霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 赤児(あかご)の誤(あやまり)〔六六四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻 篇:第1篇 宇都山郷 よみ(新仮名遣い):うづやまごう
章:第2章 赤児の誤 よみ(新仮名遣い):あかごのあやまり 通し章番号:664
口述日:1922(大正11)年05月12日(旧04月16日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年3月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
鬼雲彦の残党・友彦は、宇都山郷にバラモン教を広めて勢力を保っていた。
松鷹彦のところへ、留公たち四五人の村人がやってきて、家にかくまっている三五教の宣伝使を渡せ、と言ってきた。
松鷹彦と村人が言い争っていると、奥から天の真浦の宣伝歌が聞こえてきた。留公たちはにわかに頭が痛くなり、逃げ帰る。松鷹彦は、ここの村人たちは質朴だが、理解力がないために誤った教えに頑なになっている、と嘆く。
松鷹彦と婆は、聞こえよがしに誰かこの村を救ってくれる者はないか、と会話する。天の真浦はそれを聞いてそっと里に向かって行った。
バラモン教の友彦のところへ、松鷹彦の家から逃げてきた留公ら村人たちが戻ってきた。そして、負け戦の報告をしているところへ、別の村人がやってきて、留公が逃げるときに、畑の芋の苗を踏み潰したと文句をつけた。
友彦はそれを聞いて、留公を一時破門した。留公は怒って、これからは三五教の味方をするのだと言って、出て行ってしまう。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-18 19:02:21 文字数:5398 OBC :rm2002
愛善世界社版:38頁 八幡書店版:第4輯 162頁 修補版: 校定版:39頁 普及版:17頁 初版: ページ備考:
001雪(ゆき)に埋(うづ)まる川端(かはばた)の
002賤(しづ)の伏家(ふせや)も春(はる)が来(き)て
003冷(つめ)たき雪(ゆき)も何時(いつ)しかに
004溶(と)けて嬉(うれ)しき老夫婦(らうふうふ)
005宇都山(うづやま)川(がは)の水(みづ)温(ぬる)み
006枯木(かれき)も青芽(あをめ)を萌(ふ)き出(だ)して
007軒端(のきば)の梅(うめ)も匂(にほ)ひ初(そ)め
008谷(たに)の戸(と)開(あ)けて鶯(うぐひす)の
009訪(おとづ)る季節(きせつ)となりにける
010山(やま)と山(やま)とに包(つつ)まれし
011此処(ここ)は世界(せかい)の秘密(ひみつ)郷(きやう)
012人(ひと)の心(こころ)も質朴(しつぼく)に
013宛然(さながら)神代(かみよ)の如(ごと)くなり
014時(とき)しもあれや婆羅門(ばらもん)の
015神(かみ)の教(をしへ)の宣伝使(せんでんし)
016鬼雲彦(おにくもひこ)の残党(ざんたう)と
017世(よ)に聞(きこ)えたる友彦(ともひこ)が
018二十戸(にじつと)許(ばか)りの里人(さとびと)に
019霊主(れいしゆ)体従(たいじう)を標榜(へうぼう)し
020剣(つるぎ)を渡(わた)り火(ひ)を渡(わた)り
021水底(みなそこ)潜(くぐ)り浮(う)き沈(しづ)み
022鳥(とり)さへとまらぬ茨室(いばむろ)に
023郷(さと)の男女(なんによ)を裸体(はだか)とし
024言葉(ことば)巧(たくみ)に説(と)きつけて
025身体(からだ)を破(やぶ)る曲(まが)の行(ぎやう)
026足駄(あしだ)の表(おも)に釘(くぎ)を打(う)ち
027穿(うが)ちて歩(あゆ)む村人(むらびと)は
028神(かみ)に仕(つか)ふる第一(だいいち)の
029清(きよ)き御業(みわざ)と迷信(めいしん)し
030心(こころ)を痛(いた)め身(み)を痛(いた)め
031無理(むり)往生(わうじやう)の嬉(うれ)し泣(な)き
032この惨状(さんじやう)を救(すく)はむと
033天(あめ)の真浦(まうら)の宣伝使(せんでんし)
034松鷹彦(まつたかひこ)が賤(しづ)の家(や)に
035長(なが)らく足(あし)を留(とど)めつつ
036朝(あさ)な夕(ゆふ)なに神(かみ)の道(みち)
