霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 酒(くし)の滝壺(たきつぼ)〔七五一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻 篇:第2篇 自由活動 よみ(新仮名遣い):じゆうかつどう
章:第5章 酒の滝壺 よみ(新仮名遣い):くしのたきつぼ 通し章番号:751
口述日:1922(大正11)年07月08日(旧閏05月14日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
清公は、地恩郷の左守に任命されたが、権謀術数を駆使して宇豆姫と結婚し、権勢を拡げようとしたが、そのためにかえって地位を失ってしまったのは、まったく自分の利己主義の罪のためであると自覚した。
そこで清公は、黄竜姫の承諾を得て、チャンキーとモンキーと従えて、タカの港と漕ぎ出して日の出神の事跡を巡礼し、宣伝の旅に出ることになった。
一行はヒルの港に着き、飯依彦らの事跡を参拝して、クシの滝に向かった。その途上で休息を取っていた。清彦は、自分の悪念から起こったことから、かえって一宣伝使となって宣伝の旅に出る境遇になったことを神に感謝した。
モンキーは、かつて田依彦、時彦、芳彦が日の出神に導かれて改心した酒の滝が近いことを告げた。すると上流の谷間から、人々の鬨の声が聞こえてきた。モンキーを偵察に行かせたが、モンキーは大蛇を見て腰を抜かしてしまう。
チャンキーもモンキーの報告を聞いてその場に腰を抜かしてしまった。清公は二人に対して文句を言いながら一人様子を見に行くと、大蛇を郷人たちが取り巻いていた。
日の出神が渡ってきてから、この滝の酒は涸れてしまった。そのため、この酒を飲んでいた大蛇は業を煮やして、人間の子を襲うようになってしまった。神託を請うと、大蛇は飯依彦の子孫に憑依し、月に一回酒を醸して滝壺に満たすよう要求した。
しかしこれが郷人たちの非常な負担になっていた。そこで遂に郷人たちは、酒に毒を混ぜて大蛇を退治しようとしていたのだった。郷人たちは、大蛇に早く毒が回るように取り囲んで祈願を凝らしていたのであった。
この様子を見ていた清公は体が硬直してしまった。大蛇は苦しみ出して暴れまわった。その尻尾に振られて、清公は空中に飛ばされ、チャンキーとモンキーが腰を抜かしてしまった岩の上に落ちて来てしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-08-27 19:42:13 文字数:4856 OBC :rm2505
愛善世界社版:93頁 八幡書店版:第5輯 65頁 修補版: 校定版:97頁 普及版:44頁 初版: ページ備考:
001神(かみ)の恵(めぐみ)も開(ひら)け行(ゆ)く
002世(よ)は太平(たいへい)の洋中(わだなか)に
003堅磐(かきは)常磐(ときは)に浮(うか)びたる
004神(かみ)の造(つく)りし冠島(かむりじま)
005黄金(こがね)花(はな)咲(さ)く竜宮(りうぐう)の
006一(ひと)つの島(しま)と名(な)を負(お)ひし
007日(ひ)の出神(でのかみ)の御(おん)遺跡(ゐせき)
008醜女(しこめ)探女(さぐめ)を祝姫(はふりひめ)[※初版や愛世版では「祝部」だが、校定版・八幡版では「祝姫」に直している。文脈上は「祝姫」が正しい]の
009三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
010風(かぜ)凪(な)ぎ渡(わた)る波(なみ)の上(うへ)
011辷(すべ)り来(きた)りし面那芸(つらなぎ)の
012神(かみ)の命(みこと)の詣(まう)でたる
013竜(たつ)の宮居(みやゐ)は今(いま)も尚(なほ)
014御稜威(みいづ)輝(かがや)くヒル港(みなと)
015屋根無(たなな)し船(ぶね)に身(み)を任(まか)せ
