霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 山中(さんちう)の怪(くわい)〔六七二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻 篇:第3篇 三国ケ嶽 よみ(新仮名遣い):みくにがだけ
章:第10章 山中の怪 よみ(新仮名遣い):さんちゅうのかい 通し章番号:672
口述日:1922(大正11)年05月14日(旧04月18日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年3月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
田吾作は、おかしな宣伝歌を出任せに歌いながら山道を登っていく。すると上から赤子に乳を含ませながら下ってくる妙齢の女があった。田吾作は山女に話しかけるが、女はただ笑っている。
三人は女についていろいろと議論していると、女は毛むくじゃらの獣の下半身を表して、山の上の方に歩み出した。少し行っては後ろを振り向き、三人を見ている。三人は、悪魔が正体を表したことを知り、敵地に警戒を強めた。
やがて日が没し、闇が辺りを包むと、猛獣の声や怪しい物音が間断なく聞こえてきた。原彦は肝をつぶしてしまう。田吾作は原彦の気弱をなじり、昔、原彦が自分の玉を盗もうとしたときの話をして気を保たせようとする。
耳の痛い話を持ち出されて、原彦は宗彦に話しかけるが、宗彦は眠ってしまっている。田吾作はさらに、当時の話を面白い節回しで歌いだした。すると、自分は鬼婆だという声が聞こえてきた。田吾作は、留公の作り声だとすぐにわかって、声に対して怒鳴り返す。
原彦はおびえているが、鬼婆の振りをした留公はどこかへ行ってしまった。宗彦も起きて、留公に似た声だったと言うと、宗彦・田吾作は寝込んでしまった。原彦は二人の間で一睡もできずに震えていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2025-10-12 20:00:14 文字数:8648 OBC :rm2010
愛善世界社版:218頁 八幡書店版:第4輯 230頁 修補版: 校定版:226頁 普及版:99頁 初版: ページ備考:
001田吾作(たごさく)『朝日(あさひ)は光(ひか)る月(つき)は照(て)る
002武志(たけし)の森(もり)の小夜砧(さよきぬた)
003宇都山(うづやま)郷(がう)を立出(たちい)でて
004三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
005神(かみ)のまにまに宗彦(むねひこ)が
006後(あと)に随(したが)ひ来(き)て見(み)れば
007誠明石(まことあかし)の山道(やまみち)は
008忽(たちま)ち霧(きり)に塞(ふさ)がりて
009不動(ふどう)の滝(たき)も雲隠(くもがく)れ
010一歩(ひとあし)二歩(ふたあし)探(さぐ)り寄(よ)り
011水音(みなおと)合図(あひづ)に留公(とめこう)が
012留(とめ)るも聞(き)かず真裸体(まつぱだか)
013蛙(かはづ)の面(つら)に水行(みづぎやう)を
014ザワザワザワと浴(あ)び乍(なが)ら
015手早(てばや)く衣類(いるゐ)を肩(かた)にかけ
016霧(きり)押(おし)わけて山頂(さんちやう)に
017上(のぼ)つて四方(よも)を眺(なが)むれば
018丹波(たんば)名物(めいぶつ)霧(きり)の海(うみ)
019彼方(あちら)此方(こちら)にポコポコと
020山(やま)の頂(いただ)き浮(う)き出(い)でて
021宛然(さながら)絵(ゑ)を見(み)る如(ごと)くなる
022景色(けしき)に名残(なご)りを惜(をし)みつつ
023歩(あゆ)みの下手(へた)な留公(とめこう)を
024抱(かか)へるやうに可愛(いたは)りつ
025明石(あかし)の里(さと)も乗(の)り越(こ)えて
026道(みち)の傍(かたへ)の一(ひと)つ家(や)に
027病(やまひ)に悩(なや)む原彦(はらひこ)が
028身(み)の禍(わざはひ)をとり除(の)けて
029此処(ここ)にいよいよ四人(よにん)連(づ)れ
030宗彦司(むねひこつかさ)の後(あと)を追(お)ひ
031山国川(やまくにがは)の一(ひと)つ橋(ばし)
032渡(わた)る折(をり)しも川下(かはしも)に
033ザンブと立(た)ちし水煙(みづけぶり)
034唯事(ただごと)ならじと田吾作(たごさく)が
035脚(あし)を速(はや)めて川(かは)の辺(べ)に
036駆(は)せつけ見(み)ればこは如何(いか)に
037雪(ゆき)を欺(あざむ)く白(しろ)い顔(かほ)
038優(やさ)しき細(ほそ)き手(て)を上(あ)げて
039流(なが)れの中(なか)に立岩(たちいは)の
040蔭(かげ)に潜(ひそ)みて声(こゑ)限(かぎ)り
041救(たす)けを叫(さけ)ぶ真最中(まつさいちう)
042見(み)るに見(み)かねて田吾作(たごさく)が
043仁慈(みろく)の心(こころ)を発揮(はつき)して
044わが身(み)を忘(わす)れ飛(と)び込(こ)めば
045川(かは)に落(お)ちたる妙齢(めうれい)の
046美人(びじん)と見(み)えしは大江山(おほえやま)
047鬼(おに)の身魂(みたま)の再来(さいらい)か
048青(あを)い角(つの)をば額上(がくじやう)に
049ニユツと生(はや)して目(め)を剥(む)いて
050鰐口(わにぐち)開(ひら)きカラカラと
051笑(わら)うてけつかる厭(いや)らしさ
052波(なみ)に揉(も)まれた田吾作(たごさく)も
053進退(しんたい)茲(ここ)に谷(きは)まりて
054溺死(できし)をするかと思(おも)ふほど
055息(いき)も苦(くる)しくなつた時(とき)
056何(なん)だか知(し)らぬが妙(めう)な声(こゑ)
057聞(きこ)え来(きた)るとみるうちに
058裸体(はだか)になつた俺(おれ)の身(み)は
059巌(いはほ)の上(うへ)に衝(つ)つ立(た)ちぬ
060人三(にんさん)化七(ばけしち)鬼娘(おにむすめ)
061悪魔(あくま)の奴(やつ)が睨(にら)み居(ゐ)る
062コリヤ堪(たま)らぬと気(き)を焦(いら)ち
063宗彦(むねひこ)さまや留公(とめこう)を
064声(こゑ)を限(かぎ)りに招(まね)けども
065臆病風(おくびやうかぜ)に襲(おそ)はれた
066いの一番(いちばん)に宣伝使(せんでんし)
