霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一三章 軍談(ぐんだん)〔一一六四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第4篇 愛縁義情 よみ(新仮名遣い):あいえんぎじょう
章:第13章 軍談 よみ(新仮名遣い):ぐんだん 通し章番号:1164
口述日:1922(大正11)年11月28日(旧10月10日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-10 14:03:54 文字数:9041 OBC :rm4313
愛善世界社版:199頁 八幡書店版:第8輯 100頁 修補版: 校定版:209頁 普及版:84頁 初版: ページ備考:
001 数十(すうじふ)年(ねん)の雨風(あめかぜ)に弄(もてあそ)ばれて、002屋根(やね)は飛散(とびち)り柱(はしら)は歪(ゆが)み、003見(み)るかげもなき古祠(ふるほこら)の前(まへ)に、004薄雲(はくうん)を被(かぶ)つてボンヤリ輪廓(りんくわく)を不明瞭(ふめいれう)に現(あら)はした月(つき)の光(ひかり)を浴(あ)び乍(なが)ら、005話(はなし)に耽(ふけ)る七(しち)人(にん)の男(をとこ)があつた。006これは勿論(もちろん)治国別(はるくにわけ)、007玉国別(たまくにわけ)の一行(いつかう)である。
008玉国別(たまくにわけ)『治国別(はるくにわけ)さま、009昨日来(さくじつらい)の大風(おほかぜ)には随分(ずゐぶん)お艱(なや)みでしたらうなア。010それに又(また)バラモン教(けう)の軍勢(ぐんぜい)がやつて来(き)たので、011一段(いちだん)と御(お)骨(ほね)の折(を)れたことでせう』
012治国別(はるくにわけ)『河鹿(かじか)峠(たうげ)を此方(こちら)へ下(くだ)る折(をり)しも片彦(かたひこ)、013久米彦(くめひこ)の軍勢(ぐんぜい)と出会(でつくは)し、014兎(と)も角(かく)も屈竟(くつきやう)の難所(なんしよ)に陣(ぢん)を構(かま)へ、015徐(おもむろ)に言霊(ことたま)を打出(うちだ)した所(ところ)、016昨日(さくじつ)の暴風(ばうふう)に木々(きぎ)の木(こ)の葉(は)が散(ち)る如(ごと)く、017隊伍(たいご)を乱(みだ)し、018這々(はふばふ)の体(てい)で逃(に)げ散(ち)つて了(しま)ひましたよ。019貴方(あなた)は此(この)森蔭(もりかげ)に於(おい)て、020キツと敵(てき)の潰走(くわいそう)を待受(まちう)け、021言霊(ことたま)を打出(うちだ)しなさるだらう、022両方(りやうはう)より言霊(ことたま)の挟(はさ)み打(うち)も面白(おもしろ)からうと考(かんが)へて居(を)りました。023そしてさぞ祠(ほこら)の森(もり)の前(まへ)には沢山(たくさん)な帰順者(きじゆんしや)が居(を)るだらうと、024イヤもう楽(たのし)んで参(まゐ)りました。025敵(てき)は此(この)谷道(たにみち)を通(とほ)らなかつたですか』
026玉国別(たまくにわけ)『ヤアもう残念(ざんねん)なことを致(いた)しました。027神(かみ)様(さま)に神罰(しんばつ)を蒙(かうむ)り、028大怪我(おほけが)を致(いた)し、029心気(しんき)沮喪(そさう)したと見(み)え、030雪崩(なだれ)の如(ごと)く逃(に)げくる敵(てき)を無念(むねん)乍(なが)らも、031皆(みな)取逃(とりに)がして了(しま)ひました』
032治国別(はるくにわけ)『それは何(なん)とも仕方(しかた)がありませぬ。033何事(なにごと)も神界(しんかい)の御(ご)都合(つがふ)でせう。034併(しか)し乍(なが)ら大怪我(おほけが)をなさつたとは……』
035玉国別(たまくにわけ)『ハイ猿(さる)の奴(やつ)に両眼(りやうがん)をかきむしられ、036一旦(いつたん)は失明(しつめい)致(いた)しましたが、037有難(ありがた)き御(ご)神徳(しんとく)によつて漸(やうや)く片目(かため)を救(すく)はれ、038此(この)森蔭(もりかげ)に休息(きうそく)して頭痛(づつう)や目(め)の痛(いた)みの癒(なほ)るのを待(ま)つて居(を)りました』
039治国別(はるくにわけ)『それは誠(まこと)に気(き)の毒(どく)千万(せんばん)、040月夜(つきよ)とはいへ、041余(あま)りボンヤリとしてゐて、042お顔(かほ)が見(み)えませなんだが、043ドレ一寸(ちよつと)見(み)せて下(くだ)さい』
044と云(い)ひ乍(なが)ら、045玉国別(たまくにわけ)の顔(かほ)を覗(のぞ)き込(こ)んだ。
046治国別『ヤア大変(たいへん)だ。047目(め)のまはりがただれて居(を)ります。048余程(よほど)きつく掻(か)いたものと見(み)えますなア』
049玉国別(たまくにわけ)『吾々(われわれ)が心(こころ)の油断(ゆだん)より自(みづか)ら災(わざわひ)を招(まね)いたのです。050実(じつ)に宣伝使(せんでんし)として顔(かほ)がありませぬ』
051治国別(はるくにわけ)『ここでは何(なん)だかきまりが悪(わる)いやうですが、052どこぞ良(よ)い場所(ばしよ)でゆつくり話(はな)さうぢやありませぬか』
053玉国別(たまくにわけ)『一町(いつちやう)許(ばか)り此(この)森(もり)を登(のぼ)つて行(ゆ)きますると、054恰好(かつかう)な休息所(きうそくしよ)があります。055実(じつ)の所(ところ)は今宵(こよひ)も其(その)森蔭(もりかげ)で養生(やうじやう)がてら、056敵軍(てきぐん)の進(すす)むのを眺(なが)めて居(を)りました』
057治国別(はるくにわけ)『そんなら、058其(その)森蔭(もりかげ)の休息所(きうそくしよ)までお供(とも)を致(いた)しませう』
059玉国別(たまくにわけ)『何(いづ)れ又(また)敵(てき)の残党(ざんたう)が通過(つうくわ)するやら、060再(ふたた)び蒸(む)し返(かへ)しに来(く)るやら分(わか)りませぬから、061此処(ここ)に二人(ふたり)程(ほど)見張(みはり)をさしておいて参(まゐ)りませうかなア』
062治国別(はるくにわけ)『オイ五三公(いそこう)、063お前(まへ)御(ご)苦労(くらう)だが、064此(この)祠(ほこら)の前(まへ)で暫(しばら)く関所守(せきしよもり)をやつてくれないか』
