霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 双遇(さうぐう)〔一一六三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第3篇 河鹿の霊嵐 よみ(新仮名遣い):かじかのれいらん
章:第12章 双遇 よみ(新仮名遣い):そうぐう 通し章番号:1163
口述日:1922(大正11)年11月27日(旧10月9日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-08 22:54:36 文字数:4274 OBC :rm4312
愛善世界社版:182頁 八幡書店版:第8輯 95頁 修補版: 校定版:192頁 普及版:78頁 初版: ページ備考:
001 晴公(はるこう)は夜道(よみち)を下(くだ)りながら、002猿(さる)の人真似(ひとまね)気分(きぶん)で歌(うた)ひだした。
003晴公『昼(ひる)さへ嶮岨(けんそ)な山道(やまみち)を
004ドンドンドンと下(くだ)りゆく
005こりや又(また)何(なん)とした事(こと)か
006ウントコドツコイ ヤツトコシヨ
007是(これ)も矢張(やつぱり)お月(つき)さまの
008吾(われ)等(ら)を照(て)らしたまふ為(た)め
009どうしても月日(つきひ)は世(よ)の中(なか)に
010なければドツコイをさまらぬ
011月日(つきひ)の駒(こま)は矢(や)の如(ごと)く
012早暮(はやく)れかかる夜(よる)の道(みち)
013ヒンヒンヒンと遠近(をちこち)に
014馬(うま)の嘶(いなな)き聞(きこ)え来(く)る
015バラモン教(けう)の奴原(やつばら)が
016乗(の)り捨(す)て置(お)いたお馬(うま)さま
017声(こゑ)まで貧相(ひんさう)な奴(やつ)ぢやなア
018貧(ひん)すりや鈍(どん)すと云(い)ふ事(こと)は
019俺(おれ)も前(まへ)から聞(き)いて居(ゐ)る
020ヒンヒン吠(ほ)える痩馬(やせうま)に
021鈍(どん)な男(をとこ)が乗(の)つて来(き)た
022河鹿(かじか)峠(たうげ)の峻坂(しゆんぱん)で
023一泡(ひとあわ)吹(ふ)いて逃(に)げかかる
024その為体(ていたらく)を見(み)るにつけ
025愛想(あいさう)が尽(つ)きてウントコシヨ
026早速(さつそく)口(くち)が塞(ふさ)がらぬ
027片彦(かたひこ)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は
028余程(よつぽど)弱(よわ)いやつぢやなア
029唯(ただ)一(いち)人(にん)の晴(はる)さまの
030生言霊(いくことたま)に怯(お)ぢ恐(おそ)れ
031全体(ぜんたい)残(のこ)らず総崩(そうくづ)れ
032バラバラバラと坂道(さかみち)に
033小石(こいし)を打(う)ちあけたその如(ごと)く
034味方(みかた)を踏(ふ)み越(こ)え乗(の)り越(こ)えて
035命(いのち)からがら逃(に)げ失(う)せぬ
036よい腰脱(こしぬ)けもあるものぢや
037大黒主(おほくろぬし)がウントコシヨ
038何程(なにほど)軍勢(ぐんぜい)持(も)つとても
039あれ程(ほど)弱(よわ)い代者(しろもの)を
040ウントコドツコイ ヤツトコシヨ
041連(つ)れて道中(だうちう)がなるものか
042足手(あして)纏(まと)ひにドツコイシヨ
043なる奴(やつ)ばかり、エンヤラヤ
044三千(さんぜん)世界(せかい)の穀潰(ごくつぶ)し
045お米(こめ)が貴(たか)うなつたのも
046ガラクタ共(ども)が沢山(たくさん)に
047ウヨウヨして居(ゐ)るその為(ため)だ
048この調子(てうし)ではどうしても
049食料(しよくれう)問題(もんだい)ドツコイシヨ
050持(も)ち上(あが)らねば治(をさ)まらぬ
051お蔭(かげ)で月(つき)を隠(かく)したる
052雲(くも)の衣(ころも)がぬげたよだ
053道(みち)が俄(にはか)に白(しろ)みえる
054此(この)足形(あしがた)は何(なん)だらう
055痩馬(やせうま)共(ども)の爪先(つまさき)に
056堅(かた)く打(う)ちたる蹄鉄(ていてつ)の