067宗彦(むねひこ)さまを始(はじ)めとし
068留公(とめこう)、原彦(はらひこ)両人(りやうにん)は
069青(あを)い顔(かほ)して慄(ふる)へゐる
070エーもう駄目(だめ)だもう駄目(だめ)だ
071斯(こ)んな卑怯(ひけふ)な腰抜(こしぬ)けを
072力(ちから)にするのが間違(まちが)ひよ
073モー此(この)上(うへ)は是非(ぜひ)もない
074地獄(ぢごく)の釜(かま)のド天井(てんじやう)
075一足飛(いつそくと)びに飛(と)ぶ心地(ここち)
076川(かは)へザンブと踊(をど)り入(い)り
077鬼(おに)の娘(むすめ)の肩(かた)をとり
078心中(しんぢう)しようか待(ま)て暫(しば)し
079たつた一(ひと)つの此(この)生命(いのち)
080死(し)ぬのはチツト早(はや)かろと
081日頃(ひごろ)手練(しゆれん)の游泳術(いうえいじゆつ)
082悠々(いういう)騒(さわ)がず急流(きふりう)を
083渡(わた)つて岸(きし)に駆(か)け上(あが)り
084後(あと)振(ふ)り返(かへ)り眺(なが)むれば
085鬼(おに)の娘(むすめ)にあらずして
086見(み)るも怖(おそ)ろし大蛇(をろち)の姿(すがた)
087アヽ欺(だま)された欺(だま)された
088俺(おれ)は夢(ゆめ)でも見(み)て居(ゐ)たか
089頬(ほほ)を抓(つめ)つて調(しら)ぶれば
090やつぱり頬(ほほ)はピリピリと
091微(かすか)に苦痛(くつう)を訴(うつた)へる
092水(みづ)は何(ど)うだと手(て)に掬(すく)ひ
093嘗(な)めて見(み)たれば矢張(やつぱ)り水(みづ)
094瑞(みづ)の身魂(みたま)の御(おん)守護(しゆご)は
095清(きよ)く涼(すず)しく此(この)通(とほ)り
096俺(おれ)は結構(けつこう)な修業(しうげふ)した
097筑紫(つくし)の日向(ひむか)の立花(たちはな)の
098小戸(をど)の青木(あをき)ケ原(はら)に降(お)り
099上(かみ)の流(なが)れは瀬(せ)が速(はや)い
100下(しも)の流(なが)れは瀬(せ)が弱(よわ)い
101瑞(みづ)の身魂(みたま)や三栗(みつぐり)の
102中瀬(なかせ)に下(お)りて心地(ここち)好(よ)く
103禊(みそ)ぎ祓(はら)ひの神業(かむわざ)を
104首尾(しゆび)克(よ)く了(を)へて三(さん)人(にん)が
105茫然(ばうぜん)自失(じしつ)の為体(ていたらく)
106アフンとして居(ゐ)る其(その)前(まへ)に
107ニユツと現(あら)はれオイ留公(とめこう)
108原彦(はらひこ)何(なに)をして居(ゐ)るか
109ちつとは確(しつか)りしてくれと
110癪(しやく)に障(さは)つて横面(よこづら)を
111ポカリとやつて見(み)た所(ところ)
112神力(しんりき)こもる鉄腕(てつわん)に
113一堪(ひとたま)りもなく顛倒(てんたう)し
114風(かぜ)に木(こ)の葉(は)の散(ち)るやうに
115さしもに広(ひろ)い大川(おほかは)を
116毬(まり)を中空(ちうくう)に投(な)げし如(ごと)
117二人(ふたり)の奴(やつ)は飛(と)び散(ち)つた
118それより宗彦(むねひこ)宣伝使(せんでんし)
119田吾作(たごさく)さまの神力(しんりき)に
120肝(きも)を潰(つぶ)して今迄(いままで)の
121態度(たいど)は忽(たちま)ち一変(いつぺん)し
122心(こころ)の底(そこ)から我(が)を折(を)つて
123田吾作(たごさく)さまを様付(さまづ)けに
124言霊(ことたま)変(か)へた可笑(をか)しさよ
125丸木(まるき)の橋(はし)を後(あと)にして
126旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と来(き)て見(み)れば
127錦(にしき)の衣(ころも)を纏(まと)ひたる
128山姫(やまひめ)さまが左右(さいう)より
129化粧(けしやう)を凝(こ)らして田吾作(たごさく)を
130ちよつと待(ま)つてと呼(よ)び止(と)める
131三国(みくに)ケ嶽(だけ)の曲神(まがかみ)を
132征伐(せいばつ)道中(だうちう)の此(この)身体(からだ)
133お門(かど)が広(ひろ)いサア放(はな)せ
134花瀬(はなせ)の里(さと)を後(あと)にして
135谷(たに)を飛(と)び越(こ)え岩伝(いはづた)ひ
136やうやう三国(みくに)の山麓(さんろく)に
137辿(たど)りついたる折(をり)もあれ
138留公(とめこう)の態度(たいど)は一変(いつぺん)し
139徐々(そろそろ)弱音(よわね)を吹(ふ)きかける
140コリヤ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
141屹度(きつと)彼奴(あいつ)のことならば
142奇抜(きばつ)な芝居(しばゐ)を打(う)つであろ
143勝手(かつて)にせよと突(つ)きやれば
144留公(とめこう)の奴(やつ)は喜(よろこ)んで
145尻(しり)ひつからげスタスタと
146今(いま)来(き)し道(みち)を下(くだ)り行(ゆ)く
147後(あと)に残(のこ)つた三(さん)人(にん)は
148激湍(げきたん)飛沫(ひまつ)轟々(ぐわうぐわう)と
149音(おと)喧(かしま)しき谷川(たにがは)の
150辺(ほと)りを伝(つた)ひわけ登(のぼ)る
151川(かは)を隔(へだ)てて四五(しご)人(にん)の
152得体(えたい)の知(し)れぬ老若(らうにやく)が
153熊(くま)の皮(かは)やら猪(しし)の皮(かは)
154襷(たすき)十字(じふじ)にあやどつて
155木々(きぎ)の梢(こずゑ)に干(ほ)し乍(なが)ら
156残(のこ)つた熊(くま)の生皮(なまかは)を
157谷(たに)の流(なが)れに浸(ひた)しつつ
158物(もの)をも言(い)はず洗(あら)ひ居(ゐ)る
159一行(いつかう)の中(なか)の周章者(あわてもの)
160腹(はら)の腐(くさ)つた原彦(はらひこ)が
161欲(よく)に恍(とぼ)けてザブザブと
162生命(いのち)を的(まと)の谷渡(たにわた)り
163見(み)るより五(ご)人(にん)の老若(らうにやく)は
164この勢(いきほ)ひに辟易(へきえき)し
165物(もの)をも言(い)はず手真似(てまね)して
166雲(くも)を霞(かすみ)と遁(に)げて行(ゆ)く
167続(つづ)いて宗彦(むねひこ)宣伝使(せんでんし)
168又(また)もや谷(たに)を打渡(うちわた)り