037うまらに委曲(つばら)に説(と)きつれど
038迷(まよ)ひ切(き)つたる里人(さとびと)の
039肯(うけご)ふ事(こと)とならずして
040迷(まよ)ひに迷(まよ)ふ憫(あは)れさよ。
041 春(はる)は漸(やうや)く深(ふか)く、042菜種(なたね)の花(はな)もすげなく散(ち)りて青(あを)い莢(さや)の針(はり)をいただき、043大根(だいこん)の花(はな)遅(おく)れ馳(ば)せ乍(なが)ら白(しろ)く咲(さ)いてゐる。044一方(いつぱう)は大川(おほかは)、045一方(いつぱう)は田圃(たんぼ)で挟(はさ)まれた川堤(かはづつみ)の松鷹彦(まつたかひこ)の茅屋(ばうをく)さして入(い)り来(きた)る四五(しご)人(にん)の男女(なんによ)、
046甲(かふ)『ハイ御免(ごめん)なさいませ』
047松鷹彦(まつたかひこ)『ヤアお前(まへ)は留公(とめこう)か。048大勢(おほぜい)伴(づ)れで血相(けつさう)変(か)へて何処(どこ)へ行(ゆ)くのだ』
049留公(とめこう)『イヤ何処(どこ)へも行(ゆ)かぬ。050当家(たうけ)へ村人(むらびと)の代表者(だいへうしや)として、051吾々(われわれ)五(ご)人(にん)がやつて来(き)たのだ。052今日(けふ)は確(しつか)りと聞(き)いて貰(もら)ひませう。053お前(まへ)等(ら)夫婦(ふうふ)の身(み)の上(うへ)に関(くわん)する大問題(だいもんだい)だから』
054松鷹彦(まつたかひこ)『大問題(だいもんだい)とはソラ何(なん)だ。055又(また)水(みづ)の中(なか)で河童(かつぱ)が屁(へ)を放(ひ)つたやうな事(こと)を針小(しんせう)棒大(ぼうだい)に言(い)つて来(き)たのだらう』
056 留公(とめこう)は肩(かた)を張(は)り、057腕(うで)を捲(まく)り捩鉢巻(ねぢはちまき)をし乍(なが)ら、058半分(はんぶん)許(ばか)り逃(に)げ腰(ごし)になつて、
059留公(とめこう)『オイお前(まへ)達(たち)、060道(みち)をサツと開(あ)けて置(お)けよ。061まさかの時(とき)に邪魔(じやま)になると困(こま)るから』
062松鷹彦(まつたかひこ)『なんだ貴様(きさま)は肩(かた)をいからし、063腕(うで)をまくり、064よう気張(きば)つたものだなア。065今(いま)からそれだけ力(ちから)一杯(いつぱい)出(だ)して気張(きば)つて居(を)ると、066力(ちから)の原料(げんれう)が欠乏(けつぼう)するぞ。067先(ま)づじつくりせぬかい』
068 留公(とめこう)は少(すこ)し肩(かた)の角(かど)を削(けづ)り、069手持(てもち)無沙汰(ぶさた)にそつと捲(まく)つた腕(うで)を隠(かく)す。
070松鷹彦(まつたかひこ)『なんだ其(そ)の鉢巻(はちまき)は。071他人(ひと)の家(うち)へ出(で)て来(く)るのに、072あまり無作法(ぶさはふ)ぢやないか。073親(おや)の仇敵(かたき)にでも出会(であ)つたやうな勢(いきほひ)だなア』
074留公(とめこう)『親(おや)の仇敵(かたき)どころかい。075大自在天(だいじざいてん)大国彦(おほくにひこ)の神(かみ)様(さま)の、076最(もつと)も大切(たいせつ)な仇敵(かたき)をお前(まへ)の家(うち)に匿(かく)まうて居(を)るでないか。077其奴(そいつ)を一(ひと)つふん縛(じば)つて帰(かへ)り、078友彦(ともひこ)の宣伝使(せんでんし)の御(おん)前(まへ)に曳(ひ)き据(す)ゑて、079相当(さうたう)の処置(しよち)をつけるのだ。080サア爺(ぢい)、081もう斯(か)うなつた以上(いじやう)は隠(かく)しても駄目(だめ)だ、082キリキリと宣伝使(せんでんし)をおつ放(ぽ)り出(だ)して吾々(われわれ)に渡(わた)すのだよ。083ゴテゴテ吐(ぬか)すと村中(むらぢう)が貴様(きさま)の信用(しんよう)を買(か)はないぞ。084ボイコツトを始(はじ)めるが、085それでもいいか。086さうすれば、087武志(たけし)の宮(みや)の宮司(みやづかさ)は、088足袋屋(たびや)の看板(かんばん)足上(あしあが)り、089鼻(はな)の下(した)の大旱魃(だいかんばつ)、090大恐慌(だいきようくわう)だ。091悪(わる)いことは言(い)はないからさつさと渡(わた)して呉(く)れ。092老爺(おやぢ)の身(み)に取(と)つて実(じつ)に大切(たいせつ)な場合(ばあひ)ぢやぞ。093焦頭(せうとう)爛額(らんがく)の急場(きふば)と言(い)ふのは今(いま)のことだ。094サア早(はや)く神妙(しんめう)に宣伝使(せんでんし)を吾々(われわれ)に渡(わた)したがよからう。095里人(さとびと)の代表者(だいへうしや)留公(とめこう)の言葉(ことば)に二言(にごん)はないぞ。096覚悟(かくご)を定(き)めて返答(へんたふ)しろ』
