霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 懐谷(ふところだに)〔一一五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第1篇 狂風怪猿 よみ(新仮名遣い):きょうふうかいえん
章:第2章 懐谷 よみ(新仮名遣い):ふところだに 通し章番号:1153
口述日:1922(大正11)年11月26日(旧10月8日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
玉国別一行は烈風が静まったのであたりを見れば、すでに闇の帳に包まれていた。度胸を定めて道端にみのを布き、夜が明けるのを待つことにした。
ふと目を覚ますとほんのりあたりが明るくなっている。玉国別は、正しい言霊を使うよう、一同を諭した。一同は黒雲が風を運んでくるのを見て、急坂を下って日当たりがよい谷間へ着いた。
河鹿峠に群生するたくさんの尾長猿は暴風の襲来を前知して、この懐谷を避難所として幾千とも知れず集まってきた。玉国別一行の姿を見て、猿たちは周囲を取り巻いている。
伊太公は猿たちに言霊を聞かせてやろうと宣伝歌を歌い始めた。調子はずれな宣伝歌に、猿たちはじりじりと輪を狭めてくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-03 04:34:40 文字数:4529 OBC :rm4302
愛善世界社版:21頁 八幡書店版:第8輯 36頁 修補版: 校定版:22頁 普及版:8頁 初版: ページ備考:
001河鹿(かじか)峠(たうげ)の岩石(がんせき)も
002草木(くさき)も残(のこ)らず飛(と)び散(ち)れと
003云(い)はむばかりに吹(ふ)きまくる
004大山嵐(おほやまあらし)に進(すす)みかね
005玉国別(たまくにわけ)の一行(いつかう)は
006道(みち)の傍(かたへ)の木々(きぎ)の根(ね)を
007シツカと掴(つか)み打伏(うちふ)して
008風(かぜ)の過(す)ぐるを待(ま)ち居(ゐ)たり
009一時(ひととき)二時(ふたとき)はや三時(みとき)
010待(ま)てども止(や)まぬ暴風(あらかぜ)は
011虎(とら)狼(おほかみ)の吼(ほ)ゆるごと
012呻(うな)りを立(た)てて吹(ふ)きつける
013日(ひ)は西山(せいざん)に傾(かたむ)いて
014黒白(あやめ)も分(わか)ぬ真(しん)の暗(やみ)
015茲(ここ)に四(よ)人(にん)の一行(いつかう)は
016施(ほどこ)す術(すべ)もなきままに
017是非(ぜひ)なく一夜(ひとよ)を明(あ)かしけり
018丑満(うしみつ)過(す)ぐる時(とき)もあれ
019さしもに烈(はげ)しき科戸辺(しなどべ)の
020神(かみ)は漸(やうや)く休戦(きうせん)の
021喇叭(ラツバ)を吹(ふ)いて鎮(しづ)まりぬ
022玉国別(たまくにわけ)の一行(いつかう)は
023初(はじ)めて胸(むね)を撫(な)で下(おろ)し
024心(こころ)を定(さだ)めて夜明(よあ)けまで
025やすやす眠(ねむ)りに就(つ)きにける。
026 玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)は漸(やうや)く烈風(れつぷう)の静(しづ)まりしに胸(むね)撫(な)で下(お)ろし四辺(あたり)を見(み)れば、027真黒(しんこく)の暗(やみ)の帳(とばり)は眼前(がんぜん)迄(まで)濃(こまやか)に包(つつ)んでゐる。028已(や)むを得(え)ず度胸(どきよう)を定(さだ)め道側(みちばた)に蓑(みの)を布(し)き夜(よ)の明(あ)くるを待(ま)つこととした。029不図(ふと)目(め)を覚(さま)せばホンノリとそこら中(ぢう)が明(あかる)くなつて居(ゐ)る。030道公(みちこう)は目(め)を擦(こす)り乍(なが)ら、