065五三公(いそこう)『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。066玉国別(たまくにわけ)さまの部下(ぶか)の方(かた)を一人(ひとり)拝借(はいしやく)したいものですなア。067なることならば私(わたし)と能(よ)く馬(うま)の合(あ)ふ伊太公(いたこう)と関守(せきもり)を勤(つと)めませう』
068玉国別(たまくにわけ)『残念(ざんねん)ながら伊太公(いたこう)は貴方(あなた)にお渡(わた)しする訳(わけ)には参(まゐ)りませぬ』
069五三公(いそこう)『誰(たれ)だつて同(おな)じことぢやありませぬか。070私(わたし)の先生(せんせい)も斯(こ)うして一人(ひとり)留守番(るすばん)をお命(めい)じになつたのだから、071貴方(あなた)だつて、072伊太公(いたこう)の一人(ひとり)位(ぐらゐ)ここにお残(のこ)しになつても宜(よ)かりさうなものですなア』
073道公(みちこう)『実(じつ)の所(ところ)は伊太公(いたこう)の奴(やつ)、074敵(てき)の捕虜(ほりよ)となつて了(しま)つたのだ。075これから吾々(われわれ)両人(りやうにん)は伊太公(いたこう)を取返(とりかへ)しに敵中(てきちう)へ飛込(とびこ)まふと思(おも)つてゐるのだが、076何分(なにぶん)先生(せんせい)が目(め)を痛(いた)め、077頭(あたま)を痛(いた)めて厶(ござ)るものだから行(ゆ)くことも出来(でき)ず、078気(き)が気(き)でないのだ』
079五三公(いそこう)『ヤアさうか、080そりや大変(たいへん)だ。081俺(おれ)も先生(せんせい)の許(ゆる)しさへあれば伊太公(いたこう)の所在(ありか)を尋(たづ)ねに行(ゆ)きたいものだなア』
082治国別(はるくにわけ)『ヤア、083玉国別(たまくにわけ)さま、084伊太公(いたこう)が敵(てき)の捕虜(ほりよ)になつたのですか』
085玉国別(たまくにわけ)『残念(ざんねん)ながら……』
086治国別(はるくにわけ)『ヤアそりや困(こま)つたことが出来(でき)たものだ。087マアマアゆつくりと森蔭(もりかげ)で御(ご)相談(さうだん)を致(いた)しませう。088そんなら五三公(いそこう)、089御(ご)苦労(くらう)だが、090お前(まへ)一人(ひとり)ここに関守(せきもり)をやつてゐてくれ』
091五三公(いそこう)『ハイやらぬことはありませぬが、092何(なん)だか私(わたし)一人(ひとり)捨(す)てられた様(やう)な気分(きぶん)になりますワ。093どうぞ晴公(はるこう)なりと残(のこ)して下(くだ)さいなア』
094玉国別(たまくにわけ)『イヤ宜(よろ)しい、095純公(すみこう)を此処(ここ)に残(のこ)して置(お)きませう。096オイ純公(すみこう)、097お前(まへ)御(ご)苦労(くらう)なれど、098五三公(いそこう)さまと臨時(りんじ)関守(せきもり)を頼(たの)む』
099純公(すみこう)『承知(しようち)致(いた)しました。100どうしても私(わたし)は雑兵(ざふひやう)だとみえて、101将校(しやうかう)会議(くわいぎ)に参列(さんれつ)は許(ゆる)されないのですなア、102敵(てき)を遠(とほ)くに追(お)ひちらし、103稍(やや)小康(せうかう)を得(え)たる此(この)場合(ばあひ)、104仕方(しかた)がありませぬから、105私(わたし)は五三公(いそこう)さまと又(また)別働隊(べつどうたい)を造(つく)つて、106将校(しやうかう)会議(くわいぎ)を開設(かいせつ)致(いた)しませう。107サア、108両(りやう)先生(せんせい)初(はじ)め道公(みちこう)、109晴公(はるこう)、110万公(まんこう)、111ゆつくりと休(やす)んでおいでなさいませ』
112玉国別(たまくにわけ)『確(しつか)り頼(たの)む。113変(かは)つたことがあれば手(て)を拍(う)つて合図(あひづ)をしてくれ』
114純公(すみこう)『万事(ばんじ)呑込(のみこ)んで居(を)ります』
115玉国別(たまくにわけ)『そんなら宜(よろ)しう頼(たの)む』
116と玉国別(たまくにわけ)は先(さき)に立(た)つて、117以前(いぜん)の森蔭(もりかげ)に登(のぼ)つて行(ゆ)く。
118 両(りやう)宣伝使(せんでんし)及(およ)び三(さん)人(にん)は木(こ)の葉(は)の堆(うづだか)く積(つ)んだ上(うへ)に蓑(みの)を敷(し)き、119言霊戦(ことたません)の状況(じやうきやう)や、120懐谷(ふところだに)の遭難(さうなん)の顛末(てんまつ)などを包(つつ)まず隠(かく)さず互(たがひ)に打明(うちあ)けて談(だん)じ合(あ)うてゐる。
121 此方(こちら)は古祠(ふるほこら)の前(まへ)、122純公(すみこう)、123五三公(いそこう)は近(ちか)い西山(せいざん)に隠(かく)れた月(つき)を見送(みおく)り乍(なが)ら、
124純公(すみこう)『ヤア月様(つきさま)もとうとうアリヨースとお帰(かへ)り遊(あそ)ばした。125どうも俄(にはか)に山影(やまかげ)が襲(おそ)うて来(き)たと云(い)ふものか、126暗黒界(あんこくかい)になつたぢやないか』
127五三公(いそこう)『どうせお月(つき)さまだつて、128同(おな)じとこに止(とど)まつていらつしやる道理(だうり)がない。129やがて又(また)夜(よ)計(ばか)りぢやない、130夜明(よあ)けも近付(ちかづ)いたのだから、131暫(しばら)くグツとここで横(よこた)はり、132バラモン征伐(せいばつ)の夢(ゆめ)でも見(み)ようぢやないか』
133純公(すみこう)『お前(まへ)寝(ね)たけら寝(ね)てくれ、134関守(せきもり)がそんなことぢや勤(つと)まらないから、135俺(おれ)は此処(ここ)に目(め)をあけて職務(しよくむ)忠実(ちうじつ)に勤(つと)めてゐる。136ヤア言霊戦(ことたません)で随分(ずゐぶん)お前(まへ)も疲労(くたび)れただらう、137無理(むり)もない俺(おれ)の蓑(みの)も貸(か)してやるから、138サア寝(ね)たり寝(ね)たり』
139五三公(いそこう)『お前(まへ)の寝(ね)られないのは、140モ一(ひと)つ原因(げんいん)があるのだらう。141伊太公(いたこう)の行方(ゆくへ)が気(き)にかかつてゐるのだらうがなア』
142純公(すみこう)『それが第一(だいいち)の心配(しんぱい)だ。143一(いち)秒間(べうかん)だつて彼奴(あいつ)の事(こと)を忘(わす)れやうたつて、144忘(わす)れられるものか。145俺(おれ)は斯(か)うして安閑(あんかん)とここに関守(せきもり)を勤(つと)めてゐるものの、146伊太公(いたこう)はエラい責苦(せめく)に会(あ)はされてゐるかと思(おも)へば、147如何(どう)して眠(ねむ)ることが出来(でき)ようぞ』