057半月形(はんげつけい)が沢山(たくさん)に
058あちらこちらに落(お)ちて居(ゐ)る
059あゝ面白(おもしろ)や面白(おもしろ)や
060神(かみ)の御稜威(みいづ)に照(て)らされて
061虎(とら)狼(おほかみ)の咆(ほ)えたける
062噂(うはさ)に高(たか)き此(この)山(やま)を
063苦(く)もなく進(すす)む吾々(われわれ)は
064ウントコドツコイ天下一(てんかいち)
065古今(ここん)無双(むさう)の豪傑(がうけつ)ぞ
066治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
067嘸(さぞ)や得意(とくい)で厶(ござ)いませう
068私(わたし)のやうなよい弟子(でし)を
069よくマア探(さが)し当(あ)てたもの
070何程(なにほど)世界(せかい)を探(さが)しても
071二人(ふたり)と決(けつ)してありませぬ
072オツトドツコイ ドツコイシヨ
073知(し)らず識(し)らずに慢心(まんしん)の
074鬼(おに)奴(め)が角(つの)を振(ふ)りたてて
075つまらぬ事(こと)をドツコイシヨ
076晴公(はるこう)の口(くち)から吐(ほざ)きよつた
077あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
078尊(たふと)き神(かみ)のお守(まも)りに
079稜威(いづ)の宮居(みやゐ)の此(この)体(からだ)
080悪魔(あくま)の襲(おそ)ふ事(こと)もなく
081いとすくすくと神(かみ)の道(みち)
082進(すす)ませ給(たま)へ天地(あめつち)の
083尊(たふと)き神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
084心(こころ)も晴(は)るる晴公(はるこう)が
085畏(かしこ)み畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる
086あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
087御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
088 五三公(いそこう)は又(また)歌(うた)ひ出(だ)したり。
089五三公『朝日(あさひ)は輝(かがや)く月(つき)は盈(み)つ
090斎苑(いそ)の館(やかた)の神風(かみかぜ)に
091吹(ふ)かれて進(すす)む吾々(われわれ)は
092治国別(はるくにわけ)に従(したが)ひて
093河鹿(かじか)峠(たうげ)の頂上(ちやうじやう)で
094又(また)もや風(かぜ)にドツコイシヨ
095吹(ふ)きまくられて行(ゆ)き悩(なや)む
096あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
097神(かみ)は吾(われ)等(ら)をウントコシヨ
098捨(す)てさせたまはず直々(すくすく)と
099さしも難所(なんしよ)の坂道(さかみち)を
100心(こころ)平(たひら)に安(やす)らかに
101渡(わた)らせたまひし有難(ありがた)さ
102バラモン教(けう)の神司(かむづかさ)
103片彦(かたひこ)久米彦(くめひこ)両人(りやうにん)は
104数多(あまた)の兵士(へいし)を引率(いんそつ)し
105吾(われ)等(ら)一行(いつかう)のウントコシヨ
106彼(かれ)等(ら)を待(ま)つと知(し)らずして
107駒(こま)に鞭(むちう)ちエイエイと
108行(ゆ)き難(なや)みたる坂(さか)の道(みち)
109登(のぼ)り来(きた)るぞをかしけれ
110治国別(はるくにわけ)の御(お)許(ゆる)しを
111受(う)けて万公(まんこう)が飛(と)び出(いだ)し
112胸突坂(むなつきざか)に大手(おほて)をば
113拡(ひろ)げて忽(たちま)ち仁王立(にわうだ)ち
114似合(にあ)ふか似(に)あはぬか知(し)らないが
115言霊(ことたま)機関(きくわん)が閉塞(へいそく)し
116眼玉(めだま)をキヨロキヨロ剥(む)きだして
117絶句(ぜつく)したるぞをかしけれ
