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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第20巻(未の巻)
序
凡例
総説歌
第1篇 宇都山郷
第1章 武志の宮
第2章 赤児の誤
第3章 山河不尽
第4章 六六六
第2篇 運命の綱
第5章 親不知
第6章 梅花の痣
第7章 再生の歓
第8章 心の鬼
第3篇 三国ケ嶽
第9章 童子教
第10章 山中の怪
第11章 鬼婆
第12章 如意宝珠
霊の礎(六)
霊の礎(七)
余白歌
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第20巻(未の巻)
> 第3篇 三国ケ嶽 > 第11章 鬼婆
<<< 山中の怪
(B)
(N)
如意宝珠 >>>
第一一章
鬼婆
(
おにばば
)
〔六七三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻
篇:
第3篇 三国ケ嶽
よみ(新仮名遣い):
みくにがだけ
章:
第11章 鬼婆
よみ(新仮名遣い):
おにばば
通し章番号:
673
口述日:
1922(大正11)年05月14日(旧04月18日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年3月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
夜が明けて三人が登っていくと、大岩窟と、その前に三四十軒の萱葺きの家が建っているのが見えた。
田吾作はさっそくほらを吹き始めるが、宗彦がたしなめた。この部落の人間は、岩窟に居を構えるバラモン教の蜈蚣姫が毒茶を飲ませて、話ができないようにしてしまっていた。
田吾作は、宗彦に村人の調査を任されるが、みな言葉が話せず、アアアと言うのみであった。三人が腰を下ろしていると、赤子を抱いた女たち数十人を従えた、容色の勝れた女が現れ、アアアといいながら北の谷間へ三人を招く。
この女は、玉照姫の生母のお玉であった。蜈蚣姫の手下にかどわかされて、毒茶を飲まされてこの山村に住まわされていたのであった。三人はお玉の顔を知らなかったが、後をついていった。
そこは、蜈蚣姫が拠点としている岩窟の奥であった。そこには鬼婆となった蜈蚣姫がいた。蜈蚣姫は三五教に対するバラモン教の優位をしきりに説く。三人は、蜈蚣姫が勧める毒茶を知らずに飲んでしまい、たちまち言語を失い、動けなくなってしまった。
蜈蚣姫はこのままバラモン教の修行をさせてやるのだと言って悦に入り、八岐大蛇に勝利を報告している。
そこへ、岩窟の入口に宣伝歌を歌いながらやってくる一人の男があった。また岩窟の奥からは、宣伝歌を歌う女の声が聞こえてきた。宣伝歌が響くと、三人はにわかに動き話すことができるようになった。蜈蚣姫は逆に身体がすくんでしまった。
入口に現れた男は留公だった。また、お玉の方は話せるようになっていたのだが、蜈蚣姫にそれを隠して、蜈蚣姫が奪った黄金の玉のありかを密かに探っていたのであった。
一行は、黄金の玉を取り返すと、硬直している蜈蚣姫をその場に置いて、宣伝歌を歌いながら山を下り、聖地に向かって戻っていった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-04-28 18:22:20
OBC :
rm2011
愛善世界社版:
244頁
八幡書店版:
第4輯 239頁
修補版:
校定版:
253頁
普及版:
110頁
初版:
ページ備考:
001
夜
(
よ
)
は
漸
(
やうや
)
くに
明
(
あ
)
け
離
(
はな
)
れ、
002
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
に
囀
(
さへづ
)
る
諸鳥
(
もろとり
)
の
声
(
こゑ
)
に
送
(
おく
)
られて、
003
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
足
(
あし
)
に
任
(
まか
)
せて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
004
大岩窟
(
だいがんくつ
)
を
背景
(
はいけい
)
に
茅葺
(
かやぶ
)
き
屋根
(
やね
)
の
三四十
(
さんしじふ
)
、
005
軒
(
のき
)
を
並
(
なら
)
べて
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
006
田吾作
(
たごさく
)
『サア、
007
とうとう
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
の
大都会
(
だいとくわい
)
が
見
(
み
)
えて
来
(
き
)
た。
008
戸数
(
こすう
)
無慮
(
むりよ
)
三十
(
さんじふ
)
余
(
よ
)
万
(
まん
)
、
009
人口
(
じんこう
)
殆
(
ほとん
)
ど
嘘
(
うそ
)
八百万
(
はつぴやくまん
)
と
云
(
い
)
ふ、
010
一大
(
いちだい
)
都会
(
とくわい
)
だ。
011
大分
(
だいぶん
)
に
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
足
(
あし
)
が
変
(
へん
)
になつたから、
012
定
(
さだ
)
めし
都会
(
とくわい
)
には
高架
(
かうか
)
鉄道
(
てつだう
)
もあるだらうし、
013
自動車
(
じどうしや
)
、
014
電車
(
でんしや
)
の
設備
(
せつび
)
も
完全
(
くわんぜん
)
に
出来
(
でき
)
て
居
(
を
)
るだらう、
015
一
(
ひと
)
つ
乗
(
の
)
つて
見
(
み
)
ようかなア』
016
原彦
(
はらひこ
)
、
017
田吾作
(
たごさく
)
の
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆす
)
り、
018
原彦
(
はらひこ
)
『オイ、
019
田吾作
(
たごさく
)
さま、
020
これからが
肝腎
(
かんじん
)
だ、
021
今
(
いま
)
から
呆
(
はう
)
けてどうするのだ、
022
確
(
しつか
)
りせぬかいな。
023
片方
(
かたはう
)
は
岩窟
(
がんくつ
)
にたてかけた
藁小屋
(
わらごや
)
が
三四十
(
さんしじふ
)
並
(
なら
)
んで
居
(
を
)
るだけぢやないか、
024
そんな
狂気
(
きやうき
)
じみた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れると
俺
(
おれ
)
も
淋
(
さび
)
しうなつて
来
(
き
)
た』
025
田吾作
(
たごさく
)
『アハヽヽヽ、
026
此処
(
こいつ
)
は
余
(
よ
)
つ
程
(
ぽど
)
馬鹿
(
ばか
)
だなア、
027
一寸
(
ちよつと
)
景気
(
けいき
)
をつけるために、
028
誇大
(
こだい
)
的
(
てき
)
に
広告
(
くわうこく
)
して
見
(
み
)
たのだ。
029
蛇喰
(
へびく
)
ひや
蛙喰
(
かはづくら
)
ひの
半獣
(
はんじう
)
半鬼
(
はんき
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
だ。
030
これからもう
馬鹿口
(
ばかぐち
)
は
慎
(
つつし
)
んで
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
にかからう』
031
宗彦
(
むねひこ
)
『お
前
(
まへ
)
たち
二人
(
ふたり
)
はいよいよ
戦場
(
せんぢやう
)
に
向
(
むか
)
つたのだから
確
(
しつか
)
りしてくれないと
困
(
こま
)
るよ。
032
又
(
また
)
決
(
けつ
)
して
乱暴
(
らんばう
)
な
事
(
こと
)
はしてはならないから、
033
慎
(
つつし
)
んでくれ。
034
頭
(
あたま
)
の
三
(
み
)
つや
四
(
よ
)
つ
撲
(
なぐ
)
られた
位
(
くらゐ
)
で、
035
目
(
め
)
を
釣
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げたり、
036
口
(
くち
)
を
歪
(
ゆが
)
めるやうでは、
037
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
御用
(
ごよう
)
は
勤
(
つと
)
まらぬから、
038
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
忍
(
にん
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
を
心
(
こころ
)
に
離
(
はな
)
さぬやうにするのだ。
039
忍
(
にん
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
は
刃
(
やいば
)
の
下
(
した
)
に
心
(
こころ
)
だ。
040
敵
(
てき
)
の
刃
(
やいば
)
の
下
(
した
)
も
誠
(
まこと
)
の
心
(
こころ
)
で
潜
(
くぐ
)
つて
敵
(
てき
)
を
改心
(
かいしん
)
させるのだから、
041
くれぐれも
心得
(
こころえ
)
てくれ』
042
田吾
(
たご
)
、
043
原
(
はら
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
小声
(
こごゑ
)
で『ハイハイ』と
答
(
こた
)
へながら
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
044
二百
(
にひやく
)
人
(
にん
)
許
(
ばか
)
りの
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
が
一
(
ひと
)
つの
部落
(
ぶらく
)
を
作
(
つく
)
つて
居
(
を
)
る。
045
さうして
此処
(
ここ
)
の
人間
(
にんげん
)
はどれもこれも
皆
(
みな
)
唖
(
おし
)
ばかりになつて
居
(
を
)
る。
046
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
が
計略
(
けいりやく
)
で
篏口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
くかはりに、
047
皆
(
みな
)
茶
(
ちや
)
に
毒
(
どく
)
を
入
(
い
)
れて
呑
(
の
)
まされたものばかりだ。
048
恰度
(
ちやうど
)
唖
(
おし
)
の
国
(
くに
)
へ
来
(
き
)
たも
同様
(
どうやう
)
である。
049
田吾作
(
たごさく
)
は
些
(
すこ
)
しも
此
(
この
)
事情
(
じじやう
)
を
知
(
し
)
らず、
050
一
(
ひと
)
つの
家
(
いへ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
051
田吾作
(
たごさく
)
『
一寸
(
ちよつと
)
、
052
物
(
もの
)
を
尋
(
たづ
)
ねますが、
053
婆
(
ばば
)
アの
館
(
やかた
)
はどう
往
(
い
)
つたら
宜敷
(
よろし
