霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 輸入品(ゆにふひん)〔一一六〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第2篇 月下の古祠 よみ(新仮名遣い):げっかのふるほこら
章:第9章 輸入品 よみ(新仮名遣い):ゆにゅうひん 通し章番号:1160
口述日:1922(大正11)年11月27日(旧10月9日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
玉国別と純公は、道公が偵察に行った祠のあたりから笑い声がするのを聞いていた。純公はこのような魔軍が通った殺風景な場所に、砕けた笑い声がしたのでその感慨を述べ、玉国別もまた顔をほころばせた。
二人は、そろそろバラモン軍が治国別の言霊に打たれて逃げてくる頃あいだと立ち上がった。祠に近づくと、道公が一人でニコニコしてしゃがんでいる。
三人は言霊戦の準備を整えてバラモン軍を待ち伏せている。道公は待っている間にひとつ話をしようと馬鹿話を切り出した。
先ほどバラモン軍の一人がしていた若いころのロマンスの受け売りで、金持ちの美人に惚れられるが最後にそれが夢であったことがわかる、という落ちの馬鹿話であった。玉国別と純公は笑いこけ、道公はバラモン国舶来の輸入品だと得意がる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-07 20:01:39 OBC :rm4309
愛善世界社版:130頁 八幡書店版:第8輯 75頁 修補版: 校定版:137頁 普及版:54頁 初版: ページ備考:
001 (つき)()(わた)(もり)木蔭(こかげ)小声(こごゑ)(はな)()つて()二人(ふたり)があつた。002これは玉国別(たまくにわけ)003純公(すみこう)二人(ふたり)なる(こと)()(まで)もない。004今迄(いままで)銅色(あかがねいろ)(くも)(きぬ)をかぶつて()円満(ゑんまん)具足(ぐそく)(もち)(つき)(こころ)ありげに二人(ふたり)対話(たいわ)(のぞ)くものの(ごと)くであつた。005数十間(すうじつけん)(へだ)たつた(ほこら)(もり)(あた)りには二三(にさん)(にん)(をとこ)(わら)(ごゑ)(きこ)えて()た。
006純公(すみこう)先生(せんせい)007(この)殺風景(さつぷうけい)魔軍(まぐん)(とほ)つた(あと)に、008(なん)とも()れぬ(くだ)けたやうなあの(わら)(ごゑ)009修羅道(しゆらだう)(あと)歓楽郷(くわんらくきやう)(ひら)けた(やう)光景(くわうけい)ぢやありませぬか。010極端(きよくたん)極端(きよくたん)ですなア』
011玉国別(たまくにわけ)『ウン、012(きう)すれば(たつ)す、013(かな)しみの(きよく)(よろこ)びだ。014(よろこ)びの(きは)みは(また)(かな)しみだ。015(ほこら)中心(ちうしん)(なに)喜劇(きげき)(えん)ぜられて()ると()える。016あの(わら)(ごゑ)()くと(わし)頭痛(づつう)(ぬぐ)ふが(ごと)()()つて仕舞(しま)つたやうだ。017(すべ)(やまひ)(なや)(とき)(わら)ふのが一番(いちばん)ぢや。018大口(おほぐち)をあけて他愛(たあい)もなく(わら)(きよう)ずるその瞬間(しゆんかん)こそ無上(むじやう)天国(てんごく)境涯(きやうがい)ぢや。019ヤア(わし)(なん)となく面白(おもしろ)くなつて()た。020アハヽヽヽ』
