霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 帰馬(きば)〔一一六二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第3篇 河鹿の霊嵐 よみ(新仮名遣い):かじかのれいらん
章:第11章 帰馬 よみ(新仮名遣い):きば 通し章番号:1162
口述日:1922(大正11)年11月27日(旧10月9日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
治国別一行は、バラモン軍の片彦、久米彦両将軍の一隊が馬上にまたがり、困難の態で登ってくるようするを面白げに見下ろしている。
治国別は、先陣を願い出た万公に対して、三人心を合わせて敵の一人一人に善言美詞の言霊を浴びせかけるようにと言い渡した。
バラモン軍がやってくると、万公は細い谷道に飛び出して立ちはだかり、自分は三五教の宣伝使見習いだと名乗って止まるように呼ばわった。バラモン軍の騎士はそこをどけと怒鳴りつけ、万公と言い争いを始めた。
治国別は万公に、争いをしないで言霊を用いるようにと注意したが、万公はさっぱり言霊が出ないというので、晴公に代わりを命じた。しかしバラモン軍はその言霊には耳にもかけずに坂道を登ろうとする。
万公はバラモン軍を怒鳴りつけたので、軍隊の馬たちは荒れ狂いだした。治国別は荘重な声で歌い始めた。三五教の教えに目覚めて真の神の道を悟るように諭し聞かせる言霊に、バラモン軍の騎士たちは馬を飛び下りて一目散に山腹を駆け降り、元来た道を引き返し始めた。
治国別は改心させずに追い返したことを残念がったが、玉国別の一隊がさらに逃げてくる敵に言霊を発射するだろうとバラモン軍の後を追いかけた。万公は得意になって滑稽な歌を歌いながら坂を下って行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-08 21:10:27 文字数:5183 OBC :rm4311
愛善世界社版:166頁 八幡書店版:第8輯 89頁 修補版: 校定版:175頁 普及版:71頁 初版: ページ備考:
001 治国別(はるくにわけ)一行(いつかう)は、002片彦(かたひこ)、003久米彦(くめひこ)の一隊(いつたい)馬上(ばじやう)に跨(またが)り、004いとも困難(こんなん)の態(てい)にて登(のぼ)り来(きた)る様子(やうす)を面白気(おもしろげ)に見下(みおろ)して居(ゐ)る。
005万公(まんこう)『ヨウ、006おいでた おいでた強敵(きやうてき)御参(ござん)なれだ。007この細(ほそ)い坂道(さかみち)を蜿蜒(えんえん)として長蛇(ちやうだ)の登(のぼ)るが如(ごと)く行進(かうしん)し来(きた)る光景(くわうけい)は丸(まる)で絵巻物(ゑまきもの)を見(み)る様(やう)だなア。008霜黒葛(しもくろかづら)来(く)るや来(く)るや痩馬(やせうま)の、009毛曽呂(もそろ)毛曽呂(もそろ)に屁(へ)を放(こ)き来(きた)るといふ珍妙(ちんめう)奇天烈(きてれつ)の大部隊(だいぶたい)だ。010マアゆつくりと此処(ここ)に待(ま)つて居(ゐ)ませう。011仮令(たとへ)何百(なんびやく)人(にん)居(を)つた所(ところ)で一列(いちれつ)より進(すす)む事(こと)は出来(でき)ないのだから、012一人(ひとり)々々(ひとり)将棋倒(しやうぎだふ)しにやつつければ手間(てま)も暇(ひま)も要(い)つたものぢやない、013さてもさても運(うん)の悪(わる)い奴(やつ)だな。014一卒(いつそつ)之(これ)を守(まも)れば、015万卒(ばんそつ)進(すす)む能(あた)はざる絶所(ぜつしよ)と云(い)ふものは此処(ここ)の事(こと)だらう。016アハヽヽヽ、017治国別(はるくにわけ)様(さま)、018何(なん)と愉快(ゆくわい)ぢやありませぬか』
019治国別(はるくにわけ)『仇人(あだびと)の攻(せ)め来(く)る見(み)れば流石(さすが)にも
020八岐(やまた)大蛇(をろち)の姿(すがた)なるかな』
021万公(まんこう)『面白(おもしろ)し蜈蚣(むかで)の陣(ぢん)を張(は)り乍(なが)ら
022寄(よ)せくる敵(てき)も竜頭(りうとう)蛇尾(だび)に終(をは)はらむ』
023晴公(はるこう)『遥々(はるばる)とハルナの都(みやこ)を立(た)ち出(い)でて