)
いかな』
054
中
(
なか
)
より
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
男女
(
なんによ
)
、
055
ダラダラと
戸口
(
とぐち
)
に
走
(
はし
)
り
出
(
い
)
で、
056
不思議
(
ふしぎ
)
な
顔
(
かほ
)
をして
何
(
いづ
)
れも
口
(
くち
)
をポカンと
開
(
あ
)
けて、
057
アヽヽヽと
唖
(
おし
)
のやうに
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
058
田吾作
(
たごさく
)
は
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げて、
059
田吾作
(
たごさく
)
『
婆
(
ばば
)
アの
所
(
ところ
)
は
何処
(
どこ
)
だと
問
(
と
)
うてゐるのだ』
060
天賦
(
てんぷ
)
の
言霊器
(
げんれいき
)
と
聴声器
(
ちやうせいき
)
を
破壊
(
はくわい
)
された
一同
(
いちどう
)
は、
061
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だか
少
(
すこ
)
しも
分
(
わか
)
らず、
062
唯
(
ただ
)
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けて、
063
アヽヽヽと
叫
(
さけ
)
ぶのみである。
064
田吾作
(
たごさく
)
『モシ、
065
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
066
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
返事
(
へんじ
)
もせず、
067
唯
(
ただ
)
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けてアヽヽヽと
云
(
い
)
うて
居
(
を
)
る
唖
(
おし
)
見
(
み
)
たやうな
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
りですな、
068
次
(
つぎ
)
の
家
(
うち
)
へ
行
(
い
)
つて
尋
(
たづ
)
ねて
見
(
み
)
ませうか』
069
宗彦
(
むねひこ
)
『お
前
(
まへ
)
に
一任
(
いちにん
)
するから、
070
何卒
(
どうか
)
、
071
私
(
わたし
)
が
当選
(
たうせん
)
するやうに
戸別
(
こべつ
)
訪問
(
はうもん
)
をして、
072
清
(
きよ
)
き
一票
(
いつぺう
)
をと
丁寧
(
ていねい
)
に、
073
お
辞儀
(
じぎ
)
に
資本
(
もと
)
は
要
(
い
)
らぬから
頼
(
たの
)
んでくれい』
074
田吾作
(
たごさく
)
『
何
(
なん
)
ぼ
資本
(
もと
)
が
要
(
い
)
らぬと
云
(
い
)
つても、
075
さうペコペコ
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げては
頭痛
(
づつう
)
がします
哩
(
わい
)
。
076
投票
(
とうへう
)
もない
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るな、
077
人
(
ひと
)
の
選挙
(
せんきよ
)
(
疝気
(
せんき
)
)を
頭痛
(
づつう
)
にやんで、
078
耐
(
たま
)
りますかい。
079
何程
(
なにほど
)
気張
(
きば
)
つたつて
解散
(
かいさん
)
の
命令
(
めいれい
)
が
下
(
くだ
)
つたら、
080
それこそ
元
(
もと
)
の
黙阿弥
(
もくあみ
)
ですよ』
081
宗彦
(
むねひこ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
お
前
(
まへ
)
に
一任
(
いちにん
)
する』
082
田吾作
(
たごさく
)
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
083
在野党
(
ざいやたう
)
と
思
(
おも
)
つて
選挙
(
せんきよ
)
干渉
(
かんせう
)
をやらぬやうにして
下
(
くだ
)
さいや。
084
モシモシ
此
(
こ
)
の
家
(
や
)
のお
方
(
かた
)
、
085
婆
(
ばば
)
アのお
住居
(
すまゐ
)
は
何処
(
どこ
)
だ、
086
知
(
し
)
らしてくれないか、
087
決
(
けつ
)
して
投票
(
とうへう
)
乞食
(
こじき
)
ぢやないから
安心
(
あんしん
)
して
云
(
い
)
つておくれ』
088
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
から
又
(
また
)
もや
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
男女
(
なんによ
)
、
089
怪訝
(
けげん
)
な
顔
(
かほ
)
して
門口
(
かどぐち
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
090
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けてアヽヽヽと
云
(
い
)
ふばかり。
091
あゝ
此奴
(
こいつ
)
も
駄目
(
だめ
)
だと、
092
田吾作
(
たごさく
)
はまた
次
(
つぎ
)
へ
行
(
ゆ
)
く。
093
行
(
い
)
つても
行
(
い
)
つても、
094
アヽ
責
(
ぜめ
)
に
遇
(
あ
)
はされて
一向
(
いつかう
)
要領
(
えうりやう
)
を
得
(
え
)
ない。
095
とうとう
一戸
(
いつこ
)
も
残
(
のこ
)
らず
戸口
(
ここう
)
調査
(
てうさ
)
を
無事
(
ぶじ
)
終了
(
しうれう
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
096
されど
何
(
なん
)
の
得
(
う
)
る
所
(
ところ
)
もなく、
097
婆
(
ばば
)
アの
姿
(
すがた
)
も
見当
(
みあた
)
らなかつた。
098
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
是非
(
ぜひ
)
なく
腰掛
(
こしかけ
)
に
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
岩
(
いは
)
を
探
(
さが
)
して、
099
ドシンと
尻
(
しり
)
を
下
(
お
)
ろし、
100
暫
(
しばら
)
く
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
める。
101
赤
(
あか
)
ん
坊
(
ばう
)
を
懐中
(
ふところ
)
に
抱
(
いだ
)
いた
女
(
をんな
)
、
102
幾十
(
いくじふ
)
人
(
にん
)
ともなく、
103
不思議
(
ふしぎ
)
さうに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
104
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けて、
105
アヽヽヽヽとア
声
(
ごゑ
)
の
連発
(
れんぱつ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
106
田吾作
(
たごさく
)
『エヽ
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
な
所
(
ところ
)
だな、
107
矢張
(
やつぱり
)
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
辺
(
へん
)
は
野蛮
(
やばん
)
未開
(
みかい
)
の
土地
(
とち
)
だから、
108
言語
(
げんご
)
が
無
(
な
)
いと
見
(
み
)
える
哩
(
わい
)
』
109
と
話
(
はな
)
して
居
(
ゐ
)
る。
110
其処
(
そこ
)
へ
容色
(
ようしよく
)
優
(
すぐ
)
れたる
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
が
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
111
宣伝使
(
せんでんし
)
に
会釈
(
ゑしやく
)
し、
112
是
(
これ
)
亦
(
また
)
アヽヽヽを
連発
(
れんぱつ
)
しながら
北
(
きた
)
の
谷間
(
たにま
)
を
指
(
ゆび
)
ざし
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
113
この
女
(
をんな
)
は
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
生母
(
せいぼ
)
お
玉
(
たま
)
であつた。
114
婆
(
ばば
)
の
手下
(
てした
)
の
者
(
もの
)
に
誘拐
(
かどわか
)
され、
115
この
山奥
(
やまおく
)
に
連
(
つ
)
れ
込
(
こ
)
まれてゐたのである。
116
婆
(
ばば
)
の
考
(
かんが
)
へとしては、
117
玉照姫
(
たまてるひめ
)
を
占奪
(
せんだつ
)
する
手段
(
しゆだん
)
として、
118
先
(
ま
)
づ
生母
(
せいぼ
)
のお
玉
(
たま
)
をうまうまと
此処
(
ここ
)
へ
奪
(
うば
)
ひ
帰
(
かへ
)
つたのである。
119
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はお
玉
(
たま
)
の
顔
(
かほ
)
を
一度
(
いちど
)
も
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
がないので、
120
そんな
秘密
(
ひみつ
)
の
伏在
(
ふくざい
)
する
事
(
こと
)
は
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず、
121
お
玉
(
たま
)
の
跡
(
あと
)
を
追
(
お
)
つて、
122
スタスタと
駆出
(
かけだ
)
した。
123
四五丁
(
しごちやう
)
ばかり
谷
(
たに
)
に
沿
(
そ
)
うて
左
(
ひだり
)
へ
進
(
すす
)
むと、
124
壁
(
かべ
)
を
立
(
た
)
てたやうな
巨岩
(
きよがん
)
が
幾
(
いく
)
つともなく
谷間
(
たにま
)
に
碁列
(
ごれつ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
125
お
玉
(
たま
)
は
手招
(
てまね
)
きしながら、
126
岩窟
(
がんくつ
)
の
穴
(
あな
)
を
潜
(
くぐ
)
つて
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
127