148五三公(いそこう)『アハヽヽヽそれ程(ほど)苦(く)になるか。149人(ひと)の一人(ひとり)位(くらゐ)如何(どう)なつてもいいぢやないか、150貴様(きさま)さへ安全(あんぜん)にあつたら何(なに)よりも大慶(たいけい)だらう。151たつた今迄(いままで)ピチピチして居(を)つた人間(にんげん)が死(し)といふ魔風(まかぜ)に吹(ふ)かれて、152ウンと一声(ひとこゑ)冥土(めいど)へ旅立(たびだ)ちする奴(やつ)もあるのだ。153何程(なにほど)貴様(きさま)がハートに波(なみ)を立(た)ててもがいた所(ところ)で如何(どう)する事(こと)も出来(でき)ぬぢやないか。154そんな人(ひと)の疝気(せんき)を頭痛(づつう)に病(や)むやうな馬鹿(ばか)な事(こと)は思(おも)はぬが良(よ)いぞ。155終(しま)ひにや貴様(きさま)の体(からだ)まで毀(こは)して了(しま)ふぢやないか』
156純公(すみこう)『貴様(きさま)は余程(よほど)良(よ)い冷血漢(れいけつかん)だなア。157何程(なにほど)吾(わが)身(み)が大事(だいじ)だといつて、158友(とも)の危難(きなん)を平気(へいき)で見遁(みのが)すことが出来(でき)ようかい。159それが朋友(ほういう)の義務(ぎむ)だ。160否(いな)義務(ぎむ)どころか情(なさけ)ぢやないか』
161五三公(いそこう)『さう心配(しんぱい)するな。162伊太公(いたこう)は決(けつ)して嬲殺(なぶりごろし)になつたり、163虐待(ぎやくたい)されたりするやうな男(をとこ)ぢやない。164彼奴(あいつ)はじゆん才(さい)な男(をとこ)だから、165そこは甘(うま)く合槌(あひづち)を打(う)ち、166敵(てき)でさへも可愛(かあい)がるやうな交際振(かうさいぶり)を発揮(はつき)してゐるよ。167キツと敵(てき)に同情(どうじやう)を受(う)けてゐるに定(きま)つて居(ゐ)るワ』
168純公(すみこう)『さうだらうかなア、169それが本当(ほんたう)ならば、170俺(おれ)もチツと許(ばか)り安心(あんしん)だ』
171五三公(いそこう)『伊太公(いたこう)はまた如何(どう)して捕虜(ほりよ)になりよつたのだ。172其(その)顛末(てんまつ)をチツと聞(き)かして呉(く)れないか』
173純公(すみこう)『ウーン、174俺(おれ)達(たち)が先生(せんせい)とあの森蔭(もりかげ)で休息(きうそく)してゐると、175バラモン教(けう)の軍勢(ぐんぜい)が此(この)祠(ほこら)の前(まへ)で休息(きうそく)し人員(じんゐん)点呼(てんこ)までやつてゐやがるぢやないか。176そして素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)様(さま)を征伐(せいばつ)すると云(い)つて、177ヒドイ進軍歌(しんぐんか)を歌(うた)つてゐやがるのだ。178それを聞(き)いて吾々(われわれ)三五教(あななひけう)の信者(しんじや)が如何(どう)して堪(こら)へて居(ゐ)ることが出来(でき)ようか。179……不意(ふい)に飛(と)んで出(で)て、180一人(ひとり)も残(のこ)らず打懲(うちこら)してやらうと思(おも)つたが、181何分(なにぶん)先生(せんせい)の目(め)が悪(わる)いものだから、182一息(ひといき)も離(はな)れる訳(わけ)に行(ゆ)かず、183切歯(せつし)扼腕(やくわん)悲憤(ひふん)の涙(なみだ)を流(なが)してゐると伊太公(いたこう)の奴(やつ)堪(たま)りかねて、184金剛杖(こんがうづゑ)を縦横(じうわう)無尽(むじん)に打振(うちふ)り、185命(いのち)を的(まと)に敵中(てきちう)へ只(ただ)一人(ひとり)飛(と)び込(こ)んだきり、186帰(かへ)つて来(こ)ないのだ。187実(じつ)に残念(ざんねん)なことをしたワイ。188先生(せんせい)様(さま)のお止(と)めなさるのも聞(き)かずに行(い)つたものだから、189神(かみ)様(さま)の罰(ばち)で敵(てき)に捕(とら)はれよつたのだ。190アヽ思(おも)へば思(おも)へば又(また)悲(かな)しくなつて来(き)たワイ』
191五三公(いそこう)『何(なん)とした向意気(むかふいき)の強(つよ)い男(をとこ)だらうなア、192後前(あとさき)も考(かんが)へず、193匹夫(ひつぷ)の勇(ゆう)を揮(ふる)ふと、194そんな目(め)に会(あ)はねばならぬ。195何事(なにごと)も先生(せんせい)の命令(めいれい)さへ、196神妙(しんめう)に聞(き)いて居(を)れば良(よ)いのだのになア』
197純公(すみこう)『久方(ひさかた)の空(そら)に消(き)えたる月(つき)みれば
198友(とも)の身(み)の上(うへ)慕(した)はるる哉(かな)。
199吾(わが)友(とも)は今(いま)やいづくの何人(なにびと)に
200救(すく)はれゐるか心許(こころもと)なし』
201五三公(いそこう)『惟神(かむながら)尊(たふと)き神(かみ)に仕(つか)へたる
202神(かみ)の子(こ)ならば安(やす)くいまさむ』
203純公(すみこう)『アーア、204余(あま)りの心配(しんぱい)で、205歌(うた)を詠(よ)んでみようと思(おも)うたが、206歌(うた)もハツキリ出(で)ては来(こ)ないワ。207先生(せんせい)はあの通(とほ)り目(め)をわづらひ、208頭(あたま)を痛(いた)め、209伊太公(いたこう)は行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、210何(なん)とした俺(おれ)達(たち)の一行(いつかう)は、211運(うん)の悪(わる)いものだらう、212神(かみ)様(さま)に見離(みはな)されたのぢやあるまいかなア』
213五三公(いそこう)『そんな事(こと)は吾々(われわれ)にや分(わか)らないワイ。214善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)を区別(くべつ)するのは神(かみ)ばかりだ。215それだから神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて、216善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)けると、217基本歌(きほんか)に出(で)て居(ゐ)るのだ。218兎(と)も角(かく)も伊太公(いたこう)の為(ため)に、219何神(なにがみ)の祠(ほこら)か知(し)らぬが、220ここで祈(いの)ることにしようかい』