021純公(すみこう)『ヤア(はじ)めて(うるは)しき(つき)大神(おほかみ)(さま)のお(かほ)(はい)したかと(おも)へば(また)もや先生(せんせい)玲瓏(れいろう)(たま)(ごと)温顔(をんがん)(わら)ひを(たた)へられた(ところ)(をが)みました。022(なん)だか(わたし)(うれ)しく(いさ)んで(まゐ)りました。023アハヽヽヽ』
024玉国別(たまくにわけ)『あの(おほ)きな(わら)(ごゑ)は、025どうやら道公(みちこう)(こゑ)のやうだつたなア』
026純公(すみこう)()たやうな(こゑ)でしたな。027あの(をとこ)があれだけ(おほ)きな(こゑ)(わら)つたのは(いま)聞初(ききはじ)めです。028(しか)し、029なぜ貴方(あなた)()命令(めいれい)(どほ)()()たないのでせうか。030(さつ)する(ところ)バラモン(けう)(やつ)031(さけ)にでも()つぱらつて凱旋(がいせん)気分(きぶん)になり哄笑(こうせう)して()るのぢやありますまいかな』
032玉国別(たまくにわけ)『さうではあるまい。033道公(みちこう)矢張(やはり)(わら)ひの渦中(くわちう)(とう)じて()るのだらう』
034純公(すみこう)『かう平和(へいわ)(かぜ)(ほこら)近辺(きんぺん)()いて()るのに、035いつ(まで)此処(ここ)楽隠居(らくいんきよ)して()(ところ)仕方(しかた)がありますまい。036バラモン(けう)軍隊(ぐんたい)治国別(はるくにわけ)(さま)言霊(ことたま)()たれて遁走(とんそう)して()るのにもう()もありますまい。037()(かく)もあの(ほこら)()して(まゐ)りませうか。038ヤア()()りました。039あれはキツと道公(みちこう)合図(あひづ)でせう。040サア(まゐ)りませう』
041玉国別(たまくにわけ)『そんなら()かう』
042()(あが)り、043(ふた)つの(かさ)空中(くうちう)二本(にほん)(つゑ)(しろ)(つき)()(なが)()(たた)いて(くだ)つて()く。
044 (ほこら)(まへ)には、045ニコニコした(かほ)月光(げつくわう)(さら)し、046道公(みちこう)(ただ)一人(ひとり)(しやが)んで()る。
047純公(すみこう)『オイ道公(みちこう)さま、048(まへ)一人(ひとり)だつたか』
049道公(みちこう)『ウン合計(がふけい)(しめ)(いち)(にん)だ。050(なに)()ないよ。051あいさに()()がそよ(かぜ)()かれて(なん)だか(わけ)(わか)らぬ(こと)を、052(した)()してペラペラと(しやべ)つて()よるが、053(おれ)(みみ)には植物(しよくぶつ)(こゑ)はトンと(きこ)えないわ』
054純公(すみこう)『お(まへ)一人(ひとり)二人(ふたり)(さん)(にん)もの(こゑ)一時(いつとき)()したのか、055余程(よほど)器用(きよう)(をとこ)だねえ、056先生(せんせい)(さま)のお()しだ。057挨拶(あいさつ)をせぬか』
058道公(みちこう)(いま)其処(そこ)(わか)れた(ばか)りぢやないか。059師弟(してい)間柄(あひだがら)060十間(じつけん)二十間(にじつけん)(わか)れたつて七六(しちむつ)()()挨拶(あいさつ)()るものか。061そんな繁文(はんぶん)縟礼(じよくれい)(こと)をやつて()ると(らち)()かないぞ。062先生(せんせい)063貴師(あなた)(わたし)(こころ)御存(ごぞん)じでせうね』
064玉国別(たまくにわけ)『ウンよく(わか)つて()る。065(とき)道公(みちこう)(たれ)()なかつたか、066二人(ふたり)(ばか)()つただらう』
067道公(みちこう)『ハイ、068(さる)子孫(しそん)(しめ)二人(ふたり)(ばか)(ほこら)(まへ)(いぬ)(つくば)ひになつて(うな)()つて()りましたよ。069(わたし)神力(しんりき)で、070とうとう(わら)()らしてやりました。071アハヽヽヽ』
