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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第20巻(未の巻)
序
凡例
総説歌
第1篇 宇都山郷
第1章 武志の宮
第2章 赤児の誤
第3章 山河不尽
第4章 六六六
第2篇 運命の綱
第5章 親不知
第6章 梅花の痣
第7章 再生の歓
第8章 心の鬼
第3篇 三国ケ嶽
第9章 童子教
第10章 山中の怪
第11章 鬼婆
第12章 如意宝珠
霊の礎(六)
霊の礎(七)
余白歌
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<<< 童子教
(B)
(N)
鬼婆 >>>
第一〇章
山中
(
さんちう
)
の
怪
(
くわい
)
〔六七二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻
篇:
第3篇 三国ケ嶽
よみ(新仮名遣い):
みくにがだけ
章:
第10章 山中の怪
よみ(新仮名遣い):
さんちゅうのかい
通し章番号:
672
口述日:
1922(大正11)年05月14日(旧04月18日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年3月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
田吾作は、おかしな宣伝歌を出任せに歌いながら山道を登っていく。すると上から赤子に乳を含ませながら下ってくる妙齢の女があった。田吾作は山女に話しかけるが、女はただ笑っている。
三人は女についていろいろと議論していると、女は毛むくじゃらの獣の下半身を表して、山の上の方に歩み出した。少し行っては後ろを振り向き、三人を見ている。三人は、悪魔が正体を表したことを知り、敵地に警戒を強めた。
やがて日が没し、闇が辺りを包むと、猛獣の声や怪しい物音が間断なく聞こえてきた。原彦は肝をつぶしてしまう。田吾作は原彦の気弱をなじり、昔、原彦が自分の玉を盗もうとしたときの話をして気を保たせようとする。
耳の痛い話を持ち出されて、原彦は宗彦に話しかけるが、宗彦は眠ってしまっている。田吾作はさらに、当時の話を面白い節回しで歌いだした。すると、自分は鬼婆だという声が聞こえてきた。田吾作は、留公の作り声だとすぐにわかって、声に対して怒鳴り返す。
原彦はおびえているが、鬼婆の振りをした留公はどこかへ行ってしまった。宗彦も起きて、留公に似た声だったと言うと、宗彦・田吾作は寝込んでしまった。原彦は二人の間で一睡もできずに震えていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-04-27 23:25:06
OBC :
rm2010
愛善世界社版:
218頁
八幡書店版:
第4輯 230頁
修補版:
校定版:
226頁
普及版:
99頁
初版:
ページ備考:
001
田吾作
(
たごさく
)
『
朝日
(
あさひ
)
は
光
(
ひか
)
る
月
(
つき
)
は
照
(
て
)
る
002
武志
(
たけし
)
の
森
(
もり
)
の
小夜砧
(
さよきぬた
)
003
宇都山
(
うづやま
)
郷
(
がう
)
を
立出
(
たちい
)
でて
004
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
005
神
(
かみ
)
のまにまに
宗彦
(
むねひこ
)
が
006
後
(
あと
)
に
随
(
したが
)
ひ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
007
誠明石
(
まことあかし
)
の
山道
(
やまみち
)
は
008
忽
(
たちま
)
ち
霧
(
きり
)
に
塞
(
ふさ
)
がりて
009
不動
(
ふどう
)
の
滝
(
たき
)
も
雲隠
(
くもがく
)
れ
010
一歩
(
ひとあし
)
二歩
(
ふたあし
)
探
(
さぐ
)
り
寄
(
よ
)
り
011
水音
(
みなおと
)
合図
(
あひづ
)
に
留公
(
とめこう
)
が
012
留
(
とめ
)
るも
聞
(
き
)
かず
真裸体
(
まつぱだか
)
013
蛙
(
かはづ
)
の
面
(
つら
)
に
水行
(
みづぎやう
)
を
014
ザワザワザワと
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら
015
手早
(
てばや
)
く
衣類
(
いるゐ
)
を
肩
(
かた
)
にかけ
016
霧
(
きり
)
押
(
おし
)
わけて
山頂
(
さんちやう
)
に
017
上
(
のぼ
)
つて
四方
(
よも
)
を
眺
(
なが
)
むれば
018
丹波
(
たんば
)
名物
(
めいぶつ
)
霧
(
きり
)
の
海
(
うみ
)
019
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
にポコポコと
020
山
(
やま
)
の
頂
(
いただ
)
き
浮
(
う
)
き
出
(
い
)
でて
021
宛然
(
さながら
)
絵
(
ゑ
)
を
見
(
み
)
る
如
(
ごと
)
くなる
022
景色
(
けしき
)
に
名残
(
なご
)
りを
惜
(
をし
)
みつつ
023
歩
(
あゆ
)
みの
下手
(
へた
)
な
留公
(
とめこう
)
を
024
抱
(
かか
)
へるやうに
可愛
(
いたは
)
りつ
025
明石
(
あかし
)
の
里
(
さと
)
も
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
026
道
(
みち
)
の
傍
(
かたへ
)
の
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
に
027
病
(
やまひ
)
に
悩
(
なや
)
む
原彦
(
はらひこ
)
が
028
身
(
み
)
の
禍
(
わざはひ
)
をとり
除
(
の
)
けて
029
此処
(
ここ
)
にいよいよ
四人
(
よにん
)
連
(
づ
)
れ
030
宗彦司
(
むねひこつかさ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひ
031
山国川
(
やまくにがは
)
の
一
(
ひと
)
つ
橋
(
ばし
)
032
渡
(
わた
)
る
折
(
をり
)
しも
川下
(
かはしも
)
に
033
ザンブと
立
(
た
)
ちし
水煙
(
みづけぶり
)
034
唯事
(
ただごと
)
ならじと
田吾作
(
たごさく
)
が
035
脚
(
あし
)
を
速
(
はや
)
めて
川
(
かは
)
の
辺
(
べ
)
に
036
駆
(
は
)
せつけ
見
(
み
)
ればこは
如何
(
いか
)
に
037
雪
(
ゆき
)
を
欺
(
あざむ
)
く
白
(
しろ
)
い
顔
(
かほ
)
038
優
(
やさ
)
しき
細
(
ほそ
)
き
手
(
て
)
を
上
(
あ
)
げて
039
流
(
なが
)
れの
中
(
なか
)
に
立岩
(
たちいは
)
の
040
蔭
(
かげ
)
に
潜
(
ひそ
)
みて
声
(
こゑ
)
限
(
かぎ
)
り
041
救
(
たす
)
けを
叫
(
さけ
)
ぶ
真最中
(
まつさいちう
)
042
見
(
み
)
るに
見
(
み
)
かねて
田吾作
(
たごさく
)
が
043
仁慈
(
みろく
)
の
心
(
こころ
)
を
発揮
(
はつき
)
して
044
わが
身
(
み
)
を
忘
(
わす
)
れ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
めば
045
川
(
かは
)
に
落
(
お
)
ちたる
妙齢
(
めうれい
)
の
046
美人
(
びじん
)
と
見
(
み
)
えしは
大江山
(
おほえやま
)
047
鬼
(
おに
)
の
身魂
(
みたま
)
の
再来
(
さいらい
)
か
048
青
(
あを
)
い
角
(
つの
)
をば
額上
(
がくじやう
)
に
049
ニユツと
生
(
はや
)
して
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
050
鰐口
(
わにぐち
)
開
(
ひら
)
きカラカラと
051
笑
(
わら
)
うてけつかる
厭
(
いや
)
らしさ
052
波
(
なみ
)
に
揉
(
も
)
まれた
田吾作
(
たごさく
)
も
053
進退
(
しんたい
)
茲
(
ここ
)
に
谷
(
きは
)
まりて
054
溺死
(
できし
)
をするかと
思
(
おも
)
ふほど
055
息
(
いき
)
も
苦
(
くる
)
しくなつた
時
(
とき
)
056
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
057
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
るとみるうちに
058
裸体
(
はだか
)
になつた
俺
(
おれ
)
の
身
(
み
)
は
059
巌
(
いはほ
)
の
上
(
うへ
)
に
衝
(
つ
)
つ
立
(
た
)
ちぬ
060
人三
(
にんさん
)
化七
(
ばけしち
)
鬼娘
(
おにむすめ
)
061
悪魔
(
あくま
)
の
奴
(
やつ
)
が
睨
(
にら
)
み
居
(
ゐ
)
る
062
コリヤ
堪
(
たま
)
らぬと
気
(
き
)
を
焦
(
いら
)
ち
063
宗彦
(
むねひこ
)
さまや
留公
(
とめこう
)
を
064
声
(
こゑ
)
を
限
(
かぎ
)
りに
招
(
まね
)
けども
065
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
に
襲
(
おそ
)
はれた
066
いの
一番
(
いちばん
)
に
宣伝使
(
せんでんし
)
067
宗彦
(
むねひこ
)
さまを
始
(
はじ
)
めとし
068
留公
(
とめこう
)
、
原彦
(
はらひこ
)
両人
(
りやうにん
)
は
069
青
(
あを
)
い
顔
(
かほ
)
して
慄
(
ふる
)
へゐる
070
エーもう
駄目
(
だめ
)
だもう
駄目
(
だめ
)
だ
071
斯
(
こ
)
んな
卑怯
(
ひけふ
)
な
腰抜
(
こしぬ
)
けを
072
力
(
ちから
)
にするのが
間違
(
まちが
)
ひよ
073
モー
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
是非
(
ぜひ
)
もない
074
地獄
(
ぢごく
)
の
釜
(
かま
)
のド
天井
(
てんじやう
)
075
一足飛
(
いつそくと
)
びに
飛
(
と
)
ぶ
心地
(
ここち
)
076
川
(
かは
)
へザンブと
踊
(
をど
)
り
入
(
い
)
り
077
鬼
(
おに
)
の
娘
(
むすめ
)
の
肩
(
かた
)
をとり
078
心中
(
しんぢう
)
しようか
待
(
ま
)
て