024河鹿(かじか)峠(たうげ)で泡(あわ)を吹(ふ)くかな』
025五三公(いそこう)『風(かぜ)が吹(ふ)く此(この)山道(やまみち)で泡(あわ)を吹(ふ)く
026五三公(いそこう)之(これ)見(み)て法螺(ほら)を吹(ふ)くなり』
027治国別(はるくにわけ)『心(こころ)せよ三人(みたり)の司(つかさ)惟神(かむながら)
028神(かみ)に任(まか)せて刃向(はむか)ふな夢(ゆめ)』
029万公(まんこう)『大神(おほかみ)の館(やかた)を汚(けが)す枉神(まがかみ)を
030見逃(みのが)し返(かへ)す事(こと)やあるべき』
031晴公(はるこう)『人(ひと)は皆(みな)天(あめ)と地(つち)との御子(みこ)なれば
032仇(あだ)と云(い)へども憎(にく)むべしやは』
033五三公(いそこう)『一条(いちでう)の此(この)急坂(きふはん)を登(のぼ)り来(く)る
034馬(うま)の足並(あしなみ)危(あやふ)く見(み)ゆるも』
035 治国別(はるくにわけ)は悠然(いうぜん)として坂道(さかみち)の傍(かたへ)に腰(こし)を卸(おろ)し、036上(のぼ)り来(く)る敵(てき)の大部隊(だいぶたい)を見下(みおろ)し乍(なが)ら、
037治国別『ヤ、038三(さん)人(にん)の者(もの)共(ども)、039此(この)治国別(はるくにわけ)が敵(てき)の大将(たいしやう)に掛合(かけあひ)を初(はじ)むるまで、040お前(まへ)等(たち)の方(はう)から慌(あわ)て出(だ)しては可(い)かないぞ、041呉々(くれぐれ)も注意(ちゆうい)しておく』
042万公(まんこう)『さうだと申(まを)して素知(そし)らぬ顔(かほ)して居(を)れば、043いゝ気(き)になつて斎苑(いそ)館(やかた)へ進撃(しんげき)するぢやありませぬか。044今(いま)となつて、045そんな事(こと)を仰有(おつしや)ると、046何(なん)だか張(は)りきつた力(ちから)がサツパリ抜(ぬ)けて了(しま)ふぢやありませぬか』
047治国別(はるくにわけ)『これしきの敵軍(てきぐん)に対(たい)し、048かかる有利(いうり)の地点(ちてん)に陣取(ぢんど)り乍(なが)ら、049別(べつ)に力(ちから)も何(なに)も要(い)つたものぢやない。050一人(ひとり)々々(ひとり)捉(つかま)へて善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を浴(あび)せかけ、051誠(まこと)の道(みち)に帰順(きじゆん)さすれば可(い)いぢやないか。052然(しか)し乍(なが)らお前(まへ)等(たち)が慌(あわ)て出(だ)すと、053却(かへつ)て折角(せつかく)の作戦(さくせん)計画(けいくわく)が画餅(ぐわへい)に帰(き)す様(やう)の事(こと)があれば、054千仭(せんじん)の功(こう)を一簣(いつき)に欠(か)く様(やう)なものだ。055まづまづ落(お)ち着(つ)いたが宜(よ)からう』
056万公(まんこう)『さうだと云(い)つて何(なん)だか気(き)が勇(いさ)んでなりませぬわ。057此(この)言霊戦(ことたません)は私(わたし)に先陣(せんぢん)を仰付(おほせつ)け下(くだ)されますれば有難(ありがた)う厶(ござ)います』
058治国別(はるくにわけ)『ウン、059しつかりやれ、060私(わし)はここでお前(まへ)の言霊(ことたま)の発射(はつしや)振(ぶ)りを観戦(くわんせん)する。061晴公(はるこう)、062五三公(いそこう)を貸(か)してやるから、063三(さん)人(にん)心(こころ)を協(あわ)せ敵(てき)に向(むか)つて慈悲(じひ)の弾丸(だんぐわん)を打出(うちだ)すのだ。064いゝか、065分(わか)つたかな』
066五三公(いそこう)『エ、067今(いま)自費(じひ)の弾丸(だんぐわん)を打出(うちだ)せと仰有(おつしや)いましたが、068私(わたし)は自費(じひ)の弾丸(だんぐわん)も官費(くわんぴ)の弾丸(だんぐわん)も持(も)つてゐませぬが如何(どう)致(いた)しませうかな』
