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霊界物語
舎身活躍(第37~48巻)
第43巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 狂風怪猿
第1章 烈風
第2章 懐谷
第3章 失明
第4章 玉眼開
第5章 感謝歌
第2篇 月下の古祠
第6章 祠前
第7章 森議
第8章 噴飯
第9章 輸入品
第3篇 河鹿の霊嵐
第10章 夜の昼
第11章 帰馬
第12章 双遇
第4篇 愛縁義情
第13章 軍談
第14章 忍び涙
第15章 温愛
第5篇 清松懐春
第16章 鰌鍋
第17章 反歌
第18章 石室
余白歌
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舎身活躍(第37~48巻)
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第43巻(午の巻)
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<<< 噴飯
(B)
(N)
夜の昼 >>>
第九章
輸入品
(
ゆにふひん
)
〔一一六〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻
篇:
第2篇 月下の古祠
よみ(新仮名遣い):
げっかのふるほこら
章:
第9章 輸入品
よみ(新仮名遣い):
ゆにゅうひん
通し章番号:
1160
口述日:
1922(大正11)年11月27日(旧10月9日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉国別と純公は、道公が偵察に行った祠のあたりから笑い声がするのを聞いていた。純公はこのような魔軍が通った殺風景な場所に、砕けた笑い声がしたのでその感慨を述べ、玉国別もまた顔をほころばせた。
二人は、そろそろバラモン軍が治国別の言霊に打たれて逃げてくる頃あいだと立ち上がった。祠に近づくと、道公が一人でニコニコしてしゃがんでいる。
三人は言霊戦の準備を整えてバラモン軍を待ち伏せている。道公は待っている間にひとつ話をしようと馬鹿話を切り出した。
先ほどバラモン軍の一人がしていた若いころのロマンスの受け売りで、金持ちの美人に惚れられるが最後にそれが夢であったことがわかる、という落ちの馬鹿話であった。玉国別と純公は笑いこけ、道公はバラモン国舶来の輸入品だと得意がる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-01-07 20:01:39
OBC :
rm4309
愛善世界社版:
130頁
八幡書店版:
第8輯 75頁
修補版:
校定版:
137頁
普及版:
54頁
初版:
ページ備考:
001
月
(
つき
)
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る
森
(
もり
)
の
木蔭
(
こかげ
)
に
小声
(
こごゑ
)
で
話
(
はな
)
し
合
(
あ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
二人
(
ふたり
)
があつた。
002
これは
玉国別
(
たまくにわけ
)
、
003
純公
(
すみこう
)
の
二人
(
ふたり
)
なる
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
ふ
迄
(
まで
)
もない。
004
今迄
(
いままで
)
銅色
(
あかがねいろ
)
の
雲
(
くも
)
の
衣
(
きぬ
)
をかぶつて
居
(
ゐ
)
た
円満
(
ゑんまん
)
具足
(
ぐそく
)
の
望
(
もち
)
の
月
(
つき
)
は
心
(
こころ
)
ありげに
二人
(
ふたり
)
の
対話
(
たいわ
)
を
窺
(
のぞ
)
くものの
如
(
ごと
)
くであつた。
005
数十間
(
すうじつけん
)
隔
(
へだ
)
たつた
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
辺
(
あた
)
りには
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
の
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
006
純公
(
すみこう
)
『
先生
(
せんせい
)
、
007
此
(
この
)
殺風景
(
さつぷうけい
)
な
魔軍
(
まぐん
)
の
通
(
とほ
)
つた
後
(
あと
)
に、
008
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
砕
(
くだ
)
けたやうなあの
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
、
009
修羅道
(
しゆらだう
)
の
後
(
あと
)
へ
歓楽郷
(
くわんらくきやう
)
が
開
(
ひら
)
けた
様
(
やう
)
な
光景
(
くわうけい
)
ぢやありませぬか。
010
極端
(
きよくたん
)
と
極端
(
きよくたん
)
ですなア』
011
玉国別
(
たまくにわけ
)
『ウン、
012
窮
(
きう
)
すれば
達
(
たつ
)
す、
013
悲
(
かな
)
しみの
極
(
きよく
)
は
喜
(
よろこ
)
びだ。
014
喜
(
よろこ
)
びの
極
(
きは
)
みは
又
(
また
)
悲
(
かな
)
しみだ。
015
祠
(
ほこら
)
を
中心
(
ちうしん
)
に
何
(
なに
)
か
喜劇
(
きげき
)
が
演
(
えん
)
ぜられて
居
(
ゐ
)
ると
見
(
み
)
える。
016
あの
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
私
(
わし
)
の
頭痛
(
づつう
)
も
拭
(
ぬぐ
)
ふが
如
(
ごと
)
く
消
(
き
)
え
散
(
ち
)
つて
仕舞
(
しま
)
つたやうだ。
017
凡
(
すべ
)
て
病
(
やまひ
)
に
悩
(
なや
)
む
時
(
とき
)
は
笑
(
わら
)
ふのが
一番
(
いちばん
)
ぢや。
018
大口
(
おほぐち
)
をあけて
他愛
(
たあい
)
もなく
笑
(
わら
)
ひ
興
(
きよう
)
ずるその
瞬間
(
しゆんかん
)
こそ
無上
(
むじやう
)
天国
(
てんごく
)
の
境涯
(
きやうがい
)
ぢや。
019
ヤア
私
(
わし
)
も
何
(
なん
)
となく
面白
(
おもしろ
)
くなつて
来
(
き
)
た。
020
アハヽヽヽ』
021
純公
(
すみこう
)
『ヤア
初
(
はじ
)
めて
麗
(
うるは
)
しき
月
(
つき
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
顔
(
かほ
)
を
拝
(
はい
)
したかと
思
(
おも
)
へば
又
(
また
)
もや
先生
(
せんせい
)
の
玲瓏
(
れいろう
)
玉
(
たま
)
の
如
(
ごと
)
き
温顔
(
をんがん
)
に
笑
(
わら
)
ひを
湛
(
たた
)
へられた
所
(
ところ
)
を
拝
(
をが
)
みました。
022
何
(
なん
)
だか
私
(
わたし
)
も
嬉
(
うれ
)
しく
勇
(
いさ
)
んで
参
(
まゐ
)
りました。
023
アハヽヽヽ』
024
玉国別
(
たまくにわけ
)
『あの
大
(
おほ
)
きな
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