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
其
(
その
)
後
(
あと
)
から、
128
ドンドンと
足
(
あし
)
を
速
(
はや
)
めて
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
を
五六間
(
ごろくけん
)
許
(
ばか
)
り
進
(
すす
)
む。
129
此処
(
ここ
)
が
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
山
(
ざん
)
に
割拠
(
かつきよ
)
して
居
(
ゐ
)
た
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
妻
(
つま
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
が
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
に
於
(
お
)
ける
第二
(
だいに
)
の
作戦地
(
さくせんち
)
であつた。
130
蛇
(
へび
)
、
131
蛙
(
かへる
)
、
132
山蟹
(
やまがに
)
、
133
其
(
その
)
他
(
た
)
獣類
(
けもの
)
の
肉
(
にく
)
はよく
乾燥
(
かんさう
)
さして
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
に
幾
(
いく
)
つともなく
釣
(
つ
)
り
下
(
さ
)
げられてある。
134
田吾作
(
たごさく
)
『アイ
御免
(
ごめん
)
なさい、
135
バラモン
教
(
けう
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
アの
住家
(
すまひ
)
は
此処
(
ここ
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
136
婆
(
ばば
)
『
此処
(
ここ
)
が
鬼婆
(
おにばば
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
住家
(
すみか
)
だよ』
137
田吾作
(
たごさく
)
『アヽ、
138
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか、
139
これは
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
しました。
140
なんと
立派
(
りつぱ
)
なお
館
(
やかた
)
ですな、
141
これでは
風雨
(
ふうう
)
雷電
(
らいでん
)
、
142
地震
(
ぢしん
)
も
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
でせう。
143
吾々
(
われわれ
)
もせめて
半日
(
はんにち
)
なりと、
144
こんな
結構
(
けつこう
)
な
館
(
やかた
)
に
暮
(
くら
)
したいものです
哩
(
わい
)
』
145
婆
(
ばば
)
『お
前
(
まへ
)
は
一体
(
いつたい
)
何処
(
どこ
)
の
人
(
ひと
)
ぢや、
146
そして
又
(
また
)
二人
(
ふたり
)
も
伴
(
とも
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのかな』
147
田吾作
(
たごさく
)
『ハイ、
148
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
予備
(
よび
)
宣伝使
(
せんでんし
)
を
拝命
(
はいめい
)
致
(
いた
)
しまして、
149
今日
(
けふ
)
が
初陣
(
うひぢん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
150
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
151
宗彦
(
むねひこ
)
、
152
原彦
(
はらひこ
)
と
云
(
い
)
ふケチな
野郎
(
やらう
)
を
連
(
つ
)
れて
居
(
を
)
ります。
153
大変
(
たいへん
)
腹
(
はら
)
を
減
(
へ
)
らして
居
(
を
)
るさうですから、
154
蛙
(
かへる
)
の
干乾
(
ひぼし
)
でも
恵
(
めぐ
)
んでやつて
下
(
くだ
)
さいな』
155
婆
(
ばば
)
『
折角
(
せつかく
)
の
御
(
ご
)
入来
(
じゆらい
)
だから、
156
大切
(
たいせつ
)
な
蛙
(
かへる
)
ぢやけれど、
157
饗応
(
よん
)
であげませう。
158
この
蛙
(
かへる
)
は
当山
(
たうざん
)
の
名物
(
めいぶつ
)
お
殿蛙
(
とのがへる
)
と
云
(
い
)
つて、
159
虫
(
むし
)
の
薬
(
くすり
)
にもなり、
160
一切
(
いつさい
)
の
病気
(
びやうき
)
の
妙薬
(
めうやく
)
だ。
161
田圃
(
たんぼ
)
にヒヨコヒヨコ
飛
(
と
)
んで
居
(
を
)
る
青蛙
(
あをがへる
)
や
糞蛙
(
くそがへる
)
とは
些
(
ちつ
)
と
撰
(
せん
)
を
異
(
こと
)
にして
居
(
を
)
るのだから、
162
其
(
その
)
積
(
つも
)
りで
味
(
あぢ
)
はつて
食
(
あ
)
がりなさい。
163
お
前
(
まへ
)
さんは
蛙飛
(
かへると
)
ばしの
蚯蚓切
(
みみずき
)
りだからなア』
164
田吾作
(
たごさく
)
『チヨツ、
165
馬鹿
(
ばか
)
にして
居
(
ゐ
)
やがる
哩
(
わい
)
』
166
原彦
(
はらひこ
)
『オイオイ
宣伝使
(
せんでんし
)
の
化
(
ばけ
)
サン、
167
そんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
うてくれては
困
(
こま
)
るぢやないか』
168
田吾作
(
たごさく
)
『
困
(
こま
)
るやうにお
願
(
ねが
)
ひしたのだよ、
169
昔
(
むかし
)
、
170
竹熊
(
たけくま
)
が
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
の
使臣
(
ししん
)
を
招待
(
せうたい
)
した
時
(
とき
)
には、
171
百足
(
むかで
)
や
蜴蜥
(
とかげ
)
、
172
なめくじ
などの
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
食
(
く
)
はした
[
※
第1巻第41~42章「八尋殿の酒宴」のエピソード。
]
と
云
(
い
)
ふぢやないか、
173
鰈
(
かれひ
)
か
鯣
(
するめ
)
だと
思
(
おも
)
うて
食
(
く
)
ひさへすりやよいのだ。
174
お
前
(
まへ
)
は
食
(
く
)
はず
嫌
(
ぎら
)
ひだなくて、
175
蛙
(
かへる
)
嫌
(
ぎら
)
ひだから
困
(
こま
)
る、
176
アハヽヽヽ』
177
婆
(
ばば
)
『
三
(
さん
)
人
(
にん
)
ともそんな
所
(
ところ
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
ずに、
178
サアサア
足
(
あし
)
を
洗
(
あら
)
つてお
上
(
あが
)
りなさい。
179
今晩
(
こんばん
)
は
悠
(
ゆつ
)
くりと
話
(
はな
)
しませう。
180
お
前
(
まへ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
初陣
(
うひぢん
)
だと
云
(
い
)
つたな』
181
田吾作
(
たごさく
)
『ハイ、
182
申
(
まを
)
しました、
183
全
(
まつた
)
く
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りです』
184
婆
(
ばば
)
『そんなら
尚
(
なほ
)
結構
(
けつこう
)
だ、
185
なまりはんぢやくの、
186
苔
(
こけ
)
の
生
(
は
)
えた
宣伝使
(
せんでんし
)
は
何
(
ど
)
うも
強太
(
しぶと
)
うて
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
ぬ。
187
お
前
(
まへ
)
はまだまだほやほやだから、
188
十分
(
じふぶん
)
の
教理
(
けうり
)
も
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
やせまい』
189
田吾作
(
たごさく
)
『
私
(
わたし
)
は
郷里
(
きやうり
)
を
立
(
た
)
つて
来
(
き
)
たところですが、
190
何
(
なん
)
と
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますな』
191
婆
(
ばば
)
『ハヽヽヽヽ、
192
お
前
(
まへ
)
は
余
(
よ
)
つ
程
(
ぽど
)
無学者
(
むがくしや
)
と
見
(
み
)
える
哩
(
わい
)
、
193
けうり
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
故郷
(
こきやう
)
の
意味
(
いみ
)
ぢやない、
194
三五教
(
あななひけう
)
の
筋
(
すぢ
)
はどうだと
問
(
と
)
ふのだ』
195
田吾作
(
たごさく
)
『つい、
196
きより
きよりして
居
(
ゐ
)
ましたので
筋
(
すぢ
)
も
何
(
なに
)
も
分
(
わか
)
りませぬ』
197
婆
(
ばば
)
『アヽそうだらうそうだらう、
198
筋
(
すぢ
)
が
分
(
わか
)
つたら
阿呆
(
あはう
)
らしうて
三五教
(
あななひけう
)
に
居
(
を
)
れたものぢやない。
199
筋
(
すぢ
)
が
分
(
わか
)
らぬのが
結構
(
けつこう
)
だ。
200
サアこれから
此処
(
ここ
)
で
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
ばかり
無言
(
むごん
)
の
行
(
ぎやう
)
をして、
201
其
(
その
)
上
(
うへ
)
言霊
(
ことたま
)
を
開
(
ひら
)
いて、
202
バラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
になるのだよ。
203
お
前
(
まへ
)
、
204
此処
(
ここ
)
へ
来
(
く
)
る
道
(
みち
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
家
(
いへ
)
があつたらうがな、
205
皆
(
みな
)
無言
(
むごん
)
の
行
(
ぎやう
)
がさしてあるのだ』
206
田吾作
(
たごさく
)
『あの
儘
(
まま
)
ものが
言
(
い
)
へなくなるのぢやないのですか、
207
どうやら
聾
(
つんぼ
)
のやうですが』
208
婆
(
ばば
)
『
聾
(
つんぼ
)
は
尚更
(
なほさら
)
結構
(
けつこう
)
だ。
209
モ
一
(
ひと
)
つ
荒行
(
あらぎやう
)
をすれば
目
(
め
)
も
見
(