暫
(
しば
)
し
079
たつた
一
(
ひと
)
つの
此
(
この
)
生命
(
いのち
)
080
死
(
し
)
ぬのはチツト
早
(
はや
)
かろと
081
日頃
(
ひごろ
)
手練
(
しゆれん
)
の
游泳術
(
いうえいじゆつ
)
082
悠々
(
いういう
)
騒
(
さわ
)
がず
急流
(
きふりう
)
を
083
渡
(
わた
)
つて
岸
(
きし
)
に
駆
(
か
)
け
上
(
あが
)
り
084
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
眺
(
なが
)
むれば
085
鬼
(
おに
)
の
娘
(
むすめ
)
にあらずして
086
見
(
み
)
るも
怖
(
おそ
)
ろし
大蛇
(
をろち
)
の
姿
(
すがた
)
087
アヽ
欺
(
だま
)
された
欺
(
だま
)
された
088
俺
(
おれ
)
は
夢
(
ゆめ
)
でも
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たか
089
頬
(
ほほ
)
を
抓
(
つめ
)
つて
調
(
しら
)
ぶれば
090
やつぱり
頬
(
ほほ
)
はピリピリと
091
微
(
かすか
)
に
苦痛
(
くつう
)
を
訴
(
うつた
)
へる
092
水
(
みづ
)
は
何
(
ど
)
うだと
手
(
て
)
に
掬
(
すく
)
ひ
093
嘗
(
な
)
めて
見
(
み
)
たれば
矢張
(
やつぱ
)
り
水
(
みづ
)
094
瑞
(
みづ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
御
(
おん
)
守護
(
しゆご
)
は
095
清
(
きよ
)
く
涼
(
すず
)
しく
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
096
俺
(
おれ
)
は
結構
(
けつこう
)
な
修業
(
しうげふ
)
した
097
筑紫
(
つくし
)
の
日向
(
ひむか
)
の
立花
(
たちはな
)
の
098
小戸
(
をど
)
の
青木
(
あをき
)
ケ
原
(
はら
)
に
降
(
お
)
り
099
上
(
かみ
)
の
流
(
なが
)
れは
瀬
(
せ
)
が
速
(
はや
)
い
100
下
(
しも
)
の
流
(
なが
)
れは
瀬
(
せ
)
が
弱
(
よわ
)
い
101
瑞
(
みづ
)
の
身魂
(
みたま
)
や
三栗
(
みつぐり
)
の
102
中瀬
(
なかせ
)
に
下
(
お
)
りて
心地
(
ここち
)
好
(
よ
)
く
103
禊
(
みそ
)
ぎ
祓
(
はら
)
ひの
神業
(
かむわざ
)
を
104
首尾
(
しゆび
)
克
(
よ
)
く
了
(
を
)
へて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
105
茫然
(
ばうぜん
)
自失
(
じしつ
)
の
為体
(
ていたらく
)
106
アフンとして
居
(
ゐ
)
る
其
(
その
)
前
(
まへ
)
に
107
ニユツと
現
(
あら
)
はれオイ
留公
(
とめこう
)
108
原彦
(
はらひこ
)
何
(
なに
)
をして
居
(
ゐ
)
るか
109
ちつとは
確
(
しつか
)
りしてくれと
110
癪
(
しやく
)
に
障
(
さは
)
つて
横面
(
よこづら
)
を
111
ポカリとやつて
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
112
神力
(
しんりき
)
こもる
鉄腕
(
てつわん
)
に
113
一堪
(
ひとたま
)
りもなく
顛倒
(
てんたう
)
し
114
風
(
かぜ
)
に
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
散
(
ち
)
るやうに
115
さしもに
広
(
ひろ
)
い
大川
(
おほかは
)
を
116
毬
(
まり
)
を
中空
(
ちうくう
)
に
投
(
な
)
げし
如
(
ごと
)
117
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
は
飛
(
と
)
び
散
(
ち
)
つた
118
それより
宗彦
(
むねひこ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
119
田吾作
(
たごさく
)
さまの
神力
(
しんりき
)
に
120
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
して
今迄
(
いままで
)
の
121
態度
(
たいど
)
は
忽
(
たちま
)
ち
一変
(
いつぺん
)
し
122
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
我
(
が
)
を
折
(
を
)
つて
123
田吾作
(
たごさく
)
さまを
様付
(
さまづ
)
けに
124
言霊
(
ことたま
)
変
(
か
)
へた
可笑
(
をか
)
しさよ
125
丸木
(
まるき
)
の
橋
(
はし
)
を
後
(
あと
)
にして
126
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
127
錦
(
にしき
)
の
衣
(
ころも
)
を
纏
(
まと
)
ひたる
128
山姫
(
やまひめ
)
さまが
左右
(
さいう
)
より
129
化粧
(
けしやう
)
を
凝
(
こ
)
らして
田吾作
(
たごさく
)
を
130
ちよつと
待
(
ま
)
つてと
呼
(
よ
)
び
止
(
と
)
める
131
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
曲神
(
まがかみ
)
を
132
征伐
(
せいばつ
)
道中
(
だうちう
)
の
此
(
この
)
身体
(
からだ
)
133
お
門
(
かど
)
が
広
(
ひろ
)
いサア
放
(
はな
)
せ
134
花瀬
(
はなせ
)
の
里
(
さと
)
を
後
(
あと
)
にして
135
谷
(
たに
)
を
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
え
岩伝
(
いはづた
)
ひ
136
やうやう
三国
(
みくに
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
137
辿
(
たど
)
りついたる
折
(
をり
)
もあれ
138
留公
(
とめこう
)
の
態度
(
たいど
)
は
一変
(
いつぺん
)
し
139
徐々
(
そろそろ
)
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
きかける
140
コリヤ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
141
屹度
(
きつと
)
彼奴
(
あいつ
)
のことならば
142
奇抜
(
きばつ
)
な
芝居
(
しばゐ
)
を
打
(
う
)
つであろ
143
勝手
(
かつて
)
にせよと
突
(
つ
)
きやれば
144
留公
(
とめこう
)
の
奴
(
やつ
)
は
喜
(
よろこ
)
んで
145
尻
(
しり
)
ひつからげスタスタと
146
今
(
いま
)
来
(
き
)
し
道
(
みち
)
を
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く
147
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つた
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
148
激湍
(
げきたん
)
飛沫
(
ひまつ
)
轟々
(
ぐわうぐわう
)
と
149
音
(
おと
)
喧
(
かしま
)
しき
谷川
(
たにがは
)
の
150
辺
(
ほと
)
りを
伝
(
つた
)
ひわけ
登
(
のぼ
)
る
151
川
(
かは
)
を
隔
(
へだ
)
てて
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
152
得体
(
えたい
)
の
知
(
し
)
れぬ
老若
(
らうにやく
)
が
153
熊
(
くま
)
の
皮
(
かは
)
やら
猪
(
しし
)
の
皮
(
かは
)
154
襷
(
たすき
)
十字
(
じふじ
)
にあやどつて
155
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
に
干
(
ほ
)
し
乍
(
なが
)
ら
156
残
(
のこ
)
つた
熊
(
くま
)
の
生皮
(
なまかは
)
を
157
谷
(
たに
)
の
流
(
なが
)
れに
浸
(
ひた
)
しつつ
158
物
(
もの
)
をも
言
(
い
)
はず
洗
(
あら
)
ひ
居
(
ゐ
)
る
159
一行
(
いつかう
)
の
中
(
なか
)
の
周章者
(
あわてもの
)
160
腹
(
はら
)
の
腐
(
くさ
)
つた
原彦
(
はらひこ
)
が
161
欲
(
よく
)
に
恍
(
とぼ
)
けてザブザブと
162
生命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
の
谷渡
(
たにわた
)
り
163
見
(
み
)
るより
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
老若
(
らうにやく
)
は
164
この
勢
(
いきほ
)
ひに
辟易
(
へきえき
)
し
165
物
(
もの
)
をも
言
(
い
)
はず
手真似
(
てまね
)
して
166
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
遁
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く
167
続
(
つづ
)
いて
宗彦
(
むねひこ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
168
又
(
また
)
もや
谷
(
たに
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
169
欲
(
よく
)
に
限
(
かぎ
)
り
無
(
な
)
き
熊鷹
(
くまたか
)
の
170
面
(
つら
)
の
皮剥
(
かはは
)
ぎヌースー
式
(
しき
)
171
遺
(
のこ
)
るくまなく
発揮
(
はつき
)
して
172
矛
(
ほこ
)
も
交
(
まじ
)
へぬ
戦利品
(
せんりひん
)
173
鼻
(
はな
)
高々
(
たかだか
)
とうごめかし
174
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
