霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 山河(さんが)不尽(ふじん)〔六六五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻 篇:第1篇 宇都山郷 よみ(新仮名遣い):うづやまごう
章:第3章 山河不尽 よみ(新仮名遣い):さんがふじん 通し章番号:665
口述日:1922(大正11)年05月12日(旧04月16日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年3月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
留公は友彦の処置を怒りながら、畑の芋を踏み潰している。そこへ天の真浦がやってきて、留公を咎めた。
そこへ、先ほどの畑の主がやってきて、留公の仕業を見ると、さらに怒って鍬を留公に振り下ろした。留公がよけると、鍬は天の真浦の宣伝使の足の小指を切り落としてしまった。真浦はとっさに指をひろってくっつけたが、逆さまについてしまった。これが「真浦」という名の由来だという。
男は平伏して真浦に詫びるが、なおも留公がからかうので、怒ってまた留公に鍬を振りかざした。
留公とその男・田吾作は芋争いをしているが、天の真浦は、いずれにしても神様の御魂が宿っている万物一切を粗末にしてはならない、と二人を諭す。留公は翻然として今までの罪を田吾作に詫び、二人は和解した。
天の真浦はバラモン教を言向け和そうと村を目指すが、留公は、バラモン教の宣伝使・友彦が逗留しているのは自分の館であるが、深い溝が掘ってあるので注意するように、と宣伝使に伝える。
留公は、最初は立派な宣伝使だと思って村に留めたのだが、友彦の言行が一致しないこと甚だしく、まるで主人のように我が者顔に振舞っている、と窮状を真浦に訴えた。
留公と田吾作は、三五教に改心することなり、三人は友彦が逗留する留公の屋敷に乗り込んだ。留公と友彦は激しく言い争うが、友彦は最後は言霊によって留公らを撃退しようと、宣伝歌を歌いだした。
それに対抗して、留公も口から出任せの宣伝歌を歌って返す。しかしその様子のおかしさに、友彦も田吾作も笑い転げた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-20 18:41:22 文字数:7928 OBC :rm2003
愛善世界社版:54頁 八幡書店版:第4輯 168頁 修補版: 校定版:56頁 普及版:24頁 初版: ページ備考:
001 留公(とめこう)はドンドンと地響(ぢひび)きさせ乍(なが)ら性凝(しやうこ)りもなく芋畑(いもばたけ)の赤子(あかご)を御(ご)丁寧(ていねい)に再(ふたた)び蹂躙(ふみにじ)り、
002留公『エイ、003此(この)芋(いも)の野郎(やらう)、004俺(おれ)に影響(えいきやう)を及(およ)ぼしやがつた、005芋(いも)だつて油断(ゆだん)のならぬものだ、006エヽもう斯(か)うなる上(うへ)は善(い)いも、007悪(わる)いも、008恐(こは)いも、009可愛(かはい)いも、010難(むつ)かしいも、011嬉(うれ)しいも、012悲(かな)しいもあつたものかい、013三度芋(さんどいも)の野郎(やらう)、014何処(どこ)までも六本(ろつぽん)の指(ゆび)で蹂躙(じうりん)してやらう。015アタいもいもしい』
016と足(あし)に力(ちから)を入(い)れて心(こころ)ゆく許(ばか)り踏(ふ)み砕(くだ)いて居(を)る。017そこへ走(はし)つて来(き)たのは真浦(まうら)の宣伝使(せんでんし)、018此(この)態(てい)を見(み)て、
019真浦(まうら)『留(とめ)さん、020何(なに)をして居(ゐ)なさる』
021留公(とめこう)『之(これ)はしたり、022大変(たいへん)な所(とこ)を発見(はつけん)されました。023然(しか)し何卒(どうぞ)もう宣伝歌(せんでんか)丈(だ)けは許(ゆる)して下(くだ)さい、024頭(あたま)の数(かず)が幾(いく)つにも分家(ぶんけ)する様(やう)な心持(こころもち)がしますから……』
025真浦(まうら)『よしよし嫌(いや)とあれば沈黙(ちんもく)しませう、026然(しか)し今(いま)お前(まへ)の踏(ふ)んで居(ゐ)るのは芋(いも)ではないか』
027留公(とめこう)『ハイ、028物価(ぶつか)騰貴(とうき)の今日(こんにち)、029斯(か)う沢山(たくさん)に赤子(あかご)が殖(ふ)えては、030第一(だいいち)国民(こくみん)が食糧(しよくりやう)に困(こま)ります。031三度芋(さんどいも)と云(い)つて年(ねん)に三度(さんど)も子(こ)を生(う)む奴(やつ)ぢや、032産児(さんじ)制限(せいげん)の為(た)めにサンガー夫人(ふじん)がやつて来(き)て、033今(いま)此処(ここ)に大活動(だいくわつどう)を開始(かいし)した所(とこ)ですよ。034何卒(どうぞ)大目(おほめ)に見(み)て上陸(じやうりく)を拒否(きよひ)せない様(やう)に願(ねが)ひます、035アハヽヽヽ』
036真浦(まうら)『そんな事(こと)しては困(こま)るぢやないか、037天津(あまつ)御空(みそら)の星(ほし)の数(かず)程(ほど)人(ひと)を殖(ふ)やし、038浜(はま)の真砂(まさご)の数(かず)程(ほど)赤子(あかご)を生(う)まねばならぬ神(かみ)様(さま)のお道(みち)ぢや、039生成(せいせい)化育(くわいく)の大道(だいだう)を無視(むし)してその様(やう)な乱暴(らんばう)な事(こと)をして良(よ)いものか』
040留公(とめこう)『私(わたくし)は之(これ)が国家(こくか)の経済(けいざい)上(じやう)から見(み)ても、041人類共存(じんるゐきようぞん)上(じやう)の学理(がくり)から考(かんが)へても最(もつと)も神(かみ)の意志(いし)に適(てき)した良法(りやうはふ)だと確信(かくしん)して居(ゐ)ます。042何卒(なにとぞ)私(わたくし)の演説(えんぜつ)を一(ひと)つ聞(き)いて見(み)なさい、043能(よ)く徹底(てつてい)して居(ゐ)ますよ』
044真浦(まうら)『演説(えんぜつ)は中止(ちゆうし)、045否(いな)絶対(ぜつたい)に解散(かいさん)を命(めい)じます』
