松鷹彦は婆が川にはまって亡くなって以来、呆けたように川釣りにのみ日を暮らしていた。そこへ、夫婦の修験者が通りかかり、声をかける。
二人の修験者は、バラモン教の宗彦・お勝であった。二人は松鷹彦が釣り上げた川魚の亡き骸に手を合わせて拝み入った。松鷹彦は驚いて、涙を流し、すごすごと自分の茅屋に帰って行った。
宗彦とお勝は川辺の茅屋に気づいて、戸を叩いた。そこは松鷹彦の家であった。松鷹彦は中から、自分は三五教の信者で、村人も以前はバラモン教だったのが皆三五教に改心したのだから、本来はバラモン教に入ってもらうことはできない、と言う。
しかし、婆を亡くしてその霊前に供えるために毎日川魚を捕っていたのだが、そのことについて聞きたいことがあるから中へ入るように、と宗彦とお勝を招いた。
宗彦はこれを聞いて、バラモン教でも三五教でも、道理はひとつのはずなのに、本来は入ってもらうことはできない、などというのは排斥だと腹を立て、立ち去ろうとする。
松鷹彦は、そう怒らずに話を交換しようと言う。お勝も一服しようと促した。松鷹彦はお茶を汲んで出す。そして、二人が巡礼になった訳を聞いた。
宗彦は、来世が恐ろしくなってきたので、自分の犯してきた悪業の罪滅ぼしのために巡礼となったのだ、と語った。前妻の幽霊に悩まされて、お勝を置いて家を飛び出したのだが、旅の途中に自分を追いかけてきたお勝にばったり出くわして、一緒に巡っているのだ、と言う。
しかしお勝は、先に巡礼に出たのは自分であり、それを宗彦が追って来たのだ、と明かすと、宗彦は真っ赤な顔で俯いてしまった。松鷹彦は笑って、二人を羨ましいと言う。三人は四方山話に興じている。
そこへ、留公と田吾作がねじり鉢巻でやってきて、バラモン教の巡礼をかくまっているだろう、と血相を変えて松鷹彦を問い質す。そして、武志の宮の神主がバラモン教徒を家に入れたと非難する。
留公は宗彦に、この村でバラモン教は禁止だから出て行け、と言う。宗彦も、自分は巡礼であって宣伝なんぞはしない、と返して、ただ今女房に肘鉄砲を食わされて、談判をしていたものだから、と答える。
留公は面白がって話に入り、宗彦・お勝をからかいだす。田吾作も、自分も女房が欲しいのだが、誰か適当な女性はないものか、と脱線する。
宗彦は翻然として、身に着けていたものを川に投げ込んでしまい、生まれ赤子になって女房とも別れよう、と言い出す。しかしお勝も同じように、所有物を捨てて改心を示した。
留公と田吾作は、二人のために服を調達した。松鷹彦はこれも三五教の感化力のおかげだと喜ぶ。