169欲(よく)に限(かぎ)り無(な)き熊鷹(くまたか)の
170面(つら)の皮剥(かはは)ぎヌースー式(しき)
171遺(のこ)るくまなく発揮(はつき)して
172矛(ほこ)も交(まじ)へぬ戦利品(せんりひん)
173鼻(はな)高々(たかだか)とうごめかし
174不言(ふげん)実行(じつかう)と洒落(しやれ)乍(なが)ら
175田吾作(たごさく)さんが捕獲(ほくわく)した
176濡(ぬ)れた皮(かは)をば汗(あせ)かいて
177絞(しぼ)つてくれた殊勝(しゆしよう)さよ
178迷(まよ)うた路(みち)を踏(ふ)み直(なほ)し
179小柴(こしば)をわけてテクテクと
180胸(むな)つき坂(ざか)を這(は)ひ上(あが)る
181忽(たちま)ち茲(ここ)に三(さん)人(にん)の
182童子(どうじ)の姿(すがた)現(あら)はれて
183泣(な)き出(だ)す笑(わら)ふ又(また)怒(おこ)る
184七(しち)尺(しやく)有余(いうよ)の荒男(あらをとこ)
185三尺(さんじやく)足(た)らずの幼児(をさなご)に
186叱(しか)り飛(と)ばされ散々(さんざん)に
187油(あぶら)の汗(あせ)を搾(しぼ)られて
188謝(あやま)り入(い)つた不甲斐(ふがひ)なさ
189童子(どうじ)の姿(すがた)は忽(たちま)ちに
190煙(けぶり)と消(き)えた其(その)後(あと)に
191耳(みみ)の鼓膜(こまく)を破(やぶ)りつつ
192伝(つた)はり来(きた)る怪声(くわいせい)に
193三国(みくに)ケ嶽(だけ)の大秘密(だいひみつ)
194探(さぐ)る手段(てだて)とならうかと
195怖気(おぢけ)づいたる両人(りやうにん)を
196後(あと)に残(のこ)して田吾作(たごさく)が
197小柴(こしば)押(おし)わけ怪声(くわいせい)を
198辿(たど)り辿(たど)りて千仭(せんじん)の
199谷(たに)の傍(かたへ)に来(き)て見(み)れば
200木伝(こづた)ふ猿(ましら)の叫(さけ)び声(ごゑ)
201案(あん)に相違(さうゐ)の自棄腹(やけつぱら)
202スゴスゴ帰(かへ)つて両人(りやうにん)を
203わが言霊(ことたま)に脅(おびや)かし
204面白(おもしろ)可笑(をか)しく上(のぼ)り行(ゆ)く
205軈(やが)ては名高(なだか)き鬼婆(おにばば)の
206岩窟(いはや)の棲処(すみか)も見(み)えるだろ
207神(かみ)の賜(たま)ひし言霊(ことたま)の
208伊吹(いぶき)の狭霧(さぎり)を極端(きよくたん)に
209神力(しんりき)強(つよ)い田吾作(たごさく)が
210イの一番(いちばん)に発射(はつしや)して
211高天原(たかあまはら)の蓮華台(れんげだい)
212錦(にしき)の宮(みや)の御(おん)前(まへ)に
213功(いさを)を建(た)つるは目(ま)の当(あた)り
214アヽ勇(いさ)ましや勇(いさ)ましや
215これから乃公(わし)が司令官(しれいくわん)
216宗彦(むねひこ)さまよ原彦(はらひこ)よ
217互(たがひ)に胸(むね)を打(う)ち開(あ)けて
218腹(はら)を合(あは)して田吾作(たごさく)が
219指揮(しき)命令(めいれい)を遵奉(じゆんぽう)し
220蜈蚣(むかで)の姫(ひめ)の成(な)れの果(は)て
221人(ひと)を取(と)り喰(く)ふ鬼婆(おにばば)や
222それに随(したが)ふ曲神(まがかみ)を
223一泡(ひとあわ)吹(ふ)かせ三五(あななひ)の
224教(をしへ)の道(みち)に救(すく)はむは
225今(いま)目(ま)の当(あた)り見(み)る様(やう)だ
226アヽ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
227神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
228善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
229田吾作(たごさく)ここに現(あら)はれて
230神(かみ)と鬼(おに)とを立別(たてわ)けて
231此(この)世(よ)を造(つく)りし皇神(すめかみ)の
232貴(うづ)の御前(みまへ)に復命(かへりごと)
233申(まを)すも余(あま)り遠(とほ)からず
234来(きた)れよ来(きた)れいざ来(きた)れ
235敵(てき)は幾万(いくまん)ありとても
236怖(おそ)るる勿(なか)れ怖(おそ)るるな
237神(かみ)は汝(なんぢ)と倶(とも)に在(あ)り
238神(かみ)は我(わが)身(み)に宿(やど)ります
239アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
240御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
241と呂律(ろれつ)も廻(まは)らぬ口(くち)から出任(でまか)せの歌(うた)を謡(うた)ひ、242田吾作(たごさく)は勢(いきほひ)鋭(するど)く、243山上(さんじやう)目蒐(めが)けて進(すす)み行(ゆ)く。244幼(いとけ)なき赤児(あかご)に乳(ちち)をふくませ乍(なが)ら下(くだ)り来(く)る妙齢(めうれい)の美人(びじん)唯(ただ)一人(ひとり)、245稍(やや)面部(めんぶ)に憂愁(いうしう)の色(いろ)を浮(うか)べ乍(なが)ら、246灌木(くわんぼく)の茂(しげ)みより浮(う)いたやうに現(あら)はれた。
247田吾作(たごさく)『ヤア山姫(やまひめ)の奴(やつ)、248俺(おれ)の円満(ゑんまん)清朗(せいろう)なる言霊(ことたま)に感動(かんどう)し居(を)つて、249感謝(かんしや)の意(い)を表(へう)するために現(あら)はれたのだな。250コレハコレハ山上(さんじやう)の御(ご)婦人(ふじん)、251山(やま)の神(かみ)様(さま)、252出迎(でむか)ひ大儀(たいぎ)でござる』
253女(をんな)『オホヽヽヽ』
254田吾作(たごさく)『コリヤ山女(やまをんな)、255俺(おれ)を誰(たれ)だと心得(こころえ)て居(ゐ)る。256七(しち)尺(しやく)の男子(だんし)が物申(ものまを)して居(ゐ)るのに、257無礼(ぶれい)千万(せんばん)にも吾々(われわれ)を冷笑(れいせう)いたすとは怪(け)しからぬ代物(しろもの)だ。258汝(なんぢ)は何(なん)といふ魔神(まがみ)であるか。259あり体(てい)に申上(まをしあ)げろ。260愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)せば此(こ)の鉄腕(てつわん)が承知(しようち)を致(いた)さぬぞ』
