霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 再生(さいせい)の歓(よろこび)〔六六九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻 篇:第2篇 運命の綱 よみ(新仮名遣い):うんめいのつな
章:第7章 再生の歓 よみ(新仮名遣い):さいせいのよろこび 通し章番号:669
口述日:1922(大正11)年05月13日(旧04月17日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年3月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
松鷹彦が出て行った後、宗彦とお勝は庵に残された。お勝は、宗彦に暇乞いを切り出す。お勝は松鷹彦と宗彦の話により、自分が宗彦の生き別れの妹だということを悟り、気に病んでいたのであった。
そこへ松鷹彦をはじめ、田吾作、真浦、留公、お春らが四五の村人たちと共に、戻ってきた。松鷹彦は真浦の脇の下の痣を見て、確かに真浦が自分の生き別れの長男であることを確認した。
真浦は涙にくれるが、田吾作がその場の湿った雰囲気を吹き飛ばそうと、歌を歌いだす。その歌は、普段のひょうきんな様子に似ず、真面目な歌だった。
田吾作は歌の中に、お勝が真浦、宗彦の妹であることを歌いこみ、知らずに犯したのであれば、兄妹婚の罪も必ず赦されるだろう、と歌い込んだ。
田吾作の歌で、宗彦はなぜお勝が突然暇乞いを言い出したのか悟り、離縁を受け入れた。松鷹彦と真浦は、お勝が生き別れの身内と知って、驚きかつ喜んだ。
真浦は立ち上がり、悪魔の荒ぶ世の中に生き別れた一家が、再会できた歓びを、大神に感謝した。村人たちは武志の宮に集まり、祝いの宴に夜を明かした。
真浦はお春と夫婦になって、松鷹彦の後を継ぎ、武志の宮の神主となった。お勝は田吾作と添うことになった。
宗彦と田吾作は聖地に上り、言依別命に会って三五教の教理を体得し、世界いたるところに足跡を残して神業に参加した。後に二人は遂に神素盞嗚大神に見出されて、大宣伝使となるのである。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-24 17:55:22 文字数:5037 OBC :rm2007
愛善世界社版:150頁 八幡書店版:第4輯 203頁 修補版: 校定版:156頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 松鷹彦(まつたかひこ)はあかざの杖(つゑ)をつき、002田吾作(たごさく)、003お春(はる)の慌(あわ)てて駆出(かけだ)した跡(あと)を気遣(きづか)ひ、004覚束(おぼつか)ない足(あし)つきにて二人(ふたり)に留守(るす)を托(たく)しながら出(で)て往(い)つて仕舞(しま)つた。005後(あと)には夫婦(ふうふ)連(づ)れ、006何(いづ)れも喜(よろこ)びと驚(おどろ)きの涙(なみだ)に暮(く)れて居(ゐ)る。
007お勝(かつ)『モシ宗彦(むねひこ)さま、008何卒(どうぞ)私(わたし)に暇(いとま)を下(くだ)さいませぬか』
009宗彦(むねひこ)『そりやお前(まへ)、010本当(ほんたう)に欲(ほ)しいのか』
011お勝(かつ)『何(なに)しに心(こころ)にもない事(こと)を云(い)ひませう、012一寸(ちよつと)感(かん)じた事(こと)が御座(ござ)いますから、013何卒(どうぞ)今日(けふ)限(かぎ)り縁(えん)を切(き)つて下(くだ)さい』
014宗彦(むねひこ)『ハハ分(わか)つた、015お前(まへ)は、016私(わたし)の父親(てておや)は、017もつと立派(りつぱ)なものと思(おも)うて居(ゐ)たのだらう、018あの爺(おやぢ)さまが、019私(わたし)の親(おや)と云(い)ふ事(こと)が分(わか)つたので俄(にはか)に嫌(いや)になつたのだな』
020お勝(かつ)『イエイエどうしてどうして、021嫌(いや)になりますものか、022層一層(そういつそう)懐(なつか)しうなつて来(き)ました』