221純公(すみこう)『ヤアそりや有難(ありがた)い、222伊太公(いたこう)の為(ため)に祈(いの)つてやらうと云(い)ふのか』
223と涙声(なみだごゑ)を出(だ)し乍(なが)ら、224手(て)を合(あは)せて暗祈(あんき)黙祷(もくたう)をなすこと稍(やや)暫(しば)し、225漸(やうや)くにして夜(よ)はカラリと明(あ)けた。
226 慌(あわ)てて谷間(たにま)に落(お)ちた二三頭(にさんとう)の馬(うま)、227主人(しゆじん)の所在(ありか)を索(もと)めてノソリノソリと急坂(きふはん)を下(くだ)つて来(き)た。
228純公(すみこう)『ヤア敵(てき)の馬(うま)が逃(に)げそそくれたと見(み)えて、229今頃(いまごろ)にやつて来(き)よつた。230ヤア此奴(こいつ)ア、231何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も足(あし)を痛(いた)めてゐる塩梅(あんばい)だ。232畜生(ちくしやう)といひ乍(なが)ら可哀相(かあいさう)だなア。233一(ひと)つ神(かみ)様(さま)に願(ねが)つて馬(うま)の脚(あし)を直(なほ)してやらうかなア』
234五三公(いそこう)『俄(にはか)に獣医(じうい)でも開業(かいげふ)する積(つも)りかなア、235免状(めんじやう)を持(も)つてゐるか。236今(いま)の時節(じせつ)は何程(なにほど)技能(ぎのう)があつても免状(めんじやう)がなければ駄目(だめ)だぞ。237どんな筍医者(たけのこいしや)でも、238開業(かいげふ)試験(しけん)といふ関門(くわんもん)を何(ど)うなり斯(こ)うなり通過(つうくわ)さへしておけば、239立派(りつぱ)なドクトルだ。240何(なに)を云(い)つても規則(きそく)づくめの杓子(しやくし)定規(ぢやうぎ)の行方(やりかた)だからなア』
241純公(すみこう)『アヽ馬(うま)の奴(やつ)……皆(みな)さまお早(はや)うとも何(なん)とも吐(ぬか)さずに、242俺(おれ)達(たち)の好意(かうい)を無(む)にして通過(つうくわ)して了(しま)ひやがつた、243ヤツパリ畜生(ちくしやう)は畜生(ちくしやう)だなア』
244五三公(いそこう)『純公(すみこう)、245馬(うま)も助(たす)けてやるのは良(よ)いが、246馬(うま)よりも大切(たいせつ)な者(もの)があるだろ』
247純公(すみこう)『いかにも、248馬(うま)も助(たす)けねばなるまいが、249第一(だいいち)先生(せんせい)の御(ご)病気(びやうき)を癒(なほ)す様(やう)に鎮魂(ちんこん)をせなくてはならなかつたなア。250併(しか)し俺(おれ)は畜生(ちくしやう)の鎮魂(ちんこん)位(ぐらゐ)が性(しやう)に合(あ)うてゐるのだ。251到底(たうてい)先生(せんせい)の御(ご)病気(びやうき)を鎮魂(ちんこん)で癒(なほ)すといふやうなこたア出来(でき)やしないワ』
252五三公(いそこう)『誠心(まごころ)さへ天(てん)に通(つう)じたら、253先生(せんせい)の病気(びやうき)だつてキツと癒(なほ)るよ』
254純公(すみこう)『さう聞(き)けばさうかも知(し)れぬなア、255何(なん)だか知(し)らぬが、256気(き)が落(お)ちつかないワイ。257斯(か)う夜(よ)がカラツと明(あ)けては、258此(こ)の坂路(さかみち)は稍(やや)安心(あんしん)だが、259併(しか)し乍(なが)ら昨夜(さくや)逃去(にげさ)つた敵(てき)の集団(しふだん)が、260此(この)谷路(たにみち)に吾々(われわれ)の前途(ぜんと)を閉塞(へいそく)して、261一人(ひとり)も残(のこ)らず、262虜(とりこ)にせむと、263待構(まちかま)へてゐるやうな気(き)がしてならないワ』
264五三公(いそこう)『そりやキツトさうだらうよ。265面白(おもしろ)いぢやないか、266エヽー。267これからが吾々(われわれ)の真剣(しんけん)の舞台(ぶたい)となるのだ、268そんな弱々(よわよわ)したこと言(い)はずにチツと確(しつか)りせぬかい』
269 斯(か)く話(はな)す時(とき)しも、270馬(うま)から転落(てんらく)し、271足(あし)を傷(きず)つけた逃(に)げ遅(おく)れのバラモン教(けう)の男(をとこ)、272槍(やり)を杖(つゑ)につき、273二人(ふたり)連(づれ)でヒヨクリ ヒヨクリと跛(びつこ)をひき乍(なが)ら、274此処(ここ)へ現(あら)はれて来(き)た。275此(この)二人(ふたり)は片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の秘書役(ひしよやく)ともいふべき、276マツ、277タツの両人(りやうにん)であつた。278二人(ふたり)は純公(すみこう)、279五三公(いそこう)の祠(ほこら)の前(まへ)に狛犬然(こまいぬぜん)と坐(すわ)つてゐるのに気(き)が着(つ)き、280馴々(なれなれ)しく、
281マツ公(こう)『ヤア三五教(あななひけう)の大先生(だいせんせい)、282お早(はや)うさまで厶(ござ)います。283夜前(やぜん)は大変(たいへん)御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)いましたなア。284随分(ずゐぶん)御(お)疲労(くたびれ)になつたでせう。285私(わたし)も大変(たいへん)お疲労(くたびれ)になりました。286これ御覧(ごらん)なさいませ、287一方(いつぱう)のコンパスがチツと許(ばか)り破損(はそん)致(いた)しまして、288此(この)手槍(てやり)をコンパス代用(だいよう)に、289無理槍(むりやり)にここ迄(まで)下(くだ)つて来(き)た所(ところ)です、290此処(ここ)でゆつくりと休(やす)んで行(ゆ)かうと思(おも)つて楽(たのし)んで参(まゐ)りました。291良(い)い所(ところ)でお目(め)にかかりました。292世(よ)の中(なか)は相身互(あひみたがひ)だから、293貴方(あなた)も赤十字(せきじふじ)班(はん)の衛生隊(ゑいせいたい)と思召(おぼしめ)して吾々(われわれ)両人(りやうにん)の看護(かんご)をして下(くだ)さいな。294見(み)れば貴方(あなた)のお召物(めしもの)には丸(まる)に十(じふ)がついてゐる。295キツと白十字(はくじふじ)社(しや)の救護班(きうごはん)と思(おも)ひますが、296違(ちが)ひますかな』
297五三公(いそこう)『アハヽヽヽ此奴(こいつ)ア面白(おもしろ)い吾(わが)党(たう)の士(し)だ。298オイ、299コンパスの破損(はそん)先生(せんせい)、300ドクトルが一(ひと)つ診察(しんさつ)をしてやらう』