046 斯(かか)る処(ところ)へ以前(いぜん)の男(をとこ)、047鍬(くは)を担(かた)げ乍(なが)ら怒髪(どはつ)天(てん)を衝(つ)いて走(はし)り来(きた)り、
048男(をとこ)(田吾作)『こらこら又(また)しても大切(だいじ)の大切(だいじ)の赤子(あかご)を殺(ころ)すのか』
049留公(とめこう)『オヽ、050バラモン教(けう)と取換(とつか)へこして迄(まで)、051赤子(あかご)を征伐(せいばつ)する覚悟(かくご)をきめたのだから、052何(なん)と云(い)つても中止(ちうし)はせない。053マア之(これ)も前世(ぜんせ)の因縁(いんねん)だと諦(あきら)めて鄭重(ていちよう)に弔(とむら)ひでもしてやるが良(よ)からう』
054 男(をとこ)は怒(いか)り心頭(しんとう)に達(たつ)し鍬(くは)を真向(まつかう)に翳(かざ)し留公(とめこう)の頭(あたま)を目蒐(めが)けて打(う)ち下(お)ろした。055留公(とめこう)はヒラリと体(たい)を躱(かは)した機(はずみ)に、056鍬(くは)は外(そ)れて真浦(まうら)の足(あし)の小指(こゆび)を斬(き)り落(おと)した。057真浦(まうら)は顔(かほ)を顰(しか)め落(お)ちた指(ゆび)を手早(てばや)く拾(ひろ)つて傷口(きずぐち)にあてた。058指(ゆび)は其(その)儘(まま)に密着(みつちやく)した。059余(あま)り慌(あは)てたと見(み)えて小指(こゆび)の先(さき)は裏表(うらおもて)に付(つ)けて仕舞(しま)つた。060之(これ)迄(まで)は真浦(まうら)に対(たい)し守彦(もりひこ)と云(い)ふ名(な)が付(つ)いて居(ゐ)たが茲(ここ)に初(はじ)めて真浦(まうら)と云(い)ふ名(な)が出来(でき)たのである。
061男(をとこ)(田吾作)『之(これ)は之(これ)は失礼(しつれい)な事(こと)を致(いた)しました、062何卒(どうぞ)赦(ゆる)して下(くだ)さいませ。063勿体(もつたい)ない、064宣伝使(せんでんし)の指(ゆび)を斬(き)るなんて……私(わたくし)は如何(どう)して此(この)罪(つみ)を贖(あがな)うたら宜(よろ)しいでせう、065神界(しんかい)に対(たい)して取返(とりかへ)しのならん不調法(ぶてうはふ)を致(いた)しました』
066と泣(な)き沈(しづ)む。
067留公(とめこう)『世界(せかい)を救(たす)ける生神(いきがみ)の宣伝使(せんでんし)様(さま)だ。068指(ゆび)の一本(いつぽん)や手(て)の半本(はんぼん)位(くらゐ)取(と)れたとて、069そんな事(こと)で弱(こた)へる様(やう)では宣伝使(せんでんし)ぢやない。070それよりも貴様(きさま)の所(とこ)の赤子(あかご)の生命(いのち)、071随分(ずゐぶん)無残(むざん)な事(こと)になつたものだのう』
072男(をとこ)(田吾作)『之(これ)だけ丹精(たんせい)を凝(こ)らして作(つく)つた芋種(いもだね)を台(だい)なしにして置(お)き乍(なが)ら、073まだ業託(ごふたく)を吐(ほざ)きやがるか。074エーもう堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒(を)がきれた、075覚悟(かくご)をせよ』
076と又(また)もや鍬(くは)を振(ふ)り翳(かざ)し留公(とめこう)に迫(せま)る。077宣伝使(せんでんし)は此(この)鍬(くは)の柄(え)を確(しか)と受止(うけと)め、
078真浦(まうら)『マアマアお待(ま)ちなさい、079短気(たんき)は損気(そんき)だ。080芋(いも)も大切(たいせつ)だが人(ひと)の生命(いのち)も大切(たいせつ)だ』
081男(をとこ)(田吾作)『朝(あさ)から晩(ばん)まで自分(じぶん)の産(う)んだ子(こ)も同然(どうぜん)に肥料(こえ)を掛(か)けたり、082草(くさ)を引(ひ)いたり、083色々(いろいろ)と世話(せわ)をして来(き)た可愛(かはい)い芋(いも)の子(こ)、084それをムザムザ踏(ふ)み潰(つぶ)されて……育(そだ)ての親(おや)が如何(どう)して黙(だま)つて居(を)れませう。085芋(いも)は芋(いも)だけの精霊(せいれい)が宿(やど)つて居(ゐ)る。086屹度(きつと)苦(くる)しんで居(を)るでせう。087可哀相(かあいさう)に……此(この)赤子(あかご)は誰(たれ)に此(この)無念(むねん)を訴(うつた)へる事(こと)が出来(でき)ませう、088私(わたくし)が怒(いか)つてやらねば此(この)赤子(あかご)は能(よ)う浮(うか)びますまい……アヽ芋(いも)の子(こ)よ、089可憐相(かはいさう)な者(もの)だが、090もう斯(か)うなつては仕方(しかた)が無(な)い、091俺(おれ)が之(これ)からお前(まへ)の冥福(めいふく)を祈(いの)つてやるから心(こころ)残(のこ)さずに幽冥界(いうめいかい)に旅立(たびだち)して安楽(あんらく)に暮(くら)してくれ、092アンアン』
093と態(わざ)と男泣(をとこな)きに泣(な)き立(た)てる。
094留公(とめこう)『アハヽヽヽ、095それだから田吾作(たごさく)、096貴様(きさま)は馬鹿(ばか)だと云(い)ふのだよ、097それ程(ほど)可愛(かはい)い芋(いも)なら大(おほ)きうなつた奴(やつ)を何故(なぜ)釜煎(かまいり)にしたり庖丁(はうちやう)にかけて喰(く)ふのだ。098そんな矛盾(ほことん)な事(こと)を云(い)ふからキ印(じるし)だと云(い)はれるのだ。099モシ宣伝使(せんでんし)さま、100ちつと理屈(りくつ)が合(あ)はぬぢやありませぬか』
101としたり顔(がほ)に云(い)ふ。
102田吾作(たごさく)『それはそうだけれど……何(なん)だか可憐相(かはいさう)で仕方(しかた)が無(な)い哩(わい)、103西(にし)も東(ひがし)も知(し)らぬ弱(よわ)い赤子(あかご)を無残(むざん)にも斯(こ)んなに虐殺(ぎやくさつ)すると云(い)ふ事(こと)があるものか、104芋(いも)は芋(いも)としての寿命(じゆみやう)がある筈(はず)だ。105秋(あき)が来(き)て蔓(つる)が枯(か)れた時(とき)は寿命(じゆみやう)の尽(つ)きた時(とき)だ、106そこで喰(く)ふのなら芋(いも)も得心(とくしん)するであらう、107折角(せつかく)お前(まへ)も生(うま)れて来(き)て不運(ふうん)な奴(やつ)だのう』