023宗彦(むねひこ)『そんなら尚更(なほさら)の事(こと)、024夫婦(ふうふ)睦(むつ)まじく暮(くら)して呉(く)れたらどうだ。025俺(おれ)も折角(せつかく)お父(とう)さまに遇(あ)うて喜(よろこ)ぶ間(ま)もなく、026女(をんな)の方(はう)から暇(いとま)を貰(もら)つてどうして親(おや)に合(あは)す顔(かほ)があらうか、027昨日(きのふ)迄(まで)なら止(や)むを得(え)ざれば切(き)つてもやるが、028今(いま)となつてそんな事(こと)が出来(でき)るものか、029俺(おれ)の心(こころ)も些(ちつ)とは察(さつ)して呉(く)れたらどうだ』
030お勝(かつ)『それはさうで御座(ござ)いますが、031これには云(い)ふに云(い)はれぬ仔細(しさい)があつて』
032宗彦(むねひこ)『遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もない夫婦(ふうふ)の仲(なか)、033云(い)はれぬ秘密(ひみつ)があらう筈(はず)はない、034サアその秘密(ひみつ)を聞(き)かして呉(く)れ』
035お勝(かつ)『其(その)秘密(ひみつ)を申(まを)し上(あ)げたら貴方(あなた)は吃驚(びつくり)をきつとなさいませう、036是(これ)許(ばか)りは死(し)んでも申(まを)し上(あ)げられませぬ』
037宗彦(むねひこ)『ハヽア、038さうするとお前(まへ)は田吾作(たごさく)さまと、039なんか俺(おれ)に内証(ないしよう)で契約(けいやく)でもしたのだらう、040田吾作(たごさく)とお前(まへ)の視線(しせん)がどうも怪(あや)しかつた』
041お勝(かつ)『何(なん)と云(い)ふ情(なさけ)ない事(こと)を仰(おつ)しやるのですか、042私(わたし)の腹(はら)を切(き)つてでも見(み)せて上(あ)げたい、043何(いづ)れ死(し)なねばならぬ罪(つみ)の重(おも)いこの体(からだ)』
044と云(い)ふより早(はや)く懐(ふところ)の懐剣(くわいけん)を取(と)り出(だ)し、045帷子(かたびら)の薄衣(うすぎぬ)の上(うへ)からグサリと突(つ)き立(た)てようとした。046宗彦(むねひこ)は驚(おどろ)いてぐつと其(その)手(て)を握(にぎ)り、
047宗彦(むねひこ)『待(ま)て待(ま)て』
048お勝(かつ)『イエイエ何(ど)うぞ留(と)めて下(くだ)さいますな、049潔(いさぎよ)く死(し)なして下(くだ)さいませ、050腹(はら)を切(き)つて臨終(いまは)の際(きは)に一言(ひとこと)申(まを)し上(あ)げて、051神(かみ)様(さま)や貴方(あなた)にお詫(わび)を申(まを)し上(あ)げます』
052宗彦(むねひこ)『生死(せいし)を共(とも)にしようと云(い)つて、053山野(さんや)河海(かかい)を見窄(みすぼ)らしい巡礼姿(じゆんれいすがた)となり下(さ)がり、054手(て)に手(て)を把(と)つて此処迄(ここまで)互(たがひ)に父母(ふぼ)の後(あと)を慕(した)ひ来(き)たのではないか、055お前(まへ)は大方(おほかた)私(わたし)が親子(おやこ)の対面(たいめん)をしたので恨(うら)めしうなつたのだらう、056イヤ失望(しつばう)落胆(らくたん)したのであらう、057きつと遇(あ)ふ時節(じせつ)が来(く)るから短気(たんき)を起(おこ)して呉(く)れな、058夫(をつと)が妻(つま)に手(て)をついて、059サア此(この)通(とほ)りだ』
060と片手(かたて)にお勝(かつ)の腕(うで)を握(にぎ)り、061片手(かたて)を目(め)の前(まへ)に突(つ)きつけて、062涙(なみだ)と共(とも)にお勝(かつ)を拝(おが)む。
063お勝(かつ)『アヽ勿体(もつたい)ない、064そこ迄(まで)思(おも)うて下(くだ)さるなれば死(し)ぬのは止(や)めませう、065安心(あんしん)して下(くだ)さいませ、066その代(かは)り只今(ただいま)限(かぎ)り無条件(むでうけん)でお暇(ひま)を願(ねが)ひたう御座(ござ)います』