031道公『宣伝使(せんでんし)様(さま)、032どうやら夜(よ)が明(あ)けたやうです。033昨日(さくじつ)は肝腎(かんじん)の門出(かどで)の日(ひ)であるにも拘(かか)はらず、034暴風(ばうふう)襲来(しふらい)で大変(たいへん)に吾々(われわれ)を面喰(めんくら)はせたぢやありませぬか。035あんな悪日(あくび)は何卒(どうぞ)続(つづ)かない様(やう)にして欲(ほ)しいものですな。036今日(けふ)は新(あたら)しい日天(につてん)様(さま)がお出(で)ましになつたら一同(いちどう)が充分(じゆうぶん)にお願(ねがひ)を致(いた)しませうか』
037玉国別(たまくにわけ)『どうやら今日(けふ)も風模様(かぜもやう)らしい。038あんまり、039仕様(しやう)もない事(こと)を喋(しやべ)り立(た)てるものだから、040大神(おほかみ)様(さま)のお戒(いまし)めに会(あ)うたのだ。041これからは各自(めいめい)に口(くち)を慎(つつし)まねばならないぞ。042言霊(ことたま)の幸(さちは)ふ国(くに)だから、043天地(てんち)が曇(くも)るのも、044風(かぜ)が吹(ふ)くのも、045大洪水(だいこうずゐ)が出(で)るのも、046みんな人間(にんげん)共(ども)の言霊(ことたま)が悪(わる)いからだ。047吾々(われわれ)は言霊(ことたま)を以(もつ)て、048あらゆる枉津(まがつ)神(かみ)を言向和(ことむけやは)す大使命(だいしめい)を持(も)つて居(ゐ)るのだから、049仮(かり)にも縁起(えんぎ)の悪(わる)い事(こと)は云(い)はないが宜(い)いぞ』
050道公(みちこう)『さうですな、051伊太公(いたこう)の奴(やつ)、052しようもない脱線(だつせん)だらけの宣伝歌(せんでんか)を得意(とくい)らしく大風(おほかぜ)の向(むか)ふを張(は)つて吹立(ふきた)てよるものだから神罰(しんばつ)が当(あた)つて、053門出(かどで)の血祭(ちまつ)りに向脛(むかふづね)を擦(す)り剥(む)き、054赤(あか)い血(ち)を出(だ)したのです。055大体(だいたい)二人(ふたり)連(づ)れとか三人(さんにん)連(づ)れとかなら宜(よ)かつたでせうが、056一行(いつかう)四人(しにん)連(づ)れと云(い)ふのですから、057あまり縁起(えんぎ)の宜(よ)い事(こと)もありませぬわい』
058玉国別(たまくにわけ)『コリヤコリヤ道公(みちこう)、059お前(まへ)こそ言霊(ことたま)が悪(わる)いぢやないか、060四(し)人(にん)なんて、061しようもない事(こと)を云(い)ふな、062何是(なぜ)四(よ)人(にん)と云(い)はぬのだ』
063道公(みちこう)『四(よ)人(にん)と云(い)へば余(あま)つた人(ひと)の様(やう)で尚更(なほさら)縁起(えんぎ)が悪(わる)いぢやありませぬか。064私(わたし)だつて決(けつ)して余(あま)り人間(にんげん)ぢやありませぬ。065やつぱり一人前(いちにんまへ)の裸百貫(はだかひやくくわん)の色男(いろをとこ)ですからな』
066玉国別(たまくにわけ)『あれを見(み)よ、067丑寅(うしとら)の空(そら)に怪(あや)しい黒雲(くろくも)が出(で)た、068あれは風玉(かぜだま)だ。069あいつが一(ひと)つ吹(ふ)きつけて来(こ)ようものなら昨夜(さくや)の烈風(れつぷう)どころぢやない。070早(はや)く行進(かうしん)を続(つづ)けて河鹿(かじか)峠(たうげ)の懐谷(ふところだに)まで到着(たうちやく)し、071暫(しばら)く避難(ひなん)をしようではないか。072サア行(ゆ)かう』