は、
025
どうやら
道公
(
みちこう
)
の
声
(
こゑ
)
のやうだつたなア』
026
純公
(
すみこう
)
『
似
(
に
)
たやうな
声
(
こゑ
)
でしたな。
027
あの
男
(
をとこ
)
があれだけ
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
笑
(
わら
)
つたのは
今
(
いま
)
が
聞初
(
ききはじ
)
めです。
028
併
(
しか
)
し、
029
なぜ
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
通
(
どほ
)
り
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
たないのでせうか。
030
察
(
さつ
)
する
処
(
ところ
)
バラモン
教
(
けう
)
の
奴
(
やつ
)
、
031
酒
(
さけ
)
にでも
酔
(
よ
)
つぱらつて
凱旋
(
がいせん
)
気分
(
きぶん
)
になり
哄笑
(
こうせう
)
して
居
(
ゐ
)
るのぢやありますまいかな』
032
玉国別
(
たまくにわけ
)
『さうではあるまい。
033
道公
(
みちこう
)
も
矢張
(
やはり
)
笑
(
わら
)
ひの
渦中
(
くわちう
)
に
投
(
とう
)
じて
居
(
ゐ
)
るのだらう』
034
純公
(
すみこう
)
『かう
平和
(
へいわ
)
の
風
(
かぜ
)
が
祠
(
ほこら
)
の
近辺
(
きんぺん
)
に
吹
(
ふ
)
いて
居
(
ゐ
)
るのに、
035
いつ
迄
(
まで
)
此処
(
ここ
)
に
楽隠居
(
らくいんきよ
)
して
居
(
ゐ
)
た
処
(
ところ
)
で
仕方
(
しかた
)
がありますまい。
036
バラモン
教
(
けう
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
が
治国別
(
はるくにわけ
)
様
(
さま
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
打
(
う
)
たれて
遁走
(
とんそう
)
して
来
(
く
)
るのにもう
間
(
ま
)
もありますまい。
037
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
もあの
祠
(
ほこら
)
を
指
(
さ
)
して
参
(
まゐ
)
りませうか。
038
ヤア
手
(
て
)
が
鳴
(
な
)
りました。
039
あれはキツと
道公
(
みちこう
)
の
合図
(
あひづ
)
でせう。
040
サア
参
(
まゐ
)
りませう』
041
玉国別
(
たまくにわけ
)
『そんなら
行
(
ゆ
)
かう』
042
と
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
043
二
(
ふた
)
つの
笠
(
かさ
)
は
空中
(
くうちう
)
に
二本
(
にほん
)
の
杖
(
つゑ
)
は
白
(
しろ
)
く
月
(
つき
)
に
照
(
て
)
り
乍
(
なが
)
ら
地
(
ち
)
を
叩
(
たた
)
いて
下
(
くだ
)
つて
往
(
ゆ
)
く。
044
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
には、
045
ニコニコした
顔
(
かほ
)
を
月光
(
げつくわう
)
に
曝
(
さら
)
し、
046
道公
(
みちこう
)
が
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
踞
(
しやが
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
047
純公
(
すみこう
)
『オイ
道公
(
みちこう
)
さま、
048
お
前
(
まへ
)
一人
(
ひとり
)
だつたか』
049
道公
(
みちこう
)
『ウン
合計
(
がふけい
)
〆
(
しめ
)
て
一
(
いち
)
人
(
にん
)
だ。
050
何
(
なに
)
も
居
(
ゐ
)
ないよ。
051
あいさに
木
(
き
)
の
葉
(
は
)
がそよ
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて
何
(
なん
)
だか
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を、
052
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
してペラペラと
喋
(
しやべ
)
つて
居
(
ゐ
)
よるが、
053
俺
(
おれ
)
の
耳
(
みみ
)
には
植物
(
しよくぶつ
)
の
声
(
こゑ
)
はトンと
聞
(
きこ
)
えないわ』
054
純公
(
すみこう
)
『お
前
(
まへ
)
一人
(
ひとり
)
で
二人
(
ふたり
)
も
三
(
さん
)
人
(
にん
)
もの
声
(
こゑ
)
を
一時
(
いつとき
)
に
出
(
だ
)
したのか、
055
余程
(
よほど
)
器用
(
きよう
)
な
男
(
をとこ
)
だねえ、
056
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
のお
越
(
こ
)
しだ。
057
挨拶
(
あいさつ
)
をせぬか』
058
道公
(
みちこう
)
『
今
(
いま
)
其処
(
そこ
)
で
別
(
わか
)
れた
計
(
ばか
)
りぢやないか。
059
師弟
(
してい
)
の
間柄
(
あひだがら
)
、
060
十間
(
じつけん
)
や
二十間
(
にじつけん
)
分
(
わか
)
れたつて
七六
(
しちむつ
)
ケ
(
か
)
敷
(
し
)
う
挨拶
(
あいさつ
)
が
要
(
い
)
るものか。
061
そんな
繁文
(
はんぶん
)
縟礼
(
じよくれい
)
の
事
(
こと
)
をやつて
居
(
ゐ
)
ると
埒
(
らち
)
は
明
(
あ
)
かないぞ。
062
先生
(
せんせい
)
、
063
貴師
(
あなた
)
は
私
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
を
御存
(
ごぞん
)
じでせうね』
064
玉国別
(
たまくにわけ
)
『ウンよく
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
065
時
(
とき
)
に
道公
(
みちこう
)
誰
(
たれ
)
も
居
(
ゐ
)
なかつたか、
066
二人
(
ふたり
)
計
(
ばか
)
り
居
(
を
)
つただらう』
067
道公
(
みちこう
)
『ハイ、
068
猿
(
さる
)
の
子孫
(
しそん
)
が
〆
(
しめ
)
て
二人
(
ふたり
)
計
(
ばか
)
り
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
に
犬
(
いぬ
)
踞
(
つくば
)
ひになつて
唸
(
うな
)
り
合
(
あ
)
つて
居
(
を
)
りましたよ。
069
私
(
わたし
)
の
神力
(
しんりき
)
で、
070
とうとう
笑
(
わら
)
ひ
散
(
ち
)
らしてやりました。
071
アハヽヽヽ』
072
玉国別
(
たまくにわけ
)
『アヽ
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