072玉国別(たまくにわけ)『アヽ(つき)(ひかり)()(なが)(この)(ほこら)御前(みまへ)借用(しやくよう)して敵軍(てきぐん)(かへ)(きた)るのを()(こと)にしよう』
073()ひながら祠前(しぜん)恰好(かつかう)(いし)(こし)()ちかけた。
074道公(みちこう)『オイ、075(いま)二人(ふたり)(やつ)(はなし)()けば伊太公(いたこう)はどうやら(てき)捕虜(ほりよ)になつたらしいよ。076(しか)(なが)ら、077(いま)となつては(くや)んでも(およ)ばぬ(こと)だ。078(この)()吾々(われわれ)伊太公(いたこう)(すく)ふため、079友人(いうじん)義務(ぎむ)(つく)さうではないか』
080純公(すみこう)『さうだなア、081仕方(しかた)がないなア。082(かみ)(さま)伊太公(いたこう)にも()守護(しゆご)(あそ)ばすからさう悲観(ひくわん)するにも(およ)ぶまい』
083道公(みちこう)『これから半時(はんとき)以上(いじやう)も、084こんな(ところ)でチヨコナンとして狛犬然(こまいぬぜん)()つて()るのも()()かぬぢやないか。085(つき)(ひかり)()びながら、086谷川(たにがは)()りて(みづ)でもいぢつて()るか、087さうでなければ昔話(むかしばなし)でもして(とき)(いた)るを()つたらどうだ』
088純公(すみこう)『それでも先生(せんせい)(さま)沈黙(ちんもく)(まも)れと(かた)仰有(おつしや)つたぢやないか』
089道公(みちこう)『モシ先生(せんせい)090あんまり黙言(だまつ)()ますと、091(くち)(なか)蜘蛛(くも)()()ります。092(また)(みみ)(あな)にも棚蜘蛛(たなくも)()をかけますから蜘蛛(くも)(はら)ひのために(すこ)昔話(むかしばなし)でもさして(くだ)さいな。093()なと(あし)なと、094(くち)なつと赤坊(あかんぼ)のやうに始終(しじう)(うご)かして()らねば(むし)(をさ)まらない厄介(やくかい)(やつ)だから、095どうか(ひろ)(こころ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)し、096ここは(ひと)()(なほ)しを(ねが)ひます』
097玉国別(たまくにわけ)『ウンそれも差支(さしつか)へはない。098(しか)言霊戦(ことたません)準備(じゆんび)(ととの)うて()るかな』
099道公(みちこう)『プロペラーも、100(あま)(なが)らく使用(しよう)しないと(さび)がついて(おも)ふやうに円滑(ゑんくわつ)回転(くわいてん)しませぬから、101言霊戦(ことたません)予行(よかう)演習(えんしふ)だと(おも)つてチツと発声(はつせい)機関(きくわん)使用(しよう)さして(くだ)さい』
102玉国別(たまくにわけ)『ウンよしよし、103もう(しばら)くすれば実戦期(じつせんき)()るのだから()(まで)(なに)なりと(はな)したがよからうぞ』
104道公(みちこう)『オイ純公(すみこう)105(たちま)(ねが)()みだ。106サア最早(もはや)誰人(たれ)遠慮(ゑんりよ)()らぬ、107天下(てんか)唯一(ゆゐいつ)雄弁家(ゆうべんか)道公(みちこう)さまが布婁那(ふるな)(べん)縦横(じうわう)無尽(むじん)にまくし()てるから、108()(やく)になつて()れ。109そして(あい)さには、110ウンとか、111なる(ほど)とか、112(その)(つぎ)はどうなつたとか()うて()れなくては(うま)(はなし)結末(けつまつ)がつかないから(たの)むよ。113()(おれ)(わか)(とき)のローマンスでも陳列(ちんれつ)してお(なぐさ)みにお(みみ)()れることにしよう』