261女(をんな)『オホヽヽヽ』
262赤児(あかご)『フギア フギア フギア』
263田吾作(たごさく)『宗彦(むねひこ)さま、264原彦(はらひこ)さま、265チツト加勢(かせい)して下(くだ)さらぬか。266随分(ずゐぶん)怪(あや)しい代物(しろもの)ですがなア』
267宗彦(むねひこ)『最前(さいぜん)からお前(まへ)の歌(うた)を聞(き)いて居(を)れば、268随分(ずゐぶん)豪勢(がうせい)なものだつた。269何事(なにごと)も自分(じぶん)でなければ出来(でき)ないやうな業託(ごふたく)を列(なら)べたぢやないか』
270田吾作(たごさく)『業託(ごふたく)は業託(ごふたく)として此(この)際(さい)一臂(いつぴ)の補助(ほじよ)を願(ねが)はねば、271言霊(ことたま)会社(くわいしや)も経営難(けいえいなん)に陥(おちい)り、272破産(はさん)の運命(うんめい)に瀕(ひん)するかも分(わか)りませぬ。273どうぞ嘘(うそ)八百株(はつぴやくかぶ)ほど持(も)つて下(くだ)さらぬか。274さうして原彦(はらひこ)さまには代言(だいげん)三百株(さんびやくかぶ)ほど御(お)願(ねが)ひします』
275宗彦(むねひこ)『アハヽヽヽ』
276原彦(はらひこ)『ウフヽヽヽ』
277女(をんな)『オホヽヽヽ』
278赤児(あかご)『フギア フギア フギア』
279田吾作(たごさく)『エー貴様(きさま)等(ら)は泣(な)いたり、280笑(わら)うたり人(ひと)を馬鹿(ばか)にするのか。281貴様(きさま)が泣笑(なきわら)ひで責(せ)めるなら俺(おれ)は怒(おこ)りの言霊(ことたま)だ。282おこりといふものは間歇性(かんけつせい)の病気(びやうき)で、283隔日(かくじつ)に来(く)るものだが、284俺(おれ)は毎日(まいにち)毎晩(まいばん)確実(かくじつ)に責(せ)めてやるから、285左様(さう)思(おも)へ』
286女(をんな)『オホヽヽヽ』
287赤児(あかご)『フギア フギア フギア』
288田吾作(たごさく)『エー又(また)泣(な)いたり笑(わら)つたり、289此(こ)の結構(けつこう)な神国(しんこく)に生(うま)れて、290泣(な)いたり笑(わら)つたりする奴(やつ)があるか。291謹(つつし)み畏(かしこ)み真面目(まじめ)になつて御(ご)神恩(しんおん)を感謝(かんしや)せぬかい』
292宗彦(むねひこ)『モシモシ御(お)女中(ぢよちう)、293斯様(かやう)な処(ところ)に赤(あか)ん坊(ばう)を抱(だ)いて現(あら)はれ給(たま)うたのは、294何(いづ)れの神(かみ)様(さま)でございますか。295どうぞ御名(みな)を名告(なの)り下(くだ)さいませ』
296田吾作(たごさく)『エー宗彦(むねひこ)の宣伝使(せんでんし)、297何(なに)を恍(とぼ)けてござるのだ。298此奴(こいつ)は三国(みくに)ケ嶽(だけ)の古狐(ふるぎつね)だ。299古狐(ふるぎつね)に御(ご)丁寧(ていねい)な敬(うやま)ひ言葉(ことば)を使(つか)ふといふ事(こと)がありますか。300大方(おほかた)眉毛(まゆげ)を読(よ)まれて了(しま)つたのでせう。301アア御(ご)用心(ようじん)御(ご)用心(ようじん)』
302と言(い)ひつつ頻(しき)りに眉(まゆ)に唾(つばき)を指尖(ゆびさき)で発送(はつそう)してゐる。
303田吾作(たごさく)『アー留公(とめこう)は予(かね)ての計画(けいくわく)を忘(わす)れ居(を)つたか。304なんぼ待(ま)つて居(を)つても現(あら)はれてはくれず、305力(ちから)に思(おも)ふ宣伝使(せんでんし)は狐(きつね)につままれる。306何程(なにほど)智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)の俺(おれ)でも、307マア二人(ふたり)の気違(きちが)ひを看病(かんびやう)し乍(なが)ら敵地(てきち)に進(すす)むことは出来(でき)ない。308誰(たれ)か出(で)て来(き)て此(この)足手纏(あしてまと)ひの気違(きちが)ひを引留(ひきと)めてくれるものがあるまいかなア。309近(ちか)くに癲狂院(てんきやうゐん)があれば入院(にふゐん)させたいものだが、310深山(しんざん)の事(こと)とて、311仰天院(ぎやうてんゐん)ばかりで精神(せいしん)病院(びやうゐん)らしいものも無(な)し、312何(ど)うしたらよからう。313無線(むせん)電話(でんわ)をかけて言依別(ことよりわけ)様(さま)の応援(おうゑん)を願(ねが)ふ訳(わけ)にも行(ゆ)かず、314アヽ困(こま)つた破目(はめ)になつたものだ。315イヤア待(ま)て待(ま)て、316これから無言(むげん)霊話(れいわ)をかけて留公(とめこう)を呼(よ)んでやらう』
317 女(をんな)は大(おほ)きな臀(しり)をクレツと捲(まく)つて見(み)せた。318熊(くま)のやうな真黒(まつくろ)の毛(け)を一面(いちめん)に生(はや)し、319見(み)る見(み)る間(うち)に上半身(じやうはんしん)は純白(じゆんぱく)となり、320後半身(こうはんしん)は純黒(じゆんこく)の獣(けもの)となつてガサリガサリと歩(あゆ)み出(だ)し、321三間(さんげん)程(ほど)行(い)つてはギヨロツと後(うしろ)を向(む)き、322又(また)三間(さんげん)程(ほど)行(い)つてはギロリツと振向(ふりむ)き、323幾十回(いくじつくわい)とも無(な)く繰返(くりかへ)し乍(なが)ら山上(さんじやう)目蒐(めが)けて登(のぼ)り行(ゆ)く。
324田吾作(たごさく)『どうですか、325宗彦(むねひこ)さま、326原彦(はらひこ)さま、327天眼通(てんがんつう)も此処(ここ)まで応用(おうよう)出来(でき)れば結構(けつこう)なものでせう。328無言(むげん)霊話(れいわ)を高天原(たかあまはら)へかけたところ、329忽(たちま)ち数万(すうまん)の神軍(しんぐん)此処(ここ)に現(あら)はれ給(たま)ひしその御(ご)威勢(ゐせい)に怖(おそ)れ、330さしもに兇暴(きようばう)なる曲神(まがかみ)も、331目(め)も身体(からだ)も白黒(しろくろ)させて正体(しやうたい)を露(あら)はし遁(に)げて行(い)つたでせう。332これでも田吾作(たごさく)が命令(めいれい)を聞(き)きませぬか』