301マツ公(こう)『イヤ其奴(そいつ)ア有難(ありがた)い、302何分(なにぶん)宜(よろ)しう頼(たの)みます。303敵(てき)と云(い)ひ味方(みかた)といふのも、304人間(にんげん)が勝手(かつて)につけた名称(めいしよう)で、305ヤツパリ神(かみ)様(さま)の目(め)から見(み)れば皆(みな)兄弟(きやうだい)だからなア』
306純公(すみこう)『ヤアま一人(ひとり)負傷者(ふしやうしや)があるぢやないか』
307マツ公(こう)『ハイこれはタツと言(い)ひまして、308片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の秘書役(ひしよやく)ですよ。309私(わたし)も一寸(ちよつと)新米(しんまい)ではあるが、310夏(なつ)でもないのに、311ヒシヨ(避暑(ひしよ))をやつて居(を)ります。312アハヽヽヽ、313まだまだ七八(しちはち)人(にん)の負傷者(ふしやうしや)が谷底(たにそこ)に呻吟(しんぎん)してゐますから、314一(ひと)つ担架隊(たんかたい)でも出(だ)して、315此処(ここ)まで持(も)ち運(はこ)び、316此(この)祠(ほこら)を臨時(りんじ)野戦(やせん)病院(びやうゐん)として、317治療(ちれう)を与(あた)へてやつて貰(もら)ひたいものですなア。318三五教(あななひけう)は敵(てき)でも助(たす)けるといふ教(をしへ)だと聞(き)いたから、319此(この)マツ公(こう)もスツカリと気(き)を許(ゆる)し、320親(おや)の側(そば)へ帰(かへ)つて来(き)たやうな気分(きぶん)になりました』
321 何程(なにほど)憎(にく)い敵(てき)でも悪人(あくにん)でも、322向(むか)ふの方(はう)から打解(うちと)け、323開(あ)けつ放(はな)しでやつて来(こ)られると人間(にんげん)といふものは妙(めう)なもので、324何(なん)となく贔屓(ひいき)がつき、325吾(わが)身(み)を忘(わす)れて助(たす)けてやりたくなるものである。326バラモン教(けう)のマツ公(こう)、327タツ公(こう)は流石(さすが)に片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の秘書(ひしよ)を勤(つと)むる丈(だけ)あつて、328先(さき)んずれば人(ひと)を制(せい)するといふ筆法(ひつぱふ)を能(よ)く呑込(のみこ)んでゐた。329其(その)実(じつ)は酢(す)でも蒟蒻(こんにやく)でもいかぬしれ者(もの)なのだ。330五三公(いそこう)、331純公(すみこう)もそんなことを知(し)らぬ様(やう)な馬鹿(ばか)ではないが、332敵(てき)の方(はう)から斯(こ)う出(で)られると、333知(し)らず識(し)らずの間(あひだ)に受太刀(うけだち)にならざるを得(え)ないのであつた。
334五三公(いそこう)『三五教(あななひけう)独特(どくとく)の鎮魂(ちんこん)の妙術(めうじゆつ)を施(ほどこ)してやるから、335先(ま)づそこで横(よこ)になつて見(み)よ』
336マツ公(こう)『イヤ有難(ありがた)う、337三五教(あななひけう)の信者(しんじや)はさうなくてはならぬ。338如何(いか)にも良(い)い教(をしへ)だなア。339博愛(はくあい)主義(しゆぎ)だ。340あゝ敵(てき)乍(なが)ら霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)、341カタキ乍(なが)ら霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
342五三公(いそこう)『アハヽヽヽ此奴(こいつ)ア面白(おもしろ)い奴(やつ)だ。343遺憾(ゐかん)乍(なが)ら霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。344イヤイヤ乍(なが)ら霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。345仕方(しかた)がない霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
346マツ公(こう)『アハヽヽヽアイタヽヽヽ、347余(あま)り笑(わら)ふと、348骨(ほね)に響(ひび)いて痛(いた)くて仕方(しかた)がないワ。349オイ、350タツ公(こう)、351貴様(きさま)も一(ひと)つ治療(ちれう)を受(う)けないか、352何程(なにほど)大治療(だいちれう)を受(う)けても薬礼(やくれい)も要(い)らず、353入院料(にふゐんれう)も要(い)らぬのだから、354嬶(かか)の湯巻(ゆまき)まで六一(ろくいち)銀行(ぎんかう)へ無期(むき)徒刑(とけい)にやる必要(ひつえう)もなし、355極(きは)めて安全(あんぜん)なものだぞ』
356タツ公(こう)『俺(おれ)の傷(きず)は余程(よほど)深(ふか)いのだから、357さう直(ぢき)に治(なほ)らうかなア』
358五三公(いそこう)『さう心配(しんぱい)をするな。359俺(おれ)の技術(ぎじゆつ)を信用(しんよう)してくれ。360白十字(はくじふじ)病院長(びやうゐんちやう)、361死学(しがく)博士(はくし)だ、362千(せん)人(にん)の患者(くわんじや)を扱(あつか)つたら、363九百(くひやく)九十九(くじふく)人(にん)までは皆(みな)霊壇(れいだん)へ直(なほ)し、364墓場(はかば)へ送(おく)るのだから、365死学(しがく)博士(はくし)といふのだよ、366随分(ずゐぶん)偉(えら)い者(もの)だらう。367そして天国(てんごく)へ復活(ふくくわつ)さしてやるのだ。368生(い)かさうと殺(ころ)さうと自由(じいう)自在(じざい)、369耆婆(きば)扁鵲(へんじやく)も跣足(はだし)で逃(に)げるといふ大博士(だいはくし)だからなア。370ウツフヽヽヽ』
371マツ公(こう)『いい加減(かげん)に洒落(しやれ)をやめて、372早(はや)く俺(おれ)の苦痛(くつう)を助(たす)けて呉(く)れないか。373白十字(はくじふじ)病院(びやうゐん)の金看板(きんかんばん)を掲(かか)げ乍(なが)ら俺(おれ)の苦痛(くつう)を外(よそ)にみて、374仁術者(じんじゆつしや)の身分(みぶん)としてクツクツと笑(わら)ふ奴(やつ)があるかい、375エーン、376余程(よほど)此(この)医者(いしや)は筍(たけのこ)と見(み)えるなア』