073とスツクと立(た)ち上(あが)り慌(あわただ)しく蓑(みの)を着(ちやく)し笠(かさ)を手(て)にシツカと握(にぎ)り杖(つゑ)をつきながら、074急坂(きふはん)を下(くだ)りつつ、075懐(ふところ)より麺麭(パン)を出(だ)してかじりつつ行(ゆ)く。076漸(やうや)くにして河鹿(かじか)峠(たうげ)の下(くだ)り坂(ざか)の中(なか)程(ほど)の懐谷(ふところだに)と云(い)ふ南向(みなみむ)きの、077こんもりとした日当(ひあた)りのよき谷間(たにあひ)へ着(つ)いた。078此(この)箇所(かしよ)は山道(やまみち)の一丁(いつちやう)ばかり上(かみ)である。079玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)は漸(やうや)く此処(ここ)に到着(たうちやく)し蓑(みの)を敷(し)き風(かぜ)の通過(つうくわ)するのを待(ま)つ事(こと)とした。
080 河鹿(かじか)峠(たうげ)に群棲(ぐんせい)する沢山(たくさん)の尾長猿(をながざる)は暴風(ばうふう)の襲来(しふらい)を前知(ぜんち)して何(いづ)れも此(この)懐谷(ふところだに)を屈竟(くつきやう)の避難所(ひなんじよ)として幾千(いくせん)とも知(し)れぬ程(ほど)集(あつま)つて来(き)た。081さうして玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)の姿(すがた)を見(み)て驚(おどろ)いたと見(み)え、082四五間(しごけん)ばかり近寄(ちかよ)り周囲(ぐるり)をアトラス形(がた)に取(とり)まいてキヤツキヤツと目(め)を剥(む)き牙(きば)をならし啼(な)き叫(さけ)んでゐる。
083 道公(みちこう)は数千匹(すうせんびき)の猿(さる)に囲(かこ)まれたのを見(み)て、
084道公『何(なん)とマア沢山(たくさん)な庚申(かうしん)の眷族(けんぞく)だのう。085何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も人間(にんげん)に能(よ)う似(に)た姿(すがた)をして赤(あか)い顔(かほ)で吾々(われわれ)を護衛(ごゑい)してゐる。086此奴(こいつ)もやつぱり風(かぜ)の神(かみ)が恐(こは)いと見(み)えて此処(ここ)へ避難(ひなん)して来(き)たと見(み)えるわい。087庚申(かうしん)の眷族(けんぞく)は猿(さる)と云(い)ふ事(こと)だが庚申(かうしん)と云(い)ふ奴(やつ)は風(かぜ)を引(ひ)かす神(かみ)だ。088庚申(かうしん)の晩(ばん)に風邪(ふうじや)に罹(かか)ると次(つぎ)の庚申(かうしん)の日(ひ)まで本復(ほんぷく)せぬと云(い)ふ事(こと)だが、089ヤツパリ眷族(けんぞく)だけで風(かぜ)に恐(おそ)れて此処(ここ)まで陣(ぢん)を引(ひ)いたのだなア。090エー、091キヤツキヤツと八釜(やかま)しう吐(ぬ)かすな、092耳(みみ)が聾(つんぼ)になつて了(しま)ふわい。093亡国(ばうこく)的(てき)の悲調(ひてう)を帯(お)びた哀音(あいおん)を共唱(きようしやう)しよつてアタ縁起(えんぎ)の悪(わる)い。094むかつく代物(しろもの)だなア』
095玉国別(たまくにわけ)『アハヽヽヽまたしても、096はつしやぎ出(だ)したな。097アヽ困(こま)つた男(をとこ)を連(つ)れて来(き)たものだ。098おい道公(みちこう)、099お前(まへ)の口(くち)は身体(からだ)より三千(さんぜん)年(ねん)ばかり前(さき)へ生(うま)れてると見(み)えるな』
100道公(みちこう)『三千年(さんぜんねん)前(さき)へ口(くち)が生(うま)れるから三千口(みちこう)と申(まを)すのです。101アハヽヽヽ三千(さんぜん)世界(せかい)を立直(たてなほ)す宣伝使(せんでんし)のお供(とも)には誂(あつら)へ向(むき)でせう。102それ道(みち)の以(もつ)て道(みち)とすべきは真(しん)の道(みち)に非(あら)ず。103道(みち)とせざる所(ところ)に真(しん)の道(みち)あり。104三千年(みちとせ)の御(ご)艱難(かんなん)御(ご)苦労(くらう)の神徳(しんとく)現(あら)はれて天地(てんち)の間(あひだ)に充(み)ち満(み)ちにけり。