333宗彦(むねひこ)『それは、334まぐれ当(あた)りだよ。335お前(まへ)は未(ま)だ宣伝使(せんでんし)の肩書(かたがき)がないのだから、336何(なん)と云(い)つても表面(おもて)に通(とほ)らない。337腐(くさ)つても鯛(たひ)だ、338名(な)は実(じつ)の主(しゆ)だから矢張(やつぱ)り宣伝使(せんでんし)と云(い)ふ名(な)に怖(おそ)れて、339悪魔(あくま)が正体(しやうたい)を露(あら)はしたのだ。340如何(いか)に悪魔(あくま)だつて名(な)も無(な)き奴(やつ)等(ら)に降伏(かうふく)するものか、341無名(むめい)の人物(じんぶつ)に降伏(かうふく)するやうなことでは、342悪魔(あくま)の体面(たいめん)に関(くわん)するからなア』
343田吾作(たごさく)『アハヽヽヽ、344よう仰有(おつしや)いますワイ、345宣伝使(せんでんし)のレツテル一(いち)枚(まい)位(くらゐ)を金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)と頼(たの)んで、346何事(なにごと)もそれでやつて行(い)かうと云(い)ふのは実(じつ)に無謀(むぼう)だ、347無恥(むち)だ、348依頼心(いらいしん)を極端(きよくたん)に発揮(はつき)したものだなア。349宣伝使(せんでんし)なんかは地(ち)の高天原(たかあまはら)から紙(かみ)一(いち)枚(まい)下(くだ)つて来(き)たが最後(さいご)、350直(すぐ)に首落(くびお)ちになるのだからなア。
351      宗彦(むねひこ) 
352一、353此(この)度(たび)の三国(みくに)ケ嶽(だけ)の言向戦(ことむけせん)に不都合(ふつがふ)の廉(かど)有之(これある)を以(もつ)て、354評議(へうぎ)の上(うへ)其(その)職(しよく)を免(めん)ずべきもの也(なり)。
355      言依別(ことよりわけの)命(みこと) 
356とこれだけだ。357あんまり肩書(かたがき)を力(ちから)にして貰(もら)ふまいかい。358それよりも腹(はら)の中(なか)の第一鬼(だいいちおに)を征服(せいふく)し、359本(ほん)守護神(しゆごじん)即(すなは)ち天人(てんにん)の御(ご)発動(はつどう)を御(ご)祈願(きぐわん)するのが一等(いつとう)だ』
360宗彦(むねひこ)『よう小理屈(こりくつ)を囀(さへづ)る男(をとこ)だなア。361私(わし)も妹(いもうと)の婿(むこ)に百舌鳥(もず)や燕(つばめ)を持(も)つたかと思(おも)へば残念(ざんねん)だワイ、362アハヽヽヽ』
363原彦(はらひこ)『モシモシ貴方(あなた)等(がた)は義理(ぎり)の兄弟(きやうだい)ぢやありませぬか、364見(み)つともない、365喧嘩(けんくわ)はお止(よ)しなさいませ。366兄弟(けいてい)墻(かき)に鬩(せめ)ぐとも外(ほか)其(その)侮(あなど)りを防(ふせ)ぐと云(い)ふことぢやありませぬか。367喧嘩(けんくわ)したければ家(いへ)へ帰(かへ)つて、368いくらでも御(お)やりなさい。369此処(ここ)は敵前(てきぜん)否(いな)敵(てき)の領地(りやうち)へ這入(はい)つて来(き)て居(を)るのですからなア』
370田吾作(たごさく)『敵地(てきち)は敵地(てきち)、371喧嘩(けんくわ)は喧嘩(けんくわ)、372兄弟(きやうだい)は兄弟(きやうだい)と区別(くべつ)を立(た)てねば、373国政(こくせい)整理(せいり)上(じやう)都合(つがふ)が悪(わる)い。374何(なに)も彼(か)もゴモク飯(めし)のやうに混同(こんどう)されては、375社会(しやくわい)の秩序(ちつじよ)が紊(みだ)れて了(しま)ふ。376総(すべ)て分業(ぶんげふ)的(てき)になつて来(き)た文明(ぶんめい)の世(よ)の中(なか)だ。377兄弟(きやうだい)は他人(たにん)の始(はじ)まりと云(い)ふ事(こと)があるが、378私(わし)の兄弟(きやうだい)は一種(いつしゆ)特別(とくべつ)だ、379他人(たにん)は兄弟(きやうだい)の始(はじ)まりとなつたのだからなア、380アハヽヽヽ』
381宗彦(むねひこ)『もう好(い)い加減(かげん)に猫(ねこ)じやれの様(やう)な喧嘩(けんくわ)は止(や)めようかい。382花(はな)ばつかり咲(さ)かして居(ゐ)る山吹(やまぶき)では仕方(しかた)がない。383サアこれからが戦場(せんぢやう)だ』
384 原彦(はらひこ)は心配相(しんぱいさう)な顔(かほ)をして、
385原彦(はらひこ)『田吾作(たごさく)さま、386あの通(とほ)り宣伝使(せんでんし)が仰有(おつしや)るのだから、387お前(まへ)も今(いま)暫(しばら)く沈黙(ちんもく)して下(くだ)さい。388最前(さいぜん)から矢釜敷(やかまし)う仰有(おつしや)つた彼(あ)の不言(ふげん)実行(じつかう)とやらを、389何処(どこ)へ落(おと)しなさつたのか』
390田吾作(たごさく)『目下(もくか)熟考中(じゆくかうちう)だ。391さう八釜敷(やかまし)う云(い)つてくれない。392何程(なんぼ)、393普賢(ふげん)菩薩(ぼさつ)の俺(おれ)でも、394俄(にはか)にさう奇智(きち)名案(めいあん)が湧(わ)くものではない。395今(いま)心(こころ)の畑(はたけ)に智慧(ちゑ)の種子(たね)を蒔(ま)いたところだから、396せめて十日(とをか)や二十日(はつか)待(ま)つてくれないと、397蕪(かぶら)とも菜種(なたね)とも見当(けんたう)がつかぬ哩(わい)。398アハヽヽヽ』
399と他愛(たあい)も無(な)く笑(わら)ひ乍(なが)ら、400大木(たいぼく)の根(ね)に腰(こし)をかけて横臥(わうぐわ)する。401四辺(しへん)暗澹(あんたん)として天日(てんじつ)を没(ぼつ)し、402闇(やみ)の帳(とばり)は固(かた)く閉(とざ)された。403深山(しんざん)の常(つね)として猛獣(まうじう)の吼(たけ)り狂(くる)ふ声(こゑ)、404天狗(てんぐ)の木(き)を捻折(ねぢを)るが如(ごと)き怪(あや)しの物音(ものおと)、405間断(かんだん)無(な)く聞(きこ)えて来(く)る。406原彦(はらひこ)は此(こ)の物凄(ものすご)き声(こゑ)に肝(きも)を奪(うば)はれ、407声(こゑ)をも立(た)て得(え)ずビリビリと慄(ふる)ひ上(あが)り、408田吾作(たごさく)の袖(そで)を確(しつか)と握(にぎ)り小声(こごゑ)にて、