377純公(すみこう)『副院長(ふくゐんちやう)の俺(おれ)がタツ公(こう)の治療(ちれう)をするから、378五三公(いそこう)さま否(いな)院長(ゐんちやう)さま、379貴方(あなた)はマツ公(こう)を受持(うけも)つて、380完全(くわんぜん)無欠(むけつ)なコンパスにしてやつて下(くだ)さい。381どちらが早(はや)く癒(なほ)るか一(ひと)つ競走(きやうそう)をやつて見(み)ませうかなア。382有名(いうめい)な死学(しがく)博士(はくし)計(ばか)りがよつて居(ゐ)るのだからなア、383アハヽヽヽ』
384 マツ、385タツ一度(いちど)に『ウツフヽヽヽ、386アイタヽヽヽ、387アハヽヽヽ、388アイタヽヽヽ』
389マツ公(こう)『コリヤ余(あま)り笑(わら)はして呉(く)れない』
390純公(すみこう)『笑(わら)ふのは病気(びやうき)の薬(くすり)だ。391笑(わら)ふ門(かど)には恢復(くわいふく)来(きた)るといつてな、392俺(おれ)は笑(わら)はすのが得意(とくい)だ。393それが医術(いじゆつ)の奥(おく)の手(て)だよ。394イヒヽヽヽ』
395マツ公(こう)『モシモシ院長(ゐんちやう)さま、396どうぞ早(はや)う治療(ちれう)にかかつて下(くだ)さいな』
397五三公(いそこう)『貴様(きさま)の内(うち)には家(いへ)もあるだろ。398田地(でんぢ)も倉(くら)も林(はやし)もあるだらうなア』
399マツ公(こう)『俺(おれ)だつて片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の秘書役(ひしよやく)を勤(つと)める位(くらゐ)だから、400相当(さうたう)の地位(ちゐ)も名望(めいばう)も財産(ざいさん)も持(も)つてゐるわい』
401五三公(いそこう)『ウンさうか、402其奴(そいつ)ア掘出(ほりだ)し者(もの)だ。403早速(さつそく)癒(なほ)すと俺(おれ)の商売(しやうばい)が干上(ひあが)つて了(しま)うワイ。404コーツと、405いつやらの話(はなし)だ……或(ある)所(ところ)に医者(いしや)があつた、406大変(たいへん)ようはやる医者(いしや)で、407山井(やまゐ)養仙(やうせん)さまといつて名高(なだか)いものだつた、408其奴(そいつ)に一人(ひとり)の山井(やまゐ)養洲(やうしう)といふ弟子(でし)があつた。409そこへ土地(とち)の富豪(ふがう)が病気(びやうき)に罹(かか)り養仙(やうせん)の薬(くすり)を服用(ふくよう)してゐた。410少(すこ)し快(よ)くなると又(また)悪(わる)くなる、411又(また)快(よ)くなる又(また)悪(わる)くなる。412三(さん)年(ねん)許(ばか)りもブラブラして、413養仙(やうせん)の薬(くすり)を神(かみ)のやうに思(おも)つて服薬(ふくやく)してゐた。414或時(あるとき)養仙(やうせん)が二三(にさん)日(にち)急用(きふよう)が出来(でき)て、415他行(たぎやう)した不在(ふざい)の間(ま)に、416書生(しよせい)の養洲(やうしう)奴(め)其(その)男(をとこ)を留守(るす)師団長(しだんちやう)気分(きぶん)で診察(しんさつ)し、417薬(くすり)をもり与(あた)へた所(ところ)、418三日目(みつかめ)にスツカリ全快(ぜんくわい)してお礼(れい)にやつて来(き)よつた。419四五(しご)日(にち)たつと、420養仙(やうせん)先生(せんせい)が帰宅(きたく)したので、421書生(しよせい)の養洲(やうしう)奴(め)、422したり顔(がほ)で……先生(せんせい)あの松兵衛(まつべゑ)を、423貴方(あなた)の不在中(るすちう)私(わたし)が診察(しんさつ)して薬(くすり)をもりましたら、424三日目(みつかめ)にスツカリ全快(ぜんくわい)し、425最早(もはや)薬(くすり)に親(した)しむ必要(ひつえう)がないから、426お礼(れい)に来(き)ましたと云(い)つて、427薬価(やくか)を勘定(かんぢやう)し、428チツと許(ばか)り菓子料(くわしれう)を置(お)いて帰(かへ)りました。429これが菓子料(くわしれう)で厶(ござ)いますと差出(さしだ)し、430褒(ほ)められるかと思(おも)ひの外(ほか)養仙(やうせん)は目(め)に角(かど)を立(た)て……大(おほ)馬鹿者(ばかもの)ツ、431貴様(きさま)は医者(いしや)の資格(しかく)はない……と呶鳴(どな)りつけた。432そこで養洲(やうしう)がむきになり……医者(いしや)は仁術(じんじゆつ)といつて、433人(ひと)の病気(びやうき)を助(たす)けるのが商売(しやうばい)ぢやありませぬか、434何故(なぜ)お叱(しか)り遊(あそ)ばすか……といへば、435養仙(やうせん)は一寸(ちよつと)ダラ助(すけ)をねぶつたやうな顔(かほ)して……貴様(きさま)は馬鹿(ばか)だなア。436松兵衛(まつべゑ)の内(うち)にはまだ倉(くら)もある、437家(いへ)も山林(さんりん)田畑(でんぱた)も残(のこ)つて居(ゐ)るぢやないか、438エーン、439さう早(はや)く癒(なほ)して何(ど)うなるか、440彼奴(あいつ)の財産(ざいさん)が全部(ぜんぶ)俺(おれ)の懐(ふところ)へ這入(はい)るまでは癒(なほ)されぬのだ、441バカツ……と言(い)つたさうだ、442実(じつ)に偉(えら)い医者(いしや)だ。443其(その)心得(こころえ)がなくては、444如何(どう)しても院長(ゐんちやう)にはなれないワ。445さうだから俺(おれ)も其(その)養仙(やうせん)さまに做(なら)つて、446貴様(きさま)の負傷(ふしやう)を如何(どう)ともヨウセンのだ、447アハヽヽヽ、448イヒヽヽヽ』
449マツ公(こう)『エヘヽヽヽ、450イヽイタイ イタイ イタイ イタイ、451ウツフヽヽアイタヽヽヽ』
452タツ公(こう)『エヘヽヽヽアイタヽヽヽ』
453純公(すみこう)『それ丈(だけ)笑(わら)つたら、454やがて本復(ほんぷく)するだらう。455マア安心(あんしん)したがいいワ』
456タツ公(こう)『オイ藪医(やぶい)先生(せんせい)、457何時(いつ)になつたら癒(なほ)るだらうかなア』