114純公(すみこう)『オイ、115道公(みちこう)116(まへ)のやうな青瓢箪(あをべうたん)目鼻(めはな)をつけたやうな(をとこ)でも()()りローマンスはあるのか、117(めう)だねえ』
118道公(みちこう)(あま)馬鹿(ばか)にして(もら)ふまいか、119(じや)(みち)(へび)(みち)道公(みちこう)(さま)だ。120種々(いろいろ)素晴(すばら)しい()()(やう)道行話(みちゆきばなし)胸中(きようちう)()(あふ)れて()るのだ。121(おれ)(ばか)(たから)()(くさ)りをして()ても天下(てんか)国家(こくか)のためにならないから、122(ひと)此処(ここ)(ほこら)(もり)(かみ)(さま)奉納(ほうなふ)(つも)りで余興(よきよう)昔語(むかしがた)りをやつて()るから(つつし)んで拝聴(はいちやう)せよ。123エヘン(そもそも)(この)道公(みちこう)さまの(おん)(とし)十八(じふはつ)(さい)(ころ)124(おれ)(うま)在所(ざいしよ)にホールと()素的(すてき)滅法界(めつぱふかい)美人(びじん)があつたのだ。125そした(ところ)が、126(その)ホールさまが、127乳母(うば)一緒(いつしよ)にオペラパツクを(ほそ)(うで)にプリンと()げ、128シヨールに蝙蝠傘(かふもりがさ)(たづさ)裾模様(すそもやう)(うめ)(はな)()らした素晴(すばら)しい衣装(いしやう)をお()しになり桜見物(さくらけんぶつ)にお(いで)なさつたのだ。129その(とき)(おれ)はまだ十八(じふはち)色盛(いろざか)(かほ)(つや)()く、130ブラリブラリと公休日(こうきうび)(さいは)片手(かたて)(ふところ)()(にぎ)睾丸(きんたま)をしながら(さくら)のステツキの(おつ)(まが)つたやつを小脇(こわき)(はさ)みやつて()つたと(おも)(たま)へ。131さうすると彼方(かなた)にも此方(こなた)にも、132瓢箪酒(へうたんざけ)()んで()(さん)(にん)()(にん)(しち)(にん)団隊(だんたい)があつたと(おも)(たま)へ。133ウラル(けう)(やつ)も、134バラモン(けう)(やつ)沢山(たくさん)()たと()えて「()めよ(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)(やみ)よ、135(やみ)(あと)には(つき)()る。136(つき)(つき)でも(えん)のつき」だなんてぬかしやがつて、137ヘベレケ()つて()る。138そこへホールさまが(はな)(はぢ)らふ優姿(やさすがた)139乳母(おんば)()()かれ天教山(てんけうざん)木花姫(このはなひめ)(さま)のやうなスラリとした姿(すがた)でお(いで)なさつた。140そこへ(また)道公(みちこう)さまが最前(さいぜん)いつた(やう)意気(いき)姿(すがた)でブラついて()(さま)(じつ)詩的(してき)だつたネー。141まるで画中(ぐわちう)(ひと)のやうだつたよ。142ホールさまは、143何奴(どいつ)此奴(こいつ)(めう)(かほ)をして(さけ)()(くら)つて()るのを()(なが)め、144梅花(ばいくわ)(つゆ)(ほころ)ぶやうな(やさ)しい口許(くちもと)で「ホヽヽヽヽ」と(わら)ひたまうたと(おも)ひたまへ。145さうすると酒喰(さけくら)ひの(やつ)146そろそろお(ぢやう)さまを()()つてかかつたのだ』
147 純公(すみこう)道公(みちこう)(はなし)()()まれ、148(おも)はず()らず(ひざ)()()(まる)くしながら、