067宗彦(むねひこ)『暇(ひま)をやらねば死(し)ぬと云(い)ふなり、068暇(ひま)をやれば親父(おやぢ)に心配(しんぱい)をかけるなり、069嗚呼(ああ)恩(おん)と恋(こひ)との締木(しめぎ)にかかつて、070こんな苦(くるし)い事(こと)が世(よ)にあらうか。071これお勝(かつ)、072何卒(どうぞ)暫(しばら)くでいいから夫婦(ふうふ)になつて居(ゐ)てくれ、073又(また)時(とき)をみてお前(まへ)の望(のぞ)み通(どほ)り、074離縁(りえん)をするから』
075お勝(かつ)『それが待(ま)たれるやうな事(こと)なれば、076なぜ私(わたくし)がお願(ねが)ひ致(いた)しませう、077女房(にようばう)が夫(をつと)に対(たい)し離縁(りえん)を申込(まをしこ)むなぞと云(い)ふやうな、078不合理(ふがふり)な事(こと)が何処(どこ)に御座(ござ)いませう。079貴方(あなた)は嘸々(さぞさぞ)不貞腐(ふてくさ)れの女(をんな)だと思召(おぼしめ)すでせうが、080私(わたくし)の胸(むね)の中(うち)は千万(せんまん)無量(むりやう)、081焼鏝(やきごて)を当(あ)てるやうで御座(ござ)います』
082宗彦(むねひこ)『アヽ何(ど)うしたら此(この)苦(くるし)みを逃(のが)れる事(こと)が出来(でき)ようかなア、083暇(ひま)をくれと云(い)へば云(い)ふ程(ほど)心(こころ)の中(うち)の恋(こひ)と云(い)ふ曲者(くせもの)が躍(をど)り出(だ)し、084俺(おれ)の体(からだ)も焦熱(せうねつ)地獄(ぢごく)に陥(お)ちたやうだ』
085と太(ふと)き息(いき)をつく。086夫婦(ふうふ)の間(あひだ)に得(え)も云(い)はれぬ悲惨(ひさん)な雲(くも)の幕(まく)が下(お)りた。087斯(か)かる所(ところ)へ松鷹彦(まつたかひこ)はいそいそと帰(かへ)り来(きた)り、
088松鷹彦(まつたかひこ)『ヤア宗彦(むねひこ)、089お勝(かつ)、090お前(まへ)は泣(な)いて居(を)るのか、091こんな目出度(めでた)い時(とき)に夫婦(ふうふ)が揃(そろ)うて泣(な)くと云(い)ふ事(こと)があるものか、092泣(な)きたければ又(また)夜中(よなか)に悠(ゆつ)くりと泣(な)いて満足(たんのう)するがよい、093今(いま)其処(そこ)へ村(むら)の衆(しう)が出(で)て御座(ござ)るから、094サアサア早(はや)う機嫌(きげん)直(なほ)して呉(く)れ』
095宗彦(むねひこ)『お父(とう)さま、096余(あま)り嬉(うれ)しうて嬉(うれ)し涙(なみだ)が溢(こぼ)れたのです、097御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな』
098松鷹彦(まつたかひこ)『アヽ、099さうだらう さうだらう無理(むり)も無(な)い、100併(しか)しお勝(かつ)も泣(な)いて居(ゐ)たやうだ、101目(め)を腫(は)らして居(ゐ)るぢやないか、102これこれお勝(かつ)、103見(み)つともない、104泣(な)いて呉(く)れな』
105と留(とど)めながら松鷹彦(まつたかひこ)は自分(じぶん)も泣(な)き出(だ)した。
106宗彦(むねひこ)『お父(とう)さま、107申上(まをしあ)げ悪(にく)い事(こと)ですが、108女房(にようばう)が只今(ただいま)より暇(ひま)が欲(ほ)しいと云(い)ふのです、109それで実(じつ)は二人(ふたり)が談判(だんぱん)して居(を)つたのです』
110松鷹彦(まつたかひこ)『若(わか)い者(もの)と云(い)ふものは仕方(しかた)がないものだな、111私(わし)も覚(おぼ)えがある。112天下(てんか)御免(ごめん)だから犬(いぬ)も喰(く)はぬ喧嘩(けんくわ)を精(せい)出(だ)してやつて呉(く)れ』
113 後(あと)は嬉(うれ)し涙(なみだ)をしやくり上(あ)げる。
114 斯(かか)る所(ところ)へ、115天(あめ)の真浦(まうら)の宣伝使(せんでんし)を始(はじ)め、116田吾作(たごさく)、117留公(とめこう)、118お春(はる)は四五(しご)の里人(さとびと)と共(とも)に、119スタスタとやつて来(き)た。