069万公(まんこう)『エー、070分(わか)りもせぬ癖(くせ)に喋(しやべ)くるない。071慈悲(じひ)と云(い)ふ事(こと)は恵(めぐみ)と云(い)ふ事(こと)だ。072ま一(ひと)つわつて云(い)へば情(なさけ)と云(い)ふ事(こと)だ。073シンパシイの心(こころ)を以(もつ)て敵(てき)に向(むか)へと仰有(おつしや)るのだ。074貴様(きさま)は如何(どう)しても現界(げんかい)的(てき)の頭(あたま)が脱(ぬ)けぬと見(み)えて、075直(すぐ)に何事(なにごと)でも統計(とうけい)的(てき)に解釈(かいしやく)し、076官費(くわんぴ)だの自費(じひ)だのと会計係(くわいけいがかり)か何(なに)かの様(やう)に直(すぐ)に、077そんな処(ところ)へ持(も)つて行(ゆ)きやがるのだ。078物質(ぶつしつ)的(てき)欲望(よくばう)の垢(あか)がとれぬと見(み)えるわい。079本当(ほんたう)に困(こま)つたものだな。080モシ先生(せんせい)、081こんな奴(やつ)を言霊戦(ことたません)に参加(さんか)させちや、082却(かへつ)て味方(みかた)の不利(ふり)です。083五三公(いそこう)だけは謹(つつし)んで返上(へんじやう)致(いた)しますから、084何卒(なにとぞ)、085塵紙(ちりがみ)にでも包(つつ)んで明日(あす)の十二(じふに)時(じ)まで、086懐(ふところ)か袂(たもと)へ入(い)れてしまつておいて下(くだ)さい』
087五三公(いそこう)『何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだい。088俺(おれ)を虫族(むしけら)扱(あつかひ)にしてるぢやないか。089そんな事(こと)で善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を使(つか)ふ神司(かむつかさ)と云(い)へるかい。090本当(ほんたう)に言霊(ことたま)の悪(わる)い奴(やつ)だな』
091 敵(てき)の軍隊(ぐんたい)は峻坂(しゆんぱん)をエチエチと漸(やうや)く四五(しご)間前(けんまへ)まで登(のぼ)つて来(き)た。092ズツと谷底(たにそこ)を見渡(みわた)せば二三十(にさんじつ)丁(ちやう)ばかりも騎馬隊(きばたい)が続(つづ)いてゐる。093万公(まんこう)はツカツカと先鋒(せんぽう)に立(た)つた騎士(きし)の前(まへ)に進(すす)みより、094大手(おほて)を拡(ひろ)げて、
095万公『バラモン教(けう)の軍人(いくさびと)共(ども)、096暫(しばら)く待(ま)つた』
097騎士(きし)『其(その)方(はう)は吾々(われわれ)の進軍(しんぐん)を妨(さまた)げ様(やう)と致(いた)すのか、098怪(け)しからぬ奴(やつ)だ。099そこ除(ど)け、100愚図(ぐづ)々々(ぐづ)致(いた)すと、101此(この)槍(やり)の切先(きつさき)がお見舞(みまひ)申(まを)すぞ』
102万公(まんこう)『アハヽヽヽ吐(ぬか)したりな吐(ぬか)したりな、103ヘナチヨコ士(ざむらひ)奴(め)、104俺(おれ)を誰(たれ)だと心得(こころえ)てゐる。105勿体(もつたい)なくも辱(かたじけ)なくも、106天地(てんち)の御(ご)先祖(せんぞ)と現(あら)はれ給(たま)ふ大国治立(おほくにはるたちの)尊(みこと)の御(ご)守護(しゆご)遊(あそ)ばす三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)の見習生(みならひせい)だ、107今日(こんにち)只今(ただいま)汝(なんぢ)等(ら)の一隊(いつたい)河鹿(かじか)峠(たうげ)を渡(わた)り斎苑(いそ)の館(やかた)へ攻(せ)め寄(よ)せ来(きた)ると聞(き)き、108此処(ここ)に待(ま)ち伏(ぶ)せて居(を)つたのだ。109サア此(この)先(さき)、110一足(ひとあし)でも進(すす)めるものなら進(すす)んで見(み)たがよからうぞ』
111と大手(おほて)を拡(ひろ)げ眉(まゆ)を上(あ)げ下(さ)げし目(め)をクリクリと回転(くわいてん)させ、112芝居(しばゐ)気取(きどり)になつて見(み)えを切(き)つた。
113騎士(きし)『アハヽヽヽ御供(ごく)にも立(た)たぬ蠅虫(はいむし)奴(め)等(ら)、114其(その)広言(くわうげん)は後(のち)に聞(き)かう。115サア之(これ)からは槍(やり)の錆(さび)だ、116観念(くわんねん)致(いた)せ』
117万公(まんこう)『エー、118愚図(ぐづ)々々(ぐづ)吐(ぬか)すと言霊(ことたま)の発射(はつしや)だぞ』