み
)
えぬやうになつて
仕舞
(
しま
)
ふ。
210
だけれど
目
(
め
)
だけは
退
(
の
)
けて
置
(
お
)
かぬと、
211
不自由
(
ふじゆう
)
だと
思
(
おも
)
つて
大目
(
おほめ
)
に
見
(
み
)
てあるのだ。
212
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
の
行
(
ぎやう
)
をして
好
(
よ
)
いものもある、
213
十日
(
とをか
)
で
好
(
よ
)
いものもある、
214
修業
(
しうげふ
)
さへ
出来
(
でき
)
たら
口
(
くち
)
も
利
(
き
)
けるやうに、
215
耳
(
みみ
)
も
聞
(
きこ
)
えるやうにチヤンとしてあるのだ』
216
田吾作
(
たごさく
)
『
婆
(
ば
)
アサン、
217
そりあ
無言
(
むごん
)
の
行
(
ぎやう
)
ぢやない、
218
云
(
い
)
はれぬから
云
(
い
)
はぬのだらう、
219
云
(
い
)
へる
口
(
くち
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
つて
云
(
い
)
はぬやうにし、
220
聞
(
きこ
)
える
耳
(
みみ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
て
聞
(
き
)
かぬやうにして
居
(
ゐ
)
るのなら、
221
行
(
ぎやう
)
にもならうが、
222
しよう
事
(
こと
)
なしに
云
(
い
)
はざる
聞
(
き
)
かざるはあまり
行
(
ぎやう
)
にもならないぢやないか』
223
婆
(
ばば
)
『そんな
理屈
(
りくつ
)
を
云
(
い
)
ふものぢやない、
224
信仰
(
しんかう
)
の
道
(
みち
)
には
理屈
(
りくつ
)
は
禁物
(
きんもつ
)
だ。
225
人間
(
にんげん
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
226
さうガラガラと
鈴
(
すず
)
の
化物
(
ばけもの
)
のやうに
小理屈
(
こりくつ
)
を
云
(
い
)
ふものぢやない
哩
(
わい
)
』
227
田吾作
(
たごさく
)
『ヘエ』
228
と
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
ける。
229
宗彦
(
むねひこ
)
『
私
(
わたし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
です。
230
今
(
いま
)
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
つた
男
(
をとこ
)
はまだ
卵
(
たまご
)
ですから、
231
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふか
分
(
わか
)
りませぬ』
232
婆
(
ばば
)
『アヽさうだらうと
思
(
おも
)
つた。
233
何
(
なん
)
だか
間拍子
(
まべうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
理屈
(
りくつ
)
を
捏
(
こ
)
ねる
人
(
ひと
)
だ。
234
人間
(
にんげん
)
も
大悟
(
たいご
)
徹底
(
てつてい
)
すると、
235
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
の
御
(
ご
)
威徳
(
ゐとく
)
が
分
(
わか
)
つて、
236
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
はれぬやうになつて
仕舞
(
しま
)
うて
黙
(
だま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
改心
(
かいしん
)
するやうになるものぢや、
237
流石
(
さすが
)
にお
前
(
まへ
)
は
偉
(
えら
)
い、
238
最前
(
さいぜん
)
から
婆
(
ばば
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けて
聞
(
き
)
きなさつた。
239
偉
(
えら
)
いものだ、
240
言葉
(
ことば
)
多
(
おほ
)
ければ
品
(
しな
)
少
(
すくな
)
し、
241
空虚
(
くうきよ
)
なる
器物
(
きぶつ
)
は
強大
(
きやうだい
)
なる
音響
(
おんきやう
)
を
発
(
はつ
)
すと
云
(
い
)
うて、
242
ガラガラドンドン
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
に
限
(
かぎ
)
り、
243
智慧
(
ちゑ
)
もなければ
信仰
(
しんかう
)
も
無
(
な
)
いものだ。
244
お
前
(
まへ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
なら、
245
あの
青彦
(
あをひこ
)
、
246
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
247
常彦
(
つねひこ
)
、
248
亀彦
(
かめひこ
)
、
249
悦子姫
(
よしこひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
没分暁漢
(
わからずや
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
るだらうなア』
250
宗彦
(
むねひこ
)
『イエイエ
私
(
わたし
)
達
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
251
宇都山
(
うづやま
)
村
(
むら
)
の
者
(
もの
)
で
御座
(
ござ
)
いまして、
252
唯
(
ただ
)
一度
(
いちど
)
聖地
(
せいち
)
へ
参
(
まゐ
)
り、
253
暫
(
しばら
)
く
修業
(
しうげふ
)
を
致
(
いた
)
しましたが、
254
そんなお
方
(
かた
)
にはお
目
(
め
)
にかかつた
事
(
こと
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ、
255
何処
(
どこ
)
か
宣伝
(
せんでん
)
に
廻
(
まは
)
つて
御座
(
ござ
)
るのでせう』
256
婆
(
ばば
)
『どうぢや、
257
お
前
(
まへ
)
も
三五教
(
あななひけう
)
を
止
(
や
)
めて、
258
私
(
わし
)
の
弟子
(
でし
)
になつたら』
259
宗彦
(
むねひこ
)
『
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いますが、
260
各自
(
めいめい
)
に
自分
(
じぶん
)
の
宗旨
(
しうし
)
は
良
(
よ
)
く
見
(
み
)
えるものです。
261
私
(
わたし
)
は
貴女
(
あなた
)
に
改心
(
かいしん
)
をして
貰
(
もら
)
つて、
262
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
して
頂
(
いただ
)
かうと
思
(
おも
)
ひ、
263
遥々
(
はるばる
)
と
参
(
まゐ
)
つたのですよ。
264
何
(
ど
)
うです、
265
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
一通
(
ひととほ
)
りお
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
さつて、
266
其
(
その
)
上
(
うへ
)
で
入信
(
にふしん
)
なさつたら』
267
婆
(
ばば
)
『アヽ、
268
いやいや
誰人
(
だれ
)
が
三五教
(
あななひけう
)
のやうな
馬鹿
(
ばか
)
な
教
(
をしへ
)
に
入
(
はい
)
る
奴
(
やつ
)
があるものか、
269
改心
(
かいしん
)
をしてくれなんて、
270
そりやお
前
(
まへ
)
、
271
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
272
是
(
これ
)
程
(
ほど
)
澄
(
す
)
み
切
(
き
)
つた
塵
(
ちり
)
一
(
ひと
)
つない
御霊
(
みたま
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
だ、
273
改心
(
かいしん
)
があつて
耐
(
たま
)
るものか、
274
改心
(
かいしん
)
するのはお
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
の
事
(
こと
)
だ』
275
宗彦
(
むねひこ
)
は
拍手
(
はくしゆ
)
し、
276
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
初
(
はじ
)
める。
277
婆
(
ばば
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
278
婆
『コレコレ
皆様
(
みなさま
)
、
279
祝詞
(
のりと
)
も
結構
(
けつこう
)
だが
折角
(
せつかく
)
拵
(
こしら
)
へた
蛙
(
かへる
)
の
御飯
(
ごはん
)
、
280
お
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らねば
食
(
た
)
べて
貰
(
もら
)
はいでもよいが、
281
せめて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
供
(
そな
)
へたのだから、
282
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
とお
茶
(
ちや
)
をお
食
(
あが
)
り
下
(
くだ
)
さい、
283
それで
悠
(
ゆつ
)
くりとお
祝詞
(
のりと
)
を
上
(
あ
)
げなさい。
284
私
(
わし
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
上
(
あ
)
げさせて
頂
(
いただ
)
くから』
285
と
無理
(
むり
)
に
引
(
ひ
)
き
留
(
とめ
)
る。
286
宗彦
(
むねひこ
)
『
弁当
(
べんたう
)
は
此処
(
ここ
)
にパンを
所持
(
しよぢ
)
して
居
(
ゐ
)
ますからお
茶
(
ちや
)
を
下
(
くだ
)
さいませ』
287
婆
(
ばば
)
『お
神酒
(
みき
)
は
好
(
すき
)
だらう、
288
自然薯
(
じねんぢよ
)
で
醸造
(
こしら
)
へた
美味
(
おいし
)
い
酒
(
さけ
)
がある。
289
一
(
ひと
)
つあがつたら
何
(
ど
)
うだな』
290
宗彦
(
むねひこ
)
『イヤ、
291
茶
(
ちや
)
さへ
頂
(
いただ
)
けば
結構
(
けつこう
)
です』
292
田吾作
(
たごさく
)
『
婆
(
ば
)
アさま、
293
論戦
(
ろんせん
)
は
一先
(
ひとま
)
づ
中止