409原彦(はらひこ)『オイ田吾作(たごさく)、410コリヤ何(ど)うなるのだらう。411随分(ずゐぶん)気分(きぶん)が悪(わる)い事(こと)はエーないぢやないか』
412田吾作(たごさく)『そうだ、413あまり気分(きぶん)がよくない事(こと)はない哩(わい)。414併(しか)し吾々(われわれ)の小宇宙(せううちう)に変動(へんどう)を来(きた)し、415震災(しんさい)の厄(やく)に見舞(みま)はれて居(ゐ)る所(ところ)だなア』
416原彦(はらひこ)『さう高(たか)い声(こゑ)で言(い)つてくれな。417宣伝使(せんでんし)が目(め)を開(あ)けて聞(き)かれたら態(ざま)が悪(わる)いワ』
418田吾作(たごさく)『態(ざま)が悪(わる)いなんて、419よう吐(ぬか)すなア。420貴様(きさま)の旧悪(きうあく)はみんな宣伝使(せんでんし)の前(まへ)で、421うつつになつて喋(しやべ)つたのだから、422今(いま)になつてそんなテレ隠(かく)しをしたつて駄目(だめ)だよ。423随分(ずゐぶん)昔(むかし)は悪人(あくにん)だつたなア。424俺(おれ)が愛宕山(あたごやま)を越(こ)えて結構(けつこう)な黄色(わうしよく)の宝玉(ほうぎよく)を懐(ふところ)に持(も)ち、425保津(ほづ)の里(さと)迄(まで)やつて来(く)ると、426森蔭(もりかげ)から頬被(ほうかむ)りをしてヌーと現(あら)はれた奴(やつ)は誰(たれ)だつたいのー。427随分(ずゐぶん)彼処(あこ)も此処(ここ)も劣(おと)らぬ凄(すご)い所(ところ)だつたねー。428さうして何々(なになに)とか云(い)ふ腹(はら)の悪(わる)い男(をとこ)が俺(おれ)の玉(たま)を嗅(かぎ)つけ、429腹(はら)をペコペコ、430鼻(はな)をピコピコ、431ハラハラヒコヒコさせ乍(なが)ら現(あら)はれて来(き)やがつて「モーシモーシ旅(たび)の御(お)方(かた)、432私(わたくし)は此(この)辺(へん)の猟人(かりうど)でございます。433最前(さいぜん)からの雨(あめ)に火縄(ひなは)も湿(しめ)り、434困難(こんなん)を致(いた)して居(を)りますれば、435どうぞ提灯(ちやうちん)の火(ひ)を御(お)貸(か)し下(くだ)さいませ」と出(で)て来居(きを)つたのだ。436さうすると田吾作(たごさく)と云(い)ふ旅人(たびびと)が「ハテ心得(こころえ)ぬ、437此(こ)の淋(さび)しき山道(やまみち)の、438しかも森林(しんりん)の中(なか)より狩人(かりうど)が現(あら)はれるとは合点(がてん)が行(ゆ)かぬ。439昼(ひる)ならば兎(と)も角(かく)、440夜分(やぶん)に猪(しし)が目(め)につく筈(はず)はない。441こんな不合理(ふがふり)なことを言(い)ふ奴(やつ)は、442確(たし)かに猪(しし)の猟夫(れふし)ではなからう。443懐(ふところ)の我(わ)が玉(たま)を猟(れふ)する曲者(くせもの)か、444但(ただし)は追剥(おひはぎ)か」と流石(さすが)の奇智(きち)神謀(しんぼう)に富(と)んだ旅人(たびびと)は稍(やや)躊躇(ちうちよ)の態(てい)であつた』
445原彦(はらひこ)『オイオイそんなことを言(い)ふものぢやない。446もう好(よ)い加減(かげん)に止(や)めてくれ』
447田吾作(たごさく)『マア好(い)いぢやないか。448此(こ)の夜(よ)の長(なが)いのに、449ちつと言(い)はしてくれ、450口(くち)に虫(むし)が湧(わ)く哩(わい)。451エー一寸(ちよつと)五(ご)分間(ふんかん)休息(きうそく)を致(いた)しました。452お客様(きやくさま)方(がた)御(お)待(ま)たせをして済(す)みませぬ。453これから前段(ぜんだん)の引続(ひきつづ)きを一席(いつせき)講演(かうえん)致(いた)しまして御(ご)高聞(かうぶん)に達(たつ)します』
454原彦(はらひこ)『さう昔(むかし)の事(こと)を思(おも)ひ出(だ)し、455心気(しんき)昂奮(かうふん)させた所(ところ)が仕方(しかた)がないぢやないか。456もう好(よ)い加減(かげん)に止(や)めて欲(ほ)しいものだなア』
457田吾作(たごさく)『俺(おれ)のは天下(てんか)の公憤(こうふん)だよ。458決(けつ)してお前(まへ)に対(たい)して私憤(しふん)を洩(も)らすのぢやない。459又(また)お前(まへ)と俺(おれ)との話(はなし)でも何(なん)でも無(な)い。460過(す)ぎし昔(むかし)の夢物語(ゆめものがたり)で、461決(けつ)して俺(おれ)の腹(はら)も原彦(はらひこ)も悪(わる)いのぢやない。462お前(まへ)はこんな事(こと)を聞(き)くと、463むかついて宗彦(むねひこ)が悪(わる)くなるだらうが、464これも時(とき)の廻(まは)り合(あは)せだ。465忍耐(にんたい)は幸福(かうふく)の基(もと)だから、466忍耐(にんたい)をして面白(おもしろ)い話(はなし)を聞(き)くのだよ。467……時(とき)しもあれや怪(あや)しき何者(なにもの)かの足音(あしおと)がする。468よくよく見(み)れば一頭(いつとう)の手負(てお)ひ猪(じし)だ。469猟夫(れふし)と名乗(なの)つた男(をとこ)は忽(たちま)ち肝(きも)を潰(つぶ)し、470キヤツと声(こゑ)を立(た)て旅人(たびびと)の身体(からだ)にしがみついた。471旅人(たびびと)は心(こころ)の中(なか)に思(おも)ふやう。472四足(よつあし)の一匹(いつぴき)位(くらゐ)に胆(きも)を潰(つぶ)すやうな奴(やつ)だから、473まさか悪人(あくにん)ではあるまいと哀憐(あいれん)の情(じやう)が勃然(ぼつぜん)として、474心中(しんちう)に萠芽(はうが)し……』
475原彦(はらひこ)『そんなむづかしい事(こと)を云(い)つて、476解(わか)るものかい』