と
洒落
(
しやれ
)
乍
(
なが
)
ら
175
田吾作
(
たごさく
)
さんが
捕獲
(
ほくわく
)
した
176
濡
(
ぬ
)
れた
皮
(
かは
)
をば
汗
(
あせ
)
かいて
177
絞
(
しぼ
)
つてくれた
殊勝
(
しゆしよう
)
さよ
178
迷
(
まよ
)
うた
路
(
みち
)
を
踏
(
ふ
)
み
直
(
なほ
)
し
179
小柴
(
こしば
)
をわけてテクテクと
180
胸
(
むな
)
つき
坂
(
ざか
)
を
這
(
は
)
ひ
上
(
あが
)
る
181
忽
(
たちま
)
ち
茲
(
ここ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
182
童子
(
どうじ
)
の
姿
(
すがた
)
現
(
あら
)
はれて
183
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
す
笑
(
わら
)
ふ
又
(
また
)
怒
(
おこ
)
る
184
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
有余
(
いうよ
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
185
三尺
(
さんじやく
)
足
(
た
)
らずの
幼児
(
をさなご
)
に
186
叱
(
しか
)
り
飛
(
と
)
ばされ
散々
(
さんざん
)
に
187
油
(
あぶら
)
の
汗
(
あせ
)
を
搾
(
しぼ
)
られて
188
謝
(
あやま
)
り
入
(
い
)
つた
不甲斐
(
ふがひ
)
なさ
189
童子
(
どうじ
)
の
姿
(
すがた
)
は
忽
(
たちま
)
ちに
190
煙
(
けぶり
)
と
消
(
き
)
えた
其
(
その
)
後
(
あと
)
に
191
耳
(
みみ
)
の
鼓膜
(
こまく
)
を
破
(
やぶ
)
りつつ
192
伝
(
つた
)
はり
来
(
きた
)
る
怪声
(
くわいせい
)
に
193
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
大秘密
(
だいひみつ
)
194
探
(
さぐ
)
る
手段
(
てだて
)
とならうかと
195
怖気
(
おぢけ
)
づいたる
両人
(
りやうにん
)
を
196
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
して
田吾作
(
たごさく
)
が
197
小柴
(
こしば
)
押
(
おし
)
わけ
怪声
(
くわいせい
)
を
198
辿
(
たど
)
り
辿
(
たど
)
りて
千仭
(
せんじん
)
の
199
谷
(
たに
)
の
傍
(
かたへ
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
200
木伝
(
こづた
)
ふ
猿
(
ましら
)
の
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
201
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
自棄腹
(
やけつぱら
)
202
スゴスゴ
帰
(
かへ
)
つて
両人
(
りやうにん
)
を
203
わが
言霊
(
ことたま
)
に
脅
(
おびや
)
かし
204
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しく
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く
205
軈
(
やが
)
ては
名高
(
なだか
)
き
鬼婆
(
おにばば
)
の
206
岩窟
(
いはや
)
の
棲処
(
すみか
)
も
見
(
み
)
えるだろ
207
神
(
かみ
)
の
賜
(
たま
)
ひし
言霊
(
ことたま
)
の
208
伊吹
(
いぶき
)
の
狭霧
(
さぎり
)
を
極端
(
きよくたん
)
に
209
神力
(
しんりき
)
強
(
つよ
)
い
田吾作
(
たごさく
)
が
210
イの
一番
(
いちばん
)
に
発射
(
はつしや
)
して
211
高天原
(
たかあまはら
)
の
蓮華台
(
れんげだい
)
212
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
213
功
(
いさを
)
を
建
(
た
)
つるは
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
214
アヽ
勇
(
いさ
)
ましや
勇
(
いさ
)
ましや
215
これから
乃公
(
わし
)
が
司令官
(
しれいくわん
)
216
宗彦
(
むねひこ
)
さまよ
原彦
(
はらひこ
)
よ
217
互
(
たがひ
)
に
胸
(
むね
)
を
打
(
う
)
ち
開
(
あ
)
けて
218
腹
(
はら
)
を
合
(
あは
)
して
田吾作
(
たごさく
)
が
219
指揮
(
しき
)
命令
(
めいれい
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
し
220
蜈蚣
(
むかで
)
の
姫
(
ひめ
)
の
成
(
な
)
れの
果
(
は
)
て
221
人
(
ひと
)
を
取
(
と
)
り
喰
(
く
)
ふ
鬼婆
(
おにばば
)
や
222
それに
随
(
したが
)
ふ
曲神
(
まがかみ
)
を
223
一泡
(
ひとあわ
)
吹
(
ふ
)
かせ
三五
(
あななひ
)
の
224
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
に
救
(
すく
)
はむは
225
今
(
いま
)
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
見
(
み
)
る
様
(
やう
)
だ
226
アヽ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
227
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
228
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
229
田吾作
(
たごさく
)
ここに
現
(
あら
)
はれて
230
神
(
かみ
)
と
鬼
(
おに
)
とを
立別
(
たてわ
)
けて
231
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
皇神
(
すめかみ
)
の
232
貴
(
うづ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
復命
(
かへりごと
)
233
申
(
まを
)
すも
余
(
あま
)
り
遠
(
とほ
)
からず
234
来
(
きた
)
れよ
来
(
きた
)
れいざ
来
(
きた
)
れ
235
敵
(
てき
)
は
幾万
(
いくまん
)
ありとても
236
怖
(
おそ
)
るる
勿
(
なか
)
れ
怖
(
おそ
)
るるな
237
神
(
かみ
)
は
汝
(
なんぢ
)
と
倶
(
とも
)
に
在
(
あ
)
り
238
神
(
かみ
)
は
我
(
わが
)
身
(
み
)
に
宿
(
やど
)
ります
239
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
240
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
241
と
呂律
(
ろれつ
)
も
廻
(
まは
)
らぬ
口
(
くち
)
から
出任
(
でまか
)
せの
歌
(
うた
)
を
謡
(
うた
)
ひ、
242
田吾作
(
たごさく
)
は
勢
(
いきほひ
)
鋭
(
するど
)
く、
243
山上
(
さんじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
244
幼
(
いとけ
)
なき
赤児
(
あかご
)
に
乳
(
ちち
)
をふくませ
乍
(
なが
)
ら
下
(
くだ
)
り
来
(
く
)
る
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
245
稍
(
やや
)
面部
(
めんぶ
)
に
憂愁
(
いうしう
)
の
色
(
いろ
)
を
浮
(
うか
)
べ
乍
(
なが
)
ら、
246
灌木
(
くわんぼく
)
の
茂
(
しげ
)
みより
浮
(
う
)
いたやうに
現
(
あら
)
はれた。
247
田吾作
(
たごさく
)
『ヤア
山姫
(
やまひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
248
俺
(
おれ
)
の
円満
(
ゑんまん
)
清朗
(
せいろう
)
なる
言霊
(
ことたま
)
に
感動
(
かんどう
)
し
居
(
を
)
つて、
249
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
するために
現
(
あら
)
はれたのだな。
250
コレハコレハ
山上
(
さんじやう
)
の
御
(
ご
)
婦人
(
ふじん
)
、
251
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
252
出迎
(
でむか
)
ひ
大儀
(
たいぎ
)
でござる』
253
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ』
254
田吾作
(
たごさく
)
『コリヤ
山女
(
やまをんな
)
、
255
俺
(
おれ
)
を
誰
(
たれ
)
だと
心得
(
こころえ
)
て
居
(
ゐ
)
る。
256
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
が
物申
(
ものまを
)
して
居
(
ゐ
)
るのに、
257
無礼
(
ぶれい
)
千万
(
せんばん
)
にも
吾々
(
われわれ
)
を
冷笑
(
れいせう
)
いたすとは
怪
(
け
)
しからぬ
代物
(
しろもの
)
だ。
258
汝
(
なんぢ
)
は
何
(
なん
)
といふ
魔神
(
まがみ
)
であるか。
259
あり
体
(
てい
)
に
申上
(
まをしあ
)
げろ。
260
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
せば
此
(
こ
)
の
鉄腕
(
てつわん
)
が
承知
(
しようち
)
を
致
(
いた
)
さぬぞ』
261
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ』
262
赤児
(
あかご
)
『フギア フギア フギア』
263
田吾作
(
たごさく
)
『