097松鷹彦(まつたかひこ)『何事(なにごと)かと思(おも)へばそんな事(こと)かい。098ベラボウ教(けう)のドモ彦(ひこ)だな。099矢張(やつぱ)り彼奴(あいつ)は何時迄(いつまで)も頑張(ぐわんば)つて居(ゐ)るのかい。100遠(とほ)の昔(むかし)に宇都山(うづやま)の里(さと)から消滅(せうめつ)した筈(はず)だが、101オイ留公(とめこう)、102此方(こちら)には用(よう)が無(な)いが訊(たづ)ねたい事(こと)があれば、103宣伝使(せんでんし)は奥(おく)にチヤンと祭(まつ)りこみてあるから、104友彦(ともひこ)と云(い)ふ御(おん)大将(たいしやう)を此処(ここ)へ連(つ)れて来(こ)い。105及(およ)ばず乍(なが)ら松鷹彦(まつたかひこ)が天地(てんち)の道理(だうり)を説(と)き諭(さと)し、106友彦(ともひこ)の身魂(みたま)を浄(きよ)めて三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)真浦(まうら)様(さま)のお伴彦(ともひこ)として使(つか)つてやるから早(はや)く帰(かへ)つて注進(ちうしん)致(いた)せ』
107留公(とめこう)『中々(なかなか)老耄(おいぼれ)の癖(くせ)に俄(にはか)に強(つよ)くなりやがつたな。108オイお春(はる)、109お弓(ゆみ)、110樽公(たるこう)、111捨公(すてこう)、112貴様(きさま)等(ら)何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐるのだ。113俺(おれ)と一緒(いつしよ)に奥(おく)へ踏(ふ)んごみ、114宣伝使(せんでんし)をふん縛(じば)つて帰(かへ)らうぢやないか。115こんな奴(やつ)が此(こ)の結構(けつこう)な里(さと)に来(き)やがつて、116三五教(あななひけう)とかを説(と)きやがるものだから、117この御(お)天道(てんだう)様(さま)の色(いろ)を見(み)よ。118御(ご)機嫌(きげん)が悪(わる)うて黒(くろ)い雲(くも)が出(で)て居(を)るぢやないか。119御(お)天道(てんだう)さまのお気(き)に入(い)らぬ奴(やつ)が此(こ)の里(さと)へ来(く)ると、120何時(いつ)も黒(くろ)い雲(くも)が出(で)ると云(い)ふことだ。121二三(にさん)日前(にちまへ)から人(ひと)の尾(を)峠(たうげ)の頂(いただ)きに、122真黒(まつくろ)けの鍋墨(なべずみ)のやうな雲(くも)が現(あら)はれたのも、123全(まつた)くお前(まへ)達(たち)が仕様(しやう)も無(な)い奴(やつ)を宿(と)めて居(を)るからだ。124バラモン教(けう)の宣伝使(せんでんし)友彦(ともひこ)さまの御(お)示(しめ)しだぞ』
125 奥(おく)の間(ま)より真浦(まうら)の声(こゑ)として、126涼(すず)しき宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)聞(きこ)え来(き)たる。
127真浦『天教山(てんけうざん)に現(あら)はれし
128木花姫(このはなひめ)の分霊(わけみたま)
129玉照彦(たまてるひこ)や玉照姫(たまてるひめ)の
130神(かみ)の命(みこと)の朝夕(あさゆふ)に
131心(こころ)を清(きよ)め身(み)を浄(きよ)め
132仕(つか)へ給(たま)へる丹波(あかなみ)の
133国(くに)の真秀良場(まほらば)ただなはる
134青垣山(あをがきやま)を繞(めぐ)らせる
135真中(まなか)に立(た)てる世継王(よつわう)山(ざん)
136御稜威(みいづ)も高(たか)く照山(てらやま)の
137袂(たもと)にひらく神(かみ)の苑(その)
138錦(にしき)の宮(みや)の最聖(いときよ)き
139心(こころ)の花(はな)も咲耶姫(さくやひめ)
140彦(ひこ)火々出見(ほほでみ)の二柱(ふたはしら)