祠
(
ほこら
)
の
御前
(
みまへ
)
を
借用
(
しやくよう
)
して
敵軍
(
てきぐん
)
の
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
るのを
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
にしよう』
073
と
云
(
い
)
ひながら
祠前
(
しぜん
)
の
恰好
(
かつかう
)
の
石
(
いし
)
に
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ちかけた。
074
道公
(
みちこう
)
『オイ、
075
今
(
いま
)
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
けば
伊太公
(
いたこう
)
はどうやら
敵
(
てき
)
の
捕虜
(
ほりよ
)
になつたらしいよ。
076
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
077
今
(
いま
)
となつては
悔
(
くや
)
んでも
及
(
およ
)
ばぬ
事
(
こと
)
だ。
078
此
(
この
)
後
(
ご
)
吾々
(
われわれ
)
は
伊太公
(
いたこう
)
を
救
(
すく
)
ふため、
079
友人
(
いうじん
)
の
義務
(
ぎむ
)
を
尽
(
つく
)
さうではないか』
080
純公
(
すみこう
)
『さうだなア、
081
仕方
(
しかた
)
がないなア。
082
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
伊太公
(
いたこう
)
にも
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
を
遊
(
あそ
)
ばすからさう
悲観
(
ひくわん
)
するにも
及
(
およ
)
ぶまい』
083
道公
(
みちこう
)
『これから
半時
(
はんとき
)
以上
(
いじやう
)
も、
084
こんな
所
(
ところ
)
でチヨコナンとして
狛犬然
(
こまいぬぜん
)
と
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
るのも
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かぬぢやないか。
085
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
びながら、
086
谷川
(
たにがは
)
へ
下
(
お
)
りて
水
(
みづ
)
でもいぢつて
来
(
く
)
るか、
087
さうでなければ
昔話
(
むかしばなし
)
でもして
時
(
とき
)
の
到
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つたらどうだ』
088
純公
(
すみこう
)
『それでも
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
が
沈黙
(
ちんもく
)
を
守
(
まも
)
れと
堅
(
かた
)
く
仰有
(
おつしや
)
つたぢやないか』
089
道公
(
みちこう
)
『モシ
先生
(
せんせい
)
、
090
あんまり
黙言
(
だまつ
)
て
居
(
ゐ
)
ますと、
091
口
(
くち
)
の
中
(
なか
)
で
蜘蛛
(
くも
)
の
巣
(
す
)
が
張
(
は
)
ります。
092
又
(
また
)
耳
(
みみ
)
の
穴
(
あな
)
にも
棚蜘蛛
(
たなくも
)
が
巣
(
す
)
をかけますから
蜘蛛
(
くも
)
払
(
はら
)
ひのために
少
(
すこ
)
し
昔話
(
むかしばなし
)
でもさして
下
(
くだ
)
さいな。
093
手
(
て
)
なと
足
(
あし
)
なと、
094
口
(
くち
)
なつと
赤坊
(
あかんぼ
)
のやうに
始終
(
しじう
)
動
(
うご
)
かして
居
(
を
)
らねば
虫
(
むし
)
の
納
(
をさ
)
まらない
厄介
(
やくかい
)
の
奴
(
やつ
)
だから、
095
どうか
広
(
ひろ
)
き
心
(
こころ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
096
ここは
一
(
ひと
)
つ
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひます』
097
玉国別
(
たまくにわけ
)
『ウンそれも
差支
(
さしつか
)
へはない。
098
併
(
しか
)
し
言霊戦
(
ことたません
)
の
準備
(
じゆんび
)
は
整
(
ととの
)
うて
居
(
ゐ
)
るかな』
099
道公
(
みちこう
)
『プロペラーも、
100
余
(
あま
)
り
長
(
なが
)
らく
使用
(
しよう
)
しないと
錆
(
さび
)
がついて
思
(
おも
)
ふやうに
円滑
(
ゑんくわつ
)
に
回転
(
くわいてん
)
しませぬから、
101
言霊戦
(
ことたません
)
の
予行
(
よかう
)
演習
(
えんしふ
)
だと
思
(
おも
)
つてチツと
発声
(
はつせい
)
機関
(
きくわん
)
を
使用
(
しよう
)
さして
下
(
くだ
)
さい』
102
玉国別
(
たまくにわけ
)
『ウンよしよし、
103
もう
暫
(
しばら
)
くすれば
実戦期
(
じつせんき
)
に
入
(
い
)
るのだから
夫
(
そ
)
れ
迄
(
まで
)
何
(
なに
)
なりと
話
(
はな
)
したがよからうぞ』
104
道公
(
みちこう
)
『オイ
純公
(
すみこう
)
、
105
忽
(
たちま
)
ち
願
(
ねが
)
ひ
済
(
ず
)
みだ。
106
サア
最早
(
もはや
)
誰人
(
たれ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
も
要
(
い
)
らぬ、
107
天下
(
てんか
)
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
雄弁家
(
ゆうべんか
)
道公
(
みちこう
)
さまが
布婁那
(
ふるな
)
の
弁
(
べん
)
を
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
にまくし
立
(
た
)
てるから、
108
聞
(
き
)
き
役
(
やく
)
になつて
呉
(
く
)
れ。
109
そして
間
(
あい
)
さには、
110
ウンとか、
111
なる
程
(
ほど
)
とか、
112
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
はどうなつたとか
云
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れなくては
旨
(
うま
)
く
話
(
はなし
)
の
結末
(
けつまつ
)
がつかないから
頼
(
たの
)
むよ。
113
先
(
ま
)
づ
俺
(
おれ
)
の
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
のローマンスでも
陳列
(
ちんれつ
)
してお
慰
(
なぐさ
)
みにお
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
れることにしよう』
114
純公
(
すみこう
)
『オイ、
