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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第25巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 相縁奇縁
第1章 水禽の音
第2章 与太理縮
第3章 鶍の恋
第4章 望の縁
第2篇 自由活動
第5章 酒の滝壺
第6章 三腰岩
第7章 大蛇解脱
第8章 奇の巌窟
第3篇 竜の宮居
第9章 信仰の実
第10章 開悟の花
第11章 風声鶴唳
第12章 不意の客
第4篇 神花霊実
第13章 握手の涙
第14章 園遊会
第15章 改心の実
第16章 真如の玉
第5篇 千里彷徨
第17章 森の囁
第18章 玉の所在
第19章 竹生島
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第25巻(子の巻)
> 第2篇 自由活動 > 第5章 酒の滝壺
<<< 望の縁
(B)
(N)
三腰岩 >>>
第五章
酒
(
くし
)
の
滝壺
(
たきつぼ
)
〔七五一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻
篇:
第2篇 自由活動
よみ(新仮名遣い):
じゆうかつどう
章:
第5章 酒の滝壺
よみ(新仮名遣い):
くしのたきつぼ
通し章番号:
751
口述日:
1922(大正11)年07月08日(旧閏05月14日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年5月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
清公は、地恩郷の左守に任命されたが、権謀術数を駆使して宇豆姫と結婚し、権勢を拡げようとしたが、そのためにかえって地位を失ってしまったのは、まったく自分の利己主義の罪のためであると自覚した。
そこで清公は、黄竜姫の承諾を得て、チャンキーとモンキーと従えて、タカの港と漕ぎ出して日の出神の事跡を巡礼し、宣伝の旅に出ることになった。
一行はヒルの港に着き、飯依彦らの事跡を参拝して、クシの滝に向かった。その途上で休息を取っていた。清彦は、自分の悪念から起こったことから、かえって一宣伝使となって宣伝の旅に出る境遇になったことを神に感謝した。
モンキーは、かつて田依彦、時彦、芳彦が日の出神に導かれて改心した酒の滝が近いことを告げた。すると上流の谷間から、人々の鬨の声が聞こえてきた。モンキーを偵察に行かせたが、モンキーは大蛇を見て腰を抜かしてしまう。
チャンキーもモンキーの報告を聞いてその場に腰を抜かしてしまった。清公は二人に対して文句を言いながら一人様子を見に行くと、大蛇を郷人たちが取り巻いていた。
日の出神が渡ってきてから、この滝の酒は涸れてしまった。そのため、この酒を飲んでいた大蛇は業を煮やして、人間の子を襲うようになってしまった。神託を請うと、大蛇は飯依彦の子孫に憑依し、月に一回酒を醸して滝壺に満たすよう要求した。
しかしこれが郷人たちの非常な負担になっていた。そこで遂に郷人たちは、酒に毒を混ぜて大蛇を退治しようとしていたのだった。郷人たちは、大蛇に早く毒が回るように取り囲んで祈願を凝らしていたのであった。
この様子を見ていた清公は体が硬直してしまった。大蛇は苦しみ出して暴れまわった。その尻尾に振られて、清公は空中に飛ばされ、チャンキーとモンキーが腰を抜かしてしまった岩の上に落ちて来てしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-08-27 19:42:13
OBC :
rm2505
愛善世界社版:
93頁
八幡書店版:
第5輯 65頁
修補版:
校定版:
97頁
普及版:
44頁
初版:
ページ備考:
001
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
も
開
(
ひら
)
け
行
(
ゆ
)
く
002
世
(
よ
)
は
太平
(
たいへい
)
の
洋中
(
わだなか
)
に
003
堅磐
(
かきは
)
常磐
(
ときは
)
に
浮
(
うか
)
びたる
004
神
(
かみ
)
の
造
(
つく
)
りし
冠島
(
かむりじま
)
005
黄金
(
こがね
)
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
竜宮
(
りうぐう
)
の
006
一
(
ひと
)
つの
島
(
しま
)
と
名
(
な
)
を
負
(
お
)
ひし
007
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御
(
おん
)
遺跡
(
ゐせき
)
008
醜女
(
しこめ
)
探女
(
さぐめ
)
を
祝姫
(
はふりひめ
)
[
※
初版や愛世版では「祝部」だが、校定版・八幡版では「祝姫」に直している。文脈上は「祝姫」が正しい
]
の
009
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
010
風
(
かぜ
)
凪
(
な
)
ぎ
渡
(
わた
)
る
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
011
辷
(
すべ
)
り
来
(
きた
)
りし
面那芸
(
つらなぎ
)
の
012
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
詣
(
まう
)
でたる
013
竜
(
たつ
)
の
宮居
(
みやゐ
)
は
今
(
いま
)
も
尚
(
なほ
)
014
御稜威
(
みいづ
)
輝
(
かがや
)
くヒル
港
(
みなと
)
015
屋根無
(
たなな
)
し
船
(
ぶね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
016
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
漕
(
こ
)
ぎ
来
(
きた
)
る
017
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
018
地恩
(
ちおん
)
の
郷
(
さと
)
を
後
(
あと
)
にして
019
魂
(
たま
)
を
洗
(
あら
)
ひし
清公
(
きよこう
)
が
020
チヤンキーモンキー
引連
(
ひきつ
)
れて
021
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
るぞ
健
(
けな
)
げなれ
022
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
023
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
024
心
(
こころ
)
ねぢけし
清公
(
きよこう
)
も
025
胸
(
むね
)
の
帳
(
とばり
)
を
引
(
ひ
)
きあげて
026
