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一四 帰神の発端
インフォメーション
題名:
14 帰神の発端
著者:
愛善苑宣教部・編
ページ:
概要:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
B100600c14
001
明治二十五年旧正月の十日
[
※
新2月8日
]
、
002
まだお正月の鏡餅のある時であります。
003
開祖様は西町の大槻鹿造のところへ、
004
神がかりになっている長女・
米子
(
よねこ
)
さんのお見舞いにお出でになりました。
005
その留守番をして居られた当時十三才の
竜子
(
りょうこ
)
さんと十一才の澄子さんとが、
006
さびしい思いをして
炬燵
(
こたつ
)
の中にもぐり込みながら西町のお米姉さんのうわさなどをしている間に、
007
いつしか寝入ってしまって居られますと、
008
開祖様は夜中ごろお帰りになり、
009
大きな声で、
010
011
「おすみ、
012
お竜、
013
ここを開けい」
014
と怒鳴られましたので、
015
その声に二人は驚いて目をさましました。
016
その声は正しく開祖様のお声でありますが、
017
いつものお声とは全く違った大きな声で、
018
すこぶる荘重な威厳に満ちたお声でした。
019
竜子さんと澄子さんとは何事が起ったかと帯取裸のまま、
020
土間に飛び下り戸を開けますと、
021
つかつかと入って来られた開祖様のお姿は、
022
いつものお優しいお姿ではなく、
023
いかなる天魔鬼神も
辟易
(
へきえき
)
するような威風を持って居られました。
024
「お竜もお澄も西町のお米姉はんところ行って、
025
三十六お灯明をあげて、
026
お題目を唱えいと申して来い」
027
とあたかも号令でもするような調子で命ぜられました。
028
そのときは開祖様のごま塩まじりのお髪が、
029
いつもより白く光って見えたということです。
030
二人は面喰って何が何だかさっぱり分からず、
031
無我夢中で下駄を手にさげたまま表へ飛び出し、
032
走りくたびれてようやく我に帰られたほどでした。
033
「三十六お灯明をあげてお題目を唱えいと云うのやったなァ」
034
「なんでまたそんなこと言わねばならんのだろう」
035
「お母さんも西町のお米姉さんのように、
036
気狂いになられたのではなかろうか」
037
「そういえば今日のお母さんの声はいつもの声とは違っておったから、
038
そうかも知れん」
039
「お母さんまでが気が違ったらかなわんなァ」
040
こんなことを姉妹で話し合いながら、
041
西町の大槻鹿造のところへ行かれまして、
042
開祖様から言われた通りのことを申されますと、
043
鹿造は舌打ちをして、
044
045
「お母アもとうとう気が狂ったとみえる。
046
よしよし、
047
三十六灯明をあげてお題目を唱えたから、
048
安心しなと帰ってお母アにいったがよい」
049
と申しますので、
050
二人は大槻の家を出て帰りましたが、
051
開祖様の姿が見えません。
052
二人が心配して家の中を捜して見ますと、
053
薄暗い座敷に開祖様の着物がぬがれてあり、
054
どうやら井戸端に人の気配がするので行って見ると、
055
開祖様はこの寒天にザアザア水を浴びておられるのでした。
056
「西町へ行ってそう言って来た」
057
と申されますと、
058
059
「それは御苦労であった、
060
お前たちは寒いから風邪を引かんようにして、
061
早く炬燵へ入っておやすみ」
062
と言われましたが、
063
そのお声は何時ものいつくしみ深い平静なお声でしたので、
064
二人はホッと安心して寝床に入りました。
065
これから開祖様の水行が毎晩続き、
066
開祖様の腹の中には目に見えぬ神様が出入され、
067
その神様が非常な力でいきまれますと、
068
大きな声が出て、
069
つまり神様の声でどなり出されるのです。
070
声は開祖様の口から出るのですが、
071
全然開祖様の意識されない言葉がドンドン出て来るのです。
072
その神様のお言葉に対して、
073
開祖様御自身が開祖様の平生の声で質問されますと、
074
また神様の声で答えられるという風に、
075
開祖様の一つの口、
076
一つの咽喉が、
077
神様と開祖様との二つの意識を使い分けて問答すると云う不思議な現象が起って来たのです。
078
これが開祖様の
帰神
(
きしん
)
の発端であります。
079
開祖様には神様が自分の肉体にかかって来られること、
080
出入されることが判然と感覚の上に感じられるのでした。
081
まず自分の身体が非常に重くなって、
082
腹に素晴らしい力が入って来る。
083
そして疲労の感覚がなくなり、
084
妙に身体の姿勢が正しくなって、
085
あたかも大磐石を据えつけた様になり、
086
やがて身体がややそり加減にユルユル震動を始めると、
087
トントントンと両足を交互に上げては下ろし、
088
上げては下ろし、
089
四股を踏むような形をされる。
090
その時アゴがグッと引き締って、
091
目は金の如く輝き、
092
腹の底からウームといきんで来て、
093
おごそかな調子で神様のお言葉が出るのです。
094
開祖様御自身としては、
095
大きな声でどなるのはいやなので、
096
声を出すまいと歯を固く食いしばってみたところで、
097
その食いしばった歯を押しあけて、
098
とてつもない大きな声が突発するのです。
099
開祖のこの状態はいわゆる神がかりの現象であります。
100
神がかりについて何も御承知なき人は、
101
そんな現象が起きるものかといって否定するでしょうが、
102
世間には沢山実例があるのです。
103
稲荷下ろしのしゃべるのも狐つきや狸つきがしゃべるのもみな同じ現象で、
104
ただ稲荷下ろしや狐つきの場合にかかる神は、
105
すこぶる低級な霊でありますから、
106
開祖様の帰神と同様に見ることはできません。
107
ただ内容、
108
すなわちかかられる神霊の
如何
(
いかん
)
によって、
109
正しいか正しくないか、
110
高級か低級かの差別が生じてくるのです。
111
この現象を昔から
天言通
(
てんげんつう
)
などとも申し、
112
決して珍しい現象ではありません。
113
神がかりはその内容によって大体左の三つに区別することができます。
114
一、
115
帰神
(
きしん
)
=宇宙の本源すなわち大元霊に帰する状態であります。
116
すなわちこれを大神様の御神格の直接内流と申します。
117
二、
118
神懸
(
しんけん
)
=正神の神がかりで、
119
エンゼルすなわち天使を通じて、
120
ある程度まで神界の消息を人間界に伝達される状態で、
121
これを御神格の間接内流と申します。
122
三、
123
神憑
(
しんぴょう
)
=邪神の神がかりであって、
124
世間の神がかりの大部分はこの種類に属するものです。
125
開祖様の場合は
艮
(
うしとら
)
の
金神
(
こんじん
)
すなわち
国常立尊
(
くにとこたちのみこと
)
の神がかりで、
126
神懸状態から帰神状態に入られたものです。
127
こういうわけですから、
128
自分の意識にないことを自分の口でしゃべる「天言通」だからとて邪神の神憑をうっかり信ずると、
129
とんでもない間違いが起きるものです。
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