105…奥山(おくやま)に紅葉(もみぢ)は照(て)れど道(みち)なくば如何(いか)でか人(ひと)の訪(と)ひ来(きた)るべき…と申(まを)しましてな、106世(よ)の中(なか)に何(なに)が大切(たいせつ)だと云(い)つても道(みち)位(くらゐ)大切(たいせつ)なものはありませぬよ。107道(みち)といふ字(じ)はコトバと読(よ)みませう。108神(かみ)の教(をしへ)に「太初(はじめ)に道(ことば)あり。109道(ことば)は神(かみ)なり、110神(かみ)は道(ことば)と偕(とも)にあり。111万物(ばんぶつ)これによつて造(つく)らる。112総(すべ)て世(よ)の中(なか)の造(つく)られたるもの一切(いつさい)は道(ことば)によりて造(つく)られざるはなし」とチヤンと神訓(しんくん)に現(あら)はれてゐませう。113それだから此(この)道公(みちこう)は神(かみ)の道(みち)にはなくてはならぬ人物(じんぶつ)ですよ。114役者(やくしや)の子(こ)が大根(だいこん)を喰(く)はぬのも道(みち)の為(ため)、115浄瑠璃(じやうるり)家(がたり)の子(こ)が根深(ねぶか)を食(く)はぬのもやつぱり道(みち)のためですからな。116アハヽヽヽ』
117伊太公(いたこう)『モシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、118神(かみ)様(さま)の教(をしへ)には神(かみ)も仏事(ぶつじ)も人民(じんみん)も鳥類(てうるゐ)畜類(ちくるゐ)虫族(むしけら)迄(まで)も助(たす)けるとお示(しめ)しになつてゐるぢやありませぬか。119これ丈(だ)け沢山(たくさん)に庚申(かうしん)の眷族(けんぞく)が吾々(われわれ)の尊(たふと)い言霊(ことたま)を聞(き)かして貰(もら)はうと思(おも)つて集(あつ)まつて来(き)たのですから、120一(ひと)つ広大(くわうだい)無辺(むへん)の御(ご)神徳(しんとく)の籠(こも)つた言霊(ことたま)を振舞(ふれま)つてやつたらどんな物(もの)でせうなア』
121玉国別(たまくにわけ)『ウン』
122道公(みちこう)『オイ、123伊太公(いたこう)、124措(お)け措(お)け。125貴様(きさま)の宣伝歌(せんでんか)にはウンザリして了(しま)つた。126又(また)足曳(あしびき)の山道(やまみち)で向脛(むかふづね)を擦(す)り剥(む)いて泡(あわ)を吹(ふ)く位(くらゐ)がおちだから』
127伊太公(いたこう)『向(むか)ふの脛(すね)ならチツとも痛(いた)くないが、128やつぱり己(おれ)の脛(すね)だから一寸(ちよつと)は困(こま)る。129然(しか)し乍(なが)ら前車(ぜんしや)の覆(くつが)へるは後車(こうしや)の警(いまし)めと云(い)ふ聖訓(せいくん)を体得(たいとく)した伊太公(いたこう)だ。130先(さき)の失敗(しつぱい)に懲(こ)りて今度(こんど)はあんなヘマな事(こと)はやらぬ積(つも)りだ。131今度(こんど)こそ本真剣(ほんしんけん)に宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ふから謹(つつし)んで聞(き)け。132初(はじ)めから馬鹿(ばか)にしてかかられると根(ね)つから気乗(きの)りがせぬので碌(ろく)な歌(うた)も歌(うた)へぬぢやないか。133エーン』
134道公(みちこう)『さう偉相(えらさう)に法螺(ほら)を吹(ふ)くのなら、135一(ひと)つ立派(りつぱ)な宣伝歌(せんでんか)を奏上(そうじやう)して見(み)よ』