141国治立(くにはるたち)の大神(おほかみ)や
142豊国姫(とよくにひめ)の大神(おほかみ)の
143厳(いづ)の御言(みこと)を畏(かしこ)みて
144天地(てんち)にさやる曲津(まがつ)神(かみ)
145八岐(やまた)大蛇(をろち)や醜狐(しこぎつね)
146バラモン教(けう)に立籠(たてこも)る
147醜(しこ)の曲鬼(まがおに)言向(ことむ)けて
148此(この)世(よ)を清(きよ)め澄(すま)さむと
149七十五(しちじふご)声(せい)の言霊(ことたま)を
150朝(あさ)な夕(ゆふ)なに宣(の)り出(い)でて
151教司(をしへつかさ)を招(よ)び集(つど)へ
152言依別(ことよりわけ)を三五(あななひ)の
153神(かみ)の柱(はしら)とつき立(た)てて
154錦(にしき)の機(はた)の御(おん)経綸(しぐみ)
155開(ひら)かせ給(たま)ふ常磐木(ときはぎ)の
156われは小(ちひ)さき者(もの)なれど
157神(かみ)の恵(めぐみ)を蒙(かうむ)りし
158三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
159天(あめ)の真浦(まうら)の命(みこと)ぞや
160高天原(たかあまはら)を立(た)ち出(い)でて
161雲霧(くもきり)分(わ)けて降(くだ)り来(く)る
162人(ひと)の尾(を)山(やま)は高(たか)くとも
163宇都山(うづやま)川(がは)は深(ふか)くとも
164如何(いか)で及(およ)ばむ神(かみ)の徳(とく)
165バラモン教(けう)の友彦(ともひこ)が
166舌(した)の剣(つるぎ)に操(あやつ)られ
167神(かみ)よりうけし生血(いきち)をば
168滝(たき)の如(ごと)くに流(なが)し居(を)る
169哀(あは)れ果敢(はか)なき里人(さとびと)を
170諭(さと)して誠(まこと)の大道(おほみち)に
171救(すく)はむための鹿島立(かしまだち)
172武志(たけし)の宮(みや)に立寄(たちよ)りて
173しばし憩(やす)らふ折柄(をりから)に
174宮(みや)の司(つかさ)の松鷹彦(まつたかひこ)
175現(あら)はれ来(きた)り吾々(われわれ)を
176これの伏家(ふせや)に伴(ともな)ひて
177朝夕(あさゆふ)唱(とな)ふる太祝詞(ふとのりと)
178神(かみ)の恵(めぐ)みもいやちこに
179五風(ごふう)十雨(じふう)の順序(ついで)よく
180花(はな)は梢(こずゑ)に咲(さ)き乱(みだ)れ
181梅(うめ)の蕾(つぼみ)はさわさわに
182枝(えだ)もたわわに重(かさ)なり合(あ)ひ
183見渡(みわた)す限(かぎ)り野(の)も山(やま)も
184色(いろ)蒼々(あをあを)と栄(さか)え行(ゆ)く
185神(かみ)の恵(めぐ)みを目(ま)の当(あた)り
186眺(なが)め乍(なが)らに汝(いまし)等(ら)は
187何(なに)を狼狽(うろた)へ騒(さわ)ぐぞよ
188一(いち)時(じ)も早(はや)く立帰(たちかへ)り
189汝(なんぢ)が親(おや)と頼(たの)み居(ゐ)る
190バラモン教(けう)の友彦(ともひこ)を
191わが目(め)の前(まへ)に伴(つ)れ来(きた)り
192天(あめ)と地(つち)とを守(まも)ります
193誠(まこと)の神(かみ)の御心(みこころ)を
194うまらに委曲(つばら)に説(と)き諭(さと)し
195汝(なんぢ)等(ら)里人(さとびと)悉(ことごと)が
196眠(ねむ)れる眼(まなこ)を醒(さ)まさなむ
197朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
198月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
199仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
200我(わが)宗門(しうもん)の神力(しんりき)は
201如何(いか)に強(つよ)しと誇(ほこ)るとも
202誠(まこと)一(ひと)つの言霊(ことたま)の
203幸(さちは)ひ助(たす)くる三五(あななひ)の
204神(かみ)の教(をしへ)に比(くら)ぶれば
205月(つき)に鼈(すつぽん)雲(くも)に泥(どろ)
206天地(てんち)の差別(けじめ)あることを