120田吾作(たごさく)『モシモシ、121お爺(ぢい)さま、122お喜(よろこ)びなさいませ、123真浦(まうら)の宣伝使(せんでんし)は確(たしか)に左(ひだり)の腋(わき)の下(した)に梅(うめ)の紋(もん)が鮮(あざや)かに現(あら)はれて居(を)ります。124屹度(きつと)最前(さいぜん)仰有(おつしや)つた、125貴方(あなた)の御(ご)長男(ちやうなん)松(まつ)さまに間違(まちが)ひありません。126ナア真浦(まうら)さま、127さうでせう』
128真浦(まうら)『ハイ』
129と云(い)つたきり、130何(なん)となく心(こころ)落(お)ち着(つ)かぬ返事(へんじ)をして居(ゐ)る。
131松鷹彦(まつたかひこ)『モシモシ真浦(まうら)さま、132失礼(しつれい)な事(こと)をお尋(たづ)ね致(いた)しますが、133あなたのお国(くに)は何所(どこ)で御座(ござ)いましたか』
134真浦(まうら)『ハイ、135私(わたくし)は紀(き)の国(くに)熊野(くまの)の生(うま)れで御座(ござ)います』
136松鷹彦(まつたかひこ)『お父(とう)さま、137お母(かあ)さまはお達者(たつしや)にして御座(ござ)るでせうな』
138真浦(まうら)『イエ父(ちち)も母(はは)も行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、139三(さん)人(にん)の兄妹(きやうだい)も何(ど)うなつたか、140何分(なにぶん)小(ちひ)さい時(とき)に分(わか)れたのものですから顔(かほ)も知(し)らず、141全然(まるで)世(よ)の中(なか)に親族(みうち)も何(なに)もない一人(ひとり)ぼつちです。142私(わたくし)の力(ちから)とするのは唯(ただ)もう仁慈(じんじ)無限(むげん)の神(かみ)様(さま)許(ばか)り、143度々(たびたび)夢(ゆめ)を見(み)ますが、144私(わたくし)の父(ちち)はどうも貴方(あなた)に良(よ)く似(に)て居(ゐ)るやうに思(おも)ひます。145併(しか)しこれは夢(ゆめ)の事(こと)ですから、146あてにはなりませぬ。147何卒(なにとぞ)お心(こころ)にさへて下(くだ)さいますな』
148松鷹彦(まつたかひこ)『お前(まへ)さま左(ひだり)の腋(わき)に梅(うめ)の花(はな)の痣(あざ)があると云(い)ふ事(こと)ぢやが、149それは真実(ほんたう)ですか、150真実(ほんたう)なら一寸(ちよつと)見(み)せて下(くだ)さい。151私(わし)の子供(こども)には兄弟(きやうだい)とも兄(あに)は左(ひだり)に弟(おとうと)は右(みぎ)に、152不思議(ふしぎ)な事(こと)には梅(うめ)の紋(もん)の痣(あざ)がついて居(ゐ)る、153何(なん)でも是(これ)は神(かみ)様(さま)の生(うま)れ変(がは)りと聞(き)いて居(ゐ)る。154一人(ひとり)の娘(むすめ)には臍(へそ)の上(うへ)に三角星(さんかくせい)のやうな黒子(ほくろ)があつた』
155真浦(まうら)『是(これ)は妙(めう)な事(こと)を承(うけたま)はります、156サア何(ど)うぞお調(しら)べ下(くだ)さいませ』
157と肌(はだ)を脱(ぬ)ぐ。158松鷹彦(まつたかひこ)は眼(め)を光(ひか)らし、159つくづくと眺(なが)めて、
160松鷹彦(まつたかひこ)『マヽ擬(まが)ふ方(かた)なき私(わし)の忰(せがれ)であつた。161有難(ありがた)い有難(ありがた)い、162これと云(い)ふのも神(かみ)様(さま)のお引(ひ)き合(あは)せ、163婆(ばば)が生(いき)て居(ゐ)たらどれだけ喜(よろこ)ぶであらうに、164可憐(かはい)さうな事(こと)をした。165婆(ばば)と明(あ)け暮(く)れ三(さん)人(にん)の子供(こども)の事(こと)を思(おも)ひ出(だ)しては泣(な)き、166云(い)ひ出(だ)しては泣(な)き、167可憐(かはい)さうに泣(な)いて泣(な)いて泣(な)き暮(くら)し、168終(しまひ)には自暴自棄(やけ)になつて、169河(かは)の魚(うを)を漁(すなど)り、170殺生(せつしやう)ばかりして悶々(もんもん)の情(じやう)を慰(なぐさ)めて居(ゐ)た。171アーア可憐(かはい)さうだつた』