119騎士(きし)『アハヽヽヽヽ怪体(けたい)な奴(やつ)が現(あら)はれたものだな』
120 先鋒隊(せんぽうたい)の一人(ひとり)が立(た)ち止(と)まつたので、121追々(おひおひ)やつて来(き)た騎馬隊(きばたい)は急坂(きふはん)に立止(たちど)まり、122立往生(たちわうじやう)の態(てい)である。123後(うしろ)の方(はう)から久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は采配(さいはい)を打(う)ち振(ふ)り、124『進(すす)め進(すす)め』と厳(きび)しき下知(げち)をやつて居(ゐ)る。125殿(しんがり)には又(また)もや一人(ひとり)の将軍(しやうぐん)、126采配(さいはい)を打(う)ち振(ふ)り『進(すす)め進(すす)め』と叱咤(しつた)してゐる。127先(さき)に立(た)つた騎士(きし)は万公(まんこう)に遮(さへぎ)られて進(すす)みも得(え)ず、128仏頂面(ぶつちやうづら)を馬上(ばじやう)に曝(さら)し、129髪(かみ)逆立(さかだ)てて呶鳴(どな)つてゐる。
130騎士(きし)『コリヤ、131小童子(こわつぱ)共(ども)、132道(みち)を開(あ)け』
133万公(まんこう)『ハヽヽヽヽ弱(よわ)つたか。134何程(なにほど)敵(てき)が沢山(たくさん)攻(せ)め寄(よ)せ来(きた)るとも此(この)難所(なんしよ)、135一度(いちど)に二人(ふたり)とかかる事(こと)は出来(でき)ようまい。136一人(ひとり)々々(ひとり)虱殺(しらみごろ)しにやつてやらうかい』
137治国別(はるくにわけ)『コリヤコリヤ万公(まんこう)、138争(あらそ)ひを致(いた)せとは決(けつ)して命令(めいれい)しない。139何故(なぜ)善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を用(もち)ひないのか』
140万公(まんこう)『言霊(ことたま)よりも私(わたし)の腕(うで)が先陣(せんぢん)を勤(つと)めたがつて仕方(しかた)がありませぬわ。141言霊(ことたま)軍隊(ぐんたい)はサツパリ休戦(きうせん)の喇叭(ラツパ)を吹(ふ)いたと見(み)えます。142如何(どう)しても出(で)て来(き)ませぬがな』
143治国別(はるくにわけ)『そんなら晴公(はるこう)、144お前(まへ)代(かは)つて言霊(ことたま)を発射(はつしや)せよ』
145晴公(はるこう)『ハイ、146確(たしか)に承知(しようち)致(いた)しました。
147三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
148治国別(はるくにわけ)に従(したが)ひて
149ここに現(あら)はれ来(きた)りしは
150御空(みそら)も清(きよ)く晴(は)れ渡(わた)る
151晴公(はるこう)さまの宣伝使(せんでんし)
152吾(わが)言霊(ことたま)を放(はな)ちなば
153一歩(いつぽ)も此(この)山(やま)進(すす)めまい
154早(はや)く馬(うま)より下(くだ)り来(き)て
155善言(ぜんげん)美詞(びし)の三五(あななひ)の
156世人(よびと)を救(すく)ふ御教(みをしへ)を
157心(こころ)を鎮(しづ)めて聞(き)くがよい
158朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
159月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
160仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
161星(ほし)は天(てん)より落(お)つるとも
162悪(あく)の栄(さか)えし例(ためし)ない
163大黒主(おほくろぬし)に従(したが)ひし
164枉(まが)の軍(いくさ)の人々(ひとびと)よ
165一(いち)時(じ)も早(はや)く村肝(むらきも)の
166心(こころ)の駒(こま)を立直(たてなほ)し
167仁慈(じんじ)無限(むげん)の大神(おほかみ)の
168清(きよ)き教(をしへ)を聞(き)くがよい
169人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