207洩(も)らさず落(おと)さず細(こま)やかに
208教(をし)へて呉(く)れむ里人(さとびと)よ
209神代(かみよ)ながらの里人(さとびと)よ
210此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
211心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
212唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
213直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
214世(よ)の過(あやま)ちを宣(の)り直(なほ)す
215神(かみ)の教(をしへ)に省(かへり)みて
216天地(てんち)の道(みち)を誤(あやま)りし
217深(ふか)き罪(つみ)をも差赦(さしゆる)し
218高天原(たかあまはら)の神国(かみぐに)の
219教(をしへ)の御子(みこ)と何時迄(いつまで)も
220心(こころ)に安(やす)きを与(あた)ふべし
221栄(さか)えの花(はな)は永久(とは)に咲(さ)く
222高天原(たかあまはら)の神(かみ)の子(こ)と
223生(うま)れ変(かは)りし其(その)上(うへ)は
224此(この)世(よ)に恐(おそ)るるものは無(な)し
225アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
226御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
227留公(とめこう)其(その)他(た)の里人(さとびと)を
228安(やす)きに救(すく)ひ給(たま)へかし
229アヽ留公(とめこう)よ里人(さとびと)よ
230友彦(ともひこ)伴(ともな)ひ早来(はやきた)れ
231天(あめ)の真浦(まうら)の神司(かむづかさ)
232襟(えり)を正(ただ)して待暮(まちくら)す
233アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
234御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
235と屋外(をくぐわい)に響(ひび)く竜声(りうせい)に留公(とめこう)始(はじ)め四(よ)人(にん)の男女(なんによ)は、
236四人『ヤア大変(たいへん)だ。237頭(あたま)が痛(いた)い、238胸(むね)が苦(くる)しい。239一先(ひとま)づ此(この)家(や)を立去(たちさ)り、240友彦(ともひこ)の宣伝使(せんでんし)に注進(ちうしん)せむ』
241と大麦(おほむぎ)、242小麦(こむぎ)、243豌豆(えんどまめ)、244蚕豆畑(そらまめばたけ)を踏躙(ふみにじ)り、245周章(あわて)狼狽(ふため)き帰(かへ)り往(ゆ)く。
246松鷹彦(まつたかひこ)『此(こ)の村(むら)は質朴(しつぼく)な代(かは)りに理解力(りかいりよく)が無(な)いので困(こま)る。247信仰(しんかう)も結構(けつこう)だが無理解(むりかい)な信仰(しんかう)にああ堅(かた)くなつては、248何(ど)うにも斯(か)うにも手(て)の付(つ)け方(かた)が無(な)い。249まるで鉄(てつ)を以(もつ)て固(かた)めた城壁(じやうへき)に向(むか)つて、250無手(むて)で子供(こども)が襲撃(しふげき)するやうなものだ。251アヽ何(ど)うしたら彼(かれ)等(ら)の目(め)を醒(さま)す事(こと)が出来(でき)ようかなア。252斯(か)う云(い)ふ時(とき)に不言(ふげん)実行(じつかう)の教理(けうり)を徹底(てつてい)的(てき)に発揮(はつき)して欲(ほ)しいものだ。253広(ひろ)い世界(せかい)には何処(どこ)かに、254一人(ひとり)や半分(はんぶん)位(くらゐ)天(てん)から溢(こぼ)れて来(き)て居(を)り相(さう)なものだなア』
255と、256わざと奥(おく)の間(ま)に聞(きこ)えよがしに、
257松鷹彦『ナアお竹(たけ)』
258と婆(ば)アに向(むか)つて話(はな)しかけたればお竹(たけ)はウナヅイて、
