
六十六の御身を朝夕寒水にひたせる開祖の健やかなるも
冷水を浴び給ふ開祖の頭髪に氷柱ガラガラ音立てて居り
水行ををはりて開祖は神前に声ほがらかに祝詞宣らせり
竹村は開祖にならひ井戸端に冷水浴びて平然たりけり
このとほり湯気がたちます海潮さんとわれを眺めてほほゑむ竹村
得意気に冷水浴びて竹村は日本男子の典型とほこる
御開祖は桶に十ぱいわれこそは三十五はい浴びたとほこる
井戸端のなめらの石に足すべりうんとばかりに転倒なしたり
驚きてわれはかけつけ手をとりて起さんとすれば竹村手をふる
海潮さん私は日本男子です自分で起きると頑張りてをり
腰の骨したたか打ちて竹村は雪降る井戸べに仰臥してをり
ややありて竹村顔をしかめつつのたのたはひて家に入りたり
海潮さんお水をいただきあそばせと四方春蔵しきりにすすむる
蛙でも冬は土中にひそむものを冷水かぶるはいやだとわれいふ
雨蛙になりたい奴は冬の日を裸で水浴せよとわれ笑ふ
海潮の曲津の正体あらはれしと四方春蔵小声につぶやく
つぎつぎに四五の役員井戸端に裸でふるひ水あびてをり
ほこほこと身体一めんあたたかく御神徳よと竹村がいふ
やうやくに空はれわたり雪の庭も冬のひかげのさしそひにけり
茅葺の東の側はほのぼのと朝日に湯気のたちのぼりたり
一同は衣服を着かへ神前に額き神言くりかへしをり