172と流石(さすが)妻(つま)を思(おも)ふ愛情(あいじやう)の雲(くも)に包(つつ)まれて其(その)場(ば)に力(ちから)なく泣(な)き沈(しづ)む。
173田吾作(たごさく)『こんな目出度(めでた)い時(とき)に何(なに)をベソベソ泣(な)くのだ。174男(をとこ)と云(い)ふものは涙(なみだ)を目(め)から外(そと)へ落(おと)すのは大変(たいへん)な恥(はぢ)だ、175潔(いさぎよ)うなさいませ。176歌(うた)でも謡(うた)つて祝(いは)ひの酒(さけ)でも飲(の)んで機嫌(きげん)ようするのだなア、177私(わたし)も何(なん)だか陰気(いんき)になつて来(き)た。178サア一(ひと)つ歌(うた)つて見(み)ようかな、179ぢやと云(い)うて酒(さけ)も呑(の)まずに何(なん)だか拍子抜(へうしぬけ)がしたやうだ。180お弓(ゆみ)の奴(やつ)、181酒(さけ)を買(か)うて持(も)つて往(ゆ)くと云(い)ひながら、182何(なに)をして居(を)るのだらう。183又(また)爺(おやぢ)といちやついて居(を)るのだなからうかなア』
184と態(わざ)と潔(いさぎよ)う喋(しやべ)り立(た)てる。185留公(とめこう)は、
186留公(とめこう)『モシモシ、187真浦(まうら)の宣伝使(せんでんし)さま、188何(なに)を俯向(うつむ)いて居(を)るのだ。189早(はや)くお父(とう)さまに久(ひさ)し振(ぶ)りの御(ご)対面(たいめん)の御(ご)挨拶(あいさつ)をなさらぬか、190何(なん)だか目出度(めでた)い事(こと)だと思(おも)うて来(き)たのに薩張(さつぱり)座(ざ)が湿(しめ)つて仕舞(しま)ひ、191五月雨(さみだれ)の空(そら)のやうだ。192ヤアお弓(ゆみ)さんが酒(さけ)を持(も)つて来(き)た。193オイ田吾作(たごさく)、194お前(まへ)は酒好(さけず)きだから、195早(はや)く飲(の)んで一(ひと)つ踊(をど)つて此(この)場(ば)の空気(くうき)を一洗(いつせん)してくれ、196俺(おれ)は御(ご)馳走(ちそう)の用意(ようい)にかかるから、197追々(おひおひ)村(むら)の者(もの)が出(で)て来(く)る時分(じぶん)ぢやから愚図(ぐづ)々々(ぐづ)しては居(を)られぬぞや』
198と足早(あしばや)に炊事場(すゐじば)指(さ)して走(はし)り行(ゆ)く。
199 田吾作(たごさく)はお弓(ゆみ)の持(も)つて来(き)た酒(さけ)をグイと引(ひ)つ手繰(たぐ)り、200其(その)儘(まま)口(くち)にあてて法螺貝(ほらがひ)飲(の)みを始(はじ)めて居(ゐ)る。201松鷹彦(まつたかひこ)、202真浦(まうら)、203宗彦(むねひこ)、204お勝(かつ)の四(よ)人(にん)は喜(よろこ)びと悲(かな)しさの雲(くも)に包(つつ)まれ、205黙念(もくねん)として傾首(うなだ)れて居(ゐ)る。206田吾作(たごさく)は酒(さけ)の機嫌(きげん)で謡(うた)ひ出(だ)した。
207田吾作『とうとうたらりや とうたらり
208たらりや たらりや とうたらり
209天下(てんか)泰平(たいへい)国土(こくど)成就(じやうじゆ)
210神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
211善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)ける
212此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
213心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
214唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
215直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞(き)き直(なほ)せ