輝
(
かがや
)
き
初
(
そ
)
めし
厳御魂
(
いづみたま
)
027
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
に
神習
(
かむなら
)
ひ
028
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
宣
(
の
)
り
乍
(
なが
)
ら
029
御船
(
みふね
)
を
浜辺
(
はまべ
)
に
繋
(
つな
)
ぎつつ
030
身装
(
みなり
)
も
軽
(
かる
)
き
蓑笠
(
みのかさ
)
の
031
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
に
送
(
おく
)
られて
032
山奥
(
やまおく
)
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
033
地恩城
(
ちおんじやう
)
に
一切
(
いつさい
)
の
教権
(
けうけん
)
を
掌握
(
しやうあく
)
したる
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
後
(
あと
)
を
襲
(
おそ
)
ひ、
034
左守
(
さもり
)
となりすまし
居
(
ゐ
)
たる
清公
(
きよこう
)
は
茲
(
ここ
)
に
地恩城
(
ちおんじやう
)
のブランジーとして
権威
(
けんゐ
)
を
振
(
ふる
)
ひ、
035
宇豆姫
(
うづひめ
)
をクロンバーの
位置
(
ゐち
)
に
据
(
す
)
ゑ、
036
我
(
わが
)
勢力
(
せいりよく
)
を
扶植
(
ふしよく
)
せむと
種々
(
しゆじゆ
)
の
権謀
(
けんぼう
)
術数
(
じゆつすう
)
を
弄
(
ろう
)
したるも、
037
天
(
てん
)
は
清公
(
きよこう
)
が
邪曲
(
じやきよく
)
に
組
(
くみ
)
せず、
038
遂
(
つい
)
に
左守
(
さもり
)
を
自
(
みづか
)
ら
辞
(
じ
)
し、
039
スマートボールをしてブランジーの
職
(
しよく
)
を
専
(
もつぱ
)
らにせしむるの
余儀
(
よぎ
)
なきに
立到
(
たちいた
)
つたのも、
040
全
(
まつた
)
く
我
(
わ
)
が
利己
(
りこ
)
主義
(
しゆぎ
)
の
罪
(
つみ
)
の
致
(
いた
)
す
処
(
ところ
)
と
自覚
(
じかく
)
したる
清公
(
きよこう
)
は、
041
転迷
(
てんめい
)
開悟
(
かいご
)
の
梅花
(
ばいくわ
)
の
香
(
かをり
)
に
心
(
こころ
)
の
眼
(
まなこ
)
も
清
(
きよ
)
まり、
042
如何
(
いか
)
にもして
神界
(
しんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
を
身魂
(
みたま
)
相応
(
さうおう
)
に
勤
(
つと
)
め、
043
名誉
(
めいよ
)
を
恢復
(
くわいふく
)
せばやと、
044
チヤンキー、
045
モンキー
両人
(
りやうにん
)
の
賛同
(
さんどう
)
を
得
(
え
)
て
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
以下
(
いか
)
の
承認
(
しようにん
)
の
上
(
うへ
)
、
046
タカの
港
(
みなと
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
い
)
でて
屋根無
(
たなな
)
し
船
(
ぶね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ、
047
嘗
(
かつ
)
て
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
一行
(
いつかう
)
が
上陸
(
じやうりく
)
したるヒルの
港
(
みなと
)
に
船
(
ふね
)
を
止
(
とど
)
め、
048
竜宮
(
りうぐう
)
の
宮
(
みや
)
に
詣
(
まう
)
でて
前途
(
ぜんと
)
の
無事
(
ぶじ
)
を
祈
(
いの
)
り、
049
飯依彦
(
いひよりひこ
)
、
050
久々
(
くくの
)
神
(
かみ
)
、
051
久木
(
くきの
)
神
(
かみ
)
の
遺跡
(
ゐせき
)
を
巡拝
(
じゆんぱい
)
し
進
(
すす
)
んでクシの
滝
(
たき
)
の
間近
(
まぢか
)
まで、
052
茴香
(
ういきよう
)
の
薫
(
かをり
)
に
送
(
おく
)
られ
乍
(
なが
)
ら
夏風
(
なつかぜ
)
そよぐ
急坂
(
きふはん
)
を
喘
(
あへ
)
ぎ
喘
(
あへ
)
ぎ
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
漸
(
やうや
)
くにして、
053
風景
(
ふうけい
)
最
(
もつと
)
も
佳
(
よ
)
き
谷川
(
たにがは
)
の
傍
(
かたはら
)
に
立
(
た
)
てる
岩石
(
がんせき
)
の
上
(
うへ
)
に
腰打掛
(
こしうちか
)
け、
054
旅
(
たび
)
の
疲
(
つか
)
れを
休
(
やす
)
めつつ
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
る。
055
チヤンキー『アヽ
何
(
なん
)
と
良
(
い
)
い
景色
(
けしき
)
だなア。
056
谷間
(
たにあひ
)
は
斯
(
か
)
う
両方
(
りやうはう
)
より
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
とに
圧搾
(
あつさく
)
されて、
057
非常
(
ひじやう
)
に
狭隘
(
けふあい
)
ではあるが、
058
清
(
きよ
)
き
渓流
(
けいりう
)
が
飛沫
(
ひまつ
)
を
飛
(
と
)
ばし
淙々
(
そうそう
)
と
水音
(
みなおと
)
を
立
(
た
)
て、
059
岩
(
いは
)
に
噛
(
か
)
みつき、
060
佐久那太理
(
さくなだり
)
に
落
(
お
)
ち
行
(
ゆ
)
く
光景
(
くわうけい
)
は、
061
到底
(
たうてい
)
地恩城
(
ちおんじやう
)
附近
(
ふきん
)
にては
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ない
絶景
(
ぜつけい
)
だ。
062
我々
(
われわれ
)
も
清公
(
きよこう
)
さまの
失敗
(
しつぱい
)
のお
蔭
(
かげ
)
で、
063
天下
(
てんか
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
宣伝
(
せんでん
)
する
事
(
こと
)
を
許
(
ゆる
)
され、
064
何
(
なん
)
だか
籠
(
かご
)
の
鳥
(
とり
)
が
宇宙
(
うちう
