朝空に雲無く庭に風もなく
陽はうららかな二名の今日かな。
朝日照る大野ケ原の空高く
声せはしげに揚雲雀鳴く。
今日も亦洋服の人玄関に
出張りて吾等を守り玉へり。
法難史祟りを為して阿波路より
洋服和服附き纏ふなり。
庭の面に躑躅の花の紅々と
笑ひて旅情慰むるかな。
麦畠桑園広く連なりて
国の秀高き二名島かな。
小米花近より見れば白蝶の
三つ四つヒラヒラ飛び出だしけり。
紅の楓の若葉庭の面に
そよ風あびて陽にはゆる見る。
八衢を通りて諸の動物に
袖をひかれて苦しみにけり。
夢ならず現にあらず吾魂に
救ひ求めし数万の動物。
蛇に牛鶏に狗次々に
吾にすがりし時の苦しさ。
○道歌
苦き辛き味を嘗めたる人の世に
立たずば葦原国は栄えじ。
万難を排し万苦を忍びたる
人の世に立つ秋ぞ待たるる。
顕幽に生死往来したるひと
出でずば誠の道は開けず。
一切の学に超越したるひと
土の中より現れ出でにけり。
朝夕に国を思ひて歎きたる
ひとの世に立つ秋は近めり。
信仰に生きたるひとの言の葉は
闇世を照らす光なりけり。
国民のなやみ偲びて一身を
捧げたるひと稀なる御代かな。
人類愛善に燃えたるひと無くば
現世の闇は何時か晴れなむ。
五十鈴川流れに魂を洗ひたる
ひとこそ人の鏡なりけり。
千重八百重曇り果てはる人の世の
汚れを流す五十鈴川かな。
天地の神の御教を開きたる
人万代の宝なりけり。
午前十一時郡中支部より宣伝使三人自動車を持ちて迎への為来たる。一行合計十人二名洲支部を立ち衛門三郎の札所や八塚等の名所旧蹟を左手に眺め、荏原村恵原の町中を疾駆し、左手に折れて進めば田圃路の右側に清水を湛へし溜池あり。水面に日光照り映えて小波の銀鱗ひらめく。柑橘樹を植込みたる小丘や麦畑を左右に眺めて、原町村の鈍田を過ぎ、森松街道に出づれば、田の中に急造の芝居小屋あり。更に左に廻りて郡中街道に進み、初夏の凉風を心ゆくまで浴び乍ら砥部橋を渡れば、遠くかすめる伊予小富士の山姿正しく海岸に立ち、左手には麻生山の琴平神社及び三島神社ありて風致絶妙なり。銃を肩にせる兵士二十余名、右手の畔路を静かに行く見ゆ。八倉村の矢取橋を進めば梅の名所なり。
弓なりの道路進めば矢取橋
水なき川に架り弦かな。
八倉村の広田神社を車上より礼拝し乍ら、馬車数多行き交ふ町中を、右や左に潜りぬけ梨果の名産地なる南伊予村に入る。溜池の堤の上に肥満せる耕牛二頭静かに草を食める様物床し。松前の義農作兵衛の墓は遥か北方の村中に在りと云ふ。牛小ケ原の並木の松原、左手の原野に横たはるを見つつ車は早くも三里の路を突破して郡中町に入りぬ。此間僅に三十分なりき。
伝へ曰ふ、古昔衛門三郎となん云へる地方切つての長者ありしが、性質強欲深く、善根を培ふ事を知らず、巨万の資産を擁し 猶も蓄財に余念なかりしが或日夕暮空海上人来たり門に立ちて托鉢を乞ふ。衛門三郎空海の姿を見るや拳を固めて空海が手に持てる鉄鉢を叩き落したるに、鉄鉢はもろくも八つに裂けたり。空海はそのまま何地へ行きしか姿見えず。三郎怪しみて家内に入れば八人の愛児は既に悶死してありければ、流石の三郎も悔悟し、先づ八人の児の塚を造りて埋め置き、空海上人に謝罪して、未来の冥罰を免れんと四国地を数十回巡礼し、終に空海に謁して其の罪を謝し、是より札所を造営して仏事に一生を終りたり。故に国人今に至るまで之を伝え信仰の鑑となせりと云ふ。何れにしても珍らしき伝説と云ふ可し。
橋本氏好意の川芎薬湯に
ひたりて心身爽快となりぬ。
正午過ぎ栗原総務求道者に
二席重ねて法談を為す。
信徒に頒たむ為と絵短冊
約九十枚筆染めにけり。
鳴球氏宇知麿役塲楼上に
講演の為夕刻立ち行く。
霊界の消息大本教旨なぞ
最と懇切に聴衆に説く。
盛会裡講演終り両弁士
勇み帰りぬ亥の刻過ぎて。
今日こそは吾生れたる吉き日なり
十二夜の月清くかがやく。
月高く星又高く空青く
そよ風も無き今宵珍らし。
白嶺氏は講演の状見んものと
一人夜の町辿りてぞ行く。
窓開けて月を眺むる折もあれ
山郭公 かすかに聞え来。
信徒は講演会に皆行きて
今宵の宿の静なるかな。
○道歌
国直日主の命のいさをしは
弥勒を待ちて現はれにけり。
大教祖天王平の奥津城に
国の礎固め給へり。
奥津城の小松の林茂る如
日々栄え行く大本の御子。
○道歌
天津神地上の為に降したる
ひとの子独り世を偲び泣く。
五十鈴川澄み渡りたるひと筋の
清き流れぞ世を洗ふなり。
産土の神の姿に生れたる
ひとは暗夜の光なりけり。
選まれて教の柱と生れたる
ひとの言霊世を活すなり。
大方の世人の眠りさましたる
人は現世の木鐸なりけり。
神言を正しく説きたるひとつ火の
光は闇世の灯台なりけり。
君の為御国の為に盡したる
人をなやむる暗世忌々しき。
蹴落され踏みにじられて世の為に
つくしたるひと真の神なる。
斯の道の蘊奥を深く究めたる
人の開きし三五の教。
逆しまの世に悩みたる人草を
救はんために天降りし神の子。
皇国の為に誠を盡したる
人の子攻むる世こそ嘆てき。
背に腹を替へて斯の世に降りたる
人の言の葉仇花ぞ無き。
反きたる人も我子の如くして
恵みに活かす神ぞ畏こき。
高天原紫微の宮より降りたる
ひとつの魂ぞ世の光なる。
千早振神の任さしに天降りたる
人の霊魂は顕幽に照る。
月の宮造り上げたる人の子は
常世の暗の光なりけり。
手と背に貴の聖痕しるしたる
人の言霊天地動かす。
年若き時より神と呼ばれたる
人の世に立つ五六七の神代かな。
何もかも知りつくしたる人の子の
出づる五六七の御代ぞ恋しき。
和妙の綾の聖地に召されたる
人は伊都能売みたまなりけり。
奴婆玉の闇に御魂を汚したる
ひと清めんと伊都能売の神。
根底までおちたるひとを救はんと
みかへるとなり現れし伊都能売。
軒ゆがみ壁の落ちたる人の家に
産声あげし瑞御魂かも。
腹借りて賤ヶ伏家に産声を
あげたるひとの神の子珍らし。
久方の天津空より降りたる
ひとつの御魂は神の楯なる。
不思議なる赤縄の糸のからみたる
人の子終に世に勝てるなり。
隔たりし天と地との結びより
生まれ出でたる人の子神の子。
細々と煙立てたる人の家に
獅子吼の初声あげし神の子。