170同(おな)じ天地(てんち)に生(うま)れ来(き)て
171争(あらそ)ひ憎(にく)み戦(たたか)ふは
172皇(すめ)大神(おほかみ)の御神慮(みこころ)に
173背反(はいはん)したる醜業(しこわざ)ぞ
174今(いま)打出(うちいだ)す言霊(ことたま)を
175心(こころ)を据(す)ゑてよつく聞(き)け
176大黒主(おほくろぬし)は強(つよ)くとも
177手下(てした)は如何(いか)に多(おほ)くとも
178天地(てんち)を造(つく)り給(たま)ひたる
179神(かみ)に対(たい)して刃向(はむか)ふも
180如何(いか)でか終(をはり)を完(まつた)うせむ
181一(いち)時(じ)も早(はや)く目(め)を覚(さ)ませ
182あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
183神(かみ)に誓(ちか)ひて晴公(はるこう)が
184汝(なんぢ)等(ら)一同(いちどう)に気(き)をつける』
185 晴公(はるこう)が熱誠(ねつせい)をこめて宣(の)り上(あ)げた生言霊(いくことたま)を耳(みみ)にもかけず、186馬(うま)に鞭撻(むちう)ち一目散(いちもくさん)に坂道(さかみち)を上(のぼ)り行(ゆ)かうとする。187万公(まんこう)は只(ただ)一騎(いつき)にても此(この)峠(たうげ)を通過(つうくわ)させてはならないと、188雷(らい)の如(ごと)き大音声(だいおんぜう)を張(は)り上(あ)げ、
189万公(まんこう)(大声(おほごゑ)で)『待(ま)て、190曲者(くせもの)』
191と呶鳴(どな)りつけた。192先(さき)に立(た)つた騎士(きし)は此(この)声(こゑ)に辟易(へきえき)し、193馬(うま)は驚(おどろ)いて危険(きけん)な谷道(たにみち)で荒(あ)れ狂(くる)ふ。194先頭(せんとう)に立(た)つた馬(うま)の足並(あしなみ)乱(みだ)れたるを見(み)て、195次(つぎ)の馬(うま)も亦(また)何(なん)に驚(おどろ)いてか荒(あ)れ狂(くる)ひ出(だ)した。196一匹(いつぴき)の馬(うま)が狂(くる)へば千匹(せんびき)の馬(うま)が狂(くる)ふ譬(たと)へ、197次(つぎ)から次(つぎ)へ伝染(でんせん)して、198数百頭(すうひやくとう)の馬(うま)はヒンヒンと嘶(いなな)き乍(なが)ら飛(と)び上(あが)り、199何(いづ)れの騎士(きし)も其(その)制御(せいぎよ)にもちあぐんでゐた。
200万公(まんこう)『ハヽヽ、201晴公(はるこう)の婉曲(ゑんきよく)な生言霊(いくことたま)よりも俺(おれ)の一喝(いつかつ)が余程(よほど)利(き)いたと見(み)えるわい。202一人(ひとり)でも万公(まんこう)だから万倍(まんばい)の力(ちから)が備(そな)はつてゐると云(い)ふ事(こと)を今(いま)実験(じつけん)した。203エヘヽヽヽ愉快(ゆくわい)だ愉快(ゆくわい)だ、204何(ど)の馬(うま)も此(こ)の馬(うま)も一度(いちど)に狂(くる)ひ出(だ)したぢやないか』
205晴公(はるこう)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、206晴駒(はるこま)が狂(くる)うたのだ。207晴公(はるこう)の言霊(ことたま)で駒(こま)が狂(くる)ふから春駒(はるこま)と云(い)ふのだよ。208「咲(さ)いた桜(さくら)に何故(なぜ)駒(こま)つなぐ、209駒(こま)が勇(いさ)めば花(はな)が散(ち)る」エヘヽヽヽヽ一番槍(いちばんやり)の功名(こうみやう)はやつぱり晴公(はるこう)だよ』
210 治国別(はるくにわけ)はいと荘重(さうちよう)な声(こゑ)にて歌(うた)ひ初(はじ)めたり。
211治国別『誠(まこと)の神(かみ)が現(あら)はれて
212河鹿(かじか)峠(たうげ)の峻坂(しゆんぱん)で
213善神(ぜんしん)邪神(じやしん)を立(た)て別(わ)ける
214バラモン教(けう)の司(つかさ)等(たち)
215吾(わが)言霊(ことたま)を聞召(きこしめ)せ
216人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
217天(あめ)と地(つち)との御水火(みいき)より
218生(うま)れ出(い)でたるものぞかし
219月(つき)は御空(みそら)に照(て)り渡(わた)り