477田吾作(たごさく)『解(わか)らぬのは有難(ありがた)いのだぞ。478坊主(ばうず)のお経(きやう)だつて、479ダダブダ ダダブダと拍子(へうし)の抜(ぬ)けた声(こゑ)でずるずるべつたりに棒読(ぼうよ)みにするから、480人間(にんげん)に解(わか)らぬから有難(ありがた)いやうなものだ。481お経(きやう)といふものは不可解(ふかかい)なのが調法(てうはふ)なのだ。482俺(おれ)のも少(すこ)し和讃(わさん)じみて居(を)るが、483これでも新奇(しんき)流行(りうかう)のアホダラ経(きやう)を聞(き)くと思(おも)うて聞(き)いて見(み)よ。484随分(ずゐぶん)利益(りえき)があるぞ。485第一(だいいち)怖(おそ)ろしいと云(い)ふ観念(かんねん)を忘(わす)れ、486夜(よ)が長(なが)いと云(い)ふ苦(くる)しみを其(その)間(あひだ)だけなつと救(すく)はれるのだ。487此(この)位(くらゐ)現当(げんたう)利益(りやく)の御(お)蔭(かげ)はありませぬ。488併(しか)し此(この)内(うち)に一人(ひとり)位(くらゐ)は耳(みみ)に応(こた)へる優婆塞(うばそく)があるかも知(し)れぬ。489それも修行(しうぎやう)だと思(おも)つて聞(き)いて居(を)れば遂(つひ)に習慣性(しふくわんせい)となり、490初(はじ)めには耳(みみ)についた汽車(きしや)の音(おと)が、491終(しま)ひには何(なん)ともないやうになるのと同(おな)じことだ。492マア辛抱(しんばう)してお日(ひ)待(ま)ちの説教(せつけう)を聞(き)くと思(おも)つて聞(き)くがよいワ』
493宗彦(むねひこ)『アーア喧(やかま)しいなア。494何(なに)をヒソビソとお前(まへ)達(たち)は言(い)つて居(ゐ)るのだ。495黙(だま)つて寝(ね)ないか。496最前(さいぜん)から聞(き)いて居(を)れば猟夫(れふし)がどうしたの、497斯(か)うしたのと仕様(しやう)も無(な)い昔話(むかしばな)しを持(も)ち出(だ)して、498乞食(こじき)坊主(ばうず)のホイト節(ぶし)のやうなことを云(い)つてゐたぢやないか。499好(よ)い加減(かげん)に寝(ね)え寝(ね)え。500又(また)明日(あす)大活動(だいくわつどう)をやらねばならぬから肉体(にくたい)の休養(きうやう)が肝腎(かんじん)だ』
501原彦(はらひこ)『宣伝使(せんでんし)さま、502何(なん)と云(い)つても田吾(たご)さまが、503耳(みみ)の痛(いた)いことを喋(しやべ)るのですもの、504チツト叱(しか)つて下(くだ)さいな』
505 宗彦(むねひこ)は早(はや)くも眠(ねむ)りに就(つい)たと見(み)えて何(なん)の応答(いらへ)も無(な)い。
506田吾作(たごさく)『そーれから、507そーれから、
508鱏(ゑゝ)、鱧(はも)、鰈(かれひ)、矢柄(やがら)(エーはばかり乍(なが)ら)
509無精山(ぶしやうざん)道楽寺(だうらくじ)ナマ臭(ぐさ)厄介(やくかい)坊主(ばうず)の
510自堕落(じだらく)上人(しやうにん)御(ご)招待(せうたい)に預(あづか)りました
511抑(そもそ)も愚僧(ぐそう)が万国(ばんこく)修行(しうぎやう)の根元(こんげん)
512戒行(かいぎやう)、難行(なんぎやう)、苦行(くぎやう)、故郷(こきやう)の
513住(す)めば都(みやこ)を後(あと)に愛宕(あたご)の山(やま)を乗(の)り越(こ)えて
514闇(やみ)を冒(をか)してスタスタと
515保津(ほづ)の里(さと)までやつて来(き)ました
516時(とき)しもあれや森蔭(もりかげ)に
517七(しち)尺(しやく)有余(いうよ)の荒男(あらをとこ)
518現(あら)はれ出(い)でて皺嗄(しわが)れた
519声(こゑ)を張(は)り上(あ)げコレコレモーシ旅(たび)の人(ひと)
520提灯(ちやうちん)の明(あ)かり貸(か)して下(くだ)さんせ
521聞(き)いて旅人(たびびと)立止(たちと)まり
522此(こ)の闇黒(くらがり)に提灯(ちやうちん)の
523火(ひ)が欲(ほ)しい奴(やつ)は何者(なにもの)ぞ
524夏(なつ)の夕(ゆふ)べの火取虫(ひとりむし)か
525飛(と)んで火(ひ)に入(い)り身(み)を焼(や)いて
526死(し)んで了(しま)ふのを知(し)らないか
527そんな馬鹿(ばか)な事(こと)止(よ)せ止(よ)せと
528後(あと)をも見(み)ずに進(すす)み行(ゆ)く
529性凝(しやうこ)りも無(な)く怪(あや)しの男(をとこ)
530オツトどつこい一寸(ちよつと)違(ちが)うた
531折(をり)から猪(しし)奴(め)が飛(と)んで来(き)た
532怪(あや)しの男(をとこ)は驚(おどろ)いて
533猿(ましら)のやうな声(こゑ)を上(あ)げ
534キヤツキヤと言(い)うてしがみつく
535此奴(こいつ)はよつぽど弱虫(よわむし)と
536心(こころ)を許(ゆる)して道伴(みちづ)れに
537なつてやつたがわが不覚(ふかく)
538大井(おほゐ)の川(かは)の袂(たもと)まで
539来(きた)る折(をり)しも其奴(そやつ)めが
540コレコレモーシ旅(たび)の人(ひと)
541お前(まへ)の懐中(くわいちう)に光(ひか)るもの
542一寸(ちよつと)私(わたし)に貸(か)してくれ
543貸(か)さな斯(か)うぢやと高飛車(たかびしや)に
544拳固(げんこ)をかためて攻(せ)め寄(よ)せる
545此方(こなた)も痴者(しれもの)ひつぱづし
546腕首(うでくび)掴(つか)んで中天(ちうてん)に
547力(ちから)を籠(こ)めて投(な)げやれば
548空中(くうちう)の舞(まひ)を舞(ま)ひ納(をさ)め
549遥(はるか)向方(むかう)の川中(かはなか)へ
550はまつて死(し)んだと思(おも)ひきや
551蛙(かはづ)のやうな態(ざま)をして
552草(くさ)の中(なか)からガサガサと
553やつて来居(きを)つて旅人(たびびと)が
554胸倉(むなぐら)グツト引掴(ひつつか)み
555川(かは)へザンブと投(ほ)り込(こ)んだ
556怪(あや)しの男(をとこ)は肝腎(かんじん)の
557玉(たま)が無(な)いので力(ちから)抜(ぬ)け
558青(あを)い顔(かほ)してノソノソと
559疵(きず)持(も)つ足(あし)の何処(どこ)となく
560帰(かへ)つて行(い)たが其(そ)の跡(あと)は
561何処(どこ)かの松(まつ)の並木原(なみきはら)
562根元(ねもと)に埋(う)められ肥料(こえ)となり
563くたばりしかと思(おも)ふうち
564明石峠(あかしたうげ)の麓(ふもと)なる
565小(ちひ)さい村(むら)の離(はな)れ家(や)の
566首(くび)をおつるが婿(むこ)となり
567ハラハラし乍(なが)ら十五(じふご)年(ねん)
568胸(むね)もヒコヒコ十五(じふご)年(ねん)
569終(つひ)には病(やまひ)を惹(ひ)き起(おこ)し
570明日(あす)をも知(し)れぬ難儀(なんぎ)の場(ば)
571三五教(あななひけう)の宗彦(むねひこ)が
572留公(とめこう)、田吾作(たごさく)両人(りやうにん)の