)
に
放
(
はな
)
たれた
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
になつて
来
(
き
)
た。
065
斯
(
か
)
うなると
人間
(
にんげん
)
も
一度
(
いちど
)
は
失敗
(
しつぱい
)
もし、
066
慢心
(
まんしん
)
もやつて
見
(
み
)
なくては、
067
本当
(
ほんたう
)
の
天地
(
てんち
)
、
068
人生
(
じんせい
)
の
真実味
(
しんじつみ
)
が
分
(
わか
)
らないものだ。
069
……
南無
(
なむ
)
清公
(
きよこう
)
大明神
(
だいみやうじん
)
、
070
チヤンキー、
071
モンキー
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ
有難
(
ありがた
)
く
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
します。
072
アハヽヽヽ』
073
とそろそろ
地金
(
ぢがね
)
を
現
(
あら
)
はし、
074
洒落
(
しやれ
)
気分
(
きぶん
)
になつて、
075
駄句
(
だく
)
り
出
(
だ
)
した。
076
清公
(
きよこう
)
『
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
惟神
(
かむながら
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
に
左右
(
さいう
)
されて
居
(
ゐ
)
るものだ。
077
俺
(
おれ
)
が
地恩城
(
ちおんじやう
)
で
大野心
(
だいやしん
)
を
起
(
おこ
)
し、
078
宇豆姫
(
うづひめ
)
を
得
(
え
)
むとして
終生
(
しうせい
)
拭
(
ぬぐ
)
ふ
可
(
べか
)
らざる
大恥
(
おほはじ
)
を
掻
(
か
)
いたのも、
079
今
(
いま
)
になつて
省
(
かへり
)
みれば、
080
実
(
じつ
)
に
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
であつた。
081
己
(
おのれ
)
に
出
(
い
)
づるものは
己
(
おのれ
)
に
帰
(
かへ
)
る。
082
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をすればキツト
悪
(
わる
)
い
酬
(
むく
)
いが
来
(
く
)
るのは
当然
(
たうぜん
)
だ。
083
然
(
しか
)
るに
何
(
なん
)
ぞや。
084
あれ
丈
(
だ
)
け
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
的
(
てき
)
陰謀
(
いんぼう
)
を
組立
(
くみた
)
て、
085
其
(
その
)
結果
(
けつくわ
)
斯様
(
かやう
)
な
結構
(
けつこう
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
となり、
086
此
(
この
)
冠島
(
かむりじま
)
に
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
開放
(
かいはう
)
的
(
てき
)
に
宣伝
(
せんでん
)
せよとの
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
けたのは、
087
悪
(
あく
)
が
自然
(
しぜん
)
に
善
(
ぜん
)
の
結果
(
けつくわ
)
を
齎
(
もたら
)
した
様
(
やう
)
なものだ。
088
これと
云
(
い
)
ふのも
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
089
活
(
い
)
かして
働
(
はたら
)
かして
下
(
くだ
)
さる
有難
(
ありがた
)
き
思召
(
おぼしめ
)
し、
090
逆境
(
ぎやくきやう
)
に
立
(
た
)
ちて
初
(
はじ
)
めて
神
(
かみ
)
の
慈愛
(
じあい
)
を
知
(
し
)
り、
091
宇宙
(
うちう
)
の
真善美
(
しんぜんび
)
を
味
(
あぢ
)
はふ
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
た。
092
左守
(
さもりの
)
神
(
かみ
)
となつて
日夜
(
にちや
)
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
め、
093
下
(
くだ
)
らぬ
野心
(
やしん
)
の
鬼
(
おに
)
に
駆使
(
くし
)
されて
居
(
ゐ
)
るよりも、
094
斯
(
か
)
う
身軽
(
みがる
)
になつて、
095
何
(
なん
)
の
束縛
(
そくばく
)
もなく、
096
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
活動
(
くわつどう
)
し
得
(
う
)
る
機会
(
きくわい
)
を
与
(
あた
)
へられたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
097
実
(
じつ
)
に
我々
(
われわれ
)
として
無上
(
むじやう
)
の
幸福
(
かうふく
)
だ。
098
アヽ
辱
(
かたじけ
)
なし、
099
勿体
(
もつたい
)
なし、
100
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
101
と
有難涙
(
ありがたなみだ
)
に
声
(
こゑ
)
を
曇
(
くも
)
らす。
102
チヤンキー『
神
(
かみ
)
も
仏
(
ほとけ
)
も
鬼
(
おに
)
も
蛇
(
じや
)
も
悪魔
(
あくま
)
も、
103
残
(
のこ
)
らず
自分
(
じぶん
)
が
招
(
まね
)
くのだ。
104
決
(
けつ
)
して
外
(
ほか
)
から
襲来
(
しふらい
)
するものでない。
105
盗賊
(
たうぞく
)
の
用意
(
ようい
)
に
戸締
(
とじま
)
りをするよりも、
106
心
(
こころ
)
に
盗賊
(
たうぞく
)
を
招
(
まね
)
かない
様
(
やう
)
にするのが
肝要
(
かんえう
)
だ。
107
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
残
(
のこ
)
らず
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
から
招
(
まね
)
くものだからなア』
108
モンキー『
清公
(
きよこう
)
さま、
109
此処
(
ここ
)
はその
昔
(
むかし
)
、
110
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