220日(ひ)は晃々(くわうくわう)と輝(かがや)ける
221無事(ぶじ)太平(たいへい)の天国(てんごく)に
222憎(にく)み争(あらそ)ひあるべきぞ
223一日(ひとひ)も早(はや)く三五(あななひ)の
224仁慈(じんじ)無限(むげん)の御教(みをしへ)に
225眼(まなこ)を覚(さ)ませ耳(みみ)すませ
226吾(わが)言霊(ことたま)を聞(きこ)し召(め)せ
227朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
228月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
229仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
230星(ほし)は空(そら)より落(お)つるとも
231印度(いんど)の海(うみ)はあするとも
232大黒主(おほくろぬし)の軍隊(ぐんたい)は
233如何(いか)に勢(いきほ)ひ強(つよ)くとも
234皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)道(みち)に
235背(そむ)きて事(こと)の成(な)るべきぞ
236省(かへり)み給(たま)へバラモンの
237神(かみ)の教(をしへ)の司(つかさ)等(たち)
238其(その)外(ほか)百(もも)の軍人(いくさびと)
239吾(われ)等(ら)は茲(ここ)に謹(つつし)みて
240汝(なんぢ)ら一同(いちどう)神(かみ)の代(よ)に
241安(やす)く楽(たの)しく救(すく)はむと
242真心(まごころ)こめて言霊(ことたま)の
243光(ひかり)を現(あら)はし奉(たてまつ)る
244此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
245心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
246只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
247直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
248身(み)の過(あやまち)を宣(の)り直(なほ)す
249誠(まこと)の神(かみ)の御教(みをしへ)を
250諾(うべな)ひませよ惟神(かむながら)
251神(かみ)に誓(ちか)ひて亀彦(かめひこ)が
252治国別(はるくにわけ)と現(あら)はれて
253汝(なんぢ)等(ら)一同(いちどう)に宣(の)り伝(つた)ふ
254あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
255御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
256と歌(うた)ひ終(をは)るや、257先(さき)に立(た)つた騎士(きし)は馬(うま)をヒラリと飛(と)び下(お)り、258一目散(いちもくさん)に道(みち)なき山腹(さんぷく)を駆(か)け下(くだ)る。259一同(いちどう)の騎士(きし)は之(これ)に做(なら)つて、260何(いづ)れも吾遅(われおく)れじと馬(うま)を飛(と)び下(お)り一目散(いちもくさん)に引(ひ)き返(かへ)す、261其(その)可笑(をか)しさ。262馬(うま)も是非(ぜひ)なく妙(めう)な腰付(こしつき)し乍(なが)らコツリコツリと引(ひ)き返(かへ)し帰(かへ)り行(ゆ)く。
263万公(まんこう)『アハヽヽヽヽ何(なん)と脆(もろ)いものだな。264如何(いか)に鬼神(きしん)だとてこんな時(とき)に敵(てき)に出会(でつくは)したら堪(たま)つたものぢやないわ。265何(なん)と神(かみ)様(さま)はいい時(とき)に出会(であ)はして下(くだ)さるものだ。266之(これ)だからあまり急(せ)いても、267遅(おく)れても、268不可(いかん)と云(い)ふのだ。269もしも登(のぼ)り坂(ざか)で出会(でつくは)さうものなら斯(か)う埒(らち)よく行(ゆ)かないが都合(つがふ)のいい地点(ちてん)だつた。270アハヽヽヽ有難(ありがた)い有難(ありがた)い治国別(はるくにわけ)様(さま)、271万公(まんこう)の初陣(うひぢん)は如何(いかが)で厶(ござ)いましたな。272屹度(きつと)金鵄(きんし)勲章(くんしやう)が頂戴(ちやうだい)出来(でき)るでせう』