136伊太公(いたこう)『俺(おれ)の宣伝歌(せんでんか)は今度(こんど)はとつときの特別(とくべつ)上等品(じやうとうひん)だ。137山河(さんか)草木(さうもく)其(その)声(こゑ)に従(したが)ふと云(い)ふ生言霊(いくことたま)の発射(はつしや)だから用心(ようじん)せないと千里側(せんりわき)へ吹(ふ)き飛(と)ばされて了(しま)ふぞ。138かう云(い)つても俺(おれ)の決(けつ)して法螺(ほら)でも自慢(じまん)でもないから真面目(まじめ)に聞(き)かうよ。139オイ、140純公(すみこう)も心(こころ)を清(きよ)め耳(みみ)を洗(あら)つて拝聴(はいちやう)しろ。141抑(そもそ)も言霊(ことたま)の権威(けんゐ)と云(い)ふものは鬼神(きしん)を泣(な)かしむる豪勢(がうせい)なものだ。142かうして宣伝使(せんでんし)のお供(とも)を命(めい)ぜられたのも一方(いつぱう)より見(み)れば言霊(ことたま)の練習(れんしふ)をして将来(しやうらい)立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)になるためだ。143然(しか)し乍(なが)ら貴様(きさま)の様(やう)な仕入物(しいれもの)では到底(たうてい)満足(まんぞく)な宣伝使(せんでんし)にはなれないよ。144総(すべ)て人間(にんげん)は天才(てんさい)が手伝(てつだ)はねば駄目(だめ)だからな』
145道公(みちこう)『天才(てんさい)が聞(き)いて呆(あき)れるわい。146貴様(きさま)が宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ふと天地(てんち)の大神(おほかみ)様(さま)が怒(いか)りを発(はつ)し給(たま)ひ忽(たちま)ち天災(てんさい)を下(くだ)し給(たま)ふから困(こま)つた天才(てんさい)だ。147アハヽヽヽ、148エー猿(さる)の奴(やつ)、149キヤツ キヤツ吐(ぬか)しよつて根(ね)つから俺(おれ)の言霊(ことたま)が不貫徹(ふくわんてつ)に終(をは)りさうだ。150こんな処(ところ)で言霊(ことたま)を発射(はつしや)する馬鹿(ばか)があるかい。151貴様(きさま)は機(き)を見(み)る事(こと)を知(し)らないから駄目(だめ)だ』
152伊太公(いたこう)『エヘン、153機(き)に臨(のぞ)み変(へん)に応(おう)ずるは天才(てんさい)智者(ちしや)の敢(あへ)てよくする所(ところ)、154迂愚者(うぐしや)の測知(そくち)し得(う)る限(かぎ)りでない。155サア之(これ)から庚申(かうしん)の眷族(けんぞく)に向(むか)つて生言霊(いくことたま)の連発銃(れんぱつじう)を発射(はつしや)するのだ。156いいか、157用心(ようじん)して居(を)らぬと昨夜(ゆうべ)の烈風(れつぷう)の様(やう)に吹(ふ)き飛(と)ばされて終(しま)ふぞ』
158道公(みちこう)『足曳(あしびき)の山鳥(やまどり)の尾(を)の、159又(また)しても長々(ながなが)しい前口上(まへこうじやう)だなア。160いい加減(かげん)に発射(はつしや)して見(み)ろ』
161伊太公(いたこう)『かう尾長猿(をながざる)の奴(やつ)、162身辺(しんぺん)近(ちか)く押寄(おしよ)せ来(きた)つてはチツとばかり面食(めんくら)はざるを得(え)ない。163吾輩(わがはい)の言霊(ことたま)を以(もつ)て一丁(いつちやう)ばかり退却(たいきやく)をさして見(み)せるから伊太公(いたこう)の腕前(うでまへ)、164否(いな)言霊(ことたま)の武者振(むしやぶり)を拝観(はいくわん)拝聴(はいちやう)なされませ、165エヘン。
166三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
167玉国別(たまくにわけ)の音彦(おとひこ)に
168従(したが)ひ来(きた)りし吾々(われわれ)は
169至(いた)つて尊(たふと)い伊太公(いたこう)ぞ
170神(かみ)も仏(ほとけ)も人民(じんみん)も
171禽獣(きんじう)虫魚(ちうぎよ)の端(はし)までも
172生言霊(いくことたま)の神力(しんりき)に
173助(たす)けて進(すす)む宣伝使(せんでんし)
174オツトドツコイ吾々(われわれ)は
175神(かみ)の司(つかさ)の候補者(こうほしや)ぞ
176庚申(かうしん)さまの眷族(けんぞく)よ