458純公(すみこう)『マアマア一寸(ちよつと)予後(よご)不良(ふりやう)だから、459計算(けいさん)がつかぬワイ。460すべて病(やまひ)には……エヘン……二大別(にだいべつ)がある。461一(いち)を先天性(せんてんせい)疾病(しつぺい)といひ、462一(いち)を後天性(こうてんせい)疾病(しつぺい)と云(い)ふ。463而(しか)して予後良(よごりやう)あり不良(ふりやう)あり、464良不良(りやうふりやう)を決(けつ)し難(がた)きものありだ。465治(ぢ)すべき病(やまひ)と、466治(ぢ)すべからざる病(やまひ)と、467治不治(ぢふぢ)を決(けつ)し難(がた)き病(やまひ)と、468自然(しぜん)に放擲(はうてき)して置(お)いて癒(なほ)る病(やまひ)と四種類(よんしゆるゐ)ある。469それから内科(ないくわ)外科(げくわ)産科(さんくわ)と分(わか)れてゐる。470又(また)婦人科(ふじんくわ)小児科(せうにくわ)といふのも此(この)頃(ごろ)はふえて来(き)た。471そして薬(くすり)には内服用(ないふくよう)外用(ぐわいよう)と大別(たいべつ)され、472頓服剤(とんぷくざい)も必要(ひつえう)があり、473食塩(しよくえん)注射(ちうしや)にモルヒネ注射(ちうしや)、474此(この)頃(ごろ)は六〇六(ろくぴやくろく)注射(ちうしや)迄(まで)開(ひら)けて来(き)たのだ、475エーン。476随分(ずゐぶん)医者(いしや)になるのも学資(がくし)が要(い)るよ。477(狂歌(きやうか))千(せん)人(にん)を殺(ころ)して医者(いしや)になる奴(やつ)は、478己(おのれ)一人(ひとり)の口(くち)すぎもならず……といふのだから、479俺(おれ)だつて今(いま)まで九百(くひやく)九十九(くじふく)人(にん)まで殺(ころ)してきたのだ。480モ一人(ひとり)殺(ころ)せば一人前(いちにんまへ)の医者(いしや)になるのだ。481それだから丁度(ちやうど)貴様(きさま)を一人(ひとり)霊前(れいぜん)に直(なほ)す、482有体(ありてい)にいへば殺(ころ)すのだ。483そこで始(はじ)めて此(この)純公(すみこう)も一人前(いちにんまへ)のドクトルになるのだからなア。484何(なん)とよい研究(けんきう)材料(ざいれう)が出来(でき)たものだ。485アハヽヽヽ』
486マツ公(こう)『アハヽヽヽ何時(いつ)の間(ま)にか俺(おれ)の足痛(そくつう)は尻(しり)に帆(ほ)かけて遁走(とんそう)したと見(み)えるワイ。487オイ、488タツ公(こう)貴様(きさま)もいい加減(かげん)に癒(なほ)つたら如何(どう)だ。489イヒヽヽヽ』
490五三公(いそこう)『コリヤなまくらな、491足痛(そくつう)の真似(まね)をしてゐたのだな。492仕方(しかた)のない奴(やつ)だ』
493マツ公(こう)『さうだから、494痛(いた)いか痛(いた)くないか診察(しんさつ)してくれと云(い)つたぢやないか。495実(じつ)の所(ところ)は負傷者(ふしやうしや)だといつて、496お前(まへ)達(たち)の同情(どうじやう)を買(か)ひ、497ここを無事(ぶじ)に通過(つうくわ)する積(つも)りだつたが、498余(あま)り貴様(きさま)の言分(いひぶん)が気(き)にいつたから、499何(なに)もかも白状(はくじやう)するワ。500実(じつ)は全軍(ぜんぐん)の逃走(たうそう)した後始末(あとしまつ)をつけて帰(かへ)つて来(き)たのだ。501足(あし)はかうして繃帯(はうたい)で巻(ま)いてゐるが、502チツとも怪我(けが)してゐないのだよ、503のうタツ公(こう)、504アハヽヽヽ』
505五三公(いそこう)『アハヽヽこいつア誤診(ごしん)だつた』
506マツ公(こう)『誤診(ごしん)か御(ご)親切(しんせつ)か知(し)らぬが、507打診(だしん)もないやうだつたね』
508五三公(いそこう)『随分(ずゐぶん)聴診(ちやうしん)にのつて大変(たいへん)な失敗(しつぱい)をした。509サア之(これ)から貴様(きさま)も望診(ぼしん)々々(ぼしん)と行(い)つたらどうだ。510問診(もんしん)も道(みち)で片彦(かたひこ)に会(あ)うたら、511死学(しがく)博士(はくし)が宜(よろ)しう言(い)つて居(ゐ)たと言(い)うて呉(く)れ、512アーン』
513マツ公(こう)『オイオイ院長(ゐんちやう)さま、514なぜ鼻(はな)の下(した)をさう撫(な)でてゐるのだ。515妙(めう)な恰好(かつかう)ぢやないか』
516五三公(いそこう)『ウン之(これ)かい。517髭(ひげ)はないけれど、518気分(きぶん)だけは八(はち)の字(じ)髯(ひげ)を揉(も)んでゐる積(つも)りだ。519アハヽヽ』
520純公(すみこう)『オイ、521モウ病院(びやうゐん)遊(あそ)びはやめにしようかい。522そしてゆつくりと軍話(いくさばなし)でもしたらどうだ。523随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)いだらうよ』
524マツ公(こう)『敗軍(はいぐん)の将(しやう)、525兵(へい)を語(かた)る……かな。526葬礼(さうれい)すんで医者話(いしやばなし)と同(おな)じ事(こと)だが、527これも成行(なりゆき)だ。528ここで一(ひと)つ物語(ものがたり)をやつてみよう。529随分(ずゐぶん)潔(いさぎよ)いぞ、530エツヘヽヽヽ』
531五三公(いそこう)『何(なん)と気楽(きらく)な奴(やつ)が揃(そろ)うたものだなア。532丁度(ちやうど)祠(ほこら)の前(まへ)で四(よ)人(にん)打揃(うちそろ)ひ、533軍談(ぐんだん)を始(はじ)めるのも面白(おもしろ)からう。534アヽ愉快(ゆくわい)だ愉快(ゆくわい)だ』
535 マツ公(こう)は講談師(かうだんし)気取(きどり)になつて長方形(ちやうはうけい)の岩(いは)の前(まへ)に坐(すわ)り、536鉄扇(てつせん)にて岩(いは)をビシヤビシヤ叩(たた)き乍(なが)ら唸(うな)り出(だ)した。
537マツ公『ハルナの都(みやこ)に名(な)も高(たか)き、538梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)、539大黒主(おほくろぬし)といふ智勇(ちゆう)兼備(けんび)の勇将(ゆうしやう)あり。540それに従(したが)ふ英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)、541綺羅星(きらほし)の如(ごと)く立(た)ち並(なら)び、542中(なか)にもわけて大黒主(おほくろぬし)の三羽烏(さんばがらす)と聞(きこ)えたる鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)、543大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)、544マツ公(こう)将軍(しやうぐん)こそは英雄中(えいゆうちう)の英雄(えいゆう)なり。