273治国別(はるくにわけ)『ウン、274遺憾(ゐかん)乍(なが)ら改心(かいしん)させずにぼつ返(かへ)して了(しま)つた。275然(しか)し乍(なが)ら此(この)峠(たうげ)で喰(く)ひとめた丈(だ)けが、276まだしも吾々(われわれ)の職務(しよくむ)が勤(つと)まつたと云(い)ふものだ。277先(ま)づ一服(いつぷく)したら宜(よ)からう。278逃(に)げ行(ゆ)く敵(てき)に玉国別(たまくにわけ)の一隊(いつたい)が祠(ほこら)のあたりで又(また)もや言霊(ことたま)を発射(はつしや)してるだらう。279敵(てき)になつても堪(たま)つたものぢやないわ』
280五三公(いそこう)『何(なん)と先生(せんせい)の言霊(ことたま)はよく利(き)きますなア。281晴公(はるこう)の言霊(ことたま)が十五点(じふごてん)なら先生(せんせい)のは万点(まんてん)ですわ。282いやもう恐(おそ)れ入(い)りました。283オイ万公(まんこう)、284敵(てき)の勢(いきほひ)に辟易(へきえき)して今迄(いままで)の広言(くわうげん)に似(に)ず絶句(ぜつく)して一言(いちげん)も発射(はつしや)出来(でき)なかつたぢやないか。285大方(おほかた)開(あ)いた口(くち)がすぼまらなんだのか、286すぼんだ口(くち)が早速(さつそく)に開(あ)かなんだのか、287何(なん)と云(い)ふ惨目(みぢめ)な態(ざま)だつたい』
288万公(まんこう)『ナニ、289俺(おれ)のは荒木(あらき)細工(ざいく)だ。290荒木(あらき)棟梁(とうりやう)だ。291晴公(はるこう)のは小細工(こざいく)棟梁(とうりやう)だ。292先(ま)づ此(この)万公(まんこう)さまが、293うまうまと荒削(あらけづ)りをやつて置(お)いたものだから、294晴公(はるこう)の言霊(ことたま)も如何(どう)なり斯(か)うなり発射(はつしや)出来(でき)たのだよ。295先生(せんせい)のは、296こりや特別(とくべつ)だ。297さぞ今頃(いまごろ)は敵(てき)の奴(やつ)、298狼狽(らうばい)してゐることだらう。299ヤア、300月(つき)が俄(にはか)に雲(くも)の衣(きぬ)を被(かむ)り給(たま)うた。301あの雲(くも)さへのけば敵(てき)の敗亡(はいばう)を見下(みお)ろすに都合(つがふ)が好(い)いのだけどな。302アハヽヽヽエヘヽヽヽヽ』
303治国別(はるくにわけ)『サア、304ボツボツと出掛(でかけ)ようか。305玉国別(たまくにわけ)さまと屹度(きつと)衝突(しようとつ)してるだらう。306之(これ)から後(あと)おつかけて、307もう一戦(ひといくさ)しよう』
308と立(た)ち上(あが)り先(さき)に立(た)つて下(くだ)りゆく。309谷間(たにま)の彼方(かなた)此方(こなた)には敵(てき)の乗(の)り捨(す)てた馬(うま)が嘶(いなな)いてゐる。310万公(まんこう)は得意(とくい)になつて月下(げつか)の道(みち)を下(くだ)りつつ歌(うた)ひ初(はじ)めた。
311万公『ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ
312河鹿(かじか)峠(たうげ)はきつい坂(さか)
313やうやう登(のぼ)りつめた時(とき)
314月(つき)の光(ひかり)は皎々(かうかう)と
315数十(すうじふ)里(り)にも亘(わた)りたる
316原野(げんや)を照(て)らし給(たま)ひつつ
317吾(われ)等(ら)一行(いつかう)守(まも)ります
318あゝ有難(ありがた)し有難(ありがた)し
319治国別(はるくにわけ)に従(したが)ひて
320二人(ふたり)の弱虫(よわむし)諸共(もろとも)に
321坂(さか)の此方(こなた)に来(き)て見(み)れば
322風(かぜ)が持(も)て来(く)る鐘(かね)の音(おと)
323こりや堪(たま)らぬと雀躍(こをどり)し
324待(ま)つ間(ま)程(ほど)なく登(のぼ)り来(く)る
325数百(すうひやく)人(にん)の騎士(きし)の隊(たい)
326忽(たちま)ち万(まん)さま躍(をど)り出(い)で
327疾風(しつぷう)迅雷(じんらい)息(いき)つかず