108と又(また)も涙(なみだ)含(ぐ)む。
109留公(とめこう)『オイ田吾作(たごさく)、110貴様(きさま)は人(ひと)の命(いのち)が大切(たいせつ)か、111芋(いも)の子(こ)が大切(たいせつ)か、112何方(どちら)を主(しゆ)とするのだ』
113田吾作(たごさく)『きまつた事(こと)よ、114貴様(きさま)は芋(いも)で譬(たとへ)たら良(よ)い喰(くら)ひ頃(ごろ)だ。115此(この)世(よ)に最早(もはや)用(よう)の無(な)い代物(しろもの)だから別(べつ)に惜(を)しくも無(な)ければ、116国家(こくか)の損失(そんしつ)でも無(な)い。117却(かへ)つて社会(しやくわい)の塵埃(ごもく)掃除(さうぢ)が出来(でき)た様(やう)なものだい』
118真浦(まうら)『アハヽヽヽ、119随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)い芋論(いもろん)を聞(き)かして貰(もら)ひました、120併(しか)し乍(なが)ら万物(ばんぶつ)一切(いつさい)皆(みんな)神(かみ)様(さま)の霊(れい)が宿(やど)つてゐるのだから、121貴賤(きせん)老幼(らうえう)草木(さうもく)器具(きぐ)の区別(くべつ)なくそれ相当(さうたう)の霊魂(みたま)がある。122万有(ばんいう)一切(いつさい)は総(すべ)て神(かみ)様(さま)の大切(たいせつ)なる御(おん)霊(みたま)が宿(やど)つてるから、123木(こ)の葉(は)一(いち)枚(まい)だつて粗末(そまつ)にしてはなりませぬぞや』
124田吾作(たごさく)『そら見(み)たか、125留州(とめしう)、126キ印(じるし)の阿呆(あはう)の云(い)つた事(こと)でも矢張(やつぱり)天地(てんち)の真理(しんり)に適(かな)つて居(ゐ)るのが、127ちと妙(めう)ではないか』
128 留公(とめこう)は首(くび)を傾(かたむ)け手(て)を組(く)んで青芝(あをしば)の上(うへ)に端坐(たんざ)し何事(なにごと)か頻(しき)りに考(かんが)へて居(を)る。129漸(やうや)くにして顔(かほ)を上(あ)げ、
130留公(とめこう)『ヤ、131何事(なにごと)も氷解(ひようかい)しました。132田吾作(たごさく)どの、133どうぞ怺(こら)へて呉(く)れ、134之(これ)からは決(けつ)してもう斯(こ)んな事(こと)はせないから……』
135田吾作(たごさく)『何(なん)と云(い)つても斯(か)うなつた以上(いじやう)は仕方(しかた)は無(な)い、136今後(こんご)は気(き)をつけて呉(く)れ。137芋(いも)ばつかりぢやないよ、138豆(まめ)だつて麦(むぎ)だつて皆(みな)其(その)通(とほ)りだからなア』
139留公(とめこう)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました、140ちつと心得(こころえ)ます』
141と以前(いぜん)に変(かは)つて丁寧(ていねい)に挨拶(あいさつ)する。
142真浦(まうら)『アヽ之(これ)で凡(すべ)ての解決(かいけつ)がついた、143芋(いも)の死骸(しがい)で最早(もはや)平和(へいわ)克復(こくふく)だ。144サア之(これ)からバラモン教(けう)の友彦(ともひこ)さんにお目(め)に掛(かか)つてお話(はなし)を承(うけたま)はりませうか』
145と行(ゆ)かむとするを留公(とめこう)は引(ひ)き留(とど)め、
146留公(とめこう)『モシ、147宣伝使(せんでんし)様(さま)、148一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さい、149貴方(あなた)只(ただ)一人(ひとり)でお出(い)でになつては大変(たいへん)です、150私(わたし)等(たち)は勝手(かつて)を能(よ)く覚(おぼ)えて居(ゐ)ますが、151私(わたし)の離座敷(はなれざしき)に宣伝使(せんでんし)が置(お)いてある、152そこに神(かみ)様(さま)も祀(まつ)つてあります。153然(しか)し乍(なが)ら家(いへ)の周囲(まはり)に広(ひろ)い深(ふか)い溝(みぞ)が掘(ほ)つてあつて迂濶(うつかり)跨(また)げようものなら……それこそ大変(たいへん)……生命(いのち)が無(な)くなりますぜ』
154真浦(まうら)『それは本当(ほんたう)の話(はなし)か』
155留公(とめこう)『本当(ほんたう)ですとも、156現在(げんざい)私(わたし)の家(いへ)ですもの、157何(なに)間違(まちが)つた事(こと)を云(い)ひませう。158軒下(のきした)を貸(か)して母屋(おもや)を取(と)られると云(い)ふ譬(たとへ)の通(とほ)り、159初(はじ)め乞食(こじき)の様(やう)な態(ざま)をしてやつて来(き)た友彦(ともひこ)の宣伝使(せんでんし)が、160今(いま)では大変(たいへん)な勢(いきほひ)で私(わたし)の座敷(ざしき)や本宅(ほんたく)を我物顔(わがものがほ)に振舞(ふるま)ひ、161私(わたし)は丁稚役(でつちやく)、162主客(しゆきやく)顛倒(てんたう)も之(これ)位(くらゐ)甚(はなはだ)しい事(こと)はありませぬ。163私(わたし)は初(はじ)めの頃(ころ)は実(じつ)に立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だと思(おも)つて現(うつつ)を抜(ぬ)かし、164云(い)ふが儘(まま)にして居(を)りましたが、165此(この)頃(ごろ)の宣伝使(せんでんし)の言行(げんかう)の一致(いつち)せない事(こと)、166実(じつ)にお話(はなし)になりませぬ。167けれども私(わたし)が率先(そつせん)して村中(むらぢう)の者(もの)に勧(すす)め廻(まは)つたと云(い)ふ廉(かど)があるので、168今更(いまさら)責任(せきにん)上(じやう)此(この)宣伝使(せんでんし)は喰(く)はせ者(もの)だつたと云(い)つて告白(こくはく)する訳(わけ)にもゆかず、169本当(ほんたう)に困(こま)り抜(ぬ)いて居(を)つた所(ところ)ですが、170最前(さいぜん)松鷹彦(まつたかひこ)の宅(うち)へ使(つかひ)に行(い)つた時(とき)、171奥(おく)の間(ま)に何百(なんびやく)人(にん)とも知(し)れぬ人声(ひとごゑ)で宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)えて来(き)た。172その声(こゑ)の恐(おそ)ろしさ、173実(じつ)に無限(むげん)の威力(ゐりよく)が備(そな)はつて居(ゐ)ました。174私(わたくし)はバラモン教(けう)は愛想(あいさう)がつき三五教(あななひけう)へ入信(にふしん)したいので御座(ござ)いますが、175あの様(やう)な頭(あたま)の割(わ)れる宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)はれては困(こま)るなり、176如何(どう)したら良(よ)いでせうかなア』