545此(この)度(たび)斎苑(いそ)の館(やかた)に天地(てんち)に輝(かがや)く神徳(しんとく)高(たか)き、546酒(さけ)の燗(かん)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)、547数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)を引(ひき)つれ、548アブナイ教(けう)を組織(そしき)して、549大黒主(おほくろぬし)の守(まも)らせ給(たま)ふ、550天(てん)に輝(かがや)く月(つき)の国(くに)、551五天竺(ごてんぢく)をば蹂躙(じうりん)し勢(いきほひ)益々(ますます)猖獗(しやうけつ)を極(きは)め天下(てんか)は騒然(さうぜん)として麻(あさ)の如(ごと)くに乱(みだ)れ、552人民(じんみん)塗炭(とたん)の苦(く)に陥(おちい)りぬ。553然(しか)る所(ところ)へ、554又(また)もやデカタン高原(かうげん)の北方(ほつぱう)なるカルマタ国(こく)に、555盤古(ばんこ)神王(しんわう)塩長彦(しほながひこ)を奉(ほう)じて現(あら)はれ出(い)でたる、556ウラル教(けう)の常暗彦(とこやみひこ)が軍勢(ぐんぜい)、557雲霞(うんか)の如(ごと)く、558地教山(ちけうざん)を背景(はいけい)とし、559集(あつ)まりゐる。560今(いま)や天下(てんか)は三分(さんぶん)せむとするの勢(いきほひ)なれば、561何条(なんでう)以(もつ)て大黒主(おほくろぬし)の許(ゆる)し給(たま)ふべき、562三羽烏(さんばがらす)を征夷(せいい)大将軍(たいしやうぐん)に任(にん)じ、563大足別(おほだるわけ)はカルマタ国(こく)へ、564鬼春別(おにはるわけ)は斎苑(いそ)館(やかた)へ、565テンデに部署(ぶしよ)を定(さだ)め、566進軍(しんぐん)の真最中(まつさいちう)なり。567秋(あき)は漸(やうや)く深(ふか)くして木々(きぎ)の梢(こずゑ)はバラバラバラバラ、568散(ち)りゆく無残(むざん)の光景(くわうけい)を心(こころ)にもとめず、569数多(あまた)の軍勢(ぐんぜい)率(ひき)つれて、570先鋒隊(せんぽうたい)には片彦(かたひこ)久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)、571あとから出(で)て来(く)る一部隊(いちぶたい)は、572ランチ将軍(しやうぐん)、573数千騎(すうせんき)を率(ひき)ゐ、574最後(さいご)の本隊(ほんたい)は鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)、575全軍(ぜんぐん)を指揮(しき)し、576秋風(しうふう)に三(み)つ葉(ば)葵(あふひ)の旗(はた)を林(はやし)の如(ごと)く翻(ひるがへ)し乍(なが)ら旗鼓(きこ)堂々(だうだう)と攻(せ)め来(きた)る其(その)物々(ものもの)しさ鬼神(きしん)も驚(おどろ)く許(ばか)り也(なり)。577先陣(せんぢん)に仕(つか)へし片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)は今(いま)や河鹿(かじか)峠(たうげ)の絶頂(ぜつちやう)に、578全軍(ぜんぐん)を指揮(しき)し轡(くつわ)を並(なら)べ、579蹄(ひづめ)の音(おと)カツカツカツ、580鈴(すず)の音(おと)シヤンコ シヤンコと、581威風(ゐふう)堂々(だうだう)あたりを払(はら)ひ天地(てんち)を圧(あつ)して登(のぼ)り行(ゆ)く。582百千万(ひやくせんまん)の阿修羅(あしゆら)王(わう)が進軍(しんぐん)も斯(か)くやと思(おも)はれにける。583然(しか)る所(ところ)に豈計(あにはか)らむや、584思(おも)ひがけなや、585アタ恐(こは)や、586三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)、587万公(まんこう)、588晴公(はるこう)、589五三公(いそこう)の木端(こつぱ)武者(むしや)を引(ひき)つれ、590一卒(いつそつ)之(これ)を守(まも)れば万卒(ばんそつ)進(すす)む能(あた)はざる嶮路(けんろ)を扼(やく)し、591神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)の言霊(ことたま)を速射砲(そくしやはう)の如(ごと)く打(うち)かけ、592向(むか)ひ来(く)る其(その)勢(いきほひ)の凄(すさま)じさ。593不意(ふい)を喰(くら)つて味方(みかた)の軍卒(ぐんそつ)、594忽(たちま)ち総体(そうたい)崩(くづ)れ、595狼狽(うろた)へ騒(さわ)いで、596元来(もとき)し道(みち)へと、597馬(うま)を乗(の)り棄(す)て、598風(かぜ)に木(こ)の葉(は)の散(ち)る如(ごと)く、599バラバラバツと、600群(むれ)ゐる千鳥(ちどり)群千鳥(むらちどり)、601あはれ果敢(はか)なき次第(しだい)也(なり)。602無念(むねん)の涙(なみだ)を押(おさ)へ乍(なが)ら、603バラモン軍(ぐん)の武運(ぶうん)のつたなきを嘆(なげ)き悲(かな)しみ、604片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)の秘書官(ひしよくわん)、605マツ公(こう)タツ公(こう)両人(りやうにん)は、606騒(さわ)がず、607焦(あせ)らず悠々然(いういうぜん)として、608戦場(せんぢやう)の後(あと)を片(かた)づけ、609負傷者(ふしやうしや)と詐(いつは)つて、610ここ迄(まで)やうやう帰(かへ)りける。611アハヽヽヽ、612エー後(あと)は如何(いかが)なりまするか、613実地(じつち)検分(けんぶん)の上(うへ)ボツーボツと講談(かうだん)仕(つかまつ)りますれば、614明晩(みやうばん)は何卒(なにとぞ)十二分(じふにぶん)の御(ご)ヒイキを以(もつ)て、615賑々(にぎにぎ)しく御(ご)来聴(らいちやう)あらむことを希望(きばう)いたします。616チヨン チヨン チヨンだ』
617 五三公(いそこう)、618純公(すみこう)、619タツ公(こう)一度(いちど)に大口(おほぐち)をあけ、
620五三公、純公、タツ公『アハヽヽヽ』
621と腹(はら)を抱(かか)へ、622転(ころ)げて笑(わら)ふ。
623(大正一一・一一・二八 旧一〇・一〇 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→