宗彦
(
むねひこ
)
さま、
264
原彦
(
はらひこ
)
さま、
265
チツト
加勢
(
かせい
)
して
下
(
くだ
)
さらぬか。
266
随分
(
ずゐぶん
)
怪
(
あや
)
しい
代物
(
しろもの
)
ですがなア』
267
宗彦
(
むねひこ
)
『
最前
(
さいぜん
)
からお
前
(
まへ
)
の
歌
(
うた
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば、
268
随分
(
ずゐぶん
)
豪勢
(
がうせい
)
なものだつた。
269
何事
(
なにごと
)
も
自分
(
じぶん
)
でなければ
出来
(
でき
)
ないやうな
業託
(
ごふたく
)
を
列
(
なら
)
べたぢやないか』
270
田吾作
(
たごさく
)
『
業託
(
ごふたく
)
は
業託
(
ごふたく
)
として
此
(
この
)
際
(
さい
)
一臂
(
いつぴ
)
の
補助
(
ほじよ
)
を
願
(
ねが
)
はねば、
271
言霊
(
ことたま
)
会社
(
くわいしや
)
も
経営難
(
けいえいなん
)
に
陥
(
おちい
)
り、
272
破産
(
はさん
)
の
運命
(
うんめい
)
に
瀕
(
ひん
)
するかも
分
(
わか
)
りませぬ。
273
どうぞ
嘘
(
うそ
)
八百株
(
はつぴやくかぶ
)
ほど
持
(
も
)
つて
下
(
くだ
)
さらぬか。
274
さうして
原彦
(
はらひこ
)
さまには
代言
(
だいげん
)
三百株
(
さんびやくかぶ
)
ほど
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひします』
275
宗彦
(
むねひこ
)
『アハヽヽヽ』
276
原彦
(
はらひこ
)
『ウフヽヽヽ』
277
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ』
278
赤児
(
あかご
)
『フギア フギア フギア』
279
田吾作
(
たごさく
)
『エー
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
泣
(
な
)
いたり、
280
笑
(
わら
)
うたり
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのか。
281
貴様
(
きさま
)
が
泣笑
(
なきわら
)
ひで
責
(
せ
)
めるなら
俺
(
おれ
)
は
怒
(
おこ
)
りの
言霊
(
ことたま
)
だ。
282
おこり
といふものは
間歇性
(
かんけつせい
)
の
病気
(
びやうき
)
で、
283
隔日
(
かくじつ
)
に
来
(
く
)
るものだが、
284
俺
(
おれ
)
は
毎日
(
まいにち
)
毎晩
(
まいばん
)
確実
(
かくじつ
)
に
責
(
せ
)
めてやるから、
285
左様
(
さう
)
思
(
おも
)
へ』
286
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ』
287
赤児
(
あかご
)
『フギア フギア フギア』
288
田吾作
(
たごさく
)
『エー
又
(
また
)
泣
(
な
)
いたり
笑
(
わら
)
つたり、
289
此
(
こ
)
の
結構
(
けつこう
)
な
神国
(
しんこく
)
に
生
(
うま
)
れて、
290
泣
(
な
)
いたり
笑
(
わら
)
つたりする
奴
(
やつ
)
があるか。
291
謹
(
つつし
)
み
畏
(
かしこ
)
み
真面目
(
まじめ
)
になつて
御
(
ご
)
神恩
(
しんおん
)
を
感謝
(
かんしや
)
せぬかい』
292
宗彦
(
むねひこ
)
『モシモシ
御
(
お
)
女中
(
ぢよちう
)
、
293
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
に
赤
(
あか
)
ん
坊
(
ばう
)
を
抱
(
だ
)
いて
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
うたのは、
294
何
(
いづ
)
れの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
でございますか。
295
どうぞ
御名
(
みな
)
を
名告
(
なの
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
296
田吾作
(
たごさく
)
『エー
宗彦
(
むねひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
297
何
(
なに
)
を
恍
(
とぼ
)
けてござるのだ。
298
此奴
(
こいつ
)
は
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
古狐
(
ふるぎつね
)
だ。
299
古狐
(
ふるぎつね
)
に
御
(
ご
)
丁寧
(
ていねい
)
な
敬
(
うやま
)
ひ
言葉
(
ことば
)
を
使
(
つか
)
ふといふ
事
(
こと
)
がありますか。
300
大方
(
おほかた
)
眉毛
(
まゆげ
)
を
読
(
よ
)
まれて
了
(
しま
)
つたのでせう。
301
アア
御
(
ご
)
用心
(
ようじん
)
御
(
ご
)
用心
(
ようじん
)
』
302
と
言
(
い
)
ひつつ
頻
(
しき
)
りに
眉
(
まゆ
)
に
唾
(
つばき
)
を
指尖
(
ゆびさき
)
で
発送
(
はつそう
)
してゐる。
303
田吾作
(
たごさく
)
『アー
留公
(
とめこう
)
は
予
(
かね
)
ての
計画
(
けいくわく
)
を
忘
(
わす
)
れ
居
(
を
)
つたか。
304
なんぼ
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
つても
現
(
あら
)
はれてはくれず、
305
力
(
ちから
)
に
思
(
おも
)
ふ
宣伝使
(
せんでんし
)
は
狐
(
きつね
)
につままれる。
306
何程
(
なにほど
)
智謀
(
ちぼう
)
絶倫
(
ぜつりん
)
の
俺
(
おれ
)
でも、
307
マア
二人
(
ふたり
)
の
気違
(
きちが
)
ひを
看病
(
かんびやう
)
し
乍
(
なが
)
ら
敵地
(
てきち
)
に
進
(
すす
)
むことは
出来
(
でき
)
ない。
308
誰
(
たれ
)
か
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て
此
(
この
)
足手纏
(
あしてまと
)
ひの
気違
(
きちが
)
ひを
引留
(
ひきと
)
めてくれるものがあるまいかなア。
309
近
(
ちか
)
くに
癲狂院
(
てんきやうゐん
)
があれば
入院
(
にふゐん
)
させたいものだが、
310
深山
(
しんざん
)
の
事
(
こと
)
とて、
311
仰天院
(
ぎやうてんゐん
)
ばかりで
精神
(
せいしん
)
病院
(
びやうゐん
)
らしいものも
無
(
な
)
し、
312
何
(
ど
)
うしたらよからう。
313
無線
(
むせん
)
電話
(
でんわ
)
をかけて
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
の
応援
(
おうゑん
)
を
願
(
ねが
)
ふ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
314
アヽ
困
(
こま
)
つた
破目
(
はめ
)
になつたものだ。
315
イヤア
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て、
316
これから
無言
(
むげん
)
霊話
(
れいわ
)
をかけて
留公
(
とめこう
)
を
呼
(
よ
)
んでやらう』
317
女
(
をんな
)
は
大
(
おほ
)
きな
臀
(
しり
)
をクレツと
捲
(
まく
)
つて
見
(
み
)
せた。
318
熊
(
くま
)
のやうな
真黒
(
まつくろ
)
の
毛
(
け
)
を
一面
(
いちめん
)
に
生
(
はや
)
し、
319
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
間
(
うち
)
に
上半身
(
じやうはんしん
)
は
純白
(
じゆんぱく
)
となり、
320
後半身
(
こうはんしん
)
は
純黒
(
じゆんこく
)
の
獣
(
けもの
)
となつてガサリガサリと
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
し、
321
三間
(
さんげん
)
程
(
ほど
)
行
(
い
)
つてはギヨロツと
後
(
うしろ
)
を
向
(
む
)
き、
322
又
(
また
)
三間
(
さんげん
)
程
(
ほど
)
行
(
い
)
つてはギロリツと
振向
(
ふりむ
)
き、
323
幾十回
(
いくじつくわい
)
とも
無
(
な
)
く
繰返
(
くりかへ
)
し
乍
(
なが
)
ら
山上
(
さんじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
324
田吾作
(
たごさく
)
『どうですか、
325
宗彦
(
むねひこ
)
さま、
326
原彦
(
はらひこ
)
さま、
327
天眼通
(
てんがんつう
)
も
此処
(
ここ
)
まで
応用
(
おうよう
)
出来
(
でき
)
れば
結構
(
けつこう
)
なものでせう。
328
無言
(
むげん
)
霊話
(
れいわ
)
を
高天原
(
たかあまはら
)
へかけたところ、
329
忽
(
たちま
)
ち
数万
(
すうまん
)
の
神軍
(
しんぐん
)
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
ひしその
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
に
怖
(
おそ
)
れ、
330
さしもに
兇暴
(
きようばう
)
なる
曲神
(
まがかみ
)
も、
331
目
(
め
)
も
身体
(
からだ
)
も
白黒
(
しろくろ
)
させて
正体
(
しやうたい
)
を
露
(
あら
)
はし
遁
(
に
)
げて
行
(
い
)
つたでせう。
332
これでも
田吾作
(
たごさく
)
が
命令
(
めいれい
)
を
聞
(
き
)
きませぬか』
333
宗彦
(
むねひこ
)
『それは、
334
まぐれ
当
(
あた
)
りだよ。
335
お
前
(
まへ
)
は
未
(
ま
)
だ
宣伝使
(
せんでんし
)
の
肩書
(
かたがき
)
がないのだから、
336
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
表面
(
おもて
)
に
通
(
とほ
)
らない。
337
腐
(
くさ
)
つても
鯛
(
たひ
)
だ、
338
名
(
な