(
ちゆうし
)
して、
294
そんなら
暖
(
あたた
)
かいお
茶
(
ちや
)
をよんで
下
(
くだ
)
さい、
295
今晩
(
こんばん
)
悠
(
ゆつ
)
くりと
言霊戦
(
ことたません
)
を
負
(
まけ
)
ず
劣
(
おと
)
らず
開始
(
かいし
)
しませう。
296
そして
負
(
まけ
)
た
方
(
はう
)
が
従
(
したが
)
ふと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませうか』
297
婆
(
ばば
)
『アヽ
面白
(
おもしろ
)
からう
面白
(
おもしろ
)
からう、
298
そんならさう
致
(
いた
)
しませう。
299
バラモン
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は、
300
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
が
強
(
つよ
)
いから、
301
迂濶
(
うつかり
)
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はうものなら
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
つて
口
(
くち
)
が
利
(
き
)
けなくなるから、
302
心得
(
こころえ
)
て
物
(
もの
)
を
云
(
い
)
ひなさいや。
303
アヽどれどれ
手
(
て
)
づからお
茶
(
ちや
)
を
温
(
あたた
)
めて
上
(
あ
)
げよう』
304
と
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
305
暫
(
しばら
)
くあつて
婆
(
ばば
)
アは
土瓶
(
どびん
)
に
茶
(
ちや
)
を
沸騰
(
たぎ
)
らせ、
306
婆
(
ばば
)
『サアサア
茶
(
ちや
)
が
沸
(
わ
)
いた、
307
皆
(
みな
)
さま
沢山
(
どつさり
)
呑
(
の
)
んで
下
(
くだ
)
さい、
308
これも
婆
(
ばば
)
の
寸志
(
こころざし
)
だ。
309
バラモン
教
(
けう
)
だつて、
310
三五教
(
あななひけう
)
だつて、
311
神
(
かみ
)
と
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
に
二
(
ふた
)
つはない。
312
互
(
たがひ
)
に
手
(
て
)
を
引合
(
ひきあ
)
うて
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
のある
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
方
(
はう
)
へ
帰順
(
きじゆん
)
するのだな。
313
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
も
都合
(
つがふ
)
によつては
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
せぬものでもない、
314
オホヽヽヽ』
315
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
何
(
なん
)
の
気
(
き
)
も
付
(
つ
)
かず、
316
婆
(
ばば
)
の
注
(
つ
)
いだ
茶
(
ちや
)
を
呑
(
の
)
んではパンを
食
(
く
)
ひ、
317
呑
(
の
)
んでは
食
(
く
)
ひ、
318
喉
(
のど
)
が
乾
(
かわ
)
いたと
見
(
み
)
えて
土瓶
(
どびん
)
に
一杯
(
いつぱい
)
の
茶
(
ちや
)
を
残
(
のこ
)
らず
平
(
たひ
)
らげて
仕舞
(
しま
)
つた。
319
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
俄
(
にはか
)
に
息苦
(
いきぐる
)
しくなり、
320
言語
(
げんご
)
を
発
(
はつ
)
せむとすれども、
321
一言
(
ひとこと
)
も
発
(
はつ
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なくなつた。
322
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
323
アヽヽヽとア
声
(
ごゑ
)
の
連発
(
れんぱつ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
324
婆
(
ばば
)
『アハヽヽヽ……
好
(
よ
)
いけれまたもあればあるものだ。
325
とうとう
婆
(
ばば
)
の
計略
(
けいりやく
)
にかかりよつた。
326
口
(
くち
)
も
利
(
き
)
けず、
327
耳
(
みみ
)
も
聞
(
きこ
)
えず、
328
憐
(
あは
)
れなものだ。
329
お
玉
(
たま
)
を
首尾
(
しゆび
)
好
(
よ
)
く
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れ、
330
又
(
また
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
卵
(
たまご
)
を
三
(
さん
)
人
(
にん
)
収穫
(
しうくわく
)
した。
331
如何
(
いか
)
に
頑強
(
ぐわんきやう
)
な
三五教
(
あななひけう
)
でも、
332
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
親
(
おや
)
を
取
(
と
)
られ、
333
又
(
また
)
大切
(
たいせつ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
を
取
(
と
)
られ、
334
黙
(
だま
)
つて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まい。
335
屹度
(
きつと
)
謝罪
(
あやま
)
つて
返
(
かへ
)
して
貰
(
もら
)
ひに
来
(
く
)
るのだらう。
336
其
(
その
)
時
(
とき
)
には
玉照姫
(
たまてるひめ
)
と
玉照彦
(
たまてるひこ
)
とを
此方
(
こちら
)
へ
受取
(
うけと
)
り、
337
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
返
(
かへ
)
してやつたらよいのだ。
338
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
玉照姫
(
たまてるひめ
)
が
黄金
(
わうごん
)
なら、
339
此奴
(
こいつ
)
は
洋銀
(
やうぎん
)
位
(
くらゐ
)
なものだから
先方
(
むかう
)
も
此
(
これ
)
位
(
くらゐ
)
では
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
すまい。
340
マア
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
つて
鼠
(
ねずみ
)
が
餅
(
もち
)
をひくやうに
二人
(
ふたり
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
と
引張込
(
ひつぱりこ
)
み、
341
往生
(
わうじやう
)
づくめで
仮令
(
たとへ
)
玉照彦
(
たまてるひこ
)
だけでも
此方
(
こちら
)
のものに
仕度
(
した
)
いものだ。
342
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
大将
(
たいしやう
)
は
脆
(
もろ
)
くも
波斯
(
フサ
)
の
国
(
くに
)
に
泡
(
あわ
)
食
(
く
)
つて
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
つて
仕舞
(
しま
)
はれた。
343
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わし
)
は
女
(
をんな
)
の
一心
(
いつしん
)
岩
(
いは
)
でも
突
(
つ
)
き
貫
(
ぬ
)
くのだ。
344
此処
(
ここ
)
で
斯
(
か
)
うして
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
ち、
345
大江山
(
おほえやま
)
、
346
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
を
回復
(
くわいふく
)
し、
347
三五教
(
あななひけう
)
の
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
も
往生
(
わうじやう
)
させて、
348
バラモン
教
(
けう
)
として
仕舞
(
しま
)
ふ
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
計略
(
けいりやく
)
は
旨々
(
うまうま
)
と
端緒
(
たんちよ
)
が
開
(
ひら
)
けかけた。
349
アヽ
有難
(
ありがた
)
い
事
(
こと
)
だ。
350
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
でお
玉
(
たま
)
に
酌
(
しやく
)
でもさして
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
まうかい、
351
そして
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
肴
(
さかな
)
にしてやらうかい。
352
これこれお
玉
(
たま
)
、
353
お
酒
(
さけ
)
だよ。
354
これ
程
(
ほど
)
呼
(
よ
)
んで
居
(
を
)
るに
何故
(
なぜ
)
返事
(
へんじ
)
をせぬのか、
355
オヽさうさう、
356
耳
(
みみ
)
の
聾
(
つんぼ
)
になる
薬
(
くすり
)
を
呑
(
の
)
まして
置
(
お
)
いた。
357
聞
(
きこ
)
えぬも
無理
(
むり
)
はない。
358
つい
私
(
わし
)
も
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
しくて、
359
精神車
(
せいしんしや
)
が
何処
(
どこ
)
かに
脱線
(
だつせん
)
したと
見
(
み
)
える、
360
オホヽヽヽ』
361
と
独言
(
ひとりごと
)
を
云
(
い
)
ひながら
笑壺
(
ゑつぼ
)
に
入
(
い
)
つて
居
(
を
)
る。
362
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
無念
(
むねん
)
の
歯噛
(
はが
)
みをなし、
363
躍
(
をど
)
り
上
(
あ
)
がつて
破
(
やぶ
)
れかぶれ、
364
婆
(
ばば
)
を
叩
(
たた
)
き
伸
(
の
)
めしてやらうと
心
(
こころ
)
に
定
(
き
)
めて
見
(
み
)
たが、