が
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
の
従神
(
じうしん
)
たりし、
111
田依彦
(
たよりひこ
)
、
112
時彦
(
ときひこ
)
、
113
芳彦
(
よしひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
玉抜
(
たまぬ
)
かれ
神
(
がみ
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
114
酒
(
さけ
)
飲
(
の
)
みの
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
を
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
し
給
(
たま
)
うた
名高
(
なだか
)
い
酒
(
くし
)
の
滝壺
(
たきつぼ
)
の
附近
(
ふきん
)
ではありますまいか。
115
竜宮
(
りうぐう
)
様
(
さま
)
が
天然
(
てんねん
)
に
造
(
つく
)
つて
置
(
お
)
かれた
酒壺
(
さけつぼ
)
が
有
(
あ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ですが、
116
未
(
いま
)
だに
相変
(
あひかは
)
らず
其
(
その
)
お
酒
(
さけ
)
は
湧
(
わ
)
いて
来
(
く
)
るでせうか。
117
一度
(
いちど
)
拝見
(
はいけん
)
したいものですな』
118
清公
(
きよこう
)
『サア、
119
必要
(
ひつえう
)
があれば
湧
(
わ
)
いて
居
(
を
)
るだらうが、
120
……
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
不必要
(
ふひつえう
)
な
物
(
もの
)
は
一
(
ひと
)
つもないのだから、
121
今日
(
こんにち
)
となりては
何
(
なん
)
とも
分
(
わか
)
らないなア』
122
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
し
合
(
あ
)
ふ
中
(
うち
)
、
123
何処
(
いづく
)
ともなく
二三丁
(
にさんちやう
)
許
(
ばか
)
り
上流
(
じやうりう
)
の
谷間
(
たにま
)
より、
124
数多
(
あまた
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
の
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
125
チヤンキー『ヤア、
126
清公
(
きよこう
)
さま、
127
不思議
(
ふしぎ
)
な
声
(
こゑ
)
がするぢやありませぬか。
128
一
(
ひと
)
つ
探検
(
たんけん
)
と
出
(
で
)
かけませうか』
129
清公
(
きよこう
)
『
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
てよ、
130
何事
(
なにごと
)
も
慎重
(
しんちよう
)
の
態度
(
たいど
)
を
執
(
と
)
らねば、
131
軽々
(
かるがる
)
しく
進
(
すす
)
んで
取返
(
とりかへ
)
しの
付
(
つ
)
かぬ
失敗
(
しつぱい
)
を
演
(
えん
)
じてはならないから、
132
よくよく
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
つた
上
(
うへ
)
出
(
で
)
かける
事
(
こと
)
にしよう。
133
それに
就
(
つ
)
いては……モンキー、
134
お
前
(
まへ
)
は
斥候
(
せきこう
)
として
声
(
こゑ
)
する
方
(
はう
)
を
探
(
たづ
)
ね、
135
そつと
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へ、
136
報告
(
はうこく
)
をして
呉
(
く
)
れ。
137
それまで
我々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
此
(
この
)
巌
(
いはほ
)
の
上
(
うへ
)
に
於
(
おい
)
て
時期
(
じき
)
を
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
とするから』
138
モンキー『
畏
(
かしこ
)
まりました。
139
どんな
事
(
こと
)
が
突発
(
とつぱつ
)
しても、
140
此処
(
ここ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
も
動
(
うご
)
いてはなりませぬぞ』
141
清公
(
きよこう
)
『ヨシ
合点
(
がつてん
)
だ。
142
サア
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みに
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
しつつ、
143
偵察隊
(
ていさつたい
)
の
任務
(
にんむ
)
を
尽
(
つく
)
して
呉
(
く
)
れ』
144
モンキー『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
したぞよエヘン』
145
とモンキーは
茴香
(
ういきよう
)
の
花
(
はな
)
の
得
(
え
)
も
言
(
い
)
はれぬ
薫
(
かをり
)
に
包
(
つつ
)
まれ
乍
(
なが
)
ら、
146
酒
(
くし
)
の
滝壺
(
たきつぼ
)
の
間近
(
まぢか
)
に
忍
(
しの
)
び
寄
(
よ
)
り、
147
少時
(
しばらく
)
あつてモンキーは
息
(
いき
)
をはづませ
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
148
震
(
ふる
)
ひ
声
(
ごゑ
)
になりて、
149
モンキー
『キ……キ……
清公
(
きよこう
)
さま、
150
タ……タ……
大変
(
たいへん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
151
モウ
帰
(
かへ
)
りませう。
152
斯
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
を
宣伝
(
せんでん
)
したつて、
153
あちらに
一軒
(
いつけん
)
、
154
こちらに
二軒
(
にけん
)
と、
155
バラバラに
家
(
いへ
)
が
建
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る……モウ
斯
(
こ
)
んな
所
(
ところ
)