177貴様(きさま)は風(かぜ)が恐(こは)いのか
178懐谷(ふところだに)へ集(あつま)つて
179キヤツキヤツと咆(ほ)えるは何(なん)の事(こと)
180みつともないぞ、こら畜生(ちくしやう)
181四(よ)つ手(で)の化物(ばけもの)やうやうと
182枝(えだ)から枝(えだ)へと飛(と)び廻(まは)り
183木(こ)の実(み)を喰(くら)ひキヤツキヤツと
184朝(あさ)から晩(ばん)まで咆(ほ)え猛(たけ)る
185その有様(ありさま)の面白(おもしろ)さ
186あんまり良(よ)い気(き)になりよると
187猿(ましら)も木(き)からバツサリと
188落(お)ちて腰(こし)打(う)ち足(あし)を折(を)り
189小便(せうべん)垂(た)れて斃死(くたば)つて
190非業(ひごう)の最後(さいご)を遂(と)げるぞよ
191俺(おれ)は誠(まこと)の神司(かむづかさ)
192尊(たふと)き神(かみ)の生宮(いきみや)ぞ
193俺(おれ)の言葉(ことば)をよつく聞(き)け
194同(おな)じ天地(てんち)に生(うま)れ来(き)て
195人間(にんげん)擬(まが)ひの猿(さる)となり
196頭(かみ)の毛(け)三本(さんぼん)足(た)らぬため
197畜生(ちくしやう)の境遇(きやうぐう)に甘(あま)んじて
198月日(つきひ)を送(おく)るか情(なさけ)ない
199頭(かみ)の毛(け)三本(さんぼん)足(た)らぬのは
200瑞(みづ)の御霊(みたま)の神(かみ)様(さま)の
201御恩(ごおん)を忘(わす)れた罰(ばち)ぢやぞや
202早(はや)く心(こころ)を取直(とりなほ)し
203天地(てんち)の神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
204四(よ)つ手(で)をついて拝礼(はいれい)し
205生宮(いきみや)様(さま)の言霊(ことたま)を
206耳(みみ)をすませて拝聴(はいちやう)し
207一(いち)時(じ)も早(はや)く人間(にんげん)の
208社会(しやくわい)に生(うま)れて来(く)るがよい
209人(ひと)の真似(まね)をば喜(よろこ)んで
210致(いた)した罰(ばち)で此(この)通(とほ)り
211体(からだ)は人間(にんげん)尾(を)は獣(けもの)
212畜生道(ちくしやうだう)の苦(くる)しみを
213助(たす)けて欲(ほ)しいと思(おも)はぬか
214こらこらキヤツキヤツ吐(ぬか)すなよ
215耳(みみ)が聾(つんぼ)になりよるわ
216雲雀(ひばり)か燕(つばめ)か小雀(こすずめ)か
217何(なん)の身霊(みたま)か知(し)らねども
218あんまり口(くち)が過(す)ぎるぞや
219玉国別(たまくにわけ)のお言葉(ことば)に
220沈黙(ちんもく)せよと仰有(おつしや)つた
221貴様(きさま)もチツとは伊太公(いたこう)の
222善言(ぜんげん)美口(びこう)に神習(かむなら)ひ
223しばらく沈黙(ちんもく)するがよい
224伊太公(いたこう)さまが今(いま)此処(ここ)に
225千匹猿(せんびきざる)に打向(うちむか)ひ
226篏口令(かんこうれい)を布(し)くほどに
227我(わが)憲法(けんぱふ)を守(まも)らねば
228天則(てんそく)違反(ゐはん)で天国(てんごく)の
229畜生(ちくしやう)警察(けいさつ)へ訴(うつた)へる
230あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
231如何(いか)に畜生(ちくしやう)と云(い)ひ乍(なが)ら
232天地(てんち)の神(かみ)の御水火(みいき)より
233生(うま)れ出(いで)たる貴様(きさま)等(ら)は
234実(じつ)に憐(あは)れな代物(しろもの)だ
235一言(いちげん)天地(てんち)を震動(しんどう)し
236一声(いつせい)風雨(ふうう)雷霆(らいてい)を
237叱咤(しつた)するてふ伊太公(いたこう)の
238生言霊(いくことたま)を謹(つつし)んで