149純公『エ、150それから(その)(あと)はどうなつたのだ、151(はや)()はないか』
152道公(みちこう)『この(さき)天機(てんき)()らすべからずだ。153これからが肝腎要(かんじんかなめ)正念場(しやうねんば)だからな。154オイ(そで)(した)流行(りうかう)する()(なか)だ。155こんな神秘(しんぴ)(てき)(はなし)()かうと(おも)ふなら、156(ちつと)酒代(さかて)をはり()め、157ハルナの大劇場(だいげきぢやう)だつてこんな実歴談(じつれきだん)()(こと)出来(でき)ないぞ』
158玉国別(たまくにわけ)『アツハヽヽヽ』
159純公(すみこう)『サア(はや)(つぎ)()はぬかい。160もどかしいぢやないか』
161道公(みちこう)(あと)はどうなりますか。162(また)明晩(みやうばん)のお(たの)しみと()ふべき(ところ)だが、163どつと()()んでこの(あと)()らさうかなア、164エヘヽヽヽヽあゝ(よだれ)(やつ)165主人公(しゆじんこう)(ゆる)しも()ずに自由(じいう)自在(じざい)迸出(へいしゆつ)せむとする不届(ふとど)きの(やつ)だ。166エヘヽヽヽもう()ふまいかな。167イヤイヤ矢張(やつぱり)(ほこら)(もり)(かみ)(さま)奉納(ほうなふ)すると()うたから出惜(だしをし)みをしては()むまい。168エヘヽヽヽ(しか)(しか)うして泥酔者(よいどれ)(なか)から(かほ)一面(いちめん)熊襲髯(くまそひげ)(はや)し、169()(はな)とのぐるり(ばか)赤黒(あかぐろ)(はだ)(あら)はした大男(おほをとこ)ムツク()(あが)り、170(ひめ)(さま)首筋(くびすぢ)をぐつと鷲掴(わしづか)み「コリヤ阿魔(あま)つちよ、171(なん)失礼(しつれい)な、172(この)(はう)折角(せつかく)機嫌(きげん)よく酩酊(めいてい)して()るのに(なに)がをかしいのだ、173エーン(おれ)(つら)()(わら)うたが(わら)ふに()けては(なに)(わけ)があらう。174サア貴様(きさま)()(おれ)一杯(いつぱい)(さけ)をつげ」とかう(おほ)きく()やがつたのだ。175ホールさまは(たちま)顔色(かほいろ)()へ「アレ(こは)乳母(うば)どうしようか」とおろおろ(こゑ)()して狼狽(うろたへ)(まは)つて(ござ)るのだ。176(だい)(をとこ)益々(ますます)威猛高(ゐたけだか)になり「(おれ)(たれ)だと(おも)つて()る。177おれこそは(つき)(くに)にても()()れた(いろ)(くろ)純公(すみこう)だぞ、178繊弱(かよわ)阿魔(あま)つちよに嘲弄(てうろう)されてどうして(をとこ)()つか。179サア神妙(しんめう)(しやく)をせい」と()かすのぢや、180ホールさまは一生(いつしやう)懸命(けんめい)「アレ(こは)い (たす)けて (たす)けて」と(かな)しさうな(こゑ)()して(さけ)ばれたのだ。181さうすると其辺(そこら)(ぢう)(さけ)()つて()泥酔者(よひどれ)が「ヤ(なん)(なん)だ、182喧嘩(けんくわ)喧嘩(けんくわ)だ」と(ひめ)(さま)純公(すみこう)(まは)りを()()く、183(その)光景(くわうけい)()つたら(じつ)物々(ものもの)しいものだつた。184(ほとん)(あり)()()(すき)もない(まで)に、185()つたりな、186()つたりな、187(ひと)(やま)188そこで(この)道公(みちこう)は「まつた まつた、189(しばら)()つた」と大手(おほて)(ひろ)げ、190捻鉢巻(ねぢはちまき)グツ()め、191二人(ふたり)(なか)()つて()る。