で
労
(
らう
)
して
効
(
かう
)
少
(
すくな
)
き
活動
(
くわつどう
)
をするよりも、
156
マ
一遍
(
いつぺん
)
ヒルの
港
(
みなと
)
へ
引返
(
ひきかへ
)
し、
157
少
(
すこ
)
しく
人家
(
じんか
)
稠密
(
ちうみつ
)
な
地点
(
ちてん
)
へ
行
(
ゆ
)
かうぢやありませぬか』
158
清公
(
きよこう
)
『そんな
話
(
はなし
)
はどうでもよい。
159
お
前
(
まへ
)
の
探検
(
たんけん
)
して
来
(
き
)
た
次第
(
しだい
)
を
逐一
(
ちくいち
)
注進
(
ちゆうしん
)
せぬかい』
160
モンキー『イヤ……モウ、
161
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
してもゾツとする。
162
どうぞそればつかりは
御
(
ご
)
量見
(
りやうけん
)
下
(
くだ
)
さい』
163
チヤンキー『
何
(
なん
)
だか
周章
(
あわて
)
たモンキーの
様子
(
やうす
)
、
164
日頃
(
ひごろ
)
の
臆病
(
おくびやう
)
が
突発
(
とつぱつ
)
したのだな。
165
何時
(
いつ
)
も
口癖
(
くちぐせ
)
の
様
(
やう
)
に
仮令
(
たとへ
)
天地
(
てんち
)
は
覆
(
かへ
)
るとも、
166
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ……と
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
つたぢやないか。
167
一体
(
いつたい
)
何
(
ど
)
んな
事
(
こと
)
があつたのか。
168
斥候
(
せきこう
)
が
報告
(
はうこく
)
をせないと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか。
169
大蛇
(
だいじや
)
に
狙
(
ねら
)
はれた
蛙
(
かへる
)
の
様
(
やう
)
に
小
(
ちひ
)
さくなつて、
170
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
ぢや』
171
モンキー『ヤイヤイ、
172
大蛇
(
をろち
)
の
事
(
こと
)
はモウ
言
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れな。
173
俺
(
おれ
)
は
体
(
からだ
)
が
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
る
様
(
やう
)
だ』
174
清公
(
きよこう
)
『ハヽア、
175
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
いたクシの
滝
(
たき
)
の、
176
酒呑
(
さけのみ
)
大蛇
(
だいじや
)
を
見
(
み
)
て
来
(
き
)
よつたな。
177
ヨシ、
178
其奴
(
そいつ
)
ア
面白
(
おもしろ
)
い。
179
一
(
ひと
)
つ
生命懸
(
いのちが
)
けの
活動
(
くわつどう
)
をして、
180
三五教
(
あななひけう
)
に
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
すか。
181
さもなくば
生
(
い
)
け
捕
(
どり
)
にして、
182
地恩城
(
ちおんじやう
)
へ
持
(
も
)
つて
帰
(
かへ
)
るか。
183
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
それを
聞
(
き
)
けば、
184
何
(
なん
)
だか
胴
(
どう
)
がすわつた
様
(
やう
)
な
心持
(
こころもち
)
がするワイ』
185
チヤンキー、
186
モンキーは
蒼白
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
して、
187
腰
(
こし
)
をワナワナ
慄
(
ふる
)
はせ
乍
(
なが
)
ら、
188
両人
(
りやうにん
)
『ワ…ワ…ワ…
私
(
わたし
)
はド…ド…どうやら
胴
(
どう
)
が
据
(
すわ
)
り……ませぬワイ。
189
如何
(
どう
)
しませう』
190
清公
(
きよこう
)
『
貴様
(
きさま
)
の
腰
(
こし
)
は
何
(
なん
)
だ。
191
胴体
(
どうたい
)
無
(
な
)
しの
凧
(
いかのぼり
)
、
192
いかにも
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
な
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だな。
193
奴腰抜
(
どこしぬけ
)
奴
(
め
)
、
194
モウ
貴様
(
きさま
)
は
免除
(
めんぢよ
)
してやるから、
195
勝手
(
かつて
)
にヒルの
港
(
みなと
)
へ
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
つたがよからうぞ』
196
チヤン、
197
モン
二人
(
ふたり
)
は、
198
チャンキー、モンキー
『それは
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
199
併
(
しか
)
し
送
(
おく
)
つて
頂
(
いただ
)
かぬと、
200
途
(
みち
)
に
又
(
また
)
あんな
奴
(
やつ
)
がやつて
来
(
き
)
たら
如何
(
どう
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ませぬワイ』
201
清公
(
きよこう
)
『チヤンキー、
202
貴様
(
きさま
)
は
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いた
丈
(
だけ
)
で
震
(
ふる
)
うてるぢやないか。
203
モンキーの
恐怖心
(
きようふしん
)
に
駆
(
か
)
られた
精神
(
せいしん
)
作用
(
さよう
)
で、
204
そんな
幻覚
(
げんかく
)
を
起
(
おこ
)
したのだらう。
205
貴様
(
きさま
)
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
れ。
206
動
(
うご
)
いちや
可
(
い
)
けないぞ。
207
俺
(
おれ
)
が
実地
(
じつち
)
探検
(
たんけん
)
をやつて
来
(
く
)
るから……』
208
両人
(
りやうにん
)
『ハイどうぞ、
209
御
(
ご
)
無事
(
ぶじ
)
に
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
210
動
(
うご
)
けと
仰有
(