177真浦(まうら)『宣伝歌(せんでんか)は聞(き)けば聞(き)く程(ほど)気分(きぶん)が良(よ)くなつて来(く)るものだ。178お前(まへ)に憑依(ひようい)して居(を)る副(ふく)守護神(しゆごじん)が嫌(きら)ふのだ、179それさへ体内(たいない)より放逐(はうちく)して仕舞(しま)へば何(なん)でも無(な)いのだ。180さうしてあの小(ちひ)さい家(いへ)に百(ひやく)人(にん)も居(ゐ)る筈(はず)がない、181其(その)実(じつ)は私(わたし)一人(ひとり)より居(を)らなかつたのだ』
182留公(とめこう)『イエイエそれでも沢山(たくさん)なお声(こゑ)でした。183年寄(としより)の声(こゑ)、184若(わか)い者(もの)の声(こゑ)、185鈴(すず)の様(やう)な綺麗(きれい)な女(をんな)の声(こゑ)も聞(きこ)えましたがなア』
186真浦(まうら)『そら、187そうだらう、188沢山(たくさん)な神(かみ)様(さま)が集(あつ)まつて宣伝歌(せんでんか)を合唱(がつしやう)遊(あそ)ばす事(こと)が始終(しじう)あるからだ。189そりやお前(まへ)の神徳(しんとく)の頂(いただ)け口(ぐち)だ、190天耳通(てんじつう)の開(ひら)けかけだから安心(あんしん)して吾々(われわれ)の唱(とな)ふるお道(みち)へ這入(はい)るが宜(よ)からう』
191留公(とめこう)『そんなら私(わたし)を入信(にふしん)させて下(くだ)さいますか』
192真浦(まうら)『アヽ宜(よろ)しい宜(よろ)しい、193何卒(どうぞ)入信(にふしん)して下(くだ)さい』
194留公(とめこう)『之(これ)は有難(ありがた)い、195もう斯(か)うなる上(うへ)は百人力(ひやくにんりき)だ。196オイ田吾作(たごさく)、197お前(まへ)も仲直(なかなほ)りをした以上(いじやう)は、198俺(おれ)と同様(どうやう)に此(この)方(かた)に従(したが)つて三五教(あななひけう)を信仰(しんかう)しようぢやないか』
199田吾作(たごさく)『ウンそうだ、200さうなれば此(この)村(むら)も天下(てんか)泰平(たいへい)だ。201毎日(まいにち)日(ひ)にち血(ち)を見(み)る残酷(ざんこく)な行(ぎやう)を強圧(きやうあつ)的(てき)にさせられる心配(しんぱい)も要(い)らず、202定(さだ)めて女(をんな)子供(こども)が喜(よろこ)ぶ事(こと)だらう』
203真浦(まうら)『然(しか)し私(わし)がお前(まへ)の宅(うち)へ出張(しゆつちやう)すれば、204友彦(ともひこ)の宣伝使(せんでんし)が随分(ずゐぶん)妙(めう)な顔(かほ)をするだらうなア』
205留公(とめこう)『そりや致(いた)しませうとも、206今迄(いままで)は無鳥郷(むてうきやう)の蝙蝠(へんぷく)気取(きど)りで随分(ずゐぶん)威張(ゐば)つて居(ゐ)ましたが、207上(うへ)には上(うへ)があるから何時迄(いつまで)も世(よ)は持(も)ちきりにはなりますまい、208之(これ)が良(よ)い切(き)り替(か)へ時(どき)でせう。209サアサア世(よ)の立替(たてかへ)立直(たてなほ)しは之(これ)からだ、210天(あま)の岩戸(いはと)の開(ひら)け口(ぐち)だ』
211と雀躍(こをどり)し乍(なが)ら先(さき)に立(た)ち二人(ふたり)を伴(ともな)ひ吾(わが)家(や)を指(さ)して帰(かへ)り行(ゆ)く。
212 留公(とめこう)は矢庭(やには)に友彦(ともひこ)の割拠(かつきよ)せる離座敷(はなれざしき)に躍(をど)り入(い)り、
213留公(とめこう)『サア友彦(ともひこ)、214今日(けふ)から一寸(ちよつと)都合(つがふ)があるので此(この)家(いへ)を開(あ)けて貰(もら)ひ度(た)いのだ。215俺(わし)も今迄(いままで)はバラモン教(けう)のお世話係(せわがかり)をやつて来(き)たが、216お前(まへ)さんから除名(ぢよめい)されてからは何時迄(いつまで)も此(この)家(いへ)を貸(か)す訳(わけ)にはゆかない。217之(これ)から三五教(あななひけう)の宣伝(せんでん)をしようとするのだから、218未練(みれん)残(のこ)さずトツトと帰(かへ)つてお呉(く)れ』
219 友彦(ともひこ)は怪訝(けげん)な顔(かほ)して、
220友彦(ともひこ)『オイ留公(とめこう)、221そりや何(なに)を云(い)ふのだ。222貴様(きさま)、223初(はじ)めに何(なん)と云(い)つた、224……私(わたし)の家(いへ)はお粗末(そまつ)乍(なが)ら一切(いつさい)神(かみ)様(さま)にお供(そな)へします。225……と大勢(おほぜい)の前(まへ)に立派(りつぱ)に誓(ちか)つたぢやないか』
226留公(とめこう)『そりや誓(ちか)ひました、227否(いや)違(ちが)ひました。228然(しか)し神(かみ)様(さま)に上(あ)げるも上(あ)げぬもない、229世界中(せかいぢう)皆(みな)神(かみ)様(さま)のものだ。230仮令(たとへ)上(あ)げると云(い)つた所(ところ)でお前(まへ)に上(あ)げたのぢやない、231天地(てんち)の元(もと)の大神(おほかみ)様(さま)に奉(たてまつ)つたものだから、232何卒(どうぞ)出(で)て呉(く)れやがれ』
