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宇津の里

インフォメーション
題名：宇津の里 著者：出口王仁三郎
ページ：420
概要： 備考： タグ： データ凡例： データ最終更新日：2024-10-31 18:51:00 OBC ：B129900c70
港屋(みなとや)の旅館に待てる両人は吾(わ)が姿(すがた)見てよろこび勇(いさ)めり
海潮(かいてう)さまようまあお出(い)で下さつた天の与へと祝詞を奏(そう)する
西田氏の弟子となりたる私(わたくし)は片山(かたやま)ですと懇(ねんごろ)にいふ
先生の顔が見たさに昨日から待つてゐましたと涙声(なみだごゑ)なり
先日も綾部に参拝しましたが会(あ)はしてくれぬと愚痴(ぐち)いふ片山
片山の誠意
片山『あのやうな事で布教は出来ませぬ綾部へ帰るはやめて下さい』
狂人(きちがひ)のより集(あつ)まれる大本は百年たつてもひらけますまい
先生を綾部に置くはおしいものと片山(かたやま)浅井(あさゐ)がしきりにくやめり
片山『西田さん今日から綾部へ先生を帰さぬやうに骨折りなされよ』
西田『わしもさう思うてをれど先生が勣かぬ故(ゆゑ)にいたしかたなし』
ともかくも御飯(ごはん)をあがれと片山は宿(やど)に命じて朝飯(あさめし)運ばす
世木の八幡
朝飯(あさめし)を急ぎかきこみ再会を約して西田と宿を立ち出(い)づ
朝(あさ)晴(は)れの園部の町を後(あと)にして世木(せき)の八幡(はちまん)神社に入(い)りけり
この宮に内藤(ないとう)半吾(はんご)氏わが行(ゆ)くを庭を浄(きよ)めて待ちゐたりけり
内藤は八幡(はちまん)神社の神主(かむぬし)となりて時節(じせつ)を待ち居たるなり
内藤と西田と三人(さんにん)鼎座(ていざ)して今後の布教を打合(うちあは)せたり
人の尾峠
正午過ぎ八幡(はちまん)神社を立ち出(い)でて人(ひと)の尾(を)峠をよぢのぼりけり
人の尾の峠の峻坂(しゆんぱん)よぢのぼり紅葉(もみぢ)の枝をしきて憩(いこ)へり
その昔安倍(あべ)貞任(さだたう)の尻(しり)の骨をうづめて人の尾峠といふなり
人の尾の峠くだれば松林(まつばやし)昼暗きまで茂りあひをり
宇津の里
急坂(きふはん)を下(くだ)れば直ちに宇津(うつ)の里(さと)安威(やすゐ)清兵衛(せいべゑ)の家(いへ)に入(い)りたり
清兵衛(せいべゑ)は十年来(らい)の躄(ゐざり)にてあしたゆふべを泣き暮(くら)しをり
吾(わ)が行(ゆ)けば清兵衛(せいべゑ)翁(をう)は喜びて大声(おほごゑ)あげて泣き出(いだ)しけり
清兵衛(せいべゑ)に鎮魂をなし大声(おほごゑ)に許すといへば足(あし)立(た)ちにける
十年の躄(ゐざり)が全快したりとて村人(むらびと)山の如くにつどひ来(き)ぬ
清兵衛(せいべゑ)の妻も忰(せがれ)も隣人(りんじん)も集(つど)ひ来(きた)りて泣くばかりなり
生神(いきがみ)が現(あら)はれたりと村人(むらびと)はうるさきまでに吾(わ)れを慕(した)へり
小西松元
此(この)村の司(つかさ)の娘小久子(こひさこ)は正装なしつつ詣(まう)で来(き)にけり
長年(ながねん)の病気忽(たちま)ち平癒し小久子(こひさこ)直ちに入信をなす
枝(えだ)打(う)ちや漁業を営む此(この)村の小西(こにし)庄太郎(しやうたらう)訪ねて来(き)たる
庄太郎(しやうたらう)名を松元(しようげん)と改めて吾(わ)が大本の布教につとむる
鬼の清兵衛
清兵衛(せいべゑ)は吝嗇(りんしよく)にして自己愛の最も強き男なりけり
村人(むらびと)は鬼の清兵衛(せいべゑ)と称(とな)へつつ蚰蜒(げじ)のごとくに嫌ひゐたりき
清兵衛(せいべゑ)は村有数の富者(ふうじや)にて人をなやむる男なりけり
若き日の天罰忽(たちま)ち報い来て躄(ゐざり)になりしと村人(むらびと)あざける
吝嗇の家
秋すでに深みたれども松茸(まつたけ)のかをりは未(いま)だ山に残れり
しなびたる松茸(まつたけ)ばかりあつめ来て吾(わ)が夕食にふれまひにけり
吝嗇(りんしよく)の噂の高き清兵衛(せいべゑ)も吾(わ)れにはしなびし松茸(まつたけ)ふれまふ
松茸(まつたけ)を客に喰(く)はした不思議よと村人おのおのささやき合へり
吝嗇(りんしよく)の家(いへ)に長居(ながゐ)をきらひつつ吾(わ)れは此(こ)の家(や)を立ち出(い)でにけり
小西増吉
松元(しようげん)の家にいたればその忰(せがれ)増吉(ますきち)支那に出征してをり
増吉(ますきち)は日露戦役(せんえき)に召集され金鵄(きんし)勲章いただきにけり
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