霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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(四)

インフォメーション
題名:(四) 著者:浅野和三郎
ページ:135
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-01-24 22:22:00 OBC :B142400c39
 宮沢君イヤむしろ同君に(かか)れる天狗さんのお蔭で、自分は(うま)れて初めて天眼通の何物たるかを体得し、従来在るとも又無いとも確乎たる判断を下すによしなかりし神霊の実在を、益々明瞭に認むるの端緒を掴み得たのは有難かつたが、ただ天狗さんの暴威が一日(ごと)に加はるのには(すくな)からず困つた。イヤ意張る意張る、眼中(がんちう)人なく又審神者(さには)なく、無理難題を提出して、そして絶対服従を迫るのだから驚いた。『武甕槌(たけみかづちの)(みこと)といふ神様はさすがに武断派だ』などと心の(うち)には思つたが、しかし中々口には出さなかつた。少し(くち)返答でもしようものなら霹靂(へきれき)一声(いつせい)、大目玉を頂戴するので、絶えずビクビクもので暮らして居た。
 先づ自分が受けたのは、機関学校の文官教師一同を全部召集せよとの命令であつた。其言ひ草が振つて居る。
『機関学校には御神業に参加すべき重要の人物を皆集めてある。皆一方の大将だ。そして浅野が其総大将、宮沢が参謀長である。これから此方(このはう)が鎮魂して薫陶をしてつかはすから、即刻使者を以て一同を召集せい。愚図々々すると承知せんぞ?』
 こんな文句は通例天狗さんの神憑りの場合に紋切形で、少し(ひや)やかに考ふれば、辻褄の合はぬ事なのだが、例の爛々(らんらん)たる眼玉で睨みつけて置いて、破鍋(われなべ)式にガミつかれるのであるから、最初()れぬ(あひだ)(あわ)てざるを得ぬ。其日は上村(かみむら)工学士と田中豊頴(とよえい)氏とは来合はせて居たが、両君は吃驚(びつくり)して、指名された人々を狩り集めに、鉄砲玉のやうに飛び出した。
 ()一時間後には同僚(れん)が何事かと驚いて六七人集まつて来た。是等の人々の多くは、(かね)て鎮魂の事や立替立直しの話を薄々聞いては居たが、何れも呑気な連中で霊的問題には一向興味も()たず、又理解も無い人々ばかりだ。此等の連中に向つて天狗さんはイキナリ呶鳴りつけたものだ。
『T、F、A、U、皆()むれ! これから鎮魂をしてやるのだ! 時期がモウ切迫して居る、何を愚図々々して居る──コラ手の組み方が違ふ、首が(まが)つて居る──浅野何故(なぜ)早く直してやらんか──さう眼を()けてはならん──エエ姿勢が悪い!』
 (ろく)に説明もしてきかせず、イキナリ来た者を坐らせて、そして頭から噛みつくやうに叱りつけるのだから(たま)らない。日頃(をとな)しい筈の宮沢君が、今日(けふ)はイヤに威張つて、友達を(つか)まへて失敬なことをいふのは()うしたといふのか、発狂でもしたのではあるまいか。(それ)なら危険だ、事によると(なぐ)られる、酷い所へ呼び出されたものだ……。
 誰もこれが神懸りの現象であるとは夢にも知らんので、薩張(さつぱり)落ちつかない。気の弱い人などはオドオドしながら顔色を変へて、チヨイチヨイ薄眼(うすめ)をあける。それを見ると天狗さんは益々()れて、益々(あば)れる。たうとう一同の頭をピシヤピシヤピシヤピシヤと平手で一つづつ見舞つた。
『駄目々々! 皆落第(らくだい)だ! 役に立つ奴は一人も居らん。そんな事で何んで立替の間に合ふものか!』
 先刻(せんこく)御神業の大将株の候補者であつた連中が、一回の鎮魂で皆落第を宣告されて了つた。何が何やら更に見当が取れない。一座は白け切つて了ひ、天狗さんだけが赤くなつて怒つて居る。
『用はない皆帰れ!』
 とても手がつけられない。同僚諸氏は何等要領を得ず、ソコソコに帰つて行つた。此等の人々が宮沢君の精神に異状を呈したものと判断し、鎮魂は危険であると推定したのも、一方から云ふと誠に無理からぬ事であつたと思ふ。自分が、あれは発狂ではたく、霊の発動といふものであると、いかに説明しても、霊魂などは無いものだと心の中で決めて居る連中なので、(がう)も耳を傾けて呉れない。
 又同僚の(うち)には神を唱へ、霊を説くのを以て罪悪だあるとさへ確信して居る唯物主義者も居れば、鎮魂は催眠術の一種であるから、(ただち)に禁止せざるべからずといきまく霊智学徒も居た。自分は此等の人々から忠告と攻撃の的となり、一時も早く鎮魂を中止せよ、大本を棄てよと迫られた。しかし自分には(ただち)に之に服従して大本の教えへを放擲(はうてき)すべく余りに確実なる実証体験の数々を握つて居るので、覚束ないながらも弁明を試みた。日を()るに従つて議論は益々沸騰し、独り横須賀()けの問題でなく、東京の海軍省内の問題ともなつて来た。自分はつくづく大本の教へを以て天下を動かすの至難の業であるといふ事を、その時分から感ぜぬ訳には行かなかつた。
 が、仮令(たとへ)いかなる困難はありとも、この(くわつ)事実を無視する訳には行かぬ。行く所まで行かねばならぬ、との決心が牢乎(ろうこ)として自分の総身(そうしん)(みなぎ)つた。友人同僚から忠告さるる(ごと)に、攻撃さるる(ごと)に、自分は今まで一歩々々に踏んで未だ経路をじつと心の中に辿つて考へ直して見るのを常とした。そして、『矢張り自分は手落(ておち)は無い、かくかくの証拠があるからかく断定するのは間違つて居らぬ』との結論に達して再び勇気を取り直して行つた。この状態はずつと二三年の(のち)まで続いたが、近頃では自分の確信は金城鉄壁のやうで、何が来てもモウ受けつけない。
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