233友彦(ともひこ)『左様(さやう)な不都合(ふつがふ)な事(こと)を申(まを)すと神罰(しんばつ)は立所(たちどころ)に当(あた)るぞ、234それでも宜(よ)いか、235此(この)友彦(ともひこ)だつて天地(てんち)の大神(おほかみ)様(さま)、236殊(こと)に大国別(おほくにわけ)の神(かみ)様(さま)の生宮(いきみや)だ、237神(かみ)様(さま)の生宮(いきみや)が神(かみ)様(さま)の家(いへ)に居(を)るのだ、238貴様(きさま)の様(やう)な四足(よつあし)の容器(いれもの)とは違(ちが)ふぞ、239エヽ穢(けが)らはしい、240トツト出(で)てゆけ。241左様(さやう)な無体(むたい)な事(こと)を申(まを)すと神(かみ)様(さま)は兎(と)も角(かく)として村中(むらぢう)の信者(しんじや)が承知(しようち)致(いた)すまいぞ』
242と信者(しんじや)をバツクに落日(らくじつ)の孤城(こじやう)を固守(こしゆ)せむとする。
243留公(とめこう)『何(なん)といつても、244もう駄目(だめ)だよ。245零落(おち)ぶれて袖(そで)に涙(なみだ)のかかる時(とき)、246人(ひと)の心(こころ)の奥(おく)ぞ知(し)らるると云(い)つてな、247除名(ぢよめい)された俺(おれ)は村中(むらぢう)の除外者(はねのけもの)になり、248何処(どこ)へ頼(たよ)る所(ところ)もなし、249自暴(じばう)自棄(じき)となつて田吾作(たごさく)の芋畑(いもばたけ)に駆込(かけこ)み、250事(こと)の起(おこ)りは此奴(こいつ)ぢやと芋(いも)の赤子(あかご)を片端(かたつぱし)から踏(ふ)み殺(ころ)す最中(さいちう)に、251一人(ひとり)で百(ひやく)人(にん)の声(こゑ)を出(だ)すと云(い)ふ立派(りつぱ)な三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が其処(そこ)に忽然(こつぜん)として現(あら)はれ給(たま)ひ、252此(この)留公(とめこう)の頭(あたま)を、253膝(ひざ)に上(のぼ)つた猫(ねこ)でも撫(な)でる様(やう)な調子(てうし)で可愛(かはい)がり、254一(いち)の乾児(こぶん)にして下(くだ)さつたのだ。255サアサア早(はや)く出立(しゆつたつ)致(いた)さぬと表(おもて)に三五教(あななひけう)の御(おん)大将(たいしやう)が見張(みは)つて御座(ござ)るぞ』
256友彦(ともひこ)『何(なに)、257三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が見張(みは)つて居(ゐ)るとな、258大方(おほかた)武志(たけし)の宮(みや)の神主(かむぬし)の宅(うち)に去年(きよねん)の冬(ふゆ)から潜伏(せんぷく)して居(ゐ)た守彦(もりひこ)と云(い)ふ弱腰(よわごし)宣伝使(せんでんし)だらう。259バラモン教(けう)の友彦(ともひこ)が威勢(ゐせい)に恐(おそ)れて今(いま)まで蟄伏(ちつぷく)して居(ゐ)た蛙(かわづ)の様(やう)な代物(しろもの)だ、260そんな者(もの)が仮令(たとへ)千匹(せんびき)万匹(まんびき)やつて来(き)たとて驚(おどろ)くものかい。261万々一(まんまんいち)此(この)場(ば)へ進(すす)んで来(こ)ようものなら、262それこそ神界(しんかい)の御(お)仕組(しぐみ)の陥穽(おとしあな)に真逆(まつさか)様(さま)に顛倒(てんたう)し生命(いのち)を捨(す)つるは目(ま)の当(あた)りだ。263心配(しんぱい)致(いた)すな、264貴様(きさま)も今日(けふ)限(かぎ)り除名(ぢよめい)処分(しよぶん)を取消(とりけ)すから安心(あんしん)せい』
265留公(とめこう)『何(なに)を吐(ほざ)きやがるのだ、266取消(とりけし)も何(なに)もあつたものかい、267三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)は俺(おれ)の詳細(しやうさい)なる報告(はうこく)に依(よ)つて陥穽(おとしあな)の箇所(かしよ)は全部(ぜんぶ)承知(しようち)して御座(ござ)るのだ。268さうして俺(おれ)は案内役(あんないやく)だから滅多(めつた)に別条(べつでう)は無(な)い、269吾(わが)身(み)の一大事(いちだいじ)が迫(せま)つて来(き)て居(を)るのにお前(まへ)、270人(ひと)の疝気(せんき)を頭痛(づつう)に病(や)む様(やう)な馬鹿(ばか)な真似(まね)はなさいますなや。271大(おほ)きに御(ご)心配(しんぱい)……有難(ありがた)う』
272と長(なが)い舌(した)を出(だ)し、273両手(りやうて)を鳶(とんび)が羽翼(はね)を拡(ひろ)げた様(やう)な風(ふう)にして二三遍(にさんぺん)虚空(こくう)を掻(か)き、274尻(しり)をニユツと突出(つきだ)して舞(ま)うて見(み)せる。
275 友彦(ともひこ)は祭壇(さいだん)の前(まへ)に額(ぬかづ)き祈願(きぐわん)の詞(ことば)を奏上(そうじやう)し、276言霊戦(ことたません)を以(もつ)て真浦(まうら)の宣伝(せんでん)を撃退(げきたい)せむと、277声(こゑ)張(は)り上(あ)げて謡(うた)ひ初(はじ)めたり。
278友彦『常世(とこよ)の国(くに)を守(まも)ります
279大国彦(おほくにひこ)の大神(おほかみ)の
280珍(うづ)の御裔(みすゑ)と現(あ)れませる
281大国別(おほくにわけ)の大神(おほかみ)は
282仁慈(じんじ)無限(むげん)の救世主(すくひぬし)
283常世(とこよ)の国(くに)より遥々(はるばる)と
284イホの国(くに)迄(まで)渡(わた)りまし
285霊主(れいしゆ)体従(たいじう)の御教(みをしへ)を
286開(ひら)かむ為(ため)に霊幸(たまちは)ふ
287神(かみ)に等(ひと)しき鬼雲(おにくも)の
288彦(ひこ)の命(みこと)や鬼熊別(おにくまわけ)や
289其(その)他(た)数多(あまた)の神々(かみがみ)を
290豊葦原(とよあしはら)の中津国(なかつくに)
291メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)
292果実(このみ)豊(ゆたか)な楽園(らくゑん)に
293本拠(ほんきよ)を定(さだ)めフサの国(くに)
294ツキの国(くに)まで教線(けうせん)を
295拡(ひろ)め給(たま)ひて自転倒(おのころ)の
296島(しま)に又(また)もや下(くだ)りまし
297大江(おほえ)の山(やま)を中心(ちうしん)に