216身(み)の過(あやま)ちは宣(の)り直(なほ)す
217三五教(あななひけう)の神(かみ)の道(みち)
218神(かみ)の御稜威(みいづ)のいや高(たか)き
219武志(たけし)の宮(みや)の御(おん)前(まへ)に
220親子(おやこ)夫婦(ふうふ)の邂逅(めぐりあひ)
221三千(さんぜん)世界(せかい)の梅(うめ)の花(はな)
222左(ひだり)の腕(かひな)は厳御霊(いづみたま)
223右(みぎ)りの腕(かひな)は瑞御霊(みづみたま)
224厳(いづ)と瑞(みづ)との神(かみ)の子(こ)が
225弥(いよいよ)此処(ここ)に現(あら)はれて
226三五(さんご)の月(つき)の御教(みをしへ)を
227四方(よも)に広(ひろ)むる常磐木(ときはぎ)の
228松鷹彦(まつたかひこ)のお喜(よろこ)び
229臍下丹田(あまのいはと)のその上(うへ)に
230瑞(みづ)の御霊(みたま)の印(しるし)ある
231黒子(ほくろ)の出来(でき)たお勝(かつ)さま
232私(わたし)ばかりは知(し)つて居(ゐ)る
233さはさりながら皆(みな)の人(ひと)
234必(かなら)ず怪(あや)しみ給(たま)ふなよ
235わしとお勝(かつ)さんの其(その)仲(なか)は
236汚(けが)れた事(こと)は露(つゆ)もない
237宇都(うづ)の河原(かはら)にお勝(かつ)さま
238御禊(みそぎ)せられた其(その)時(とき)に
239横(よこ)から一寸(ちよつと)見(み)て置(お)いた
240松鷹彦(まつたかひこ)の先刻(さきほど)の
241御(お)物語(ものがたり)を伺(うかが)へば
242これぞてつきり御(ご)兄妹(きやうだい)
243松竹梅(まつたけうめ)の三(さん)人(にん)が
244弥(いよいよ)揃(そろ)うた神(かみ)の前(まへ)
245皆(みな)さま喜(よろこ)びなさいませ
246こんな目出度(めでた)い事(こと)はない
247仮令(たとへ)天地(てんち)は変(かは)るとも
248親子(おやこ)の縁(えん)は変(かは)りやせぬ
249親子(おやこ)は一世(いつせ)夫婦(ふうふ)二世(にせ)
250切(き)るに切(き)られぬ親(おや)と子(こ)が
251長(なが)い間(あひだ)の生(い)き別(わか)れ
252此処(ここ)で遇(あ)うたは優曇華(うどんげ)の
253花(はな)咲(さ)く春(はる)の梅(うめ)の花(はな)
254開(ひら)いて散(ち)るな実(み)を結(むす)べ
255七重(ななへ)に八重(やへ)に九重(ここのへ)に
256十重(とへ)に廿重(はたへ)に咲(さ)き匂(にほ)ふ
257神(かみ)の教(をしへ)の瑞祥(ずゐしやう)ぞ
258アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
259御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましまして
260知(し)らず知(し)らずに犯(をか)したる
261宗彦(むねひこ)夫婦(ふうふ)が身(み)の罪(つみ)を
262三五教(あななひけう)の大御神(おほみかみ)
263直日(なほひ)に見直(みなほ)しましまして
264罪(つみ)も汚(けが)れもあら川(かは)の
265淵瀬(ふちせ)に流(なが)して清(きよ)めませ
266アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
267御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
268と剽軽(へうきん)な男(をとこ)に似(に)ず、269今日(けふ)に限(かぎ)つて真面目(まじめ)に謡(うた)ひ、270真面目(まじめ)に舞(ま)うて見(み)せた。271この言霊(ことたま)に白(しら)けかかつた一座(いちざ)は俄(にはか)に陽気(やうき)だち、272何(いづ)れも顔色(かほいろ)変(か)へて春風(はるかぜ)に桜(さくら)の綻(ほころ)ぶ如(ごと)き笑顔(ゑがほ)を見(み)せたり。