)
は
実
(
じつ
)
の
主
(
しゆ
)
だから
矢張
(
やつぱ
)
り
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
に
怖
(
おそ
)
れて、
339
悪魔
(
あくま
)
が
正体
(
しやうたい
)
を
露
(
あら
)
はしたのだ。
340
如何
(
いか
)
に
悪魔
(
あくま
)
だつて
名
(
な
)
も
無
(
な
)
き
奴
(
やつ
)
等
(
ら
)
に
降伏
(
かうふく
)
するものか、
341
無名
(
むめい
)
の
人物
(
じんぶつ
)
に
降伏
(
かうふく
)
するやうなことでは、
342
悪魔
(
あくま
)
の
体面
(
たいめん
)
に
関
(
くわん
)
するからなア』
343
田吾作
(
たごさく
)
『アハヽヽヽ、
344
よう
仰有
(
おつしや
)
いますワイ、
345
宣伝使
(
せんでんし
)
のレツテル
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
位
(
くらゐ
)
を
金城
(
きんじやう
)
鉄壁
(
てつぺき
)
と
頼
(
たの
)
んで、
346
何事
(
なにごと
)
もそれでやつて
行
(
い
)
かうと
云
(
い
)
ふのは
実
(
じつ
)
に
無謀
(
むぼう
)
だ、
347
無恥
(
むち
)
だ、
348
依頼心
(
いらいしん
)
を
極端
(
きよくたん
)
に
発揮
(
はつき
)
したものだなア。
349
宣伝使
(
せんでんし
)
なんかは
地
(
ち
)
の
高天原
(
たかあまはら
)
から
紙
(
かみ
)
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
下
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
たが
最後
(
さいご
)
、
350
直
(
すぐ
)
に
首落
(
くびお
)
ちになるのだからなア。
351
宗彦
(
むねひこ
)
352
一、
353
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
言向戦
(
ことむけせん
)
に
不都合
(
ふつがふ
)
の
廉
(
かど
)
有之
(
これある
)
を
以
(
もつ
)
て、
354
評議
(
へうぎ
)
の
上
(
うへ
)
其
(
その
)
職
(
しよく
)
を
免
(
めん
)
ずべきもの
也
(
なり
)
。
355
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
356
とこれだけだ。
357
あんまり
肩書
(
かたがき
)
を
力
(
ちから
)
にして
貰
(
もら
)
ふまいかい。
358
それよりも
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
の
第一鬼
(
だいいちおに
)
を
征服
(
せいふく
)
し、
359
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
即
(
すなは
)
ち
天人
(
てんにん
)
の
御
(
ご
)
発動
(
はつどう
)
を
御
(
ご
)
祈願
(
きぐわん
)
するのが
一等
(
いつとう
)
だ』
360
宗彦
(
むねひこ
)
『よう
小理屈
(
こりくつ
)
を
囀
(
さへづ
)
る
男
(
をとこ
)
だなア。
361
私
(
わし
)
も
妹
(
いもうと
)
の
婿
(
むこ
)
に
百舌鳥
(
もず
)
や
燕
(
つばめ
)
を
持
(
も
)
つたかと
思
(
おも
)
へば
残念
(
ざんねん
)
だワイ、
362
アハヽヽヽ』
363
原彦
(
はらひこ
)
『モシモシ
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
は
義理
(
ぎり
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
ぢやありませぬか、
364
見
(
み
)
つともない、
365
喧嘩
(
けんくわ
)
はお
止
(
よ
)
しなさいませ。
366
兄弟
(
けいてい
)
墻
(
かき
)
に
鬩
(
せめ
)
ぐとも
外
(
ほか
)
其
(
その
)
侮
(
あなど
)
りを
防
(
ふせ
)
ぐと
云
(
い
)
ふことぢやありませぬか。
367
喧嘩
(
けんくわ
)
したければ
家
(
いへ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて、
368
いくらでも
御
(
お
)
やりなさい。
369
此処
(
ここ
)
は
敵前
(
てきぜん
)
否
(
いな
)
敵
(
てき
)
の
領地
(
りやうち
)
へ
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのですからなア』
370
田吾作
(
たごさく
)
『
敵地
(
てきち
)
は
敵地
(
てきち
)
、
371
喧嘩
(
けんくわ
)
は
喧嘩
(
けんくわ
)
、
372
兄弟
(
きやうだい
)
は
兄弟
(
きやうだい
)
と
区別
(
くべつ
)
を
立
(
た
)
てねば、
373
国政
(
こくせい
)
整理
(
せいり
)
上
(
じやう
)
都合
(
つがふ
)
が
悪
(
わる
)
い。
374
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
もゴモク
飯
(
めし
)
のやうに
混同
(
こんどう
)
されては、
375
社会
(
しやくわい
)
の
秩序
(
ちつじよ
)
が
紊
(
みだ
)
れて
了
(
しま
)
ふ。
376
総
(
すべ
)
て
分業
(
ぶんげふ
)
的
(
てき
)
になつて
来
(
き
)
た
文明
(
ぶんめい
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
377
兄弟
(
きやうだい
)
は
他人
(
たにん
)
の
始
(
はじ
)
まりと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるが、
378
私
(
わし
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
は
一種
(
いつしゆ
)
特別
(
とくべつ
)
だ、
379
他人
(
たにん
)
は
兄弟
(
きやうだい
)
の
始
(
はじ
)
まりとなつたのだからなア、
380
アハヽヽヽ』
381
宗彦
(
むねひこ
)
『もう
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
猫
(
ねこ
)
じやれ
の
様
(
やう
)
な
喧嘩
(
けんくわ
)
は
止
(
や
)
めようかい。
382
花
(
はな
)
ばつかり
咲
(
さ
)
かして
居
(
ゐ
)
る
山吹
(
やまぶき
)
では
仕方
(
しかた
)
がない。
383
サアこれからが
戦場
(
せんぢやう
)
だ』
384
原彦
(
はらひこ
)
は
心配相
(
しんぱいさう
)
な
顔
(
かほ
)
をして、
385
原彦
(
はらひこ
)
『
田吾作
(
たごさく
)
さま、
386
あの
通
(
とほ
)
り
宣伝使
(
せんでんし
)
が
仰有
(
おつしや
)
るのだから、
387
お
前
(
まへ
)
も
今
(
いま
)
暫
(
しばら
)
く
沈黙
(
ちんもく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
388
最前
(
さいぜん
)
から
矢釜敷
(
やかまし
)
う
仰有
(
おつしや
)
つた
彼
(
あ
)
の
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
とやらを、
389
何処
(
どこ
)
へ
落
(
おと
)
しなさつたのか』
390
田吾作
(
たごさく
)
『
目下
(
もくか
)
熟考中
(
じゆくかうちう
)
だ。
391
さう
八釜敷
(
やかまし
)
う
云
(
い
)
つてくれない。
392
何程
(
なんぼ
)
、
393
普賢
(
ふげん
)
菩薩
(
ぼさつ
)
の
俺
(
おれ
)
でも、
394
俄
(
にはか
)
にさう
奇智
(
きち
)
名案
(
めいあん
)
が
湧
(
わ
)
くものではない。
395
今
(
いま
)
心
(
こころ
)
の
畑
(
はたけ
)
に
智慧
(
ちゑ
)
の
種子
(
たね
)
を
蒔
(
ま
)
いたところだから、
396
せめて
十日
(
とをか
)
や
二十日
(
はつか
)
待
(
ま
)
つてくれないと、
397
蕪
(
かぶら
)
とも
菜種
(
なたね
)
とも
見当
(
けんたう
)
がつかぬ
哩
(
わい
)
。
398
アハヽヽヽ』
399
と
他愛
(
たあい
)
も
無
(
な
)
く
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
400
大木
(
たいぼく
)
の
根
(
ね
)
に
腰
(
こし
)
をかけて
横臥
(
わうぐわ
)
する。
401
四辺
(
しへん
)
暗澹
(
あんたん
)
として
天日
(
てんじつ
)
を
没
(
ぼつ
)
し、
402
闇
(
やみ
)
の
帳
(
とばり
)
は
固
(
かた
)
く
閉
(
とざ
)
された。
403
深山
(
しんざん
)
の
常
(
つね
)
として
猛獣
(
まうじう
)
の
吼
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふ
声
(
こゑ
)
、
404
天狗
(
てんぐ
)
の
木
(
き
)
を
捻折
(
ねぢを
)
るが
如
(
ごと
)
き
怪
(
あや
)
しの
物音
(
ものおと
)
、
405
間断
(
かんだん
)
無
(
な
)
く
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
406
原彦
(
はらひこ
)
は
此
(
こ
)
の
物凄
(
ものすご
)
き
声
(
こゑ
)
に
肝
(
きも
)
を
奪
(
うば
)
はれ、
407
声
(
こゑ
)
をも
立
(
た
)
て
得
(
え
)
ずビリビリと
慄
(
ふる
)
ひ
上
(
あが
)
り、
408
田吾作
(
たごさく
)
の
袖
(
そで
)
を
確
(
しつか
)
と
握
(
にぎ
)
り
小声
(
こごゑ
)
にて、
409
原彦
(
はらひこ
)
『オイ
田吾作
(
たごさく
)
、
410
コリヤ
何
(
ど
)
うなるのだらう。
411
随分
(
ずゐぶん
)
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
はエーないぢやないか』
412
田吾作
(
たごさく
)
『そうだ、
413
あまり
気分
(
きぶん
)
がよくない
事
(
こと
)
はない
哩
(
わい
)
。
414
併
(
しか
)