573立派(りつぱ)な家来(けらい)を引伴(ひきつ)れて
574お出(い)でましたるその御(お)かげ
575ケロリと癒(なほ)つた人足(にんそく)が
576今(いま)は三国(みくに)の山(やま)登(のぼ)り
577猛獣(まうじう)毒蛇(どくじや)の唸(うな)り声(ごゑ)
578聞(き)いてブルブル慄(ふる)て居(ゐ)る
579アヽ面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い
580エー無精山(ぶしやうざん)道楽寺(だうらくじ)
581なまぐさ厄介(やくかい)坊主(ばうず)の自堕落(じだらく)上人(しやうにん)が
582此(こ)の所(ところ)に現(あら)はれまして
583諸行(しよぎやう)無常(むじやう)や是生(ぜしやう)滅法(めつぽふ)
584やがて寂滅(じやくめつ)為楽(ゐらく)の愁歎場(しうたんば)
585ブツブツ唱(とな)へ奉(たてまつ)る
586チヤカポコ チヤカポコ ポコポコポコ』
587 此(この)時(とき)一寸先(いつすんさき)も見(み)えぬ闇黒(くらがり)の中(なか)より聞(き)き慣(な)れぬ妙(めう)な鼻声(はなごゑ)交(まじ)りの婆(ばば)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。
588婆(ばば)『ハテ訝(いぶ)かしやな、589俺(わし)は三国(みくに)ケ嶽(だけ)の鬼婆(おにばば)である。590今日(けふ)三五教(あななひけう)の身魂(みたま)の研(みが)けた立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)が、591当山(たうざん)へわれを退治(たいぢ)せむと企(くはだ)て、592上(のぼ)り来(きた)ると聞(き)き、593これこそ天(てん)の時節(じせつ)の到来(たうらい)と喉(のど)を鳴(な)らして待(ま)つてゐた。594蛙(かはづ)やくちなははモウ喰(く)ひ飽(あ)いた。595赤児(あかご)も最早(もはや)飽(あ)いて来(き)た。596宗彦(むねひこ)と云(い)ふ奴(やつ)、597魂(みたま)の綺麗(きれい)な奴(やつ)と聞(き)いた故(ゆゑ)、598噛(か)ぶつて喰(く)うたら甘(うま)からうと、599此(この)間(あひだ)から楽(たの)しんで待(ま)つてゐた。600どうやらこれが宗彦(むねひこ)らしい。601さうして二人(ふたり)の奴(やつ)は、602どれもこれも口(くち)ばつかり大(おほ)きい奴(やつ)で、603ちよつとも実(み)のない奴(やつ)だ。604三匹(さんびき)が三匹(さんびき)とも、605よう斯(こ)んなガラクタが揃(そろ)うたものだ。606アーあてが違(ちが)うた。607この年寄(としより)が足許(あしもと)の見(み)えぬやうな闇黒(くらがり)をうまい餌食(ゑじき)があると思(おも)つて出(で)て来(き)たのに、608薩張(さつぱ)り梟鳥(ふくろどり)の宵企(よひだく)み、609夜食(やしよく)に外(はづ)れたやうなものだ。610それでも尻(しり)の傍(はた)には、611少(すこ)し甘(うま)さうな肉(み)が付(つ)いて居(ゐ)るだらうから、612これなつと喰(く)てやらうかな』
613田吾作(たごさく)『コリヤ婆(ばば)のやうな声(こゑ)を出(だ)しやがつて、614何(なに)を吐(ぬか)すのだ。615尻(しり)なつと喰(くら)へ、616貴様(きさま)がそんな作(つく)り声(ごゑ)をしたつて、617田吾作(たごさく)さんはよく知(し)つて居(ゐ)るのだ。618まだ貴様(きさま)の出(で)る幕(まく)ぢやないぞ。619気(き)の利(き)いた化物(ばけもの)はモウ足(あし)を洗(あら)つて寝(ね)る時分(じぶん)だ。620言依別(ことよりわけの)命(みこと)さまに願(ねが)つた事(こと)を早(はや)く往(い)つて計画(けいくわく)せぬかい。621馬鹿(ばか)だなア、622陰謀(いんぼう)発覚(はつかく)の虞(おそれ)があるぞ。623化(ばけ)るならモツと仮声(こわいろ)を上手(じやうず)に使(つか)へ。624留(とめ)……イヤウーン留度(とめど)も無(な)く馬鹿(ばか)ばつかり垂(た)れやがつて、625何処(どこ)の呆(はう)け曲津(まがつ)だ。626愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)すと承知(しようち)せぬぞ』
627 原彦(はらひこ)は又(また)小声(こごゑ)で、
628原彦(はらひこ)『オイ田吾作(たごさく)さま、629相手(あひて)になるな。630あんな化物(ばけもの)に此(こ)の闇黒(くらがり)で相手(あひて)になつたとこで、631どうすることも出来(でき)ぬぢやないか』
632田吾作(たごさく)『八釜敷(やかまし)う云(い)ふない。633俺(おれ)の言霊(ことたま)を留公(とめこう)……オツトどつこい留(と)めようとしたつて、634斯(か)う馬力(ばりき)がかかつてからは、635容易(ようい)に止(と)まるものぢやないワ』
636留公(とめこう)『田吾作(たごさく)、637原彦(はらひこ)様(さま)、638宗彦(むねひこ)様(さま)、639又(また)明日(あす)御(お)目(め)にかからう。640頭(あたま)から岩窟(いはや)の婆(ばば)が塩(しほ)つけて噛(か)ぶつてやらう。641それを楽(たの)しんで居(を)つたがよからう』
642宗彦(むねひこ)『あの声(こゑ)は婆(ばば)の声(こゑ)のやうでもあり、643鼻声(はなごゑ)だが何処(どこ)ともなしに留公(とめこう)に似(に)たとこがあるぢやないか、644ナア田吾作(たごさく)さま』
645田吾作(たごさく)『マア何(なん)でもよろしい哩(わい)。646何(いづ)れ明日(あす)になつたら解(わか)りませう。647サアサアモー一寝入(ひとねい)り』
648と横(よこ)になり、649喋(しやべ)り草臥(くたび)れて他愛(たあい)もなく寝込(ねこ)んで了(しま)つた。
650 宗彦(むねひこ)も亦(また)寝(しん)に就(つ)く。651原彦(はらひこ)は時々(ときどき)怪(あや)しき声(こゑ)の響(ひび)き来(きた)るに脅(おびや)かされ、652二人(ふたり)の中(なか)に挟(はさ)まつて一睡(いつすゐ)も得(え)せず、653一夜(いちや)を明(あ)かしける。
654(大正一一・五・一四 旧四・一八 外山豊二録)
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