273宗彦(むねひこ)『アヽお勝(かつ)、274お前(まへ)は合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)を俄(にはか)に云(い)うと思(おも)つて居(ゐ)たが、275アヽ妹(いもうと)であつたか。276なぜ遠慮(ゑんりよ)をするのだ、277素(もと)より兄妹(きやうだい)と知(し)つて天則(てんそく)を犯(をか)したのでもなし、278知(し)らず識(し)らずの反則(はんそく)であるから神(かみ)様(さま)も赦(ゆる)して下(くだ)さるだらう。279何(ど)うぞ心配(しんぱい)してくれな、280併(しか)し兄妹(きやうだい)と分(わか)つた以上(いじやう)は、281お前(まへ)の望(のぞ)み通(どほ)り暇(ひま)を上(あ)げませう』
282 松鷹彦(まつたかひこ)、283真浦(まうら)は打驚(うちおどろ)き、284夢(ゆめ)か現(うつつ)か、285親(おや)か子(こ)か兄妹(きやうだい)かと、286目(め)と目(め)を見合(みあは)し、287呆(あき)れて言葉(ことば)も泣(な)く許(ばか)り。288天(あめ)の真浦(まうら)は立(た)ち上(あが)り、
289真浦『天(あめ)と地(つち)との其(その)中(なか)に
290生(うま)れ来(きた)りし人草(ひとぐさ)の
291中(なか)にも別(わ)けて我(わ)が親子(おやこ)
292運命(うんめい)の神(かみ)に操(あやつ)られ
293親子(おやこ)は四方(よも)に離散(りさん)して
294行方(ゆくへ)も知(し)らぬ旅(たび)の空(そら)
295親(おや)は我(わが)子(こ)の行先(ゆくさき)を
296尋(たづ)ねて風雨(ふうう)に身(み)を曝(さ)らし
297慈愛(じあい)の涙(なみだ)そそぎつつ
298山河(やまかは)渡(わた)り荒野(あれの)越(こ)え
299我(われ)等(ら)が跡(あと)を老(おい)の身(み)の
300憂(うき)を忘(わす)れてあちこちと
301彷徨(さまよ)ひませる親心(おやごころ)
302山(やま)より高(たか)く海(うみ)よりも
303深(ふか)き尊(たふと)き御(おん)恵(めぐ)み
304我(われ)等(ら)三人(みたり)の兄妹(けうだい)は
305親(おや)に離(はな)れし雛鳥(ひなどり)の
306寄(よ)る辺(べ)渚(なぎさ)の捨小舟(すてをぶね)
307流(なが)れ漂(ただよ)ひあちこちと
308情(つれ)なき人(ひと)に虐(さいな)まれ
309百(もも)の艱(なや)みを凌(しの)ぎつつ
310我(わが)垂乳根(たらちね)の行先(ゆくさき)を
311朝(あさ)な夕(ゆふ)なに当(あて)もなく
312探(さぐ)りし事(こと)の悲(かな)しさよ
313天地(てんち)に神(かみ)のますならば
314悲(かな)しき我(われ)等(ら)がこの思(おも)ひ
315晴(は)らさせ給(たま)ひて片時(かたとき)も
316早(はや)く遇(あ)はさせ給(たま)へやと
317神(かみ)に祈(いの)りをかけまくも
318畏(かしこ)き御稜威(みいづ)幸(さち)はひて
319思(おも)ひもかけぬ親(おや)と子(こ)が
320今日(けふ)の対面(たいめん)何(なん)として
321天地(てんち)の神(かみ)に礼代(いやしろ)の
322言霊(ことたま)さへもなくばかり
323アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
324御霊(みたま)の幸(さち)を賜(たま)はりし
325恵(めぐみ)も深(ふか)き三五(あななひ)の
326道(みち)を守(まも)らす大御神(おほみかみ)
327神(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)の
328瑞(みづ)の光(ひかり)に照(て)らされて
329月(つき)満(み)つ今日(けふ)の邂逅(めぐりあひ)
330父(ちち)は此(この)世(よ)にましませど
331母(はは)は早(はや)くも娑婆(しやば)世界(せかい)
332後(あと)に見捨(みす)てて去(さ)りましぬ
333さはさりながら吾(われ)のみは