365
何
(
ど
)
うしたものか
体
(
からだ
)
がビクとも
動
(
うご
)
けなくなつて
居
(
を
)
る。
366
言霊
(
ことたま
)
を
応用
(
おうよう
)
するにも
肝腎
(
かんじん
)
の
発生器
(
はつせいき
)
の
油
(
あぶら
)
が
切
(
き
)
れて、
367
且
(
か
)
つ
筒口
(
つつぐち
)
が
閉塞
(
へいそく
)
して
居
(
を
)
るのだから、
368
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ず、
369
口
(
くち
)
は
自然
(
しぜん
)
に
紐
(
ひも
)
が
解
(
ほ
)
どけて、
370
頤
(
あご
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
垂
(
た
)
れ
下
(
さが
)
り、
371
ポカンと
開
(
あ
)
いて
来
(
く
)
る。
372
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
一度
(
いちど
)
に
涎
(
よだれ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し、
373
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せ、
374
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
り、
375
アヽヽヽと
僅
(
わづか
)
に
声
(
こゑ
)
を
発
(
はつ
)
する
許
(
ばか
)
りであつた。
376
婆
(
ばば
)
は
愉快
(
ゆくわい
)
げに
安坐
(
あぐら
)
をかき、
377
長
(
なが
)
い
煙管
(
きせる
)
で
煙草
(
たばこ
)
を
燻
(
くす
)
べ、
378
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
み、
379
婆
(
ばば
)
『オイこりや、
380
阿呆
(
あはう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
、
381
俺
(
おれ
)
の
智慧
(
ちゑ
)
はこんなものだぞ。
382
蜘蛛
(
くも
)
が
巣
(
す
)
をかけて
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
る
処
(
ところ
)
へ
茅蝉
(
ひぐらし
)
が
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
て
引
(
ひつ
)
かかるやうなものだ、
383
動
(
うご
)
くなら
動
(
うご
)
いて
見
(
み
)
い、
384
言霊
(
ことたま
)
が
使
(
つか
)
へるなら
使
(
つか
)
つて
見
(
み
)
い、
385
耳
(
みみ
)
も
聞
(
きこ
)
えまい』
386
と
長煙管
(
ながぎせる
)
の
雁首
(
がんくび
)
で
耳
(
みみ
)
の
穴
(
あな
)
をグツと
突
(
つ
)
いて
見
(
み
)
る。
387
宗彦
(
むねひこ
)
は
耳
(
みみ
)
の
穴
(
あな
)
を
突
(
つ
)
かれてカツと
怒
(
おこ
)
り
出
(
だ
)
した。
388
されど
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬ。
389
此度
(
こんど
)
は
婆
(
ばば
)
は
煙草
(
たばこ
)
の
吸殻
(
すひがら
)
を
宗彦
(
むねひこ
)
の
口
(
くち
)
の
中
(
なか
)
にフツと
吹
(
ふ
)
いて
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
み、
390
婆
(
ばば
)
『
熱
(
あつ
)
からう、
391
そりや
些
(
ちつ
)
と
熱
(
あつ
)
い、
392
火
(
ひ
)
だからのう。
393
加之
(
おまけ
)
にえぐいだらう、
394
えぐいのはズだ。
395
煙草
(
たばこ
)
のズに、
396
えぐい
婆
(
ばば
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
だから、
397
序
(
ついで
)
に
此
(
この
)
酒
(
さけ
)
も
飲
(
の
)
ましてやろか。
398
イヤイヤ
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
てこいつを
飲
(
の
)
ましてやると
私
(
わし
)
の
飲
(
の
)
むのがそれだけ
減
(
へ
)
る
道理
(
だうり
)
ぢや、
399
マアマア
斯
(
か
)
うして
二
(
に
)
ケ
月
(
げつ
)
も
三
(
さん
)
ケ
月
(
げつ
)
も
固
(
かた
)
めて
置
(
お
)
けば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ、
400
若
(
わか
)
い
奴
(
やつ
)
が
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
したら
大江山
(
おほえやま
)
の
方
(
はう
)
から
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るだらうから、
401
其
(
その
)
時
(
とき
)
この
生木像
(
なまもくざう
)
を
穴庫
(
あなぐら
)
へでも
格納
(
かくなふ
)
さしてもよい
哩
(
わい
)
、
402
マアマアそれ
迄
(
まで
)
は
頭
(
あたま
)
を
叩
(
たた
)
いたり、
403
耳
(
みみ
)
に
煙管
(
きせる
)
を
突
(
つ
)
つ
込
(
こ
)
んだりして、
404
バラモン
教
(
けう
)
の
御
(
ご
)
規則
(
きそく
)
通
(
どほ
)
りの
修業
(
しうげふ
)
をさしてやるのだ。
405
なんと
心地
(
ここち
)
好
(
よ
)
い
事
(
こと
)
だ。
406
是
(
これ
)
で
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
をろち
)
さまもさぞ
御
(
ご
)
満足
(
まんぞく
)
だらう。
407
嗚呼
(
ああ
)
大蛇
(
をろち
)
大明神
(
だいみやうじん
)
様
(
さま
)
、
408
喜
(
よろこ
)
びたまへ
勇
(
いさ
)
みたまへ。
409
婆
(
ばば
)
の
腕前
(
うでまへ
)
は
此
(
こ
)
の
通
(
とほ
)
りで
御座
(
ござ
)
います、
410
何
(
ど
)
うぞ
此
(
この
)
手柄
(
てがら
)
により、
411
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
失敗
(
しつぱい
)
の
罪
(
つみ
)
を
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
412
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
無
(
な
)
い
私
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
、
413
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
を
縮尻
(
しくじ
)
つて、
414
死
(
し
)
んで
神罰
(
しんばつ
)
を
蒙
(
かうむ
)
り、
415
地獄
(
ぢごく
)
の
釜
(
かま
)
の
焦起
(
こげおこ
)
しにせられるのも
女房
(
にようばう
)
として
見
(
み
)
て
居
(
を
)
られませぬ、
416
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたし
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に、
417
今
(
いま
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬが、
418
命数
(
めいすう
)
の
尽
(
つ
)
きた
時
(
とき
)
は
天国
(
てんごく
)
にやつて
下
(
くだ
)
さい。
419
南無
(
なむ
)
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
大明神
(
だいみやうじん
)
様
(
さま
)
、
420
ハズバンドの
罪
(
つみ
)
を
許
(
ゆる
)
したまへ、
421
払
(
はら
)
ひたまへ、
422
清
(
きよ
)
めたまへ、
423
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
命
(
みこと
)
』
424
と
祈願
(
きぐわん
)
して
居
(
ゐ
)
る。
425
此
(
この
)
時
(
とき
)
岩窟
(
がんくつ
)
の
口
(
くち
)
より、
426
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひ
来
(
く
)
る
男
(
をとこ
)
があつた。
427
男
(
をとこ
)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
428
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
分
(
わ
)
ける
429
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
430
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
431
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
432
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
し
433
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
す
434
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
の
教
(
のり
)
435
綾
(
あや
)
の
聖地
(
せいち
)
に
現
(
あ
)
れませる
436
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
もて
437
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
曲津見
(
まがつみ
)
を
438
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
すそのために
439
三五教
(
あななひけう
)
の
宗彦
(
むねひこ
)
が
440
宇都
(
うづ
)
の
里
(
さと
)
をば
後
(
あと
)
にして
441
足
(
あし
)
に
任
(
まか
)
せてテクテクと
442
これの
岩窟
(
いはや
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
443
悪
(
あく
)
にかけては
抜
(
ぬ
)
け
目
(
め
)
なき