115
道公
(
みちこう
)
、
116
お
前
(
まへ
)
のやうな
青瓢箪
(
あをべうたん
)
に
目鼻
(
めはな
)
をつけたやうな
男
(
をとこ
)
でも
矢
(
や
)
つ
張
(
ぱ
)
りローマンスはあるのか、
117
妙
(
めう
)
だねえ』
118
道公
(
みちこう
)
『
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にして
貰
(
もら
)
ふまいか、
119
蛇
(
じや
)
の
道
(
みち
)
は
蛇
(
へび
)
の
道
(
みち
)
の
道公
(
みちこう
)
様
(
さま
)
だ。
120
種々
(
いろいろ
)
の
素晴
(
すばら
)
しい
歯
(
は
)
の
浮
(
う
)
く
様
(
やう
)
な
道行話
(
みちゆきばなし
)
が
胸中
(
きようちう
)
に
満
(
み
)
ち
溢
(
あふ
)
れて
居
(
ゐ
)
るのだ。
121
俺
(
おれ
)
計
(
ばか
)
り
宝
(
たから
)
の
持
(
も
)
ち
腐
(
くさ
)
りをして
居
(
ゐ
)
ても
天下
(
てんか
)
国家
(
こくか
)
のためにならないから、
122
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
で
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
奉納
(
ほうなふ
)
の
積
(
つも
)
りで
余興
(
よきよう
)
に
昔語
(
むかしがた
)
りをやつて
見
(
み
)
るから
謹
(
つつし
)
んで
拝聴
(
はいちやう
)
せよ。
123
エヘン
抑
(
そもそも
)
此
(
この
)
道公
(
みちこう
)
さまの
御
(
おん
)
年
(
とし
)
十八
(
じふはつ
)
才
(
さい
)
の
頃
(
ころ
)
、
124
俺
(
おれ
)
の
生
(
うま
)
れ
在所
(
ざいしよ
)
にホールと
云
(
い
)
ふ
素的
(
すてき
)
滅法界
(
めつぱふかい
)
の
美人
(
びじん
)
があつたのだ。
125
そした
所
(
ところ
)
が、
126
其
(
その
)
ホールさまが、
127
乳母
(
うば
)
と
一緒
(
いつしよ
)
にオペラパツクを
細
(
ほそ
)
い
腕
(
うで
)
にプリンと
提
(
さ
)
げ、
128
シヨールに
蝙蝠傘
(
かふもりがさ
)
を
携
(
たづさ
)
へ
裾模様
(
すそもやう
)
に
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
を
散
(
ち
)
らした
素晴
(
すばら
)
しい
衣装
(
いしやう
)
をお
召
(
め
)
しになり
桜見物
(
さくらけんぶつ
)
にお
出
(
いで
)
なさつたのだ。
129
その
時
(
とき
)
俺
(
おれ
)
はまだ
十八
(
じふはち
)
の
色盛
(
いろざか
)
り
顔
(
かほ
)
の
艶
(
つや
)
も
好
(
よ
)
く、
130
ブラリブラリと
公休日
(
こうきうび
)
を
幸
(
さいは
)
ひ
片手
(
かたて
)
を
懐
(
ふところ
)
に
入
(
い
)
れ
握
(
にぎ
)
り
睾丸
(
きんたま
)
をしながら
桜
(
さくら
)
のステツキの
乙
(
おつ
)
に
曲
(
まが
)
つたやつを
小脇
(
こわき
)
に
挟
(
はさ
)
みやつて
行
(
い
)
つたと
思
(
おも
)
ひ
給
(
たま
)
へ。
131
さうすると
彼方
(
かなた
)
にも
此方
(
こなた
)
にも、
132
瓢箪酒
(
へうたんざけ
)
を
呑
(
の
)
んで
居
(
ゐ
)
る
三
(
さん
)
人
(
にん
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
七
(
しち
)
人
(
にん
)
の
団隊
(
だんたい
)
があつたと
思
(
おも
)
ひ
給
(
たま
)
へ。
133
ウラル
教
(
けう
)
の
奴
(
やつ
)
も、
134
バラモン
教
(
けう
)
の
奴
(
やつ
)
も
沢山
(
たくさん
)
居
(
ゐ
)
たと
見
(
み
)
えて「
飲
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げよ
一寸先
(
いつすんさき
)
は
闇
(
やみ
)
よ、
135
闇
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る。
136
月
(
つき
)
は
月
(
つき
)
でも
縁
(
えん
)
のつき」だなんてぬかしやがつて、
137
ヘベレケ
に
酔
(
よ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
138
そこへホールさまが
花
(
はな
)
も
恥
(
はぢ
)
らふ
優姿
(
やさすがた
)
、
139
乳母
(
おんば
)
に
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
かれ
天教山
(
てんけうざん
)
の
木花姫
(
このはなひめ
)
様
(
さま
)
のやうなスラリとした
姿
(
すがた
)
でお
出
(
いで
)
なさつた。
140
そこへ
又
(
また
)
道公
(
みちこう
)
さまが
最前
(
さいぜん
)
いつた
様
(
やう
)
な
意気
(
いき
)
な
姿
(
すがた
)
でブラついて
居
(
ゐ
)
た
様
(
さま
)
は
実
(
じつ
)
に
詩的
(
してき
)
だつたネー。
141
まるで
画中
(
ぐわちう
)
の
人
(
ひと
)
のやうだつたよ。
142
ホールさまは、
143
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
妙
(
めう
)
な
顔
(
かほ
)
をして
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ
喰
(
くら
)
つて
居
(
ゐ
)
るのを
打
(
う
)
ち
眺
(
なが
)
め、
144
梅花
(
ばいくわ
)
の
露
(
つゆ
)
に
綻
(
ほころ
)
ぶやうな
優
(
やさ
)
しい
口許
(
くちもと
)
で「ホヽヽヽヽ」と
笑
(
わら
)
ひたまうたと
思
(
おも
)
ひたまへ。
145
さうすると
酒喰
(
さけくら
)
ひの
奴
(
やつ
)
、
146
そろそろお
嬢
(
ぢやう
)
さまを
見
(
み
)
て
喰
(
く
)
つてかかつたのだ』
147
純公
(
すみこう
)
は
道公
(
みちこう
)
の
話
(
はなし
)
に
釣
(
つ
)
り
込
(
こ
)
まれ、
148
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
膝
(
ひざ
)
を
寄
(
よ
)
せ
目
(
め
)
を
丸
(
まる
)
くしながら、
149
純公
『エ、
150
それから
其
(
その
)
後
(
あと
)
はどうなつたのだ、
151
早
(
はや
)
く
云
(
い
)
はないか』
152
道公
(
みちこう
)
『この
先
(
さき
)
は
天機
(
てんき
)
漏
(
も
)
らすべからずだ。
153
これからが
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
正念場
(
しやうねんば
)
だからな。
154
オイ
袖
(
そで
)
の
下
(
した
)
の
流行
(
りうかう
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