おつしや
)
つても
動
(
うご
)
けませぬワ。
211
斯
(
か
)
う
足部
(
そくぶ
)
に
菎蒻
(
こんにやく
)
の
幽霊
(
いうれい
)
が
憑依
(
ひようい
)
しては、
212
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ』
213
清公
(
きよこう
)
『アーア
勇将
(
ゆうしやう
)
の
下
(
もと
)
に
勇卒
(
ゆうそつ
)
なし。
214
俺
(
おれ
)
もヤツパリ
因縁
(
いんねん
)
が
悪
(
わる
)
いと
見
(
み
)
える。
215
斯
(
こ
)
んな
奴
(
やつ
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
こ
)
なかつた
方
(
はう
)
が、
216
何程
(
なにほど
)
よかつたか
知
(
し
)
れやしない。
217
まさかの
時
(
とき
)
に
骨
(
ほね
)
を
拾
(
ひろ
)
うてやる
面倒
(
めんだう
)
も
要
(
い
)
らず、
218
エーエ
良
(
よ
)
い
穀潰
(
ごくつぶ
)
しだな』
219
と
二人
(
ふたり
)
を
残
(
のこ
)
し、
220
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みを
分
(
わ
)
けて
近寄
(
ちかよ
)
つて
見
(
み
)
れば、
221
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
真黒
(
まつくろ
)
けの
男
(
をとこ
)
、
222
滝壺
(
たきつぼ
)
の
前
(
まへ
)
に
堵列
(
とれつ
)
し
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
何事
(
なにごと
)
か
祈
(
いの
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
223
白衣
(
はくい
)
を
着
(
つ
)
けた
神主
(
かむぬし
)
らしい
男
(
をとこ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
224
大麻
(
おほぬさ
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
頻
(
しき
)
りに
振廻
(
ふりまは
)
し、
225
片言混
(
かたことまじ
)
りの
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
土人
(
どじん
)
は
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
に
従
(
つ
)
れて、
226
汗
(
あせ
)
をタラタラ
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら
合唱
(
がつしやう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
227
よくよく
見
(
み
)
れば、
228
周囲
(
まはり
)
一丈
(
いちぢやう
)
も
有
(
あ
)
らむと
思
(
おも
)
はるる
大蛇
(
をろち
)
、
229
赤
(
あか
)
い
蛇腹
(
じやばら
)
をダンダラ
幕
(
まく
)
の
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
せた
儘
(
まま
)
、
230
二三間
(
にさんげん
)
許
(
ばか
)
り
鎌首
(
かまくび
)
を
立
(
た
)
て、
231
頻
(
しき
)
りに
毒気
(
どくき
)
を
吹
(
ふ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
であつた。
232
昔
(
むかし
)
は
此
(
この
)
滝
(
たき
)
に
自然
(
しぜん
)
の
清酒
(
せいしゆ
)
湧
(
わ
)
き
出
(
い
)
で、
233
山
(
やま
)
の
竜神
(
りうじん
)
時々
(
ときどき
)
来
(
きた
)
つて
是
(
こ
)
れを
呑
(
の
)
みつつあつたが、
234
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
初
(
はじ
)
めて
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
渡
(
わた
)
られし
時
(
とき
)
より、
235
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
酒
(
さけ
)
の
湧出量
(
ゆうしゆつりやう
)
を
減
(
げん
)
じ、
236
遂
(
つい
)
には
一滴
(
いつてき
)
も
出
(
で
)
なくなつて
了
(
しま
)
つた。
237
傍
(
かたはら
)
の
滝
(
たき
)
は
淙々
(
そうそう
)
として
昔
(
むかし
)
に
変
(
かは
)
らず
流
(
なが
)
れ
落
(
お
)
ちて
居
(
ゐ
)
る。
238
此
(
この
)
水上
(
みなかみ
)
に
棲息
(
せいそく
)
せる
大蛇
(
をろち
)
は、
239
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
まむと
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば、
240
一滴
(
いつてき
)
もなきに
業
(
ごふ
)
を
煮
(
に
)
やし、
241
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
人間
(
にんげん
)
の
子
(
こ
)
を
呑
(
の
)
み
喰
(
くら
)
ふ
事
(
こと
)
となつた。
242
附近
(
ふきん
)
の
郷人
(
さとびと
)
は
此
(
この
)
害
(
がい
)
を
防
(
ふせ
)
がむ
為
(
ため
)
に、
243
飯依彦
(
いひよりひこの
)
神
(
かみ
)
の
末裔
(
まつえい
)
たる
飯依別
(
いひよりわけ
)
に
神宣
(
しんせん
)
を
請
(
こ
)
はしめた。
244
此
(
この
)
時
(
とき
)
、
245
大蛇
(
をろち
)
の
霊
(
れい
)
、
246
憑依
(
ひようい
)
して
云
(
い
)
ふ……
247
大蛇の霊
『
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
、
248
愛児
(
あいじ
)
の
生命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
らるるを
悲
(
かな
)
しと
思
(
おも
)
はば、
249
所在
(
あらゆる
)
果物
(
くだもの
)
を
以
(
もつ
)
て
酒
(
さけ
)
を
醸
(
つく
)