334恋(こひ)しき母(はは)と知(し)らずして
335お目(め)にかかりし嬉(うれ)しさよ
336此(この)世(よ)に母(はは)のましまさば
337如何(いか)に喜(よろこ)び給(たま)ふらむ
338嗚呼(ああ)父上(ちちうへ)よ弟(おとうと)よ
339日頃(ひごろ)尋(たづ)ねし妹(いもうと)よ
340いざ是(こ)れよりは大神(おほかみ)の
341真(まこと)の道(みち)に服従(まつろ)ひて
342生命(いのち)の限(かぎ)り身(み)の極(きは)み
343誠(まこと)一(ひと)つの言霊(ことたま)に
344悪魔(あくま)の猛(たけ)ぶ現世(うつしよ)を
345洗(あら)ひ清(きよ)めて母上(ははうへ)の
346御心(みこころ)慰(なぐさ)め奉(たてまつ)り
347父(ちち)の誉(ほまれ)を万代(よろづよ)に
348伝(つた)へむものと励(はげ)みませ
349淵瀬(ふちせ)と変(かは)る人(ひと)の世(よ)は
350明日(あす)をも知(し)らぬ身(み)の上(うへ)ぞ
351嬉(うれ)しき春(はる)に廻(めぐ)り遭(あ)ひ
352互(たがひ)に顔(かほ)をみたり連(づ)れ
353一度(いちど)に開(ひら)く梅(うめ)の花(はな)
354三千(さんぜん)世界(せかい)の名(な)を負(お)ひし
355三角(さんかく)星座(せいざ)の印(しるし)ある
356名(な)さへ目出度(めでた)き梅子姫(うめこひめ)
357常磐(ときは)堅磐(かきは)にいつ迄(まで)も
358松竹梅(まつたけうめ)の勇(いさ)ましく
359生(い)き長(なが)らへて吾(わ)が父(ちち)に
360能(あた)ふ限(かぎ)りの孝養(かうやう)を
361尽(つ)くすも嬉(うれ)し兄妹(けうだい)の
362今日(けふ)の喜(よろこ)び月照(つきてる)の
363ミロクの神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
364喜(よろこ)び感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
365アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
366御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
367と謡(うた)ひ終(をは)つて座(ざ)についた。
368 村中(むらぢう)の老若(らうにやく)男女(なんによ)は残(のこ)らず空家(あきや)にして此(この)場(ば)に馳集(はせあつ)まり、369飲(の)めよ謡(うた)へよの大祝(おほいは)ひに夜(よ)を明(あ)かした。
370 天(あめ)の真浦(まうら)は永(なが)く武志(たけし)の宮(みや)に留(とど)まりて父(ちち)に孝養(かうやう)を尽(つく)し、371お春(はる)を女房(にようばう)に持(も)ち、372父(ちち)の後(あと)を継(つ)ぐ事(こと)となつた。373お勝(かつ)は留公(とめこう)の媒酌(ばいしやく)にて田吾作(たごさく)の妻(つま)となり、374夫婦(ふうふ)仲(なか)よく一生涯(いつしやうがい)を送(おく)り、375子孫(しそん)繁栄(はんゑい)して裕(ゆたか)な身(み)となつた。
376 宗彦(むねひこ)及(およ)び田吾作(たごさく)の二(に)人(にん)はこれより聖地(せいち)に上(のぼ)り、377言依別(ことよりわけの)命(みこと)に謁(えつ)し、378三五教(あななひけう)の教理(けうり)を体得(たいとく)し、379自転倒(おのころ)島(じま)を始(はじ)め、380世界(せかい)到(いた)る所(ところ)に足跡(そくせき)を印(いん)し神業(しんげふ)に参加(さんか)し、381遂(つひ)には素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)に見出(みいだ)されて立派(りつぱ)なる大(だい)宣伝使(せんでんし)となりにける。
382(大正一一・五・一三 旧四・一七 加藤明子録)
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