118ウントコドツコイ ドツコイシヨ
119又々(またまた)月(つき)に黒雲(くろくも)が
120すつかりかかつて来(き)たやうだ
121吾(わが)師(し)の君(きみ)よ皆(みな)さまよ
122足許(あしもと)気(き)をつけ下(くだ)りませ
123祠(ほこら)の森(もり)も近(ちか)づいた
124懐谷(ふところだに)を右手(めて)に見(み)て
125猿(ましら)の声(こゑ)を聞(き)きながら
126心(こころ)いそいそ進(すす)み行(ゆ)く
127吾(われ)は天下(てんか)の宣伝使(せんでんし)
128とは云(い)ふもののドツコイシヨ
129大(おほ)きな声(こゑ)では云(い)はれない
130やつとの事(こと)で候補生(こうほせい)の
131まだぬくぬくの俺(おれ)達(たち)だ
132ウントコドツコイ ドツコイシヨ
133又々(またまた)月(つき)が現(あら)はれた
134矢張(やつぱり)俺(おれ)等(ら)はドツコイシヨ
135ドツコイドツコイ ヤツトコシヨ
136武運(ぶうん)が強(つよ)いに違(ちが)ひない
137五三公(いそこう)五三公(いそこう)と沢山(たくさん)に
138万公(まんこう)さまが仰有(おつしや)るが
139この五三公(いそこう)があればこそ
140前代(ぜんだい)未聞(みもん)の面白(おもしろ)い
141山路(やまぢ)の旅(たび)が出来(でき)るのだ
142アイタヽヽタツタ躓(つまづ)いた
143あんまり喋(しや)べつて足許(あしもと)が
144お留守(るす)になつたと見(み)えるわい
145坂(さか)を下(くだ)るに第一(だいいち)の
146注意(ちゆうい)を要(えう)する足(あし)の先(さき)
147口(くち)が過(す)ぎるとウントコシヨ
148吾(わが)師(し)の君(きみ)にウントコシヨ
149沈黙(ちんもく)守(まも)れと叱(しか)られる
150ほんとにきつい坂路(さかみち)だ
151み空(そら)に月(つき)は輝(かがや)きて
152吾(わが)胸(むね)さへも晴(は)れ渡(わた)り
153吹(ふ)き来(く)る風(かぜ)も何(なん)のその
154些(ちつと)も心(こころ)にかからない
155あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
156神(かみ)の恵(めぐみ)を今更(いまさら)に
157謹(つつし)み感謝(かんしや)し奉(たてまつ)る
158朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
159月(つき)黒雲(くろくも)に隠(かく)るとも
160虎(とら)狼(おほかみ)の咆(ほ)ゆる野(の)も
161悪魔(あくま)の征討(せいたう)の旅立(たびだ)ちは
162金輪(こんりん)奈落(ならく)やめられぬ
163こんな愉快(ゆくわい)の事(こと)あろか
164あゝ面白(おもしろ)し面白(おもしろ)し
165アイタタツタツタまた倒(こ)けた
166ドテライお尻(しり)を台(だい)なしに
167ウンと云(い)ふ程(ほど)打(う)ちました
168こりやこりや晴公(はるこう)万公(まんこう)よ
169暫(しばら)く待(ま)つて呉(く)れぬかい
170足(あし)が怪(あや)しくなつて来(き)た
171折角(せつかく)此処(ここ)まで従(つ)いて来(き)た
172友(とも)を見捨(みす)ててスタスタと
173進(すす)み往(ゆ)くとは何(なん)の事(こと)
174友達(ともだち)甲斐(がひ)のない男(をとこ)
175そんな薄情(はくじやう)な事(こと)すると
176此(この)世(よ)を去(さ)つて幽界(いうかい)へ
177落(お)ちた其(その)時(とき)ドツコイシヨ
178かういふもののアイタタツタ
179アイタタツタツタ痛(いた)いわいな
180地獄(ぢごく)の鬼(おに)奴(め)がやつて来(き)て
181八万(はちまん)地獄(ぢごく)へ突落(つきおと)し
182きつと成敗(せいばい)するだらう
183後生(ごしやう)の為(ため)を思(おも)ふなら
184俺(おれ)を助(たす)けて往(ゆ)くがよい
185決(けつ)して俺(おれ)の為(ため)ぢやない
186お前(まへ)が来世(らいせ)にウントコシヨ