016力(ちから)限(かぎ)りに漕(こ)ぎ来(きた)る
017三五教(あななひけう)の神司(かむづかさ)
018地恩(ちおん)の郷(さと)を後(あと)にして
019魂(たま)を洗(あら)ひし清公(きよこう)が
020チヤンキーモンキー引連(ひきつ)れて
021進(すす)み来(きた)るぞ健(けな)げなれ
022あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
023御霊(みたま)幸(さち)はひましまして
024心(こころ)ねぢけし清公(きよこう)も
025胸(むね)の帳(とばり)を引(ひ)きあげて
026輝(かがや)き初(そ)めし厳御魂(いづみたま)
027瑞(みづ)の御霊(みたま)に神習(かむなら)ひ
028天津(あまつ)祝詞(のりと)を宣(の)り乍(なが)ら
029御船(みふね)を浜辺(はまべ)に繋(つな)ぎつつ
030身装(みなり)も軽(かる)き蓑笠(みのかさ)の
031金剛杖(こんがうづゑ)に送(おく)られて
032山奥(やまおく)指(さ)して進(すす)み入(い)る。
033 地恩城(ちおんじやう)に一切(いつさい)の教権(けうけん)を掌握(しやうあく)したる高山彦(たかやまひこ)の後(あと)を襲(おそ)ひ、034左守(さもり)となりすまし居(ゐ)たる清公(きよこう)は茲(ここ)に地恩城(ちおんじやう)のブランジーとして権威(けんゐ)を振(ふる)ひ、035宇豆姫(うづひめ)をクロンバーの位置(ゐち)に据(す)ゑ、036我(わが)勢力(せいりよく)を扶植(ふしよく)せむと種々(しゆじゆ)の権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)を弄(ろう)したるも、037天(てん)は清公(きよこう)が邪曲(じやきよく)に組(くみ)せず、038遂(つい)に左守(さもり)を自(みづか)ら辞(じ)し、039スマートボールをしてブランジーの職(しよく)を専(もつぱ)らにせしむるの余儀(よぎ)なきに立到(たちいた)つたのも、040全(まつた)く我(わ)が利己(りこ)主義(しゆぎ)の罪(つみ)の致(いた)す処(ところ)と自覚(じかく)したる清公(きよこう)は、041転迷(てんめい)開悟(かいご)の梅花(ばいくわ)の香(かをり)に心(こころ)の眼(まなこ)も清(きよ)まり、042如何(いか)にもして神界(しんかい)の御用(ごよう)を身魂(みたま)相応(さうおう)に勤(つと)め、043名誉(めいよ)を恢復(くわいふく)せばやと、044チヤンキー、045モンキー両人(りやうにん)の賛同(さんどう)を得(え)て黄竜姫(わうりようひめ)以下(いか)の承認(しようにん)の上(うへ)、046タカの港(みなと)を漕(こ)ぎ出(い)でて屋根無(たなな)し船(ぶね)に身(み)を任(まか)せ、047嘗(かつ)て日(ひ)の出神(でのかみ)一行(いつかう)が上陸(じやうりく)したるヒルの港(みなと)に船(ふね)を止(とど)め、048竜宮(りうぐう)の宮(みや)に詣(まう)でて前途(ぜんと)の無事(ぶじ)を祈(いの)り、049飯依彦(いひよりひこ)、050久々(くくの)神(かみ)、051久木(くきの)神(かみ)の遺跡(ゐせき)を巡拝(じゆんぱい)し進(すす)んでクシの滝(たき)の間近(まぢか)まで、052茴香(ういきよう)の薫(かをり)に送(おく)られ乍(なが)ら夏風(なつかぜ)そよぐ急坂(きふはん)を喘(あへ)ぎ喘(あへ)ぎ宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ漸(やうや)くにして、053風景(ふうけい)最(もつと)も佳(よ)き谷川(たにがは)の傍(かたはら)に立(た)てる岩石(がんせき)の上(うへ)に腰打掛(こしうちか)け、054旅(たび)の疲(つか)れを休(やす)めつつ話(はなし)に耽(ふけ)る。