298神(かみ)の光(ひかり)を三岳山(みたけやま)
299鬼(おに)をも拉(ひし)ぐ鬼(おに)ケ城(じやう)
300伊吹(いぶき)の山(やま)まで開(ひら)きまし
301世人(よびと)を救(すく)ひ助(たす)けむと
302心(こころ)を尽(つく)し魂(たま)を錬(ね)り
303此(この)世(よ)を乱(みだ)す悪神(あくがみ)の
304神(かむ)素盞嗚(すさのを)の枉津見(まがつみ)が
305下(した)に仕(つか)ふる悦子姫(よしこひめ)
306鬼武彦(おにたけひこ)や高倉(たかくら)や
307旭(あさひ)、月日(つきひ)の白狐(びやくこ)等(ら)が
308悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の振舞(ふるまひ)に
309時(とき)を得(え)ずして本国(ほんごく)へ
310一先(ひとま)づ退却(たいきやく)し給(たま)へど
311必(かなら)ず捲土(けんど)重来(ぢうらい)の
312時(とき)こそ今(いま)に近(ちか)づきて
313コーカス山(さん)やウブスナの
314山(やま)に建(た)つたる斎苑(いそ)館(やかた)
315黄金山(わうごんざん)はまだ愚(おろか)
316自転倒(おのころ)島(じま)の中心地(ちうしんち)
317世継王(よつわう)の山(やま)の辺傍(かたほとり)
318錦(にしき)の宮(みや)を忽(たちま)ちに
319手(て)の掌(ひら)翻(かへ)す其(その)如(ごと)く
320土崩(どほう)瓦解(ぐわかい)は目(ま)の当(あた)り
321先(さき)の見(み)えたる三五(あななひ)の
322神(かみ)の教(をしへ)は風前(ふうぜん)の
323灯火(とうくわ)の如(ごと)く日(ひ)に月(つき)に
324危険(きけん)益々(ますます)迫(せま)り行(ゆ)く
325実(じつ)に憐(あは)れな其(その)教義(をしへ)
326それをも知(し)らぬ守彦(もりひこ)が
327天(あめ)の使(つかひ)と名乗(なの)りつつ
328図々(づうづう)しくもバラモンの
329神(かみ)の使(つかひ)の友彦(ともひこ)が
330館(やかた)を指(さ)して来(きた)るとは
331飛(と)んで火(ひ)に入(い)る夏(なつ)の虫(むし)
332それに従(したが)ふ留公(とめこう)や
333田吾作(たごさく)野郎(やらう)の蚯蚓(みみず)きり
334蛙(かはづ)もきれぬ分際(ぶんざい)で
335神徳(しんとく)高(たか)き友彦(ともひこ)に
336刃向(はむか)ひ来(く)るとは何事(なにごと)ぞ
337身(み)の程(ほど)知(し)らぬも程(ほど)がある
338天(てん)が地(ち)となり地(ち)が天(てん)と
339変(かは)る此(こ)の世(よ)が来(く)るとても
340三五教(あななひけう)に迷(まよ)ふなよ
341霊主(れいしゆ)体従(たいじう)の此(この)教義(をしへ)
342誠(まこと)一(ひと)つの神界(しんかい)の
343深(ふか)き経綸(しぐみ)は三五(あななひ)の
344浅(あさ)き教(をしへ)ぢや分(わか)らない
345飯守彦(めしもりひこ)の宣伝使(せんでんし)
346留公(とめこう)田吾作(たごさく)諸共(もろとも)に
347今(いま)から心(こころ)を立直(たてなほ)し
348バラモン教(けう)の神徳(しんとく)を
349受(う)けて身魂(みたま)を研(みが)き上(あ)げ
350神世(かみよ)を来(きた)す神業(しんげふ)に
351心(こころ)を尽(つく)し身(み)を尽(つく)し
352天地(てんち)に代(かは)る功績(いさをし)を
353千代(ちよ)万代(よろづよ)に樹(た)てよかし
354これ友彦(ともひこ)が詐(いつは)らぬ
355誠(まこと)一(ひと)つの言葉(ことば)ぞや
356言霊(ことたま)幸(さち)はふ世(よ)の中(なか)に
357善(ぜん)ぢや悪(あく)ぢやと何(なん)の事(こと)
358朝日(あさひ)が照(て)るとか曇(くも)るとか
359月(つき)が盈(み)つとか虧(か)くるとか
360大地(だいち)が泥(どろ)に沈(しづ)むとか
361世人(よびと)欺(あざむ)くコケ嚇(おど)し
362そんな馬鹿(ばか)げた言霊(ことたま)を
363之(これ)だけ開(ひら)けた世(よ)の中(なか)の
364人(ひと)が如何(どう)して聞(き)くものか
365馬鹿(ばか)を尽(つく)すも程(ほど)がある
366一(いち)時(じ)も早(はや)く目(め)を覚(さま)せ
367神(かみ)の心(こころ)は皆(みな)一(ひと)つ
368世界(せかい)の氏子(うぢこ)を助(たす)けむと
369大国別(おほくにわけ)の御言(みこと)もて
370憂瀬(うきせ)に沈(しづ)む民草(たみくさ)を
371救(すく)はせ給(たま)ふ有難(ありがた)さ
372一度(いちど)は喰(く)つて味(あぢ)はへよ
373喰(く)はず嫌(ぎら)ひは仕様(しやう)がない
374苦(にが)けりや吐(は)き出(だ)せ甘(うま)ければ
375遠慮(ゑんりよ)は要(い)らぬドシドシと
376心(こころ)ゆく迄(まで)喰(く)ふがよい
377善(ぜん)の中(なか)にも悪(あく)がある
378悪(あく)の中(なか)にも善(ぜん)がある
379三五教(あななひけう)は表向(おもてむき)
380善(ぜん)と雖(いへど)も内実(ないじつ)は
381悪鬼(あくき)悪魔(あくま)の囈言(たはごと)ぞ
382バラモン教(けう)は表(おもて)から
383眺(なが)めて見(み)ても善(ぜん)である
384裏(うら)から見(み)ても亦(また)善(ぜん)ぢや
385其(その)内実(ないじつ)は殊更(ことさら)に
386善一筋(ぜんひとすぢ)で固(かた)めたる
387昔(むかし)の元(もと)の神(かみ)の道(みち)
388斯(こ)んな結構(けつこう)な御教(みをしへ)を
389調(しら)べもせずに一口(ひとくち)に
390悪(あく)の雅号(ががう)で葬(はうむ)りて
391此(この)世(よ)を潰(つぶ)さうと企(たく)む奴(やつ)
392憎(にく)さも憎(にく)い三五教(あななひけう)
393一(いち)時(じ)も早(はや)く留公(とめこう)よ
394飯守彦(めしもりひこ)と云(い)ふ奴(やつ)の
395甘(うま)い言葉(ことば)にのせられて
396お尻(しり)の毛(け)迄(まで)抜(ぬ)かれなよ