155
こんな
神秘
(
しんぴ
)
的
(
てき
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かうと
思
(
おも
)
ふなら、
156
些
(
ちつと
)
酒代
(
さかて
)
をはり
込
(
こ
)
め、
157
ハルナの
大劇場
(
だいげきぢやう
)
だつてこんな
実歴談
(
じつれきだん
)
は
聞
(
き
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないぞ』
158
玉国別
(
たまくにわけ
)
『アツハヽヽヽ』
159
純公
(
すみこう
)
『サア
早
(
はや
)
く
次
(
つぎ
)
を
云
(
い
)
はぬかい。
160
もどかしいぢやないか』
161
道公
(
みちこう
)
『
後
(
あと
)
はどうなりますか。
162
又
(
また
)
明晩
(
みやうばん
)
のお
楽
(
たの
)
しみと
云
(
い
)
ふべき
処
(
ところ
)
だが、
163
どつと
張
(
は
)
り
込
(
こ
)
んでこの
後
(
あと
)
を
漏
(
も
)
らさうかなア、
164
エヘヽヽヽヽあゝ
涎
(
よだれ
)
の
奴
(
やつ
)
、
165
主人公
(
しゆじんこう
)
の
許
(
ゆる
)
しも
得
(
え
)
ずに
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
迸出
(
へいしゆつ
)
せむとする
不届
(
ふとど
)
きの
奴
(
やつ
)
だ。
166
エヘヽヽヽもう
云
(
い
)
ふまいかな。
167
イヤイヤ
矢張
(
やつぱり
)
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
奉納
(
ほうなふ
)
すると
云
(
い
)
うたから
出惜
(
だしをし
)
みをしては
済
(
す
)
むまい。
168
エヘヽヽヽ
然
(
しか
)
り
而
(
しか
)
うして
泥酔者
(
よいどれ
)
の
中
(
なか
)
から
顔
(
かほ
)
一面
(
いちめん
)
に
熊襲髯
(
くまそひげ
)
を
生
(
はや
)
し、
169
目
(
め
)
と
鼻
(
はな
)
とのぐるり
計
(
ばか
)
り
赤黒
(
あかぐろ
)
い
肌
(
はだ
)
を
現
(
あら
)
はした
大男
(
おほをとこ
)
が
ムツク
と
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
170
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
首筋
(
くびすぢ
)
をぐつと
鷲掴
(
わしづか
)
み「コリヤ
阿魔
(
あま
)
つちよ、
171
何
(
なん
)
だ
失礼
(
しつれい
)
な、
172
此
(
この
)
方
(
はう
)
が
折角
(
せつかく
)
機嫌
(
きげん
)
よく
酩酊
(
めいてい
)
して
居
(
ゐ
)
るのに
何
(
なに
)
がをかしいのだ、
173
エーン
俺
(
おれ
)
の
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
て
笑
(
わら
)
うたが
笑
(
わら
)
ふに
付
(
つ
)
けては
何
(
なに
)
か
訳
(
わけ
)
があらう。
174
サア
貴様
(
きさま
)
の
手
(
て
)
で
俺
(
おれ
)
に
一杯
(
いつぱい
)
酒
(
さけ
)
をつげ」とかう
大
(
おほ
)
きく
出
(
で
)
やがつたのだ。
175
ホールさまは
忽
(
たちま
)
ち
顔色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へ「アレ
恐
(
こは
)
い
乳母
(
うば
)
どうしようか」とおろおろ
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
狼狽
(
うろたへ
)
廻
(
まは
)
つて
厶
(
ござ
)
るのだ。
176
大
(
だい
)
の
男
(
をとこ
)
は
益々
(
ますます
)
威猛高
(
ゐたけだか
)
になり「
俺
(
おれ
)
を
誰
(
たれ
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
177
おれこそは
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
にても
名
(
な
)
の
売
(
う
)
れた
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い
純公
(
すみこう
)
だぞ、
178
繊弱
(
かよわ
)
い
阿魔
(
あま
)
つちよに
嘲弄
(
てうろう
)
されてどうして
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
つか。
179
サア
神妙
(
しんめう
)
に
酌
(
しやく
)
をせい」と
吐
(
ぬ
)
かすのぢや、
180
ホールさまは
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
「アレ
恐
(
こは
)
い
助
(
たす
)
けて
助
(
たす
)
けて」と
悲
(
かな
)
しさうな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
叫
(
さけ
)
ばれたのだ。
181
さうすると
其辺
(
そこら
)
中
(
ぢう
)
に
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
泥酔者
(
よひどれ
)
が「ヤ
何
(
なん
)
だ
何
(
なん
)
だ、
182
喧嘩
(
けんくわ
)
だ
喧嘩
(
けんくわ
)
だ」と
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
と
純公
(
すみこう
)
の
廻
(
まは
)
りを
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
く、
183
其
(
その
)
光景
(
くわうけい
)
と
云
(
い
)
つたら
実
(
じつ
)
に
物々
(
ものもの
)
しいものだつた。
184
殆
(
ほとん
)
ど
蟻
(
あり
)
の
這
(
は
)
ひ
出
(
で
)
る
隙
(
すき
)
もない
迄
(
まで
)
に、
185
寄
(
よ
)
つたりな、
186
寄
(
よ
)
つたりな、
187
人
(
ひと
)
の
山
(
やま
)
。
188
そこで
此
(
この
)
道公
(
みちこう
)
は「まつた まつた、
189
暫
(
しばら
)
く
待
(
ま
)
つた」と
大手
(
おほて
)
を
拡
(
ひろ
)
げ、
190
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
を
グツ
と
締
(
し
)
め、
191
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
に
割
(
わ
)
つて
入
(
い
)
る。
192
純公
(
すみこう
)
は
怒
(
いか
)
り
立
(
た
)
ち「どこの
何者
(
なにもの
)
か
知
(
し
)
らないが、
193
邪魔
(
じやま
)
をするとお
為
(
ため
)
にならないぞ」と
白浪
(
しらなみ
)
言葉
(
ことば
)
で
睨
(
ね
)
めつける。
194
俺