り、
250
彼
(
か
)
の
滝壺
(
たきつぼ
)
に
満
(
みた
)
して
我
(
われ
)
に
献
(
けん
)
ぜよ。
251
さすれば
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
愛児
(
あいじ
)
を
呑
(
の
)
む
事
(
こと
)
を
止
(
とど
)
めむ』
252
と
云
(
い
)
つた。
253
それより
郷人
(
さとびと
)
は
数多
(
あまた
)
の
果物
(
くだもの
)
を
集
(
あつ
)
め
酒
(
さけ
)
を
造
(
つく
)
り、
254
此
(
この
)
山坂
(
やまさか
)
を
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
つて、
255
此
(
この
)
滝壺
(
たきつぼ
)
に
酒
(
さけ
)
を
満
(
み
)
たす
事
(
こと
)
を
仕事
(
しごと
)
の
如
(
ごと
)
くにして
居
(
ゐ
)
た。
256
大蛇
(
をろち
)
は
月
(
つき
)
に
一回
(
いつくわい
)
づつ
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
257
滝壺
(
たきつぼ
)
の
酒
(
さけ
)
を
一滴
(
いつてき
)
も
残
(
のこ
)
らず
呑
(
の
)
み
干
(
ほ
)
す
事
(
こと
)
が
例
(
れい
)
となつて
居
(
ゐ
)
た。
258
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
に
一回
(
いつくわい
)
位
(
くらゐ
)
ならば
如何
(
どう
)
なつと
仕様
(
しやう
)
もあるが、
259
数十石
(
すうじつこく
)
を
満
(
みた
)
す
此
(
この
)
滝壺
(
たきつぼ
)
に、
260
毎月
(
まいつき
)
果物
(
くだもの
)
の
酒
(
さけ
)
を
充
(
みた
)
さねばならぬと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
261
余
(
あま
)
り
多
(
おほ
)
からぬ
郷人
(
さとびと
)
に
取
(
と
)
つては、
262
此
(
この
)
上
(
うへ
)
なき
大苦痛
(
だいくつう
)
であつた。
263
一
(
いつ
)
ケ
月
(
げつ
)
にても
之
(
これ
)
を
怠
(
おこた
)
りし
時
(
とき
)
は、
264
大蛇
(
をろち
)
忽
(
たちま
)
ち
来
(
きた
)
りて
郷
(
さと
)
の
児
(
こ
)
を
呑
(
の
)
み
喰
(
くら
)
ひ、
265
足
(
た
)
らざる
時
(
とき
)
は
若
(
わか
)
き
妙齢
(
めうれい
)
の
女
(
をんな
)
を
片
(
かた
)
ツ
端
(
ぱし
)
から
呑
(
の
)
んで
了
(
しま
)
ふ。
266
此
(
この
)
惨状
(
さんじやう
)
を
如何
(
いか
)
にもして
逃
(
のが
)
れむと
郷人
(
さとびと
)
諜
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せ
酒
(
さけ
)
に
茴香
(
ういきやう
)
の
粉末
(
ふんまつ
)
を
混
(
こん
)
じ、
267
香
(
にほひ
)
よき
酒
(
さけ
)
となし、
268
此
(
この
)
滝壺
(
たきつぼ
)
に
充
(
みた
)
し
置
(
お
)
き、
269
大蛇
(
をろち
)
の
来
(
きた
)
り
呑
(
の
)
むを、
270
木蔭
(
こかげ
)
に
潜
(
ひそ
)
んで
息
(
いき
)
をこらして
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
271
大蛇
(
をろち
)
は
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
より
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
272
数十石
(
すうじつこく
)
の
酒
(
さけ
)
を
悠々
(
いういう
)
として
呑
(
の
)
み
干
(
ほ
)
し、
273
最早
(
もはや
)
半分
(
はんぶん
)
許
(
ばか
)
り
三日間
(
みつかかん
)
に
呑
(
の
)
み
終
(
をは
)
り、
274
毒
(
どく
)
が
廻
(
まは
)
つて
悶
(
もだ
)
え
苦
(
くるし
)
みつつあつた。
275
そこへ
飯依別
(
いひよりわけ
)
、
276
久木別
(
くきわけ
)
、
277
久々別
(
くくわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
は、
278
数多
(
あまた
)
の
郷人
(
さとびと
)
と
共
(
とも
)
に、
279
大蛇
(
をろち
)
を
中
(
なか
)
に
四方
(
しはう
)
を
取囲
(
とりかこ
)
み、
280
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
毒
(
どく
)
が
大蛇
(
をろち
)
の
全身
(
ぜんしん
)
に
廻
(
まは
)
り、
281
亡
(
ほろ
)
びます
様
(
やう
)
と
祈願
(
きぐわん
)
をこめつつあつたのである。
282
大蛇
(
をろち
)
は
一丈
(
いちぢやう
)
許
(
ばか
)
りの
大口
(
おほぐち
)
をパツと
開
(
ひら
)
いて、
283
首
(
くび
)
をシヤクリ
乍
(
なが
)
ら
死物狂
(
しにものぐるひ
)
になつて、
284
郷人
(
さとびと
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
噛
(
か
)
みつかむとする。
285
飯依別
(
いひよりわけ
)
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は、
286
其
(
その
)
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
に
大蛇
(
をろち
)
の
比礼
(
ひれ
)
と
称
(
しよう
)
する、
287
大麻
(
おほぬさ
)
を
打振
(
うちふ
)
り
打振
(
うちふ
)
り
大蛇
(
をろち
)
を
悩
(
なや
)
ませて
居
(
ゐ
)
た。
288
されど
巨大
(
きよだい
)
なる
蛇体
(
じやたい
)
に
茴香
(
ういきやう
)
の
毒
(
どく
)
位
(
くらゐ
)
にては、
289
人間
(
にんげん
)
が
悪酔
(
わるゑひ
)
した
時
(
とき
)
の
様
(
やう
)
なもので、
290
生命
(
いのち
)
に
関
(
かか
)
はる
丈
(
だけ
)
の
効果
(
かうくわ
)
はない。
291
そこで
酔
(
ゑひ
)
が
醒
(
さ
)
めたる
上
(
うへ
)
は、
292
此
(
この
)
大蛇