444
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
が
宿
(
やど
)
の
妻
(
つま
)
445
顔色
(
かほいろ
)
黒
(
くろ
)
き
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
446
小智慧
(
こぢゑ
)
の
廻
(
まは
)
る
中年増
(
ちうとしま
)
447
此
(
この
)
岩窟
(
いはやど
)
に
陣取
(
ぢんど
)
りて
448
四方
(
よも
)
の
人々
(
ひとびと
)
欺
(
あざむ
)
きつ
449
赤子
(
あかご
)
の
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
きつけて
450
十
(
じふ
)
里
(
り
)
二十
(
にじふ
)
里
(
り
)
三十
(
さんじふ
)
里
(
り
)
451
遠
(
とほ
)
き
道
(
みち
)
をば
厭
(
いと
)
ひなく
452
手下
(
てした
)
の
魔神
(
まがみ
)
を
配
(
くば
)
り
置
(
お
)
き
453
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
に
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り
454
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なにさいなみて
455
悪
(
あく
)
の
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
しつつ
456
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
酒
(
さけ
)
に
酔
(
ゑ
)
ひ
狂
(
くる
)
ふ
457
宗彦
(
むねひこ
)
、
田吾作
(
たごさく
)
、
原彦
(
はらひこ
)
は
458
婆
(
ばば
)
が
引
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
す
口車
(
くちぐるま
)
459
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
乗
(
の
)
せられて
460
毒茶
(
どくちや
)
をどつさり
飲
(
の
)
みまはし
461
口
(
くち
)
も
利
(
き
)
かねば
耳
(
みみ
)
利
(
き
)
かず
462
五体
(
ごたい
)
すくみて
一寸
(
いつすん
)
も
463
動
(
うご
)
きの
取
(
と
)
れぬ
破目
(
はめ
)
となり
464
眼
(
め
)
ばかりきよろきよろきよろつかせ
465
其
(
その
)
上
(
うへ
)
ポカンと
口
(
くち
)
あけて
466
涎
(
よだれ
)
を
流
(
なが
)
しアヽヽヽと
467
鳴
(
な
)
りも
合
(
あ
)
はざる
言霊
(
ことたま
)
を
468
連発
(
れんぱつ
)
する
社
(
こそ
)
いとし
けれ
469
天
(
あめ
)
の
真浦
(
まうら
)
の
神司
(
かむづかさ
)
470
この
留公
(
とめこう
)
の
腹
(
はら
)
を
知
(
し
)
り
471
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
神策
(
しんさく
)
を
472
そつと
知
(
し
)
らして
下
(
くだ
)
さつた
473
宗彦
(
むねひこ
)
、
原彦
(
はらひこ
)
、
田吾作
(
たごさく
)
は
474
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
魔
(
ま
)
が
神
(
かみ
)
の
475
罠
(
わな
)
に
陥
(
おちい
)
り
今日
(
けふ
)
の
態
(
ざま
)
476
助
(
たす
)
けてやらねば
三五
(
あななひ
)
の
477
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
が
立
(
た
)
ち
兼
(
か
)
ねる
478
サアこれからは
留公
(
とめこう
)
が
479
神
(
かみ
)
に
貰
(
もら
)
うた
言霊
(
ことたま
)
の
480
御稜威
(
みいづ
)
をかりて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
481
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ひ
玉照
(
たまてる
)
の
482
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
を
生
(
う
)
みませる
483
お
玉
(
たま
)
の
方
(
かた
)
を
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
し
484
鬼
(
おに
)
のお
婆
(
ばば
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
485
この
岩窟
(
いはやど
)
を
改良
(
かいりやう
)
し
486
三五教
(
あななひけう
)
の
皇神
(
すめかみ
)
の
487
御霊
(
みたま
)
を
斎
(
いつき
)
祀
(
まつ
)
りつつ
488
ミロクの
御代
(
みよ
)
の
魁
(
さきがけ
)
を
489
仕
(
つか
)
へまつらむ
頼
(
たの
)
もしさ
490
嗚呼
(
ああ
)
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
491
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
492
と
謡
(
うた
)
ひつつ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
き
)
たる。
493
婆
(
ばば
)
は
身体
(
しんたい
)
竦
(
すく
)
み、
494
身動
(
みうご
)
きならず、
495
目
(
め
)
をぱちつかせ
苦
(
くる
)
しみ
居
(
ゐ
)
る。
496
この
時
(
とき
)
、
497
岩窟
(
がんくつ
)
の
奥
(
おく
)
の
方
(
はう
)
より
涼
(
すず
)
しき
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
、
498
女(お玉)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
499
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
別
(
わ
)
けて
500
誡
(
いまし
)
め
給
(
たま
)
ふ
時
(
とき
)
は
来
(
き
)
ぬ
501
四継王
(
よつわう
)
の
山
(
やま
)
の
聖麓
(
せいろく
)
に
502
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
と
仕
(
つか
)
へたる
503
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
生
(
う
)
みの
母
(
はは
)
504
お
玉
(
たま
)
の
方
(
かた
)
は
妾
(
わらは
)
なり
505
桶伏山
(
をけふせやま
)
に
隠
(
かく
)
されし
506
珍
(
うづ
)
の
宝
(
たから
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り
507
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
く
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るよりも
508
妾
(
わらは
)
は
驚
(
おどろ
)
き
身
(
み
)
を
忘
(
わす
)
れ
509
跡
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひかけ
山坂
(
やまさか
)
を
510
駆
(
か
)
ける
折
(
をり
)
しも
木影
(
こかげ
)
より
511
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でたる
曲神
(
まがかみ
)
の
512
手下
(
てした
)
の
奴
(
やつ
)
に
見
(
み
)
つけられ
513
手足
(
てあし
)
を
縛
(
し
)
ばりいろいろと
514
苦
(
くる
)
しき
笞
(
しもと
)
を
受
(
う
)
けながら
515
憂
(
うき
)
をみくにの
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
516
この
岩窟
(
がんくつ
)
に
押
(
お
)
し
込
(
こ
)
まれ
517
蜈蚣
(
むかで
)
の
姫
(
ひめ
)
てふ
鬼婆
(
おにばば
)
に
518
茶
(
ちや
)
を
勧
(
すす
)
められ
一時
(
いつとき
)
は
519
息
(
いき
)
塞
(
ふさ
)
がりて
言霊
(
ことたま
)
の
520
車
(
くるま
)
も
廻
(
まは
)
らぬ
苦
(
くる
)
しさに
521
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
三五
(
あななひ
)
の
522
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
黙祷
(
もくたう
)
し
523
居
(
ゐ
)
たるに
忽
(
たちま
)
ち
喉
(
のど
)
開
(
ひら
)
き
524
胸
(
むね
)
は
涼
(
すず
)
しく
晴渡
(
はれわた
)
る
525
されど
妾
(
わらは
)
は
慎
(
つつし
)
みて
526
唯
(
ただ
)
一言
(
ひとこと
)
も
言挙
(
ことあ
)
げを
527
なさず
唖
(
おし
)
をば
装
(
よそほ
)
ひつ
528
珍
(
うづ
)
の
宝
(
たから
)
の
所在
(
ありか
)
をば
529
今迄
(
いままで
)
探
(
さぐ
)
り
居
(
ゐ
)
たりしぞ
530
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
幸
(
さちは
)
ひて
531
いよいよ
茲
(
ここ
)
に
宗彦
(
むねひこ
)
が
532
言依別
(
ことよりわけ
)
のみことのり
533
身
(
み
)
に
受
(
う
)
けまして
出
(
い
)
でたまひ
534
顔
(
かほ
)
を
合
(
あは
)
せて
居
(
ゐ
)
ながらも
535
一面識
(
いちめんしき
)
もなき
故
(
ゆゑ
)
か
536
悟
(
さと
)
り
給
(
たま
)
はず
吾
(
わが
)
配
(
くば
)
る
537
眼
(
まなこ
)
に
心
(
こころ
)
留
(
と
)
めまさず
538
やみやみ
毒茶
(
どくちや
)
を
飲
(
の
)
み
玉
(
たま
)
ふ
539
その
様
(
さま
)
見
(
み
)
たる
我
(
わ
)
が
心
(
こころ
)
540
剣
(
つるぎ
)
を
呑
(
の
)
むよりつらかりし
541
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