397憐(あは)れみ深(ぶか)い友彦(ともひこ)が
398真心(まごころ)籠(こ)めて気(き)をつける
399大国別(おほくにわけ)の神(かみ)様(さま)よ
400彼(かれ)等(ら)が心(こころ)に生命(せいめい)を
401与(あた)えて再(ふたた)びバラモンの
402神(かみ)の教(をしへ)に救(すく)ひませ
403あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
404御霊(みたま)幸(さち)はひ坐(まし)ませよ
405あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
406御霊(みたま)幸(さち)はひ坐(まし)ませよ』
407と口(くち)から出任(でまか)せに汗(あせ)をブルブル流(なが)し乍(なが)ら呶鳴(どな)り立(た)てて居(を)る。408留公(とめこう)は此(この)歌(うた)を聞(き)いて躍起(やくき)となり、
409留公『オイ、410バラモン教(けう)の御(おん)大将(たいしやう)、411随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)な言霊(ことたま)だのう。412雲烟(うんえん)模糊(もこ)として捕捉(ほそく)すべからず、413支離(しり)滅裂(めつれつ)、414聞(き)くに堪(た)へざる亡国(ばうこく)の悲歌(ひか)、415そんな事(こと)を囀(さへづ)ると天地(てんち)が暗(くら)くなつて仕舞(しま)ふ哩(わい)。416サア之(これ)から此(この)留公(とめこう)が十一七(じふいちしち)番(ばん)の宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)つてやらう、417耳(みみ)を浚(さら)へて謹聴(きんちやう)せい』
418と長々(ながなが)と前置(まへおき)してエヘンと一(ひと)つ咳払(せきばら)ひ、419鷹(たか)が翼(つばさ)を拡(ひろ)げた様(やう)な手付(てつき)で腰(こし)を屈(かが)め足(あし)を踏(ふ)ん張(ば)り、420右(みぎ)や左(ひだり)へ身体(からだ)を揺(ゆす)ぶり乍(なが)ら奇声(きせい)怪音(くわいおん)を放(はな)つて揺(うた)ひ出(だ)した。
421留公『此処(ここ)は名(な)に負(お)ふ秘密(ひみつ)郷(きやう)
422四面(しめん)深山(みやま)に包(つつ)まれて
423中(なか)を流(なが)るる宇都(うづ)の川(かは)
424流(なが)れも清(きよ)く澄(す)み渡(わた)る
425武志(たけし)の宮(みや)の御(おん)住家(すみか)
426大江(おほえ)の山(やま)を破壊(ばら)されて
427逃(に)げて出(で)て来(き)たバラモンの
428言霊(ことたま)濁(にご)るども彦(ひこ)が
429鳥(とり)なき里(さと)の蝙蝠(かうもり)か
430蛇(へび)なき里(さと)の青蛙(あをかはづ)
431威張(ゐばり)散(ち)らして村人(むらびと)を
432何(なん)ぢやかんぢやとチヨロまかし
433霊主(れいしゆ)体従(たいじう)を標榜(へうぼう)し
434利己(りこ)一片(いつぺん)の強欲心(がうよくしん)
435最極端(さいきよくたん)に発揮(はつき)して
436宇都山(うづやま)村(むら)の婆(ばば)、嬶(かか)を
437有難涙(ありがたなみだ)に咽(むせ)ばせつ
438遂(つひ)に進(すす)んで吾々(われわれ)も
439慣用(くわんよう)手段(しゆだん)の口(くち)の先(さき)
440一寸(ちよつと)うまうま乗(の)つて見(み)た
441さはさり乍(なが)らつくづくと
442胸(むね)に手(て)を当(あ)て真夜中(まよなか)に
443臥(ふ)せりもやらず窺(うかが)へば
444表面(うはべ)を包(つつ)む金鍍金(きんメツキ)
445愈(いよいよ)色(いろ)は剥(は)げかけた
446時(とき)しもあれや三五(あななひ)の
447誠(まこと)一(ひと)つの宣伝使(せんでんし)
448天(あめ)の使(つかひ)の守彦(もりひこ)が
449雲路(くもぢ)を分(わ)けて下(くだ)りまし
450武志(たけし)の宮(みや)の御(おん)前(まへ)に
451現(あら)はれました雪(ゆき)の道(みち)
452雪(ゆき)より清(きよ)い神心(かみごころ)
453松鷹彦(まつたかひこ)の住(す)む家(いへ)に
454去年(きよねん)の冬(ふゆ)から出(い)でまして
455世界(せかい)の立替(たてかへ)立直(たてなほ)し
456天地(あめつち)百(もも)の神(かみ)等(たち)を
457宇都(うづ)の川辺(かはべ)に呼(よ)び集(あつ)め
458神徳(しんとく)茲(ここ)に備(そな)はつて
459バラモン教(けう)の枉神(まがかみ)を
460言向(ことむ)け和(やは)し如何(どう)しても
461往生(わうじやう)致(いた)さな是非(ぜひ)はない
462神(かみ)の定(さだ)めの根(ね)の国(くに)や
463も一(ひと)つ違(ちが)うたら底(そこ)の国(くに)
464万劫(まんごふ)末代(まつだい)上(あが)れない
465根底(ねそこ)の底(そこ)のまだ底(そこ)の
466真黒暗(まつくらやみ)のドン底(ぞこ)へ
467落(おと)してやらうかこりや如何(どう)ぢや
468此(この)世(よ)でさへも限(き)りがある
469早(はや)く心(こころ)をきり替(か)へて
470瓦落多(ぐわらくた)教(けう)に暇(ひま)呉(く)れて
471誠(まこと)の神(かみ)の開(ひら)きたる
472三五教(あななひけう)に帰順(きじゆん)せよ
473俺(おれ)も長(なが)らく友彦(ともひこ)を
474師匠(ししやう)と仰(あふ)いで来(き)た誼(よしみ)
475別(わか)れに際(さい)して親切(しんせつ)に
476誠心(まことごころ)で気(き)をつける
477気(き)をつけられた其(その)中(うち)に
478聞(き)かねば後(あと)は知(し)らぬぞよ
479神(かみ)の心(こころ)を取(と)り違(ちが)へ
480留公(とめこう)さまの真心(まごころ)を
481無(む)にするならばするがよい
482皆(みんな)お前(まへ)の身(み)の上(うへ)に
483かかつて来(きた)ること許(ばか)り
484俺(おれ)はもう早(は)や三五(あななひ)の
485神(かみ)の教(をしへ)に帰順(きじゆん)した