し
吾々
(
われわれ
)
の
小宇宙
(
せううちう
)
に
変動
(
へんどう
)
を
来
(
きた
)
し、
415
震災
(
しんさい
)
の
厄
(
やく
)
に
見舞
(
みま
)
はれて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
だなア』
416
原彦
(
はらひこ
)
『さう
高
(
たか
)
い
声
(
こゑ
)
で
言
(
い
)
つてくれな。
417
宣伝使
(
せんでんし
)
が
目
(
め
)
を
開
(
あ
)
けて
聞
(
き
)
かれたら
態
(
ざま
)
が
悪
(
わる
)
いワ』
418
田吾作
(
たごさく
)
『
態
(
ざま
)
が
悪
(
わる
)
いなんて、
419
よう
吐
(
ぬか
)
すなア。
420
貴様
(
きさま
)
の
旧悪
(
きうあく
)
は
みんな
宣伝使
(
せんでんし
)
の
前
(
まへ
)
で、
421
うつつ
になつて
喋
(
しやべ
)
つたのだから、
422
今
(
いま
)
になつてそんな
テレ
隠
(
かく
)
しをしたつて
駄目
(
だめ
)
だよ。
423
随分
(
ずゐぶん
)
昔
(
むかし
)
は
悪人
(
あくにん
)
だつたなア。
424
俺
(
おれ
)
が
愛宕山
(
あたごやま
)
を
越
(
こ
)
えて
結構
(
けつこう
)
な
黄色
(
わうしよく
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
懐
(
ふところ
)
に
持
(
も
)
ち、
425
保津
(
ほづ
)
の
里
(
さと
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
く
)
ると、
426
森蔭
(
もりかげ
)
から
頬被
(
ほうかむ
)
りをしてヌーと
現
(
あら
)
はれた
奴
(
やつ
)
は
誰
(
たれ
)
だつたいのー。
427
随分
(
ずゐぶん
)
彼処
(
あこ
)
も
此処
(
ここ
)
も
劣
(
おと
)
らぬ
凄
(
すご
)
い
所
(
ところ
)
だつたねー。
428
さうして
何々
(
なになに
)
とか
云
(
い
)
ふ
腹
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い
男
(
をとこ
)
が
俺
(
おれ
)
の
玉
(
たま
)
を
嗅
(
かぎ
)
つけ、
429
腹
(
はら
)
をペコペコ、
430
鼻
(
はな
)
をピコピコ、
431
ハラ
ハラ
ヒコ
ヒコさせ
乍
(
なが
)
ら
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
やがつて「モーシモーシ
旅
(
たび
)
の
御
(
お
)
方
(
かた
)
、
432
私
(
わたくし
)
は
此
(
この
)
辺
(
へん
)
の
猟人
(
かりうど
)
でございます。
433
最前
(
さいぜん
)
からの
雨
(
あめ
)
に
火縄
(
ひなは
)
も
湿
(
しめ
)
り、
434
困難
(
こんなん
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますれば、
435
どうぞ
提灯
(
ちやうちん
)
の
火
(
ひ
)
を
御
(
お
)
貸
(
か
)
し
下
(
くだ
)
さいませ」と
出
(
で
)
て
来居
(
きを
)
つたのだ。
436
さうすると
田吾作
(
たごさく
)
と
云
(
い
)
ふ
旅人
(
たびびと
)
が「ハテ
心得
(
こころえ
)
ぬ、
437
此
(
こ
)
の
淋
(
さび
)
しき
山道
(
やまみち
)
の、
438
しかも
森林
(
しんりん
)
の
中
(
なか
)
より
狩人
(
かりうど
)
が
現
(
あら
)
はれるとは
合点
(
がてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬ。
439
昼
(
ひる
)
ならば
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
440
夜分
(
やぶん
)
に
猪
(
しし
)
が
目
(
め
)
につく
筈
(
はず
)
はない。
441
こんな
不合理
(
ふがふり
)
なことを
言
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
442
確
(
たし
)
かに
猪
(
しし
)
の
猟夫
(
れふし
)
ではなからう。
443
懐
(
ふところ
)
の
我
(
わ
)
が
玉
(
たま
)
を
猟
(
れふ
)
する
曲者
(
くせもの
)
か、
444
但
(
ただし
)
は
追剥
(
おひはぎ
)
か」と
流石
(
さすが
)
の
奇智
(
きち
)
神謀
(
しんぼう
)
に
富
(
と
)
んだ
旅人
(
たびびと
)
は
稍
(
やや
)
躊躇
(
ちうちよ
)
の
態
(
てい
)
であつた』
445
原彦
(
はらひこ
)
『オイオイそんなことを
言
(
い
)
ふものぢやない。
446
もう
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
止
(
や
)
めてくれ』
447
田吾作
(
たごさく
)
『マア
好
(
い
)
いぢやないか。
448
此
(
こ
)
の
夜
(
よ
)
の
長
(
なが
)
いのに、
449
ちつと
言
(
い
)
はしてくれ、
450
口
(
くち
)
に
虫
(
むし
)
が
湧
(
わ
)
く
哩
(
わい
)
。
451
エー
一寸
(
ちよつと
)
五
(
ご
)
分間
(
ふんかん
)
休息
(
きうそく
)
を
致
(
いた
)
しました。
452
お
客様
(
きやくさま
)
方
(
がた
)
御
(
お
)
待
(
ま
)
たせをして
済
(
す
)
みませぬ。
453
これから
前段
(
ぜんだん
)
の
引続
(
ひきつづ
)
きを
一席
(
いつせき
)
講演
(
かうえん
)
致
(
いた
)
しまして
御
(
ご
)
高聞
(
かうぶん
)
に
達
(
たつ
)
します』
454
原彦
(
はらひこ
)
『さう
昔
(
むかし
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
455
心気
(
しんき
)
昂奮
(
かうふん
)
させた
所
(
ところ
)
が
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
456
もう
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
止
(
や
)
めて
欲
(
ほ
)
しいものだなア』
457
田吾作
(
たごさく
)
『
俺
(
おれ
)
のは
天下
(
てんか
)
の
公憤
(
こうふん
)
だよ。
458
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
に
対
(
たい
)
して
私憤
(
しふん
)
を
洩
(
も
)
らすのぢやない。
459
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
との
話
(
はなし
)
でも
何
(
なん
)
でも
無
(
な
)
い。
460
過
(
す
)
ぎし
昔
(
むかし
)
の
夢物語
(
ゆめものがたり
)
で、
461
決
(
けつ
)
して
俺
(
おれ
)
の
腹
(
はら
)
も
原彦
(
はらひこ
)
も
悪
(
わる
)
いのぢやない。
462
お
前
(
まへ
)
はこんな
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くと、
463
むかついて
宗彦
(
むねひこ
)
が
悪
(
わる
)
くなるだらうが、
464
これも
時
(
とき
)
の
廻
(
まは
)
り
合
(
あは
)
せだ。
465
忍耐
(
にんたい
)
は
幸福
(
かうふく
)
の
基
(
もと
)
だから、
466
忍耐
(
にんたい
)
をして
面白
(
おもしろ
)
い
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
くのだよ。
467
……
時
(
とき
)
しもあれや
怪
(
あや
)
しき
何者
(
なにもの
)
かの
足音
(
あしおと
)
がする。
468
よくよく
見
(
み
)
れば
一頭
(
いつとう
)
の
手負
(
てお
)
ひ
猪
(
じし
)
だ。
469
猟夫
(
れふし
)
と
名乗
(
なの
)
つた
男
(
をとこ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
470
キヤツと
声
(
こゑ
)
を
立
(
た
)
て
旅人
(
たびびと
)
の
身体
(
からだ
)
に
しがみ
ついた。
471
旅人
(
たびびと
)
は
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
に
思
(
おも
)
ふやう。
472
四足
(
よつあし
)
の
一匹
(
いつぴき
)
位
(
くらゐ
)
に
胆
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
すやうな
奴
(
やつ
)
だから、
473
まさか
悪人
(
あくにん
)
ではあるまいと
哀憐
(
あいれん
)
の
情
(
じやう
)
が
勃然
(
ぼつぜん
)
として、
474
心中
(
しんちう
)
に
萠芽
(
はうが
)
し……』
475
原彦
(
はらひこ
)
『そんなむづかしい
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて、
476
解
(
わか
)
るものかい』
477
田吾作
(
たごさく
)
『
解
(
わか
)
らぬのは
有難
(
ありがた
)
いのだぞ。
478
坊主
(
ばうず
)
のお
経
(
きやう
)
だつて、
479
ダダブダ ダダブダと
拍子
(
へうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
声
(
こゑ
)
でずるずるべつたりに
棒読
(
ぼうよ
)
みにするから、
480
人間
(
にんげん
)
に
解
(
わか
)
らぬから
有難
(
ありがた
)
いやうなものだ。
481
お
経
(
きやう
)
といふものは
不可解
(
ふかかい
)
なのが
調法
(
てうはふ
)
なのだ。
482
俺
(
おれ
)
のも
少
(
すこ
)
し
和讃
(
わさん
)
じみ
て
居
(
を
)
るが、
483
これでも
新奇
(
しんき
)
流行
(
りうかう
)
のアホダラ
経
(
きやう
)
を
聞
(
き
)
くと
思
(
おも
)
うて
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
よ。
484
随分
(
ずゐぶん
)
利益
(
りえき
)
があるぞ。
485
第一
(
だいいち
)
怖
(
おそ
)
ろしいと