259お竹『さうですな、260随分(ずゐぶん)いろいろの神(かみ)様(さま)の教(をしへ)もあり、261宣伝使(せんでんし)も沢山(たくさん)ありますが、262どれもこれも言葉(ことば)の花(はな)の山吹(やまぶき)ばつかりで、263実(み)ののつた例(ためし)は無(な)い。264あれだけ近(ちか)くにバラモンが跋扈(ばつこ)して居(を)るのだから、265何(なん)とかして彼(あ)の様(やう)な惨酷(ざんこく)な教(をしへ)を根底(こんてい)より転覆(てんぷく)させ、266せめて此(こ)の村(むら)だけなりと助(たす)けて呉(く)れる真人(しんじん)が現(あら)はれ相(さう)なものだなア』
267とお竹(たけ)も亦(また)爺(ぢぢ)の言葉尻(ことばじり)について、268奥(おく)の間(ま)に聞(き)けよがしに言(い)つてゐる。269真浦(まうら)は之(これ)を聞(き)くや否(いな)や、270奥(おく)の間(ま)の戸(と)を、271音(おと)させじとソツと開(ひら)き、272スタスタと宇都山(うづやま)の里(さと)を目(め)ざして走(はし)り行(ゆ)く。
273 留公(とめこう)の離(はな)れ座敷(ざしき)に陣取(ぢんど)つて日夜(にちや)怪気焔(くわいきえん)を吐(は)き里人(さとびと)を煙(けぶり)に捲(ま)いてゐるバラモン教(けう)の友彦(ともひこ)は、274松鷹彦(まつたかひこ)の茅屋(ばうをく)に遣(つか)はしたる使(つかひ)の帰(かへ)り来(く)るを、275今(いま)や遅(おそ)しと首(くび)を長(なが)くして日当(ひあた)りのよい角窓(かくまど)から覗(のぞ)いてゐる。276倒(こ)けつ転(まろ)びつ、277ハーハー、278スースーと息(いき)を喘(はず)ませ帰(かへ)り来(く)る留公(とめこう)一行(いつかう)の姿(すがた)を見(み)るより、279友彦(ともひこ)は、
280友彦(ともひこ)『ヤア待(ま)ち兼(か)ねた。281様子(やうす)は如何(どう)だ。282早(はや)く返答(へんたふ)聞(き)かして呉(く)れ』
283留公(とめこう)『イヤもう暗雲(あんうん)低迷(ていめい)、284前途(ぜんと)暗黒(あんこく)、285収拾(しうしふ)すべからざる形勢(けいせい)で御座(ござ)いました。286この留公(とめこう)が深遠(しんゑん)微妙(びめう)の言霊(ことたま)に依(よ)つて、287漸(やうや)く騒乱(さうらん)鎮静(ちんせい)の曙光(しよくわう)を認(みと)めました』
288友彦(ともひこ)『アヽさうか、289それは大儀(たいぎ)であつたのう』
290お春(はる)『モシモシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、291全(まつた)くですよ。292全(まつた)くは全(まつた)くだが零敗(ゼロはい)の大当違(おほあてちが)ひ、293夜食(やしよく)に外(はづ)れた梟鳥(ふくろどり)の憫(あは)れ儚(はか)なき列(れつ)を乱(みだ)した頓狂(とんきやう)振(ぶ)り、294実(じつ)に目(め)も当(あ)てられぬ惨状(さんじやう)でしたワ』
295留公(とめこう)『コラコラ女(をんな)の差出(さしで)るところでない。296黙(だま)つて物言(ものい)へ。297それだから女(をんな)に大事(だいじ)は明(あ)かされぬと昔(むかし)の聖人(せいじん)が云(い)つたのだ』
298友彦(ともひこ)『一体(いつたい)何方(どちら)が本当(ほんたう)だ。299吉(きち)か凶(きよう)か、300天(てん)か地(ち)か、301月(つき)か鼈(すつぽん)か、302雪(ゆき)か炭(すみ)か』
303お春(はる)『鼈(すつぽん)に炭(すみ)の様(やう)なものです。304爺(ぢい)さま、305中々(なかなか)の剛情者(がうじやうもの)で村中(むらぢう)の協議(けふぎ)の結果(けつくわ)を一(いち)も二(に)もなく退(しりぞ)け、306青瓢箪(あをべうたん)のやうなヘボ宣伝使(せんでんし)の加勢(かせい)ばつかりやつて居(ゐ)ます。307さうして奥(おく)の間(ま)から何百(なんびやく)人(にん)とも知(し)れぬ大(おほ)きな声(こゑ)を揃(そろ)へて、308照(て)るとか曇(くも)るとか歌(うた)ひ居(を)つた。309其(そ)の声(こゑ)に私(わたし)達(たち)の結構(けつこう)な笠(かさ)の台(だい)は忽(たちま)ち地異(ちい)天変(てんぺん)、310目(め)は暈(ま)ふ、311鼻(はな)はうづく、312口(くち)は自然(しぜん)に弛(ゆる)んで下顎(したあご)が乳(ちち)の辺(あたり)まで垂下(すゐか)する、313胸(むね)は早鐘(はやがね)をつく消防夫(せうばうふ)は駆出(かけだ)す、314纏(まとひ)はガサガサ チヤンチヤン』