055チヤンキー『アヽ何(なん)と良(い)い景色(けしき)だなア。056谷間(たにあひ)は斯(か)う両方(りやうはう)より山(やま)と山(やま)とに圧搾(あつさく)されて、057非常(ひじやう)に狭隘(けふあい)ではあるが、058清(きよ)き渓流(けいりう)が飛沫(ひまつ)を飛(と)ばし淙々(そうそう)と水音(みなおと)を立(た)て、059岩(いは)に噛(か)みつき、060佐久那太理(さくなだり)に落(お)ち行(ゆ)く光景(くわうけい)は、061到底(たうてい)地恩城(ちおんじやう)附近(ふきん)にては見(み)る事(こと)も出来(でき)ない絶景(ぜつけい)だ。062我々(われわれ)も清公(きよこう)さまの失敗(しつぱい)のお蔭(かげ)で、063天下(てんか)を自由(じいう)自在(じざい)に宣伝(せんでん)する事(こと)を許(ゆる)され、064何(なん)だか籠(かご)の鳥(とり)が宇宙(うちう)に放(はな)たれた様(やう)な気分(きぶん)になつて来(き)た。065斯(か)うなると人間(にんげん)も一度(いちど)は失敗(しつぱい)もし、066慢心(まんしん)もやつて見(み)なくては、067本当(ほんたう)の天地(てんち)、068人生(じんせい)の真実味(しんじつみ)が分(わか)らないものだ。069……南無(なむ)清公(きよこう)大明神(だいみやうじん)、070チヤンキー、071モンキー両手(りやうて)を合(あは)せ有難(ありがた)く感謝(かんしや)致(いた)します。072アハヽヽヽ』
073とそろそろ地金(ぢがね)を現(あら)はし、074洒落(しやれ)気分(きぶん)になつて、075駄句(だく)り出(だ)した。
076清公(きよこう)『世(よ)の中(なか)は一切(いつさい)万事(ばんじ)惟神(かむながら)の御(ご)経綸(けいりん)に左右(さいう)されて居(ゐ)るものだ。077俺(おれ)が地恩城(ちおんじやう)で大野心(だいやしん)を起(おこ)し、078宇豆姫(うづひめ)を得(え)むとして終生(しうせい)拭(ぬぐ)ふ可(べか)らざる大恥(おほはじ)を掻(か)いたのも、079今(いま)になつて省(かへり)みれば、080実(じつ)に仁慈(じんじ)無限(むげん)の大神(おほかみ)様(さま)の御恵(みめぐみ)であつた。081己(おのれ)に出(い)づるものは己(おのれ)に帰(かへ)る。082悪(わる)い事(こと)をすればキツト悪(わる)い酬(むく)いが来(く)るのは当然(たうぜん)だ。083然(しか)るに何(なん)ぞや。084あれ丈(だ)け体主(たいしゆ)霊従(れいじう)的(てき)陰謀(いんぼう)を組立(くみた)て、085其(その)結果(けつくわ)斯様(かやう)な結構(けつこう)な宣伝使(せんでんし)となり、086此(この)冠島(かむりじま)に自由(じいう)自在(じざい)に開放(かいはう)的(てき)に宣伝(せんでん)せよとの許(ゆる)しを受(う)けたのは、087悪(あく)が自然(しぜん)に善(ぜん)の結果(けつくわ)を齎(もたら)した様(やう)なものだ。088これと云(い)ふのも全(まつた)く神(かみ)様(さま)が神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し、089活(い)かして働(はたら)かして下(くだ)さる有難(ありがた)き思召(おぼしめ)し、090逆境(ぎやくきやう)に立(た)ちて初(はじ)めて神(かみ)の慈愛(じあい)を知(し)り、091宇宙(うちう)の真善美(しんぜんび)を味(あぢ)はふ事(こと)を得(え)た。092左守(さもりの)神(かみ)となつて日夜(にちや)心(こころ)を痛(いた)め、093下(くだ)らぬ野心(やしん)の鬼(おに)に駆使(くし)されて居(ゐ)るよりも、094斯(か)う身軽(みがる)になつて、095何(なん)の束縛(そくばく)もなく、096自由(じいう)自在(じざい)に活動(くわつどう)し得(う)る機会(きくわい)を与(あた)へられたと云(い)ふ事(こと)は、097実(じつ)に我々(われわれ)として無上(むじやう)の幸福(かうふく)だ。098アヽ辱(かたじけ)なし、099勿体(もつたい)なし、100惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