486バラモン教(けう)に用(よう)は無(な)い
487とは言(い)ふものの人(ひと)は皆(みな)
488同(おな)じ御神(みかみ)の分霊(わけみたま)
489世界(せかい)同胞(どうはう)の誼(よしみ)もて
490一度(いちど)は忠告(ちうこく)仕(つかまつ)る
491早(はや)く改心(かいしん)して呉(く)れよ
492決(けつ)して俺(おれ)に損得(そんとく)の
493一(ひと)つも関(かか)はる事(こと)ぢやない
494みんなお前(まへ)が可愛(かはい)から
495お前(まへ)が改心(かいしん)するなれば
496宇都山(うづやま)村(むら)の神村(かみむら)も
497天下(てんか)泰平(たいへい)無事(ぶじ)安穏(あんをん)
498五穀(ごこく)成就(じやうじゆ)目(ま)のあたり
499改心(かいしん)せなけりや是非(ぜひ)も無(な)い
500留(とめ)の腕(うで)には骨(ほね)がある
501天地(てんち)の神(かみ)になり代(かは)り
502貴様(きさま)の雁首(がんくび)引(ひ)き抜(ぬ)こか
503眼玉(めだま)を抜(ぬ)こか舌(した)抜(ぬ)こか
504地獄(ぢごく)の鬼(おに)ぢやなけれども
505止(や)むに止(や)まれぬ大和魂(やまとだま)
506とめてとまらぬ留公(とめこう)が
507思(おも)ひ詰(つ)めたる善(ぜん)の道(みち)
508道(みち)に迷(まよ)うた里人(さとびと)を
509助(たす)けにやならぬ此(この)場合(ばあひ)
510先(ま)づ第一(だいいち)に友彦(ともひこ)が
511改心(かいしん)すれば三五(あななひ)の
512神(かみ)の司(つかさ)と手(て)を引(ひ)いて
513元(もと)は一(ひと)つの神(かみ)の道(みち)
514腹(はら)を合(あは)して仲好(なかよ)くし
515お道(みち)を開(ひら)く気(き)はないか
516早(はや)く薫(かんば)しい返事(へんじ)せよ
517返事(へんじ)がなければ是非(ぜひ)が無(な)い
518芋(いも)の赤子(あかご)を潰(つぶ)す様(やう)に
519片(かた)つ端(ぱし)から踏(ふ)みにじり
520鬼(おに)の餌食(ゑじき)にしてやろか
521サアサア早(はや)うサア早(はや)う
522お返事(へんじ)なされよ三五(あななひ)の
523誠(まこと)一(ひと)つの宣伝使(せんでんし)
524言霊戦(ことたません)を開(ひら)いたら
525とても敵(かな)はぬ尻(しり)に帆(ほ)を
526掛(か)けて走(はし)らにやなるまいぞ
527そんな見(み)つとも無(な)い事(こと)を
528するより早(はや)く我(が)を折(を)つて
529改心(かいしん)なされ改心(かいしん)を
530すれば忽(たちま)ち其(その)日(ひ)から
531喜(よろこ)び勇(いさ)んで神界(しんかい)の
532御用(ごよう)が屹度(きつと)出来(でき)ますぞ
533三五教(あななひけう)が善(ぜん)なるか
534又(また)悪(あく)なるか俺(おれ)や知(し)らぬ
535俺(おれ)の感(かん)じた動機(どうき)こそ
536不言(ふげん)実行(じつかう)の誠(まこと)のみ
537バラモン教(けう)は善(ぜん)の道(みち)
538善(ぜん)ぢや善(ぜん)ぢやと謡(うた)へども
539言心行(げんしんかう)が一致(いつち)せぬ
540一致(いつち)を欠(か)いだ御教(みをしへ)は
541半善(はんぜん)半悪(はんあく)雑種教(ざつしゆけう)
542斯(こ)んな教(をしへ)が世(よ)の中(なか)に
543若(も)しも拡(ひろ)まるものならば
544世界(せかい)の人(ひと)は悉(ことごと)く
545みんな不具者(かたわ)になつて仕舞(しま)ふ
546生血(いきち)に飢(う)ゑたる枉神(まがかみ)の
547醜(しこ)の企(たく)みと知(し)らないか
548お前(まへ)も天地(てんち)の御徳(みとく)にて
549生(うま)れ出(い)でたる神(かみ)の宮(みや)
550悪魔(あくま)の巣(すく)ふ破(やぶ)れ屋(や)と
551なつて天地(てんち)の神々(かみがみ)に
552如何(どう)して言訳(いひわけ)立(た)つものか
553早(はや)く改心(かいしん)してお呉(く)れ
554留公(とめこう)さまが一生(いつしやう)の
555誠(まこと)尽(つく)しのお願(ねがひ)ぢや
556之(これ)程(ほど)誠(まこと)で頼(たの)むのに
557首(くび)を左右(さいう)に振(ふ)るならば
558もう是非(ぜひ)なしと諦(あきら)めて
559直接(ちよくせつ)行動(かうどう)にとりかかる
560返答(へんたふ)聞(き)かせ友彦(ともひこ)よ
561朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
562月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
563仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
564お前(まへ)一人(ひとり)は如何(どう)しても
565改心(かいしん)させねば措(お)かないぞ
566あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
567御霊(みたま)幸(さち)はひ坐(ま)しまして
568頑固(ぐわんこ)一途(いちづ)の友彦(ともひこ)が
569心(こころ)を照(てら)させ給(たま)へかし
570身魂(みたま)を光(ひか)らせ給(たま)へかし』
571と敵(てき)やら味方(みかた)やら訳(わけ)の分(わか)らぬ歌(うた)を謡(うた)ひ首(くび)をすくめ、572糞垂(ばばた)れ腰(ごし)になつて、573左右(さいう)の手(て)を胸(むね)の四辺(あたり)にかまきりがすくんだ様(やう)な手付(てつき)し、574ピリピリ慄(ふる)ひ乍(なが)ら左右(さいう)の足(あし)を一所(いつしよ)にキチンと合(あは)せ待(ま)つて居(を)る。575その可笑(をか)しさに友彦(ともひこ)も、576跟(つ)いて来(き)た田吾作(たごさく)も、577思(おも)はず声(こゑ)を上(あ)げて笑(わら)ひ転(こ)けたり。
578(大正一一・五・一二 旧四・一六 北村隆光録)
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