云
(
い
)
ふ
観念
(
かんねん
)
を
忘
(
わす
)
れ、
486
夜
(
よ
)
が
長
(
なが
)
いと
云
(
い
)
ふ
苦
(
くる
)
しみを
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
だけなつと
救
(
すく
)
はれるのだ。
487
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
現当
(
げんたう
)
利益
(
りやく
)
の
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
はありませぬ。
488
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
内
(
うち
)
に
一人
(
ひとり
)
位
(
くらゐ
)
は
耳
(
みみ
)
に
応
(
こた
)
へる
優婆塞
(
うばそく
)
があるかも
知
(
し
)
れぬ。
489
それも
修行
(
しうぎやう
)
だと
思
(
おも
)
つて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば
遂
(
つひ
)
に
習慣性
(
しふくわんせい
)
となり、
490
初
(
はじ
)
めには
耳
(
みみ
)
についた
汽車
(
きしや
)
の
音
(
おと
)
が、
491
終
(
しま
)
ひには
何
(
なん
)
ともないやうになるのと
同
(
おな
)
じことだ。
492
マア
辛抱
(
しんばう
)
してお
日
(
ひ
)
待
(
ま
)
ちの
説教
(
せつけう
)
を
聞
(
き
)
くと
思
(
おも
)
つて
聞
(
き
)
くがよいワ』
493
宗彦
(
むねひこ
)
『アーア
喧
(
やかま
)
しいなア。
494
何
(
なに
)
をヒソビソとお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
495
黙
(
だま
)
つて
寝
(
ね
)
ないか。
496
最前
(
さいぜん
)
から
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば
猟夫
(
れふし
)
がどうしたの、
497
斯
(
か
)
うしたのと
仕様
(
しやう
)
も
無
(
な
)
い
昔話
(
むかしばな
)
しを
持
(
も
)
ち
出
(
だ
)
して、
498
乞食
(
こじき
)
坊主
(
ばうず
)
のホイト
節
(
ぶし
)
のやうなことを
云
(
い
)
つてゐたぢやないか。
499
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
寝
(
ね
)
え
寝
(
ね
)
え。
500
又
(
また
)
明日
(
あす
)
大活動
(
だいくわつどう
)
をやらねばならぬから
肉体
(
にくたい
)
の
休養
(
きうやう
)
が
肝腎
(
かんじん
)
だ』
501
原彦
(
はらひこ
)
『
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
502
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
田吾
(
たご
)
さまが、
503
耳
(
みみ
)
の
痛
(
いた
)
いことを
喋
(
しやべ
)
るのですもの、
504
チツト
叱
(
しか
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
505
宗彦
(
むねひこ
)
は
早
(
はや
)
くも
眠
(
ねむ
)
りに
就
(
つい
)
たと
見
(
み
)
えて
何
(
なん
)
の
応答
(
いらへ
)
も
無
(
な
)
い。
506
田吾作
(
たごさく
)
『そーれから、
507
そーれから、
508
鱏
(
ゑゝ
)
、
鱧
(
はも
)
、
鰈
(
かれひ
)
、
矢柄
(
やがら
)
(エーはばかり
乍
(
なが
)
ら)
509
無精山
(
ぶしやうざん
)
道楽寺
(
だうらくじ
)
ナマ
臭
(
ぐさ
)
厄介
(
やくかい
)
坊主
(
ばうず
)
の
510
自堕落
(
じだらく
)
上人
(
しやうにん
)
御
(
ご
)
招待
(
せうたい
)
に
預
(
あづか
)
りました
511
抑
(
そもそ
)
も
愚僧
(
ぐそう
)
が
万国
(
ばんこく
)
修行
(
しうぎやう
)
の
根元
(
こんげん
)
512
戒行
(
かいぎやう
)
、
難行
(
なんぎやう
)
、
苦行
(
くぎやう
)
、
故郷
(
こきやう
)
の
513
住
(
す
)
めば
都
(
みやこ
)
を
後
(
あと
)
に
愛宕
(
あたご
)
の
山
(
やま
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
514
闇
(
やみ
)
を
冒
(
をか
)
してスタスタと
515
保津
(
ほづ
)
の
里
(
さと
)
までやつて
来
(
き
)
ました
516
時
(
とき
)
しもあれや
森蔭
(
もりかげ
)
に
517
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
有余
(
いうよ
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
518
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でて
皺嗄
(
しわが
)
れた
519
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げコレコレモーシ
旅
(
たび
)
の
人
(
ひと
)
520
提灯
(
ちやうちん
)
の
明
(
あ
)
かり
貸
(
か
)
して
下
(
くだ
)
さんせ
521
聞
(
き
)
いて
旅人
(
たびびと
)
立止
(
たちと
)
まり
522
此
(
こ
)
の
闇黒
(
くらがり
)
に
提灯
(
ちやうちん
)
の
523
火
(
ひ
)
が
欲
(
ほ
)
しい
奴
(
やつ
)
は
何者
(
なにもの
)
ぞ
524
夏
(
なつ
)
の
夕
(
ゆふ
)
べの
火取虫
(
ひとりむし
)
か
525
飛
(
と
)
んで
火
(
ひ
)
に
入
(
い
)
り
身
(
み
)
を
焼
(
や
)
いて
526
死
(
し
)
んで
了
(
しま
)
ふのを
知
(
し
)
らないか
527
そんな
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
止
(
よ
)
せ
止
(
よ
)
せと
528
後
(
あと
)
をも
見
(
み
)
ずに
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
529
性凝
(
しやうこ
)
りも
無
(
な
)
く
怪
(
あや
)
しの
男
(
をとこ
)
530
オツトどつこい
一寸
(
ちよつと
)
違
(
ちが
)
うた
531
折
(
をり
)
から
猪
(
しし
)
奴
(
め
)
が
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
た
532
怪
(
あや
)
しの
男
(
をとこ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて
533
猿
(
ましら
)
のやうな
声
(
こゑ
)
を
上
(
あ
)
げ
534
キヤツキヤと
言
(
い
)
うてしがみつく
535
此奴
(
こいつ
)
はよつぽど
弱虫
(
よわむし
)
と
536
心
(
こころ
)
を
許
(
ゆる
)
して
道伴
(
みちづ
)
れに
537
なつてやつたがわが
不覚
(
ふかく
)
538
大井
(
おほゐ
)
の
川
(
かは
)
の
袂
(
たもと
)
まで
539
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
しも
其奴
(
そやつ
)
めが
540
コレコレモーシ
旅
(
たび
)
の
人
(
ひと
)
541
お
前
(
まへ
)
の
懐中
(
くわいちう
)
に
光
(
ひか
)
るもの
542
一寸
(
ちよつと
)
私
(
わたし
)
に
貸
(
か
)
してくれ
543
貸
(
か
)
さな
斯
(
か
)
うぢやと
高飛車
(
たかびしや
)
に
544
拳固
(
げんこ
)
をかためて
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せる
545
此方
(
こなた
)
も
痴者
(
しれもの
)
ひつ
ぱづし
546
腕首
(
うでくび
)
掴
(
つか
)
んで
中天
(
ちうてん
)
に
547
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて
投
(
な
)
げやれば
548
空中
(
くうちう
)
の
舞
(
まひ
)
を
舞
(
ま
)
ひ
納
(
をさ
)
め
549
遥
(
はるか
)
向方
(
むかう
)
の
川中
(
かはなか
)
へ
550
はまつて
死
(
し
)
んだと
思
(
おも
)
ひきや
551
蛙
(
かはづ
)
のやうな
態
(
ざま
)
をして
552
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
からガサガサと
553
やつて
来居
(
きを
)
つて
旅人
(
たびびと
)
が
554
胸倉
(
むなぐら
)
グツト
引掴
(
ひつつか
)
み
555
川
(
かは
)
へザンブと
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んだ
556
怪
(
あや
)
しの
男
(
をとこ
)
は
肝腎
(
かんじん
)
の
557
玉
(
たま
)
が
無
(
な
)
いので
力
(
ちから
)
抜
(
ぬ
)
け
558
青
(
あを
)
い
顔
(
かほ
)
してノソノソと
559
疵
(
きず
)
持
(
も
)
つ
足
(
あし
)
の
何処
(
どこ
)
となく
560
帰
(
かへ
)
つて
行
(
い
)
たが
其
(
そ
)
の
跡
(
あと
)
は
561
何処
(
どこ
)
かの
松
(
まつ
)
の
並木原
(
なみきはら
)
562
根元
(
ねもと
)
に
埋
(
う
)
められ
肥料
(
こえ
)
となり
563
くたばりしかと
思
(
おも
)
ふうち
564
明石峠
(
あかしたうげ
)
の
麓
(
ふもと
)
なる
565
小
(
ちひ
)
さい
村
(
むら
)
の
離
(
はな
)
れ
家
(
や
)
の
566
首
(
くび
)
をおつるが
婿
(
むこ
)
となり
567
ハラ
ハラし
乍
(
なが
)
ら
十五
(
じふご
)
年
(
ねん
)
568
胸
(
むね
)
も
ヒコ
ヒコ
十五
(
じふご
)
年
(
ねん
)
569
終
(
つひ
)
には
病
(
やまひ
)
を
惹
(
ひ
)
き
