幼児の智慧の発育盛りの時に能く親達から「生死々々、アババ、かいくりかいくり」というて手振を教へられる風習が日本全国一様にある。あれは教へられる子供は無論其何の為なるや判らう道理は無いけれど、教ふる親達に於ても其訳柄を知らずして無意識に教へて居るものが多からうと思ふ。これは人間の生死往来を教へて居るものである。
生死々々といふ事は人間は此世に生れては死に、死んでは生れ、生れて死んで又生れ幾度か生死往来して此世の為に尽すと共に其家を守り又霊魂の修業を積むものであるといふ事を、東西をも弁へざる幼児の時から教へ教へられて居るのである。
アババといふことは、アは現れ出るといふことであり、ババといふことはハハの母であるからババと云ふのである。又母もババも総てのものを生み出すものを指して云ふ言葉である。子供を生んだから母である、ハハを生んだものはババである、ババ一人では生めない、チチの父であるからヂヂであつて、ヂヂと二人して生むのであるからヂヂもババも生み出すと言ふ点に於ては同意義である。
かいくりかいくりといふ事は繰返す繰返すといふ意味であつて、要するに人間は祖父祖母が孫として(玄孫曾孫等を指す)若返り若返りて其家に生れ来る事を繰返しつつ生死往来するものであるといふことである。