328大喝(たいかつ)一声(いつせい)言霊(ことたま)を
329ドンと一発(いつぱつ)打出(うちだ)せば
330先登(せんとう)に立(た)つた騎士(きし)の奴(やつ)
331忽(たちま)ち青(あを)い顔(かほ)をして
332地震(ぢしん)の孫(まご)か菎蒻(こんにやく)の
333幽霊(いうれい)見(み)たよにブルブルと
334震(ふる)ひ出(だ)したる可笑(をか)しさよ
335ウントコドツコイ危(あぶな)いよ
336夜目(よめ)にはしかと分(わか)らねど
337馬(うま)の足形(あしがた)沢山(たくさん)に
338所狭(ところせ)き迄(まで)ついてゐる
339あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
340一(いち)時(じ)も早(はや)く此(この)坂(さか)を
341トントントンと下(くだ)りつき
342祠(ほこら)の森(もり)に待(ま)ち給(たま)ふ
343玉国別(たまくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
344其(その)他(た)の一行(いつかう)におひついて
345バラモン教(けう)の敵軍(てきぐん)を
346片(かた)つ端(ぱし)から薙(な)ぎ倒(たふ)し
347善言(ぜんげん)美詞(びし)の言霊(ことたま)を
348雪(ゆき)か霰(あられ)か夕立(ゆふだち)の
349降(ふ)り濺(そそ)ぐ如(ごと)浴(あ)びせかけ
350誠(まこと)一(ひと)つの三五(あななひ)の
351教(をしへ)を深(ふか)く暁(さと)らしめ
352ウントコドツコイ曲(まが)り道(みち)
353ウツカリすると滑(すべ)るぞよ
354コリヤコリヤ五三公(いそこう)気(き)をつけよ
355晴公(はるこう)も同(おな)じ事(こと)ぢやぞや
356治国別(はるくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
357貴方(あなた)も気(き)をつけなさいませ
358何処(どこ)かそこらの木(き)の蔭(かげ)に
359敵(てき)の片割(かたわれ)潜伏(せんぷく)し
360不意(ふい)に手槍(てやり)を扱(しご)きつつ
361突掛(つつかけ)来(きた)るも図(はか)られず
362あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
363神(かむ)素盞嗚(すさのをの)神(かみ)様(さま)よ
364何卒(どうぞ)吾(われ)等(ら)が一行(いつかう)を
365守(まも)らせ給(たま)ひて逸早(いちはや)く
366曲津(まがつ)の軍(いくさ)を帰順(きじゆん)させ
367貴方(あなた)の御(お)側(そば)へ復言(かへりごと)
368申(まを)させ給(たま)へと万公(まんこう)が
369満腔(まんこう)の熱誠(ねつせい)捧(ささ)げつつ
370謹(つつし)み敬(うやま)ひ願(ねが)ひます
371朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
372月(つき)黒雲(くろくも)に隠(かく)るとも
373此(この)山道(やまみち)は如何(どう)しても
374渡(わた)らにやならぬ吾々(われわれ)は
375神(かみ)の恵(めぐ)みを蒙(かうむ)りて
376依(よ)さしの使命(しめい)を果(はた)さぬと
377何(ど)しても斯(こ)しても済(す)みませぬ
378ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ
379又(また)もやそこに曲(まが)り道(みち)
380殊更(ことさら)きつい坂(さか)がある
381斯(こ)う云(い)ふ内(うち)にも気(き)が急(せ)いて
382玉国別(たまくにわけ)の身(み)の上(うへ)を
383案(あん)じ出(だ)されて仕方(しかた)ない
384あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
385御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
386(大正一一・一一・二七 旧一〇・九 北村隆光録)
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