315友彦(ともひこ)『オイオイ貴様(きさま)何(なに)を言(い)つてゐるのだ。316何処(どこ)へ行(い)つて来(き)たのだ』
317留公(とめこう)『ハイ一寸(ちよつと)小火(ぼや)があつたものですから』
318お春(はる)『留(とめ)さま、319何(なに)をボヤボヤして居(を)るのだ。320火事(くわじ)つたら何処(どこ)にあつたのだい』
321留公(とめこう)『エー貴様(きさま)の見(み)えない、322遠(とほ)い遠(とほ)い神霊界(しんれいかい)に無形(むけい)の火事(くわじ)があつたのだよ。323霊眼(れいがん)の開(ひら)けないデモ信者(しんじや)の窺知(きち)し得(う)る限(かぎ)りでないワイ。324女(をんな)だてらブカブカと此(こ)の場面(ばめん)に浮(う)き出(だ)して水(みづ)をさすよりも女(をんな)らしう暫(しば)らく沈艇(ちんてい)をしてゐて呉(く)れ』
325友彦(ともひこ)『アハアお前(まへ)たちはフの字(じ)だな』
326お春(はる)『フの字(じ)ですとも、327それはそれは麩(ふ)のやうな腑抜(ふぬ)け魂(だま)ですよ。328戦況(せんきやう)を詳細(しやうさい)に報告(はうこく)致(いた)しませうか』
329留公(とめこう)『オイ敗軍(はいぐん)の将(しやう)は兵(へい)を語(かた)らずだ。330弱虫(よわむし)は弱虫(よわむし)らしう控(ひか)へて居(を)らう』
331 斯(か)く争(いさか)ふ所(ところ)へ、332スタスタと現(あら)はれて来(き)た一人(ひとり)の男(をとこ)、333鍬(くは)をかたげ頬被(ほほかぶ)りをし乍(なが)ら、
334男(をとこ)(田吾作)『留(とめ)さん、335一寸(ちよつと)外(そと)へ出(で)て下(くだ)さい。336俺(おれ)ん所(とこ)の大事(だいじ)な赤子(あかご)を踏(ふ)み殺(ころ)しやがつて、337如何(どう)して呉(く)れるのだい』
338留公(とめこう)『貴様(きさま)の家(いへ)に赤子(あかご)があるのか。339何時(いつ)の間(ま)に子(こ)を産(う)んだのだ。340嬶(かかあ)も無(な)い癖(くせ)に如何(どう)して赤子(あかご)を踏(ふ)まれる道理(だうり)があるか』
341男(をとこ)(田吾作)『有(あ)らいでか、342有(あ)りやこそ言(い)うて来(き)たのだ。343嘘(うそ)と思(おも)ふなら俺(おれ)ん所(とこ)の畑(はたけ)までやつて来(こ)い。344さうしたら一目(いちもく)瞭然(れうぜん)貴様(きさま)も成程(なるほど)と合点(がつてん)がいくだらう』
345留公(とめこう)『赤子(あかご)の三(みつ)つや五(いつ)つ踏(ふ)み殺(ころ)したつて、346なんだい。347此(こ)の村(むら)は今(いま)や地異(ちい)天変(てんぺん)の最中(さいちう)だ。348ちつと位(くらゐ)辛抱(しんばう)して作戦(さくせん)の用意(ようい)にかからねばならぬだないか。349悠々(いういう)と野良(のら)へ出(で)て仕事(しごと)をして居(を)る場合(ばあひ)ぢやない。350挙国(きよこく)一致(いつち)で敵(てき)に当(あた)らねばならぬ危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)だぞ』
351男(をとこ)(田吾作)『それでも貴重(きちよう)な赤子(あかご)を捨(す)ててまで馬鹿(ばか)らしい、352斯(こ)んな戦争(せんそう)が出来(でき)るかい。353婦人(ふじん)国有論(こくいうろん)が起(おこ)つて赤子(あかご)を一人(ひとり)でも殖(ふ)やさにやならぬ時(とき)に、354二十(にじふ)も三十(さんじふ)も踏(ふ)み殺(ころ)されてたまるものかい』
355留公(とめこう)『貴様(きさま)鼠(ねずみ)のやうな奴(やつ)だな。356沢山(たくさん)な赤子(あかご)を如何(どう)して産(う)んだのだい。357あまり仕様(しやう)も無(な)い種子(たね)を蒔(ま)くと、358米(こめ)が騰貴(とうき)して国家(こくか)的(てき)破産(はさん)を来(きた)さねばならぬやうになるぞ。359産児(さんじ)制限(せいげん)の問題(もんだい)が喧(やかま)しい時(とき)だ。360俺(おれ)が踏(ふ)み殺(ころ)したのも国家(こくか)の為(た)めだよ』