101と有難涙(ありがたなみだ)に声(こゑ)を曇(くも)らす。
102チヤンキー『神(かみ)も仏(ほとけ)も鬼(おに)も蛇(じや)も悪魔(あくま)も、103残(のこ)らず自分(じぶん)が招(まね)くのだ。104決(けつ)して外(ほか)から襲来(しふらい)するものでない。105盗賊(たうぞく)の用意(ようい)に戸締(とじま)りをするよりも、106心(こころ)に盗賊(たうぞく)を招(まね)かない様(やう)にするのが肝要(かんえう)だ。107一切(いつさい)万事(ばんじ)残(のこ)らず自分(じぶん)の心(こころ)から招(まね)くものだからなア』
108モンキー『清公(きよこう)さま、109此処(ここ)はその昔(むかし)、110日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が竜宮城(りうぐうじやう)の従神(じうしん)たりし、111田依彦(たよりひこ)、112時彦(ときひこ)、113芳彦(よしひこ)と云(い)ふ玉抜(たまぬ)かれ神(がみ)を引連(ひきつ)れ、114酒(さけ)飲(の)みの副(ふく)守護神(しゆごじん)を追(お)ひ出(だ)し給(たま)うた名高(なだか)い酒(くし)の滝壺(たきつぼ)の附近(ふきん)ではありますまいか。115竜宮(りうぐう)様(さま)が天然(てんねん)に造(つく)つて置(お)かれた酒壺(さけつぼ)が有(あ)ると云(い)ふ事(こと)ですが、116未(いま)だに相変(あひかは)らず其(その)お酒(さけ)は湧(わ)いて来(く)るでせうか。117一度(いちど)拝見(はいけん)したいものですな』
118清公(きよこう)『サア、119必要(ひつえう)があれば湧(わ)いて居(を)るだらうが、120……世(よ)の中(なか)に不必要(ふひつえう)な物(もの)は一(ひと)つもないのだから、121今日(こんにち)となりては何(なん)とも分(わか)らないなア』
122 斯(か)く話(はな)し合(あ)ふ中(うち)、123何処(いづく)ともなく二三丁(にさんちやう)許(ばか)り上流(じやうりう)の谷間(たにま)より、124数多(あまた)の老若(らうにやく)男女(なんによ)の鬨(とき)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。
125チヤンキー『ヤア、126清公(きよこう)さま、127不思議(ふしぎ)な声(こゑ)がするぢやありませぬか。128一(ひと)つ探検(たんけん)と出(で)かけませうか』
129清公(きよこう)『一寸(ちよつと)待(ま)てよ、130何事(なにごと)も慎重(しんちよう)の態度(たいど)を執(と)らねば、131軽々(かるがる)しく進(すす)んで取返(とりかへ)しの付(つ)かぬ失敗(しつぱい)を演(えん)じてはならないから、132よくよく様子(やうす)を窺(うかが)つた上(うへ)出(で)かける事(こと)にしよう。133それに就(つ)いては……モンキー、134お前(まへ)は斥候(せきこう)として声(こゑ)する方(はう)を探(たづ)ね、135そつと様子(やうす)を考(かんが)へ、136報告(はうこく)をして呉(く)れ。137それまで我々(われわれ)両人(りやうにん)は此(この)巌(いはほ)の上(うへ)に於(おい)て時期(じき)を待(ま)つ事(こと)とするから』
138モンキー『畏(かしこ)まりました。139どんな事(こと)が突発(とつぱつ)しても、140此処(ここ)を一寸(ちよつと)も動(うご)いてはなりませぬぞ』
141清公(きよこう)『ヨシ合点(がつてん)だ。142サア木(き)の茂(しげ)みに身(み)を隠(かく)しつつ、143偵察隊(ていさつたい)の任務(にんむ)を尽(つく)して呉(く)れ』
144モンキー『承知(しようち)致(いた)したぞよエヘン』