187善因(ぜんいん)善果(ぜんくわ)の喜(よろこ)びを
188人(ひと)にも分(わ)けずまる貰(もら)ひ
189其(その)種蒔(たねま)きぢやドツコイシヨ
190俺(おれ)に同情(どうじやう)して呉(く)れよ
191あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
192神(かみ)の大地(おほぢ)にありながら
193仁義(じんぎ)をしらぬ万公(まんこう)や
194晴公(はるこう)さまのすげなさよ
195これこれモーシ宣伝使(せんでんし)
196二人(ふたり)を叱(しか)つて下(くだ)しやんせ
197神(かみ)かけ念(ねん)じ奉(たてまつ)る』
198 万公(まんこう)は立(た)ち止(ど)まり、199腰(こし)を屈(かが)めて下(くだ)りゆく五三公(いそこう)を眺(なが)め、
200万公『チエ、201何(なん)だい、202肝腎要(かんじんかなめ)の時(とき)に斃(くたば)りやがつて一体(いつたい)其(その)腰付(こしつき)はどうしたのだい、203まるで二重腰(にぢゆうごし)ぢやないか』
204五三公(いそこう)『さうだから、205最前(さいぜん)から待(ま)つて呉(く)れと云(い)つたぢやないか、206どうやら腰(こし)の骨(ほね)が外(はづ)れたやうだ。207一寸(ちよつと)見(み)て呉(く)れないか』
208万公(まんこう)『馬鹿(ばか)云(い)へ、209腰(こし)が外(はづ)れたものが一足(ひとあし)だつて歩(ある)けるかい。210大方(おほかた)大腿骨(だいたいこつ)を岩角(いはかど)で打(う)つたのだらう。211エヽ厄介者(やつかいもの)だなア。212グヅグヅして居(ゐ)ると宣伝使(せんでんし)様(さま)に後(おく)れて仕舞(しま)ふ。213併(しか)し是(これ)も乗(の)りかけた船(ふね)だ、214サア癒(なほ)してやらう』
215と云(い)ひながら、216平手(ひらて)で三(み)つ四(よ)つ五三公(いそこう)の腰(こし)のあたりをピシヤピシヤと打(う)つた。
217五三公(いそこう)『アイタタツタ、218これで息(いき)が楽(らく)になつた。219ヤア有難(ありがた)う、220持(も)つべきものは矢張(やつぱり)親友(しんいう)だ』
221万公(まんこう)『サア早(はや)う往(ゆ)かう。222とうとう先生(せんせい)の影(かげ)が見(み)えなくなつて了(しま)つた。223いそげ いそげ』
224五三公(いそこう)は、225『よし来(き)た。226駆歩(かけあし)々々(かけあし)』と云(い)ひ乍(なが)ら万公(まんこう)の後(あと)について嶮(けは)しき坂路(さかみち)を下(くだ)り行(ゆ)く。
227○
228 話(はなし)は元(もと)へ戻(もど)る。229玉国別(たまくにわけ)、230道公(みちこう)、231純公(すみこう)の三(さん)人(にん)は、232伊太公(いたこう)の行方(ゆくへ)不明(ふめい)となつたのを打(う)ち案(あん)じ乍(なが)ら、233今(いま)や治国別(はるくにわけ)の言霊(ことたま)に打(う)たれて帰(かへ)り来(く)るべき敵(てき)を、234言向和(ことむけやは)さむと、235手具脛(てぐすね)ひいて待(ま)つて居(ゐ)た。
236純公(すみこう)『随分(ずゐぶん)道公(みちこう)も妙(めう)な夢(ゆめ)を見(み)たものだなア。237矢張(やつぱり)常平生(つねへいぜい)から、238仕様(しやう)もない事(こと)を考(かんが)へて居(ゐ)るから、239貘(ばく)も食(く)はないやうな、240怪(け)つ体(たい)な夢(ゆめ)を見(み)よつたのだ。241本当(ほんたう)に是(これ)を思(おも)へばお前(まへ)の身魂(みたま)は開闢(かいびやく)以来(いらい)のデレさまと見(み)えるのう、242ウフヽヽヽ』
243道公(みちこう)『俺(おれ)達(たち)の夢(ゆめ)は先(ま)づザツトあのやうな華々(はなばな)しいものだ。244お前(まへ)達(たち)の見(み)る夢(ゆめ)は、245鬼婆(おにばば)に追(お)ひかけられたり、246逃(に)げ損(そこ)なつて糞壺(くそつぼ)に落(お)ち込(こ)んだ位(ぐらゐ)なものだ。247夢(ゆめ)だつて余(あま)り馬鹿(ばか)にならぬぞ。248夢(ゆめ)の浮世(うきよ)だから、249何時(いつ)かはそれが現実(げんじつ)になるのだ。250前途(ぜんと)多望(たばう)の良青年(りやうせいねん)だからなア』