361男(をとこ)(田吾作)『天地(てんち)の大神(おほかみ)様(さま)の御恵(みめぐ)みで、362やうやうと芽(め)をふき、363葉(は)も出来(でき)、364花(はな)も一寸(ちよつと)咲(さ)きかけたとこだ。365それを貴様(きさま)が三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)に驚(おどろ)き慌(あわ)てて、366広(ひろ)い道路(みち)があるのに俺(おれ)ん所(とこ)の芋畑(いもばたけ)を通(とほ)りやがつて、367三度芋(さんどいも)[※三度芋はジャガイモの別称。]の赤子(あかご)をすつかり踏割(ふみわ)つて了(しま)ひやがつた』
368留公(とめこう)『何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだい。369俺(おれ)は又(また)人間(にんげん)の赤子(あかご)だと早合点(はやがつてん)して、370聊(いささ)か同情(どうじやう)の涙(なみだ)にくれて居(を)つたのだ。371貴様(きさま)の芋畑(いもばたけ)を通(とほ)つたものは俺(おれ)ばかりぢやないぞ、372五(ご)人(にん)も居(を)るのだから、373そりや大方(おほかた)人違(ひとちがひ)だらう』
374男(をとこ)(田吾作)『馬鹿(ばか)言(い)ふな、375足型(あしがた)でよく分(わか)つて居(を)る。376六本(ろつぽん)も指(ゆび)のある奴(やつ)は、377此(この)村(むら)には貴様(きさま)一人(ひとり)より無(な)いのだ。378指(ゆび)の型(かた)が証拠(しようこ)だ。379モシモシ バラモン教(けう)の先生(せんせい)、380あんなことをしても神(かみ)様(さま)は許(ゆる)されますか。381私(わたくし)は何時(いつ)も貴方(あなた)の御(お)話(はなし)を聞(き)いてゐますが、382畔放(あはな)ちの罪(つみ)と云(い)ふことは大変(たいへん)な重(おも)い罪(つみ)だ。383そんなことを致(いた)したものは直(ただち)にバラモン教(けう)を破門(はもん)すると仰有(おつしや)いましたなア』
384友彦(ともひこ)『それは何時(いつ)も言(い)うて居(ゐ)る通(とほ)りだ。385オイ留公(とめこう)、386お前(まへ)は今日(けふ)限(かぎ)り破門(はもん)する。387併(しか)し乍(なが)ら明日(あす)は又(また)明日(あす)のことだ。388兎(と)も角(かく)教(をしへ)が許(ゆる)さぬから此(この)場(ば)を立去(たちさ)つたがよからう』
389留公(とめこう)『エー置(お)きやがれ、390今(いま)まで先生(せんせい)々々(せんせい)と崇(あが)めてやれば、391好(い)い気(き)になりやがつて、392なんだい芋種子(いもだね)の二十(にじふ)や三十(さんじふ)踏(ふ)み躙(にじ)つたと言(い)つて、393それがそれ程(ほど)悪(わる)いのか。394芋(いも)と人間(にんげん)と何方(どちら)が貴(たつと)い、395芋(いも)よりも安(やす)く見(み)られるのなら、396俺(おれ)も此方(こちら)から破門(はもん)だ。397其(そ)の代(かは)りにタツタ今(いま)頭(あたま)の痛(いた)い、398胸(むね)の苦(くるし)い宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)つて、399天(あめ)の真浦(まうら)とか云(い)ふ偉(えら)い生神(いきがみ)様(さま)がやつて来(く)るから、400その時(とき)に犬突這(いぬつくば)ひになつて、401ベソをかかぬやうに用心(ようじん)せい。402これが俺(おれ)の別(わか)れのお土産(みやげ)だ。403オイお春(はる)、404貴様(きさま)も好(よ)い加減(かげん)に目(め)を醒(さま)せ。405俺(おれ)はこれから三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)に御(お)味方(みかた)するのだ』
406と言(い)ひ捨(す)て、407一目散(いちもくさん)に駆出(かけだ)した。
408(大正一一・五・一二 旧四・一六 外山豊二録)
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