192純公(すみこう)(いか)()ち「どこの何者(なにもの)()らないが、193邪魔(じやま)をするとお(ため)にならないぞ」と白浪(しらなみ)言葉(ことば)()めつける。194(おれ)もさる(もの)日頃(ひごろ)(おぼ)えた柔道(じうだう)百段(ひやくだん)腕前(うでまへ)純公(すみこう)()(くび)(ひつ)とらへ、195空中(くうちう)目蒐(めが)けて、196プリン プリン プリンと()げやれば、197(さすが)大男(おほをとこ)草原(くさはら)へドスンと転落(てんらく)し、198(いた)いとも(なん)とも()はず、199(うら)めしげに(あと)(なが)めてスゴスゴと(かへ)つて()つた愉快(ゆくわい)さ、200心地(ここち)よさ。201(いま)(おも)うてもなぜあんな(ちから)()たかと不思議(ふしぎ)のやうだ。202そこでホールさまはどうして(ござ)るかと四辺(あたり)()れば、203乳母(おんば)()()かれ人込(ひとごみ)(おし)わけサツサ()げて()かれる。204後姿(うしろすがた)()(おれ)(なん)となく、205(ひと)()るのも(かま)はず、206(ゆび)(くわ)()びあがつて()()たよ』
207純公(すみこう)『アハヽヽヽ、208骨折(ほねを)(ぞん)疲労(くたびれ)(まう)けと()(まく)()りたのだな。209大方(おほかた)そんな(こと)だらうと(おも)うて()た。210()(どく)(さま)211ウフヽヽヽ(おれ)だつたら、212(ひと)(すす)んで(やさ)しい(ひめ)(さま)(くち)からお(れい)()はすのだが、213(まへ)矢張(やつぱり)()(よわ)いと()えるのう。214ウフヽヽヽ』
215道公(みちこう)(なに)これで終極(しうきよく)ぢやないよ、216これからが正念場(しやうねんば)だ。217エヘヽヽヽ、218それからな、219(おれ)(なん)となく(いささ)恋慕(れんぼ)(こころ)(おこ)り、220一度(いちど)天女(てんによ)のやうなホールさまのお(かほ)()たいと、221どれだけ()()んだか(わか)らない。222(しか)()()富豪(ふうがう)223隙間(すきま)(かぜ)にさへ()てられないで(そだ)つて()るお(ぢやう)さまだからどうしても()ふことは出来(でき)はしない。224いろいろと(かんが)へた結果(けつくわ)(おれ)はそこの風呂焚(ふろたき)(はい)つたのだ。225(すなは)三助(さんすけ)()()んだのだ。226さうすればいつか(ひめ)(さま)のお(かほ)(はい)する(こと)出来(でき)るであらうと(おも)うたから、227エーン』
228純公(すみこう)(なん)()(よわ)(やつ)だな。229(おれ)だつたら、230先日(せんじつ)(えら)いお(あぶ)ない(こと)(ござ)いましたね。231(べつ)にお身体(からだ)にお(さは)りは(ござ)いませぬか。232花見(はなみ)(とき)嬢様(ぢやうさま)悪漢(わるもの)にお()ひなされた(とき)(たす)(まを)した(わたし)道公(みちこう)だ」と両親(りやうしん)名乗(なの)(やさ)しい(ひめ)(さま)()からお(ちや)一杯(いつぱい)()んで(もら)つて()るのだに、233貴様(きさま)薄惚(うすのろ)だから(ほとん)掌中(しやうちう)(たま)(うしな)うて()たのだ。234そんな失恋話(しつれんばなし)()加減(かげん)()()げぬかい。235(いたづら)時間(じかん)空費(くうひ)する(ばか)りぢや』
236玉国別(たまくにわけ)『オツホヽヽヽ』