(
をろち
)
再
(
ふたた
)
び
来
(
きた
)
りて
如何
(
いか
)
なる
復讐
(
ふくしう
)
をなすかも
知
(
し
)
れずと、
293
心
(
こころ
)
も
心
(
こころ
)
ならず、
294
数多
(
あまた
)
の
郷人
(
さとびと
)
は
寄
(
よ
)
つて
集
(
たか
)
つて、
295
大蛇
(
をろち
)
退治
(
たいぢ
)
の
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らしつつあつたのである。
296
斬
(
き
)
れども
突
(
つ
)
けども
鱗
(
うろこ
)
堅
(
かた
)
くして
鋼鉄
(
かうてつ
)
の
如
(
ごと
)
く、
297
到底
(
たうてい
)
人間
(
にんげん
)
としては
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
なかつた。
298
此
(
この
)
村
(
むら
)
の
土人
(
どじん
)
にしてタリヤと
云
(
い
)
ふ
力強
(
ちからづよ
)
の
男
(
をとこ
)
、
299
大鎌
(
おほかま
)
を
携
(
たづさ
)
へ
大蛇
(
をろち
)
にワザと
呑
(
の
)
まれ、
300
腹中
(
ふくちゆう
)
にて
鎌
(
かま
)
を
以
(
もつ
)
て
臓腑
(
ざうふ
)
を
斬
(
き
)
り
破
(
やぶ
)
り、
301
大蛇
(
をろち
)
を
殪
(
たふ
)
さむと
試
(
こころ
)
み、
302
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
にワザと
呑
(
の
)
まれて
了
(
しま
)
つたのだが、
303
今
(
いま
)
に
其
(
その
)
男
(
をとこ
)
は
如何
(
どう
)
なつたか、
304
唯
(
ただ
)
大蛇
(
をろち
)
は
少
(
すこ
)
しく
目
(
め
)
の
色
(
いろ
)
を
変
(
か
)
へて
苦
(
くる
)
しげに
狂
(
くる
)
ふ
計
(
ばか
)
りである。
305
されどさう
急
(
きふ
)
に
死
(
し
)
にさうにもなし、
306
人間
(
にんげん
)
が
酒
(
さけ
)
の
酔
(
ゑひ
)
に
少々
(
せうせう
)
酩酊
(
めいてい
)
して
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
つてる
位
(
くらゐ
)
な
態度
(
たいど
)
とよりか
見
(
み
)
えないので、
307
飯依別
(
いひよりわけ
)
始
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
の
心配
(
しんぱい
)
は
容易
(
ようい
)
でなかつた。
308
唯
(
ただ
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
神
(
かみ
)
の
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
りて
大蛇
(
をろち
)
を
退治
(
たいぢ
)
し
貰
(
もら
)
はむと
祈
(
いの
)
るより
外
(
ほか
)
に
道
(
みち
)
がなかつたのである。
309
清公
(
きよこう
)
は
木蔭
(
こかげ
)
に
潜
(
ひそ
)
み、
310
稍
(
やや
)
胸
(
むね
)
を
躍
(
をど
)
らせ
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
熟視
(
じゆくし
)
して
居
(
ゐ
)
た。
311
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
身体
(
からだ
)
の
各部
(
かくぶ
)
に
痳痺
(
まひ
)
を
感
(
かん
)
じ、
312
一寸
(
ちよつと
)
も
自由
(
じいう
)
の
利
(
き
)
かぬ
様
(
やう
)
になつて
居
(
を
)
る
事
(
こと
)
に
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いた。
313
大蛇
(
をろち
)
は
今度
(
こんど
)
はノソリノソリと
人垣
(
ひとがき
)
を
破
(
やぶ
)
つて
広
(
ひろ
)
く
這
(
は
)
ひ
出
(
だ
)
し、
314
尾
(
を
)
を
頻
(
しき
)
りに
振
(
ふ
)
つて、
315
四辺
(
あたり
)
の
樹木
(
じゆもく
)
を
しばき
倒
(
たふ
)
し
暴
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ふ。
316
郷人
(
さとびと
)
は
尾
(
を
)
の
先
(
さき
)
に
叩
(
たた
)
かれて
死
(
し
)
する
者
(
もの
)
刻々
(
こくこく
)
に
殖
(
ふ
)
えて
来
(
く
)
る。
317
大蛇
(
をろち
)
は
益々
(
ますます
)
暴
(
あば
)
れ
狂
(
くる
)
ふ。
318
茴香
(
ういきやう
)
の
毒
(
どく
)
が
全身
(
ぜんしん
)
に
廻
(
まは
)
つたのと、
319
蛇体
(
じやたい
)
に
最
(
もつと
)
も
有毒
(
いうどく
)
なる
鉄製鎌
(
てつせいかま
)
の
悩
(
なや
)
みとに
依
(
よ
)
つて、
320
流石
(
さすが
)
の
大蛇
(
をろち
)
も
死物狂
(
しにものぐる
)
ひになり、
321
苦
(
くる
)
しみ
出
(
だ
)
したのである。
322
清公
(
きよこう
)
は
其
(
その
)
尾
(
を
)
に
振
(
ふ
)
られて
二三丁
(
にさんちやう
)
許
(
ばか
)
り
中空
(
ちうくう
)
に
捲上
(
まきあ
)
げられ、
323
チヤンキー、
324
モンキーの
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かして
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
る
岩石
(
がんせき
)
の
傍
(
かたはら
)
にドサリと
降
(
ふ
)
つて
来
(
き
)
た。
325
愈
(
いよいよ
)
此処
(
ここ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
躄
(
ゐざり
)
が
揃
(
そろ
)
つた
訳
(
わけ
)
だ。
326
嗚呼
(
ああ
)
、
327
大蛇
(
をろち
)
の
身体
(
からだ
)
を
始
(
はじ
)
め
此
(
この
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
運命
(
うんめい
)
は
如何
(
どう
)
なるであらうか。
328
(
大正一一・七・八
旧閏五・一四
松村真澄
録)
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