239畜生(ちくしやう)ながらも反省(はんせい)せよ
240吾(われ)は救(すく)ひの道(みち)の者(もの)
241救(すく)ひの神(かみ)に捨(す)てられて
242如何(いか)にガヤガヤ騒(さわ)いでも
243決(けつ)して助(たす)かる筈(はず)はない
244早(はや)く改心(かいしん)するが良(よ)い
245改心(かいしん)すれば其(その)日(ひ)から
246楽(らく)に此(この)世(よ)が暮(く)れるぞよ
247それも知(し)らずに何時迄(いつまで)も
248キヤツキヤツ吐(ぬ)かして山棲(やまずま)ひ
249木実(このみ)の蔕(へた)や渋柿(しぶがき)を
250食(くら)つて此(この)世(よ)を送(おく)るとは
251実(じつ)に可憐相(かはいそ)な代物(しろもの)だ
252とは云(い)ふものの吾々(われわれ)も
253人間界(にんげんかい)に向(むか)つては
254大(おほ)きな声(こゑ)で言霊(ことたま)を
255発射(はつしや)するやうな力(ちから)ない
256今日(けふ)宣伝(せんでん)の門出(かどいで)に
257演習(えんしふ)気取(きど)りで貴様(きさま)等(ら)に
258言霊戦(ことたません)を試(こころ)みた
259これが利(き)いたらお慰(なぐさ)み
260人(ひと)を助(たす)けるばつかりが
261決(けつ)して司(つかさ)の能(のう)ぢやない
262鳥(とり)獣(けだもの)は云(い)ふも更(さら)
263虫族(むしけら)までも済度(さいど)して
264助(たす)けて行(ゆ)くのが神(かみ)の道(みち)
265これこれもうし宣伝使(せんでんし)
266玉国別(たまくにわけ)の神司(かむづかさ)
267俺(わし)の言葉(ことば)は違(ちが)ひますか
268違(ちが)ふなら違(ちが)ふと云(い)ひなされ
269あれあれ皆(みな)さま猿公(えてこう)が
270両手(りやうて)を合(あは)せ拝(をが)みよる
271よつぽど俺(わし)の言霊(ことたま)は
272猿公(さるこう)さまの琴線(きんせん)に
273よくよく触(ふ)れたと見(み)えまする
274如何(いか)に畜生(ちくしやう)なればとて
275決(けつ)して馬鹿(ばか)にはなりませぬ
276あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
277叶(かな)はないから止(や)めませう』
278道公(みちこう)『アハヽヽヽ貴様(きさま)の言霊(ことたま)はよく利(き)くと見(み)えて、279おひおひ吾々(われわれ)の身辺(しんぺん)に押寄(おしよ)せて来(く)るぢやないか』
280伊太公(いたこう)『きまつた事(こと)だ。281余(あんま)り有難(ありがた)うて一言(いちごん)も洩(も)らさじと俺(おれ)の言霊(ことたま)を拝聴(はいちやう)してゐるのだ。282「苦(くる)しうない、283近(ちか)う近(ちか)う」と云(い)ひもせぬのに身辺(しんぺん)に近寄(ちかよ)つて来(く)るのだから伊太公(いたこう)の初宣伝(はつせんでん)も随分(ずゐぶん)有力(いうりよく)なものだ』
284道公(みちこう)『目的(もくてき)と結果(けつくわ)がそれでも違(ちが)ふぢやないか』
285伊太公(いたこう)『そんなら貴様(きさま)、286猿公(ゑんこう)を退却(たいきやく)させて見(み)い。287もし効能(かうのう)があつたら俺(おれ)の首(くび)でも熨斗(のし)つけて貴様(きさま)に献上(けんじやう)するわい』
288玉国別(たまくにわけ)『猿(さる)の奴(やつ)も随分(ずゐぶん)八釜(やかま)しいが、289それにもいやまして貴様(きさま)等(ら)も騒(さわ)がしい奴(やつ)だな。290まるで雷(かみなり)と同居(どうきよ)してる様(やう)だ。291アハヽヽヽ』
292(大正一一・一一・二六 旧一〇・八 北村隆光録)
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