145とモンキーは茴香(ういきよう)の花(はな)の得(え)も言(い)はれぬ薫(かをり)に包(つつ)まれ乍(なが)ら、146酒(くし)の滝壺(たきつぼ)の間近(まぢか)に忍(しの)び寄(よ)り、147少時(しばらく)あつてモンキーは息(いき)をはづませ帰(かへ)り来(きた)り、148震(ふる)ひ声(ごゑ)になりて、
149モンキー『キ……キ……清公(きよこう)さま、150タ……タ……大変(たいへん)で御座(ござ)います。151モウ帰(かへ)りませう。152斯(こ)んな所(ところ)を宣伝(せんでん)したつて、153あちらに一軒(いつけん)、154こちらに二軒(にけん)と、155バラバラに家(いへ)が建(た)つて居(ゐ)る……モウ斯(こ)んな所(ところ)で労(らう)して効(かう)少(すくな)き活動(くわつどう)をするよりも、156マ一遍(いつぺん)ヒルの港(みなと)へ引返(ひきかへ)し、157少(すこ)しく人家(じんか)稠密(ちうみつ)な地点(ちてん)へ行(ゆ)かうぢやありませぬか』
158清公(きよこう)『そんな話(はなし)はどうでもよい。159お前(まへ)の探検(たんけん)して来(き)た次第(しだい)を逐一(ちくいち)注進(ちゆうしん)せぬかい』
160モンキー『イヤ……モウ、161思(おも)ひ出(だ)してもゾツとする。162どうぞそればつかりは御(ご)量見(りやうけん)下(くだ)さい』
163チヤンキー『何(なん)だか周章(あわて)たモンキーの様子(やうす)、164日頃(ひごろ)の臆病(おくびやう)が突発(とつぱつ)したのだな。165何時(いつ)も口癖(くちぐせ)の様(やう)に仮令(たとへ)天地(てんち)は覆(かへ)るとも、166誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ……と云(い)つて居(を)つたぢやないか。167一体(いつたい)何(ど)んな事(こと)があつたのか。168斥候(せきこう)が報告(はうこく)をせないと云(い)ふ事(こと)があるものか。169大蛇(だいじや)に狙(ねら)はれた蛙(かへる)の様(やう)に小(ちひ)さくなつて、170何(なん)の態(ざま)ぢや』
171モンキー『ヤイヤイ、172大蛇(をろち)の事(こと)はモウ言(い)うて呉(く)れな。173俺(おれ)は体(からだ)が縮(ちぢ)み上(あが)る様(やう)だ』
174清公(きよこう)『ハヽア、175噂(うはさ)に聞(き)いたクシの滝(たき)の、176酒呑(さけのみ)大蛇(だいじや)を見(み)て来(き)よつたな。177ヨシ、178其奴(そいつ)ア面白(おもしろ)い。179一(ひと)つ生命懸(いのちが)けの活動(くわつどう)をして、180三五教(あななひけう)に言向(ことむ)け和(やは)すか。181さもなくば生(い)け捕(どり)にして、182地恩城(ちおんじやう)へ持(も)つて帰(かへ)るか。183兎(と)も角(かく)それを聞(き)けば、184何(なん)だか胴(どう)がすわつた様(やう)な心持(こころもち)がするワイ』
185 チヤンキー、186モンキーは蒼白(まつさを)な顔(かほ)して、187腰(こし)をワナワナ慄(ふる)はせ乍(なが)ら、
188両人(りやうにん)『ワ…ワ…ワ…私(わたし)はド…ド…どうやら胴(どう)が据(すわ)り……ませぬワイ。189如何(どう)しませう』
190清公(きよこう)『貴様(きさま)の腰(こし)は何(なん)だ。191胴体(どうたい)無(な)しの凧(いかのぼり)、192いかにも卑怯(ひけふ)未練(みれん)な腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)だな。193奴腰抜(どこしぬけ)奴(め)、194モウ貴様(きさま)は免除(めんぢよ)してやるから、195勝手(かつて)にヒルの港(みなと)へ逃(に)げ帰(かへ)つたがよからうぞ』
196 チヤン、197モン二人(ふたり)は、