起
(
おこ
)
し
570
明日
(
あす
)
をも
知
(
し
)
れぬ
難儀
(
なんぎ
)
の
場
(
ば
)
571
三五教
(
あななひけう
)
の
宗彦
(
むねひこ
)
が
572
留公
(
とめこう
)
、
田吾作
(
たごさく
)
両人
(
りやうにん
)
の
573
立派
(
りつぱ
)
な
家来
(
けらい
)
を
引伴
(
ひきつ
)
れて
574
お
出
(
い
)
でましたるその
御
(
お
)
かげ
575
ケロリと
癒
(
なほ
)
つた
人足
(
にんそく
)
が
576
今
(
いま
)
は
三国
(
みくに
)
の
山
(
やま
)
登
(
のぼ
)
り
577
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくじや
)
の
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
578
聞
(
き
)
いてブルブル
慄
(
ふる
)
て
居
(
ゐ
)
る
579
アヽ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
580
エー
無精山
(
ぶしやうざん
)
道楽寺
(
だうらくじ
)
581
なまぐさ
厄介
(
やくかい
)
坊主
(
ばうず
)
の
自堕落
(
じだらく
)
上人
(
しやうにん
)
が
582
此
(
こ
)
の
所
(
ところ
)
に
現
(
あら
)
はれまして
583
諸行
(
しよぎやう
)
無常
(
むじやう
)
や
是生
(
ぜしやう
)
滅法
(
めつぽふ
)
584
やがて
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
の
愁歎場
(
しうたんば
)
585
ブツブツ
唱
(
とな
)
へ
奉
(
たてまつ
)
る
586
チヤカポコ チヤカポコ ポコポコポコ』
587
此
(
この
)
時
(
とき
)
一寸先
(
いつすんさき
)
も
見
(
み
)
えぬ
闇黒
(
くらがり
)
の
中
(
なか
)
より
聞
(
き
)
き
慣
(
な
)
れぬ
妙
(
めう
)
な
鼻声
(
はなごゑ
)
交
(
まじ
)
りの
婆
(
ばば
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
588
婆
(
ばば
)
『ハテ
訝
(
いぶ
)
かしやな、
589
俺
(
わし
)
は
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
である。
590
今日
(
けふ
)
三五教
(
あななひけう
)
の
身魂
(
みたま
)
の
研
(
みが
)
けた
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
が、
591
当山
(
たうざん
)
へわれを
退治
(
たいぢ
)
せむと
企
(
くはだ
)
て、
592
上
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
ると
聞
(
き
)
き、
593
これこそ
天
(
てん
)
の
時節
(
じせつ
)
の
到来
(
たうらい
)
と
喉
(
のど
)
を
鳴
(
な
)
らして
待
(
ま
)
つてゐた。
594
蛙
(
かはづ
)
や
くちなは
はモウ
喰
(
く
)
ひ
飽
(
あ
)
いた。
595
赤児
(
あかご
)
も
最早
(
もはや
)
飽
(
あ
)
いて
来
(
き
)
た。
596
宗彦
(
むねひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
597
魂
(
みたま
)
の
綺麗
(
きれい
)
な
奴
(
やつ
)
と
聞
(
き
)
いた
故
(
ゆゑ
)
、
598
噛
(
か
)
ぶつて
喰
(
く
)
うたら
甘
(
うま
)
からうと、
599
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
楽
(
たの
)
しんで
待
(
ま
)
つてゐた。
600
どうやらこれが
宗彦
(
むねひこ
)
らしい。
601
さうして
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
は、
602
どれもこれも
口
(
くち
)
ばつかり
大
(
おほ
)
きい
奴
(
やつ
)
で、
603
ちよつとも
実
(
み
)
のない
奴
(
やつ
)
だ。
604
三匹
(
さんびき
)
が
三匹
(
さんびき
)
とも、
605
よう
斯
(
こ
)
んなガラクタが
揃
(
そろ
)
うたものだ。
606
アー
あて
が
違
(
ちが
)
うた。
607
この
年寄
(
としより
)
が
足許
(
あしもと
)
の
見
(
み
)
えぬやうな
闇黒
(
くらがり
)
をうまい
餌食
(
ゑじき
)
があると
思
(
おも
)
つて
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのに、
608
薩張
(
さつぱ
)
り
梟鳥
(
ふくろどり
)
の
宵企
(
よひだく
)
み、
609
夜食
(
やしよく
)
に
外
(
はづ
)
れたやうなものだ。
610
それでも
尻
(
しり
)
の
傍
(
はた
)
には、
611
少
(
すこ
)
し
甘
(
うま
)
さうな
肉
(
み
)
が
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
るだらうから、
612
これなつと
喰
(
く
)
てやらうかな』
613
田吾作
(
たごさく
)
『コリヤ
婆
(
ばば
)
のやうな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しやがつて、
614
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ。
615
尻
(
しり
)
なつと
喰
(
くら
)
へ、
616
貴様
(
きさま
)
がそんな
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をしたつて、
617
田吾作
(
たごさく
)
さんはよく
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
618
まだ
貴様
(
きさま
)
の
出
(
で
)
る
幕
(
まく
)
ぢやないぞ。
619
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
化物
(
ばけもの
)
はモウ
足
(
あし
)
を
洗
(
あら
)
つて
寝
(
ね
)
る
時分
(
じぶん
)
だ。
620
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
さまに
願
(
ねが
)
つた
事
(
こと
)
を
早
(
はや
)
く
往
(
い
)
つて
計画
(
けいくわく
)
せぬかい。
621
馬鹿
(
ばか
)
だなア、
622
陰謀
(
いんぼう
)
発覚
(
はつかく
)
の
虞
(
おそれ
)
があるぞ。
623
化
(
ばけ
)
るならモツと
仮声
(
こわいろ
)
を
上手
(
じやうず
)
に
使
(
つか
)
へ。
624
留
(
とめ
)
……イヤウーン
留度
(
とめど
)
も
無
(
な
)
く
馬鹿
(
ばか
)
ばつかり
垂
(
た
)
れやがつて、
625
何処
(
どこ
)
の
呆
(
はう
)
け
曲津
(
まがつ
)
だ。
626
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
すと
承知
(
しようち
)
せぬぞ』
627
原彦
(
はらひこ
)
は
又
(
また
)
小声
(
こごゑ
)
で、
628
原彦
(
はらひこ
)
『オイ
田吾作
(
たごさく
)
さま、
629
相手
(
あひて
)
になるな。
630
あんな
化物
(
ばけもの
)
に
此
(
こ
)
の
闇黒
(
くらがり
)
で
相手
(
あひて
)
になつたとこで、
631
どうすることも
出来
(
でき
)
ぬぢやないか』
632
田吾作
(
たごさく
)
『
八釜敷
(
やかまし
)
う
云
(
い
)
ふない。
633
俺
(
おれ
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
留公
(
とめこう
)
……オツトどつこい
留
(
と
)
めようとしたつて、
634
斯
(
か
)
う
馬力
(
ばりき
)
がかかつてからは、
635
容易
(
ようい
)
に
止
(
と
)
まるものぢやないワ』
636
留公
(
とめこう
)
『
田吾作
(
たごさく
)
、
637
原彦
(
はらひこさま
)
、
638
宗彦
(
むねひこ
)
様
(
さま
)
、
639
又
(
また
)
明日
(
あす
)
御
(
お
)
目
(
め
)
にかからう。
640
頭
(
あたま
)
から
岩窟
(
いはや
)
の
婆
(
ばば
)
が
塩
(
しほ
)
つけて
噛
(
か
)
ぶつてやらう。
641
それを
楽
(
たの
)
しんで
居
(
を
)
つたがよからう』
642
宗彦
(
むねひこ
)
『あの
声
(
こゑ
)
は
婆
(
ばば
)
の
声
(
こゑ
)
のやうでもあり、
643
鼻声
(
はなごゑ
)
だが
何処
(
どこ
)
ともなしに
留公
(
とめこう
)
に
似
(
に
)
たとこがあるぢやないか、
644
ナア
田吾作
(
たごさく
)
さま』
645
田吾作
(
たごさく
)
『マア
何
(
なん
)
でもよろしい
哩
(
わい
)
。
646
何
(
いづ
)
れ
明日
(
あす
)
になつたら
解
(
わか
)
りませう。
647
サアサアモー
一寝入
(
ひとねい
)
り』
648
と
横
(
よこ
)
になり、
649
喋
(
しやべ
)
り
草臥
(
くたび
)
れて
他愛
(
たあい
)
もなく
寝込
(
ねこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
650
宗彦
(
むねひこ
)
も
亦
(
また
)
寝
(
しん
)
に
就
(
つ
)
く。
651
原彦
(
はらひこ
)
は
時々
(
ときどき
)
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
の
響
(
ひび
)
き
来
(
きた
)
るに
脅
(
おびや
)
かされ、
652
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
に
挟
(
はさ
)
まつて
一睡
(
いつすゐ
)
も
得
(
え
)
せず、
653
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かしける。
654
(
大正一一・五・一四
旧四・一八
外山豊二
録)
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