(
おれ
)
もさる
者
(
もの
)
日頃
(
ひごろ
)
覚
(
おぼ
)
えた
柔道
(
じうだう
)
百段
(
ひやくだん
)
の
腕前
(
うでまへ
)
で
純公
(
すみこう
)
の
素
(
そ
)
つ
首
(
くび
)
引
(
ひつ
)
とらへ、
195
空中
(
くうちう
)
目蒐
(
めが
)
けて、
196
プリン プリン プリンと
投
(
な
)
げやれば、
197
遉
(
さすが
)
の
大男
(
おほをとこ
)
も
草原
(
くさはら
)
へドスンと
転落
(
てんらく
)
し、
198
痛
(
いた
)
いとも
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
はず、
199
恨
(
うら
)
めしげに
後
(
あと
)
を
眺
(
なが
)
めてスゴスゴと
帰
(
かへ
)
つて
往
(
い
)
つた
愉快
(
ゆくわい
)
さ、
200
心地
(
ここち
)
よさ。
201
今
(
いま
)
思
(
おも
)
うてもなぜあんな
力
(
ちから
)
が
出
(
で
)
たかと
不思議
(
ふしぎ
)
のやうだ。
202
そこでホールさまはどうして
厶
(
ござ
)
るかと
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
203
乳母
(
おんば
)
に
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれ
人込
(
ひとごみ
)
を
押
(
おし
)
わけ
サツサ
と
逃
(
に
)
げて
往
(
ゆ
)
かれる。
204
後姿
(
うしろすがた
)
を
見
(
み
)
て
俺
(
おれ
)
も
何
(
なん
)
となく、
205
人
(
ひと
)
の
居
(
ゐ
)
るのも
構
(
かま
)
はず、
206
指
(
ゆび
)
を
銜
(
くわ
)
へ
伸
(
の
)
びあがつて
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たよ』
207
純公
(
すみこう
)
『アハヽヽヽ、
208
骨折
(
ほねを
)
り
損
(
ぞん
)
の
疲労
(
くたびれ
)
儲
(
まう
)
けと
云
(
い
)
ふ
幕
(
まく
)
が
下
(
お
)
りたのだな。
209
大方
(
おほかた
)
そんな
事
(
こと
)
だらうと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
た。
210
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
様
(
さま
)
、
211
ウフヽヽヽ
俺
(
おれ
)
だつたら、
212
も
一
(
ひと
)
つ
進
(
すす
)
んで
優
(
やさ
)
しい
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
口
(
くち
)
からお
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
はすのだが、
213
お
前
(
まへ
)
は
矢張
(
やつぱり
)
気
(
き
)
が
弱
(
よわ
)
いと
見
(
み
)
えるのう。
214
ウフヽヽヽ』
215
道公
(
みちこう
)
『
何
(
なに
)
これで
終極
(
しうきよく
)
ぢやないよ、
216
これからが
正念場
(
しやうねんば
)
だ。
217
エヘヽヽヽ、
218
それからな、
219
俺
(
おれ
)
も
何
(
なん
)
となく
聊
(
いささ
)
か
恋慕
(
れんぼ
)
の
心
(
こころ
)
が
起
(
おこ
)
り、
220
も
一度
(
いちど
)
天女
(
てんによ
)
のやうなホールさまのお
顔
(
かほ
)
が
見
(
み
)
たいと、
221
どれだけ
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
んだか
分
(
わか
)
らない。
222
併
(
しか
)
し
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
富豪
(
ふうがう
)
、
223
隙間
(
すきま
)
の
風
(
かぜ
)
にさへ
当
(
あ
)
てられないで
育
(
そだ
)
つて
居
(
ゐ
)
るお
嬢
(
ぢやう
)
さまだからどうしても
遇
(
あ
)
ふことは
出来
(
でき
)
はしない。
224
いろいろと
考
(
かんが
)
へた
結果
(
けつくわ
)
俺
(
おれ
)
はそこの
風呂焚
(
ふろたき
)
に
入
(
はい
)
つたのだ。
225
即
(
すなは
)
ち
三助
(
さんすけ
)
に
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
んだのだ。
226
さうすればいつか
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
顔
(
かほ
)
を
拝
(
はい
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るであらうと
思
(
おも
)
うたから、
227
エーン』
228
純公
(
すみこう
)
『
何
(
なん
)
と
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だな。
229
俺
(
おれ
)
だつたら、
230
「
先日
(
せんじつ
)
は
甚
(
えら
)
いお
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いましたね。
231
別
(
べつ
)
にお
身体
(
からだ
)
にお
障
(
さは
)
りは
厶
(
ござ
)
いませぬか。
232
花見
(
はなみ
)
の
時
(
とき
)
お
嬢様
(
ぢやうさま
)
が
悪漢
(
わるもの
)
にお
遇
(
あ
)
ひなされた
時
(
とき
)
お
助
(
たす
)
け
申
(
まを
)
した
私
(
わたし
)
は
道公
(
みちこう
)
だ」と
両親
(
りやうしん
)
に
名乗
(
なの
)
り
優
(
やさ
)
しい
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
手
(
て
)
からお
茶
(
ちや
)
の
一杯
(
いつぱい
)
も
汲
(
く
)
んで
貰
(
もら
)
つて
来
(
く
)
るのだに、
233
貴様
(
きさま
)
は
薄惚
(
うすのろ
)
だから
殆
(
ほとん
)
ど
掌中
(
しやうちう
)
の
玉
(
たま
)
を
失
(
うしな
)
うて
来
(
き
)
たのだ。
234
そんな
失恋話
(
しつれんばなし
)
は
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
切
(
き
)
り
上
(
あ
)
げぬかい。
235
徒
(
いたづら
)
に
時間
(
じかん
)
を
空費
(
くうひ
)
する
計
(
ばか
)
りぢや』
236
玉国別
(
たまくにわけ
)
『オツホヽヽヽ』
237
道公
(
みちこう
)
『
是
(
これ
)
からが
三段目
(
さんだんめ
)
だ。
238
確
(
しつ
)
かり
聞
(
き
)
かうよ。
239
風呂焚
(
ふろた
)
きの
三助
(
さんすけ
)
に
入
(
い
)
り
込
(
こ
)
んで
丸
(
まる
)
に
十字
(
じふじ
)
のついた
法被
(
はつぴ
)
を
着用
(
ちやくよう
)
に
及
(
およ
)
び、
240