542
神
(
かみ
)
は
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
在
(
ま
)
さずやと
543
女心
(
をんなごころ
)
の
愚
(
おろか
)
にも
544
愚痴
(
ぐち
)
の
繰事
(
くりごと
)
繰返
(
くりかへ
)
す
545
時
(
とき
)
しもあれや
表
(
おもて
)
より
546
涼
(
すず
)
しく
聞
(
きこ
)
えし
宣伝歌
(
せんでんか
)
547
耳
(
みみ
)
をすまして
伺
(
うかが
)
へば
548
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
のり
)
の
声
(
こゑ
)
549
地獄
(
ぢごく
)
で
仏
(
ほとけ
)
に
遇
(
あ
)
ひしごと
550
心
(
こころ
)
いそいそ
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
551
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
るお
玉
(
たま
)
こそ
552
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
も
一時
(
いつとき
)
に
553
開
(
ひら
)
くばかりの
嬉
(
うれ
)
しさよ
554
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
555
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましまして
556
宗彦
(
むねひこ
)
、
田吾作
(
たごさく
)
、
原彦
(
はらひこ
)
の
557
病
(
やまひ
)
を
癒
(
い
)
やし
給
(
たま
)
へかし
558
悩
(
なや
)
みを
助
(
たす
)
け
給
(
たま
)
へかし』
559
と
歌
(
うた
)
ひつつ
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれたり。
560
不思議
(
ふしぎ
)
や
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
俄
(
にはか
)
に
身体
(
しんたい
)
自由
(
じいう
)
となり、
561
耳
(
みみ
)
も
聞
(
きこ
)
え、
562
口
(
くち
)
も
縦横
(
じうわう
)
無碍
(
むげ
)
に
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
した。
563
田吾作
(
たごさく
)
『イヤ、
564
留公
(
とめこう
)
さま、
565
よう
来
(
き
)
てくれた。
566
もう
一足
(
ひとあし
)
早
(
はや
)
ければこんな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ふのだ
無
(
な
)
かつたに、
567
しかし
乍
(
なが
)
ら
最前
(
さいぜん
)
途中
(
とちう
)
で
見
(
み
)
たお
女中
(
ぢよちう
)
さまが、
568
今
(
いま
)
聞
(
き
)
けば
玉照姫
(
たまてるひめ
)
さまの
御
(
ご
)
生母
(
せいぼ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ、
569
何
(
なん
)
とマア
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
は
分
(
わか
)
らぬものですなア』
570
お
玉
(
たま
)
『
皆
(
みな
)
さま、
571
良
(
よ
)
い
処
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいまして
結構
(
けつこう
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
572
実
(
じつ
)
はこの
婆
(
ばば
)
アの
手下
(
てした
)
の
者共
(
ものども
)
が、
573
ミロク
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
御
(
お
)
宝
(
たから
)
を、
574
桶伏山
(
をけふせやま
)
から
盗
(
ぬす
)
み
出
(
だ
)
し、
575
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
に
秘蔵
(
ひざう
)
して
居
(
ゐ
)
たのを、
576
今朝
(
けさ
)
になつて
所在
(
ありか
)
を
知
(
し
)
り、
577
何
(
なん
)
とかして
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
さうと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たのですが、
578
婆
(
ばば
)
アの
監視
(
かんし
)
が
酷
(
きつ
)
いので、
579
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
580
誰人
(
たれ
)
か
助太刀
(
すけだち
)
に
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さつたらと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
た
矢先
(
やさき
)
、
581
貴方
(
あなた
)
のお
出
(
い
)
で、
582
こんな
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
はありませぬ。
583
サア
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
くこのお
宝
(
たから
)
を
持
(
も
)
つて
聖地
(
せいち
)
へ
帰
(
かへ
)
りませう』
584
と
後
(
あと
)
は
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
声
(
こゑ
)
さへ
曇
(
くも
)
る。
585
宗彦
(
むねひこ
)
『アヽさうで
御座
(
ござ
)
いましたか、
586
私
(
わたくし
)
は
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
より、
587
是非
(
ぜひ
)
共
(
とも
)
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
へ
行
(
い
)
つて
来
(
こ
)
いと
仰
(
あふ
)
せられて、
588
魔神
(
まがみ
)
を
征服
(
せいふく
)
せむと
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのです。
589
貴方
(
あなた
)
が
此処
(
ここ
)
に
囚
(
とら
)
はれて
御座
(
ござ
)
る
事
(
こと
)
も、
590
今
(
いま
)
の
今迄
(
いままで
)
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らなかつた。
591
サア
是
(
これ
)
からこの
婆
(
ばば
)
アを
言向
(
ことむ
)
け
和
(
や
)
はし、
592
寛
(
ゆ
)
る
寛
(
ゆ
)
ると
凱旋
(
がいせん
)
致
(
いた
)
しませう』
593
お
玉
(
たま
)
『
到底
(
たうてい
)
婆
(
ばば
)
アには
改心
(
かいしん
)
の
望
(
のぞ
)
みはありませぬ、
594
自分
(
じぶん
)
から
斯
(
か
)
うして
霊縛
(
れいばく
)
にかかつて
居
(
ゐ
)
るのですから、
595
これを
幸
(
さいは
)
ひに
皆
(
みな
)
さん
聖地
(
せいち
)
へ
帰
(
かへ
)
りませう。
596
此
(
この
)
お
宝
(
たから
)
は
厳重
(
げんぢう
)
に
封
(
ふう
)
をして
置
(
お
)
きました、
597
私
(
わたくし
)
が
捧持
(
ほうぢ
)
して
帰
(
かへ
)
ります。
598
前後
(
ぜんご
)
を
警固
(
けいご
)
して
下
(
くだ
)
さい。
599
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
アは
半日
(
はんにち
)
許
(
ばか
)
り
霊縛
(
れいばく
)
の
解
(
と
)
けないやうに
願
(
ねが
)
ひ
置
(
お
)
けば、
600
追
(
お
)
ひかけて
来
(
く
)
る
気遣
(
きづか
)
ひもありませぬ。
601
五六十
(
ごろくじふ
)
人
(
にん
)
の
手下
(
てした
)
の
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
が、
602
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて、
603
何
(
いづ
)
れも
遠方
(
ゑんぱう
)
へ
出稼
(
でかせ
)
ぎに
行
(
い
)
つた
留守
(
るす
)
の
間
(
ま
)
、
604
これ
全
(
まつた
)
く
天
(
てん
)
の
恵
(
めぐ
)
みたまふ
時
(
とき
)
でせう。
605
サアサア
長居
(
ながゐ
)
はおそれ』
606
とお
玉
(
たま
)
の
方
(
かた
)
は
帰綾
(
きれう
)
を
促
(
うなが
)
す。
607
宗彦
(
むねひこ
)
を
先頭
(
せんとう
)
にお
玉
(
たま
)
、
608
田吾作
(
たごさく
)
、
609
留公
(
とめこう
)
、
610
原彦
(
はらひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
順序
(
じゆんじよ
)
で、
611
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
高
(
たか
)
く
謡
(
うた
)
ひ、
612
四辺
(
あたり
)
の
木魂
(
こだま
)
に
響
(
ひび
)
かせながら、
613
聖地
(
せいち
)
を
指
(
さ
)
して
目出度
(
めでた
)
く
凱旋
(
がいせん
)
することとはなりける。
614
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
には
進退
(
しんたい
)
自由
(
じいう
)
を
失
(
うしな
)
つた
婆
(
ばば
)
ア
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
615
谷
(
たに
)
の
彼方
(
かなた
)
には
淋
(
さび
)
しげに
閑古鳥
(
かんこどり
)
が
鳴
(
な
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
616
(
大正一一・五・一四
旧四・一八
加藤明子
録)
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【第11章 鬼婆|第20巻|如意宝珠|霊界物語|/rm2011】
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