237道公(みちこう)(これ)からが三段目(さんだんめ)だ。238(しつ)かり()かうよ。239風呂焚(ふろた)きの三助(さんすけ)()()んで(まる)十字(じふじ)のついた法被(はつぴ)着用(ちやくよう)(およ)び、240(ひめ)(さま)今日(けふ)入浴(にふよく)か、241明日(あす)入浴(にふよく)かと()つて()たが、242(あに)(はか)らむやその風呂(ふろ)上女中(かみぢよちう)()風呂(ふろ)で、243(ひめ)(さま)()つから(のぞ)きもしない。244(その)(とき)(おれ)失望(しつばう)()つたらあつたものぢやない。245エーン』
246純公(すみこう)『アハヽヽヽ、247(ふくろどり)宵企(よひだく)み、248夜食(やしよく)(はづ)れたと()光景(くわうけい)だな。249ウフヽヽヽ』
250道公(みちこう)『コリヤ、251あまり軽蔑(けいべつ)すな、252まだ(さき)があるのだ。253(かく)(ごと)くにして、254三助(さんすけ)(つと)むる(こと)(まん)(いち)(ねん)(およ)んだ(あかつき)255嬢様(ぢやうさま)隣国(りんごく)のペンチ(こく)(ある)富豪(ふうがう)(いへ)へお嫁入(よめい)りと()(こと)になつたのだ。256「アヽしまつた。257こんな(こと)なら(いち)(ねん)三助(さんすけ)をするのぢやなかつたに、258(こゑ)()かねばお姿(すがた)()杜鵑(ほととぎす)よりも(ひど)い」と(なげ)(かな)しんだのも(ゆめ)()259番頭(ばんとう)のテンプラ()が「一寸(ちよつと)三助(さんすけ)(まへ)(よう)があるから此方(こちら)()い」と()うて()よつた。260何事(なにごと)ならむと(やや)(のぞ)みを(いだ)きながら、261(おそ)(おそ)るテンプラの(まへ)(まか)りつん()ると(おも)ひも()けなく、262「お嬢様(ぢやうさま)のお嫁入(よめい)りだから貴様(きさま)駕籠舁(かごかき)にいつて()れないか」とお(いで)なさつた。263「ヤレ(うれ)しや、264願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)(とき)(いた)れり」と二十遍(にじつぺん)(くび)(たて)()り「御用(ごよう)(うけたま)はりませう」と()つた(ところ)265(その)翌日(よくじつ)いよいよお嫁入(よめい)りの(だん)となつた。266駕籠(かご)にお(はい)りの(とき)のお姿(すがた)()(とき)(こん)(うば)はれ、267(はく)()えむと(おも)ふばかり、268(ほとん)卒倒(そつたふ)しかけたよ。269それからお(ひめ)(さま)駕籠(かご)相棒(あいぼう)(やつ)(かつ)ぎながら(うた)うて()たのだ。270その(うた)がまた奇抜(きばつ)だつたよ。
271(おれ)十八(じふはち)(ぢやう)さまは十七(じふしち)花盛(はなざか)
272一人(ひとり)乳母(おんば)()()かれ
273(うめ)()らした裾模様(すそもやう)
274黒縮緬(くろちりめん)扮装(いでたち)
275ぞろ ぞろ ぞろと(さくら)()
276()しなさつた(その)(とき)
277彼方(あちら)()(にん)此方(こちら)には
278(また)(しち)(にん)(さけ)()
279()めよ(さわ)げよ一寸先(いつすんさきや)暗夜(やみよ)
280(やみ)(あと)には(つき)()
281(つき)つきだが(えん)つき
282ウントコドツコイ ドツコイシヨ
283髯武者(ひげむしや)(をとこ)純公(すみこう)
284(はな)(はぢ)らふお(ぢやう)さまを
285とつ(つか)まへて(しやく)せいと
286駄々(だだ)()ねたる最中(さいちう)
287()んで()たのは(おれ)だつた
288純公(すみこう)(やつ)めが(はら)()
289武者(むしや)()りつくのをとつかまへ
290(なら)(おぼ)えた柔道(じうだう)
291ウンと一声(ひとこゑ)なげやつた