251純公(すみこう)『良青年(りやうせいねん)がそんな厭(いや)らしい夢(ゆめ)を見(み)るものか、252ジヤラジヤラとした……先生(せんせい)様(さま)の前(まへ)だぞ、253不謹慎(ふきんしん)にも程(ほど)があるわ。254ナア先生(せんせい)、255本当(ほんたう)に可笑(をか)しいやつですね。256あまりの事(こと)で臍(へそ)が転宅(てんたく)しかけましたよ』
257 玉国別(たまくにわけ)は目(め)を押(おさ)へながら、258いとも冷然(れいぜん)として『ウフヽヽヽ』と静(しづ)かに笑(わら)つて居(ゐ)る。259この時(とき)坂(さか)の彼方(かなた)より騒々(さうざう)しき物音(ものおと)が聞(きこ)えて来(き)た。260見(み)るまに鞍(くら)をおいた荒馬(あれうま)七八頭(しちはつとう)速力(そくりよく)を出(だ)して祠(ほこら)の前(まへ)を逃(に)げて往(ゆ)く。
261道公(みちこう)『ヤア面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、262いよいよ出会(でつくは)したな。263落花(らくくわ)狼藉(らうぜき)、264馬(うま)迄(まで)が驚(おどろ)いて敗走(はいそう)と見(み)えるわい。265軈(やが)て落武者(おちむしや)共(ども)がやつて来(く)るだらう、266サアこれから一(ひと)つ捻鉢巻(ねじはちまき)だ。267生言霊(いくことたま)の連発銃(れんぱつじう)だ、268オイ純公(すみこう)、269確(しつか)り頼(たの)むぞ』
270と捻鉢巻(ねじはちまき)をしながらお相撲(すもう)さまのやうにトントンと四股踏(しこふ)んで雄猛(をたけ)びして居(ゐ)る。
271 かかる所(ところ)へ死物狂(しにものぐるひ)となつた数十(すうじふ)人(にん)の敵(てき)は祠(ほこら)の森(もり)にて残党(ざんたう)を集(あつ)めむとやつて来(き)た。272玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)の姿(すがた)を見(み)て片彦(かたひこ)は声(こゑ)を怒(いか)らせ、
273片彦(かたひこ)『ヤア其(その)方(はう)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、274いい所(ところ)で出会(であ)つた。275貴様(きさま)の家来(けらい)を生擒(いけどり)に致(いた)して、276連(つ)れて帰(かへ)つたのも知(し)らず、277のめのめとよう出(で)て来(き)やがつた。278サア貴様(きさま)も三五教(あななひけう)の片割(かたわ)れ、279江戸(えど)の仇(かたき)を長崎(ながさき)かも知(し)らぬが腹(はら)いせにやつてやらう。280オイ者(もの)共(ども)、281此奴(こいつ)等(ら)に槍(やり)の切(き)つ先(さき)を揃(そろ)へて取(と)り掛(かか)れ』
282と厳(きび)しく号令(がうれい)して居(ゐ)る。283数人(すうにん)の敵(てき)は三(さん)人(にん)を目蒐(めが)けて猛虎(まうこ)の勢(いきほひ)凄(すさま)じく突(つ)いて掛(かか)る。284三(さん)人(にん)は不意(ふい)を喰(くら)つて手早(てばや)く身(み)をかはし祠(ほこら)を楯(たて)にとつて防(ふせ)ぎ戦(たたか)はむとする。285されども大将(たいしやう)の玉国別(たまくにわけ)は目(め)を痛(いた)め、286激烈(げきれつ)なる頭痛(づつう)に悩(なや)んで居(ゐ)る。287如何(いか)に勇(ゆう)ありとて無茶(むちや)で出(で)て来(く)る敵(てき)には無茶(むちや)で行(ゆ)かねばならず、288敵(てき)は目(め)に余(あま)る大軍(たいぐん)、289あはや三(さん)人(にん)の命(いのち)は風前(ふうぜん)の灯火(ともしび)と云(い)ふ危機(きき)一髪(いつぱつ)の際(さい)俄(にはか)に聞(きこ)ゆる獅子(しし)の唸(うな)り声(ごゑ)山岳(さんがく)も崩(くづ)るる許(ばか)りであつた。290此(この)声(こゑ)に敵(てき)は顫(ふる)ひ戦(をのの)き思(おも)はず知(し)らず大地(だいち)に耳(みみ)を押(おし)つけて踞(しやが)んで了(しま)つた。291見(み)れば巨大(きよだい)なる獅子(しし)に時置師(ときおかしの)神(かみ)が跨(またが)つて居(ゐ)る。292玉国別(たまくにわけ)はこれを見(み)て思(おも)はず知(し)らず両手(りやうて)を合(あは)せ、