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
今日
(
けふ
)
は
入浴
(
にふよく
)
か、
241
明日
(
あす
)
は
入浴
(
にふよく
)
かと
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
242
豈
(
あに
)
図
(
はか
)
らむやその
風呂
(
ふろ
)
は
上女中
(
かみぢよちう
)
の
入
(
い
)
る
風呂
(
ふろ
)
で、
243
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
根
(
ね
)
つから
覗
(
のぞ
)
きもしない。
244
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
俺
(
おれ
)
の
失望
(
しつばう
)
と
云
(
い
)
つたらあつたものぢやない。
245
エーン』
246
純公
(
すみこう
)
『アハヽヽヽ、
247
梟
(
ふくろどり
)
の
宵企
(
よひだく
)
み、
248
夜食
(
やしよく
)
に
外
(
はづ
)
れたと
云
(
い
)
ふ
光景
(
くわうけい
)
だな。
249
ウフヽヽヽ』
250
道公
(
みちこう
)
『コリヤ、
251
あまり
軽蔑
(
けいべつ
)
すな、
252
まだ
先
(
さき
)
があるのだ。
253
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
くにして、
254
三助
(
さんすけ
)
を
勤
(
つと
)
むる
事
(
こと
)
満
(
まん
)
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
に
及
(
およ
)
んだ
暁
(
あかつき
)
、
255
お
嬢様
(
ぢやうさま
)
は
隣国
(
りんごく
)
のペンチ
国
(
こく
)
の
或
(
ある
)
富豪
(
ふうがう
)
の
家
(
いへ
)
へお
嫁入
(
よめい
)
りと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
になつたのだ。
256
「アヽしまつた。
257
こんな
事
(
こと
)
なら
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
も
三助
(
さんすけ
)
をするのぢやなかつたに、
258
お
声
(
こゑ
)
も
聞
(
き
)
かねばお
姿
(
すがた
)
も
見
(
み
)
ず
杜鵑
(
ほととぎす
)
よりも
酷
(
ひど
)
い」と
歎
(
なげ
)
き
悲
(
かな
)
しんだのも
夢
(
ゆめ
)
の
間
(
ま
)
、
259
番頭
(
ばんとう
)
のテンプラ
奴
(
め
)
が「
一寸
(
ちよつと
)
三助
(
さんすけ
)
お
前
(
まへ
)
に
用
(
よう
)
があるから
此方
(
こちら
)
へ
来
(
こ
)
い」と
云
(
い
)
うて
来
(
き
)
よつた。
260
何事
(
なにごと
)
ならむと
稍
(
やや
)
望
(
のぞ
)
みを
抱
(
いだ
)
きながら、
261
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
るテンプラの
前
(
まへ
)
に
罷
(
まか
)
りつん
出
(
で
)
ると
思
(
おも
)
ひも
掛
(
か
)
けなく、
262
「お
嬢様
(
ぢやうさま
)
のお
嫁入
(
よめい
)
りだから
貴様
(
きさま
)
駕籠舁
(
かごかき
)
にいつて
呉
(
く
)
れないか」とお
出
(
いで
)
なさつた。
263
「ヤレ
嬉
(
うれ
)
しや、
264
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
時
(
とき
)
到
(
いた
)
れり」と
二十遍
(
にじつぺん
)
も
首
(
くび
)
を
縦
(
たて
)
に
振
(
ふ
)
り「
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はりませう」と
云
(
い
)
つた
処
(
ところ
)
、
265
其
(
その
)
翌日
(
よくじつ
)
いよいよお
嫁入
(
よめい
)
りの
段
(
だん
)
となつた。
266
駕籠
(
かご
)
にお
這
(
はい
)
りの
時
(
とき
)
のお
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
た
時
(
とき
)
は
魂
(
こん
)
奪
(
うば
)
はれ、
267
魄
(
はく
)
消
(
き
)
えむと
思
(
おも
)
ふばかり、
268
殆
(
ほとん
)
ど
卒倒
(
そつたふ
)
しかけたよ。
269
それからお
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
駕籠
(
かご
)
を
相棒
(
あいぼう
)
の
奴
(
やつ
)
と
舁
(
かつ
)
ぎながら
歌
(
うた
)
うて
見
(
み
)
たのだ。
270
その
歌
(
うた
)
がまた
奇抜
(
きばつ
)
だつたよ。
271
俺
(
おれ
)
は
十八
(
じふはち
)
お
嬢
(
ぢやう
)
さまは
十七
(
じふしち
)
の
花盛
(
はなざか
)
り
272
一人
(
ひとり
)
の
乳母
(
おんば
)
に
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
かれ
273
梅
(
うめ
)
を
散
(
ち
)
らした
裾模様
(
すそもやう
)
274
黒縮緬
(
くろちりめん
)
の
扮装
(
いでたち
)
で
275
ぞろ ぞろ ぞろと
桜
(
さくら
)
見
(
み
)
に
276
お
越
(
こ
)
しなさつた
其
(
その
)
時
(
とき
)
に
277
彼方
(
あちら
)
に
五
(
ご
)
人
(
にん
)
此方
(
こちら
)
には
278
又
(
また
)
七
(
しち
)
人
(
にん
)
と
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
み
279
呑
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げよ
一寸先
(
いつすんさきや
)
暗夜
(
やみよ
)
280
闇
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る
281
月
(
つき
)
は
つき
だが
縁
(
えん
)
の
つき
282
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
283
髯武者
(
ひげむしや
)
男
(
をとこ
)
の
純公
(
すみこう
)
が
284
花
(
はな
)
も
恥
(
はぢ
)
らふお
嬢
(
ぢやう
)
さまを
285
とつ
捕
(
つか
)
まへて
酌
(
しやく
)
せいと
286
駄々
(
だだ
)
を
捏
(
こ
)
ねたる
最中
(
さいちう
)
に
287
飛
(
と
)
んで
出
(
で
)
たのは
俺
(
おれ
)
だつた
288
純公
(
すみこう
)
の
奴
(
やつ
)
めが
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
て
289
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつくのをとつかまへ
290
習
(
なら
)
ひ
覚
(
おぼ