292空中(くうちう)二三度(にさんど)回転(くわいてん)
293(いのち)辛々(からがら)()げて()
294(あと)()りかへり(なが)むれば
295ホールの(ひめ)逸早(いちはや)
296乳母(おんば)にお()()かれつつ
297(やかた)をさして(かへ)()
298あれ(ほど)(うつく)しいお(ひめ)さま
299一度(いちど)(かほ)(をが)みたい
300(なん)とか工夫(くふう)はないものか
301手蔓(てづる)(もと)めて三助(ふろばん)
302なつて月日(つきひ)()(うち)
303(おも)ひも()けぬ()結婚(けつこん)
304あゝ是非(ぜひ)もなし是非(ぜひ)もなし
305(おやぢ)(とび)油揚(あぶらあげ)
306もつていなれた心地(ここち)して
307せめては駕籠(かご)(おん)(とも)
308さして(もら)つたを(さいは)ひと
309此処迄(ここまで)ウントコついて()
310ウントコドツコイ ドツコイシヨ
311(あし)(あは)せて(うた)つたら、312駕籠(かご)(なか)から(ほそ)(すず)しいホールさまの(こゑ)として、313「この駕籠(かご)一寸(ちよつと)()つた。314(にはか)にお(なか)(いた)()したから、315今日(けふ)結婚(けつこん)(いや)(いや)だ (かへ)る」と仰有(おつしや)つてお()きにならぬ。316サア大変(たいへん)だ、317結婚(けつこん)途中(とちう)(ひめ)(さま)引返(ひつかへ)したのだから、318どつちの(いへ)大騒動(おほさうどう)319それからとうとう駕籠(かご)(いへ)(かへ)り、320(おく)()にサツサとお(ひめ)さまは腹痛(はらいた)(わす)れて(はい)つて仕舞(しま)つた。321よくよく()けば「あの駕籠舁(かごか)きと夫婦(ふうふ)にして()れねば(わたし)()ぬ」と駄々(だだ)()ねたと(おも)(たま)へ。322サアこれからがボロイのだ。323とうとう(おれ)はホールさまの座敷(ざしき)()()れられ、324山野(さんや)河海(かかい)珍肴(ちんかう)325(ひめ)(ほそ)(しろ)()でお(しやく)をして(もら)ひ、326(はじ)めて結婚(けつこん)(しき)()げて夫婦(ふうふ)となり、327沢山(たくさん)財産(ざいさん)(あた)へて(もら)(こと)になつたのだ。328さうすると、329(つき)村雲(むらくも)(はな)(あらし)330(ひめ)(さま)(おれ)(さかづき)()はして()(ところ)へ、331阿修羅(あしゆら)(わう)()(くる)ふが(ごと)(はい)つて()たのは純公(すみこう)だつた。332サア此方(こちら)(ふすま)(たた)(こは)す、333火鉢(ひばち)をなげつける。334乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)335そこで(おれ)も、336一度(いちど)(ひめ)(わが)手並(てなみ)()せておく必要(ひつえう)があると(おも)ひ、337「サア()(きた)れ」と()(ひろ)げた途端(とたん)338()()めたら、339(なん)(こと)だ、340(やぶ)小屋(ごや)二畳敷(にでふじき)(あせ)ビツシヨリかいて(ゆめ)()()たのだつた、341アハヽヽヽ』
342玉国別(たまくにわけ)『ウツフヽヽヽ』
343純公(すみこう)『ワハヽヽヽ、344馬鹿(ばか)にするない』
345道公(みちこう)(なに)346バラモン(こく)から直輸入(ちよくゆにふ)した(ばか)りの舶来品(はくらいひん)(おろ)()りだ、347アハヽヽヽ』
348大正一一・一一・二七 旧一〇・九 加藤明子録)
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