293玉国別『木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)命(みこと)様(さま)、294有(あ)り難(がた)う厶(ござ)います』
295と感謝(かんしや)の涙(なみだ)に咽(むせ)ぶ。296獅子(しし)に乗(の)つた時置師(ときおかしの)神(かみ)はものも云(い)はず嶮(けは)しき山(やま)を駆(か)け登(のぼ)り何処(いづく)ともなく姿(すがた)を隠(かく)した。
297 坂道(さかみち)の彼方(かなた)より盛(さかん)に宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)えて来(き)た。298一旦(いつたん)大地(だいち)に踞(しやが)んだ敵(てき)はムクムクと起(お)き上(あが)り、299先(さき)を争(あらそ)ひバラバラと人馬(じんば)諸共(もろとも)、300下(くだ)り坂(ざか)目蒐(めが)けて一人(ひとり)も残(のこ)らず逃(に)げて往(ゆ)く。
301道公(みちこう)『ハヽヽヽヽ、302御(ご)神力(しんりき)と云(い)ふものは偉(えら)いものだなア、303三五教(あななひけう)には立派(りつぱ)な生神(いきがみ)様(さま)が御(ご)守護(しゆご)していらつしやるからうまいものだ。304モシ先生(せんせい)様(さま)、305結構(けつこう)ぢや厶(ござ)いませぬか、306虎口(ここう)を逃(のが)れるとは此(この)事(こと)で厶(ござ)いませう』
307玉国別(たまくにわけ)『ウン、308実(じつ)に有難(ありがた)い事(こと)ぢや。309併(しか)し今(いま)聞(きこ)える宣伝歌(せんでんか)の声(こゑ)は正(まさ)しく治国別(はるくにわけ)様(さま)ぢや、310お出迎(でむか)へするがよからうぞ』
311道公(みちこう)『ナニ、312治国別(はるくにわけ)さまですか、313ヤそいつは有難(ありがた)い、314よい所(ところ)へ来(き)て下(くだ)さつた。315如何(いか)にも先生(せんせい)の仰有(おつしや)つた通(とほ)り一分(いちぶ)一厘(いちりん)間違(まちが)ひは厶(ござ)いませぬねえ。316いやもう感心(かんしん)致(いた)しました。317オイ純公(すみこう)何(なに)をキヨロキヨロして居(ゐ)るのだ、318早(はや)くお迎(むか)への用意(ようい)をせぬかい。319エ、320辛気(しんき)臭(くさ)い奴(やつ)ぢや』
321純公(すみこう)『余(あま)り有難(ありがた)いのと嬉(うれ)しいのとで、322どうしてよいか分(わか)りやしないわ。323こりや道公(みちこう)夢(ゆめ)ぢやあるまいかな。324今(いま)お前(まへ)は夢(ゆめ)の話(はなし)をして居(を)つたであらう、325俺(おれ)は如何(どう)しても本当(ほんたう)と思(おも)へないわ。326モシモシ先生(せんせい)様(さま)、327現実(げんじつ)ですか』
328玉国別『ウン、329確(たしか)に現実(げんじつ)だ。330早(はや)く一足(ひとあし)なりとお迎(むか)へに往(ゆ)かねば済(す)むまいぞ』
331純公(すみこう)『ヤア本当(ほんたう)とあればキヨロキヨロしては居(を)られない、332オイ道公(みちこう)サア往(ゆ)かう。333それそれそこにどうやら黒(くろ)い姿(すがた)が見(み)えて来(き)た。334あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)、335あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
336(大正一一・一一・二七 旧一〇・九 加藤明子録)
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