)
えた
柔道
(
じうだう
)
で
291
ウンと
一声
(
ひとこゑ
)
なげやつた
292
空中
(
くうちう
)
二三度
(
にさんど
)
回転
(
くわいてん
)
し
293
命
(
いのち
)
辛々
(
からがら
)
逃
(
に
)
げて
往
(
ゆ
)
く
294
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
りかへり
眺
(
なが
)
むれば
295
ホールの
姫
(
ひめ
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
296
乳母
(
おんば
)
にお
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれつつ
297
館
(
やかた
)
をさして
帰
(
かへ
)
り
往
(
ゆ
)
く
298
あれ
程
(
ほど
)
美
(
うつく
)
しいお
姫
(
ひめ
)
さま
299
も
一度
(
いちど
)
お
顔
(
かほ
)
が
拝
(
をが
)
みたい
300
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
はないものか
301
手蔓
(
てづる
)
を
求
(
もと
)
めて
三助
(
ふろばん
)
と
302
なつて
月日
(
つきひ
)
を
待
(
ま
)
つ
中
(
うち
)
に
303
思
(
おも
)
ひも
掛
(
か
)
けぬ
御
(
ご
)
結婚
(
けつこん
)
304
あゝ
是非
(
ぜひ
)
もなし
是非
(
ぜひ
)
もなし
305
爺
(
おやぢ
)
が
鳶
(
とび
)
に
油揚
(
あぶらあげ
)
306
もつていなれた
心地
(
ここち
)
して
307
せめては
駕籠
(
かご
)
の
御
(
おん
)
供
(
とも
)
を
308
さして
貰
(
もら
)
つたを
幸
(
さいは
)
ひと
309
此処迄
(
ここまで
)
ウントコついて
来
(
き
)
た
310
ウントコドツコイ ドツコイシヨ
311
と
足
(
あし
)
に
合
(
あは
)
せて
唄
(
うた
)
つたら、
312
駕籠
(
かご
)
の
中
(
なか
)
から
細
(
ほそ
)
い
涼
(
すず
)
しいホールさまの
声
(
こゑ
)
として、
313
「この
駕籠
(
かご
)
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つた。
314
俄
(
にはか
)
にお
腹
(
なか
)
が
痛
(
いた
)
み
出
(
だ
)
したから、
315
今日
(
けふ
)
の
結婚
(
けつこん
)
嫌
(
いや
)
だ
嫌
(
いや
)
だ
帰
(
かへ
)
る」と
仰有
(
おつしや
)
つてお
聞
(
き
)
きにならぬ。
316
サア
大変
(
たいへん
)
だ、
317
結婚
(
けつこん
)
の
途中
(
とちう
)
お
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
引返
(
ひつかへ
)
したのだから、
318
どつちの
家
(
いへ
)
も
大騒動
(
おほさうどう
)
、
319
それからとうとう
駕籠
(
かご
)
は
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
り、
320
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
にサツサとお
姫
(
ひめ
)
さまは
腹痛
(
はらいた
)
も
忘
(
わす
)
れて
入
(
はい
)
つて
仕舞
(
しま
)
つた。
321
よくよく
聞
(
き
)
けば「あの
駕籠舁
(
かごか
)
きと
夫婦
(
ふうふ
)
にして
呉
(
く
)
れねば
妾
(
わたし
)
は
死
(
し
)
ぬ」と
駄々
(
だだ
)
を
捏
(
こ
)
ねたと
思
(
おも
)
ひ
給
(
たま
)
へ。
322
サアこれからがボロイのだ。
323
とうとう
俺
(
おれ
)
はホールさまの
座敷
(
ざしき
)
に
呼
(
よ
)
び
入
(
い
)
れられ、
324
山野
(
さんや
)
河海
(
かかい
)
の
珍肴
(
ちんかう
)
、
325
姫
(
ひめ
)
の
細
(
ほそ
)
い
白
(
しろ
)
い
手
(
て
)
でお
酌
(
しやく
)
をして
貰
(
もら
)
ひ、
326
初
(
はじ
)
めて
結婚
(
けつこん
)
の
式
(
しき
)
を
挙
(
あ
)
げて
夫婦
(
ふうふ
)
となり、
327
沢山
(
たくさん
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
与
(
あた
)
へて
貰
(
もら
)
ふ
事
(
こと
)
になつたのだ。
328
さうすると、
329
月
(
つき
)
に
村雲
(
むらくも
)
花
(
はな
)
に
嵐
(
あらし
)
、
330
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
と
俺
(
おれ
)
と
盃
(
さかづき
)
を
交
(
か
)
はして
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
へ、
331
阿修羅
(
あしゆら
)
王
(
わう
)
の
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ふが
如
(
ごと
)
く
入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのは
純公
(
すみこう
)
だつた。
332
サア
此方
(
こちら
)
の
襖
(
ふすま
)
は
叩
(
たた
)
き
毀
(
こは
)
す、
333
火鉢
(
ひばち
)
をなげつける。
334
乱暴
(
らんばう
)
狼藉
(
ろうぜき
)
、
335
そこで
俺
(
おれ
)
も、
336
も
一度
(
いちど
)
姫
(
ひめ
)
に
吾
(
わが
)
手並
(
てなみ
)
を
見
(
み
)
せておく
必要
(
ひつえう
)
があると
思
(
おも
)
ひ、
337
「サア
来
(
こ
)
い
来
(
きた
)
れ」と
手
(
て
)
を
拡
(
ひろ
)
げた
途端
(
とたん
)
、
338
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
めたら、
339
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ、
340
破
(
やぶ
)
れ
小屋
(
ごや
)
の
二畳敷
(
にでふじき
)
で
汗
(
あせ
)
ビツシヨリかいて
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たのだつた、
341
アハヽヽヽ』
342
玉国別
(
たまくにわけ
)
『ウツフヽヽヽ』
343
純公
(
すみこう
)
『ワハヽヽヽ、
344
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
345
道公
(
みちこう
)
『
何
(
なに
)
、
346
バラモン
国
(
こく
)
から
直輸入
(
ちよくゆにふ
)
した
計
(
ばか
)
りの
舶来品
(
はくらいひん
)
の
卸
(
おろ
)
し
売
(
う
)
りだ、
347
アハヽヽヽ』
348
(
大正一一・一一・二七
旧一〇・九
加藤明子
録)
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