198チャンキー、モンキー『それは有難(ありがた)う御座(ござ)います。199併(しか)し送(おく)つて頂(いただ)かぬと、200途(みち)に又(また)あんな奴(やつ)がやつて来(き)たら如何(どう)する事(こと)も出来(でき)ませぬワイ』
201清公(きよこう)『チヤンキー、202貴様(きさま)は話(はなし)を聞(き)いた丈(だけ)で震(ふる)うてるぢやないか。203モンキーの恐怖心(きようふしん)に駆(か)られた精神(せいしん)作用(さよう)で、204そんな幻覚(げんかく)を起(おこ)したのだらう。205貴様(きさま)此処(ここ)に待(ま)つて居(を)れ。206動(うご)いちや可(い)けないぞ。207俺(おれ)が実地(じつち)探検(たんけん)をやつて来(く)るから……』
208両人(りやうにん)『ハイどうぞ、209御(ご)無事(ぶじ)に帰(かへ)つて下(くだ)さい。210動(うご)けと仰有(おつしや)つても動(うご)けませぬワ。211斯(か)う足部(そくぶ)に菎蒻(こんにやく)の幽霊(いうれい)が憑依(ひようい)しては、212如何(いかん)ともする事(こと)は出来(でき)ぬ』
213清公(きよこう)『アーア勇将(ゆうしやう)の下(もと)に勇卒(ゆうそつ)なし。214俺(おれ)もヤツパリ因縁(いんねん)が悪(わる)いと見(み)える。215斯(こ)んな奴(やつ)を連(つ)れて来(こ)なかつた方(はう)が、216何程(なにほど)よかつたか知(し)れやしない。217まさかの時(とき)に骨(ほね)を拾(ひろ)うてやる面倒(めんだう)も要(い)らず、218エーエ良(よ)い穀潰(ごくつぶ)しだな』
219と二人(ふたり)を残(のこ)し、220木(き)の茂(しげ)みを分(わ)けて近寄(ちかよ)つて見(み)れば、221数十(すうじふ)人(にん)の真黒(まつくろ)けの男(をとこ)、222滝壺(たきつぼ)の前(まへ)に堵列(とれつ)し一生(いつしやう)懸命(けんめい)に何事(なにごと)か祈(いの)つて居(ゐ)る。223白衣(はくい)を着(つ)けた神主(かむぬし)らしい男(をとこ)三(さん)人(にん)、224大麻(おほぬさ)を前後(ぜんご)左右(さいう)に頻(しき)りに振廻(ふりまは)し、225片言混(かたことまじ)りの宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひ土人(どじん)は其(その)声(こゑ)に従(つ)れて、226汗(あせ)をタラタラ流(なが)し乍(なが)ら合唱(がつしやう)して居(ゐ)る。227よくよく見(み)れば、228周囲(まはり)一丈(いちぢやう)も有(あ)らむと思(おも)はるる大蛇(をろち)、229赤(あか)い蛇腹(じやばら)をダンダラ幕(まく)の様(やう)に見(み)せた儘(まま)、230二三間(にさんげん)許(ばか)り鎌首(かまくび)を立(た)て、231頻(しき)りに毒気(どくき)を吹(ふ)いて居(ゐ)る所(ところ)であつた。
232 昔(むかし)は此(この)滝(たき)に自然(しぜん)の清酒(せいしゆ)湧(わ)き出(い)で、233山(やま)の竜神(りうじん)時々(ときどき)来(きた)つて是(こ)れを呑(の)みつつあつたが、234日(ひ)の出神(でのかみ)が初(はじ)めて此(この)島(しま)に渡(わた)られし時(とき)より、235次第(しだい)々々(しだい)に酒(さけ)の湧出量(ゆうしゆつりやう)を減(げん)じ、236遂(つい)には一滴(いつてき)も出(で)なくなつて了(しま)つた。237傍(かたはら)の滝(たき)は淙々(そうそう)として昔(むかし)に変(かは)らず流(なが)れ落(お)ちて居(ゐ)る。238此(この)水上(みなかみ)に棲息(せいそく)せる大蛇(をろち)は、239酒(さけ)を呑(の)まむと来(き)て見(み)れば、240一滴(いつてき)もなきに業(ごふ)を煮(に)やし、241夜(よ)な夜(よ)な人間(にんげん)の子(こ)を呑(の)み喰(くら)ふ事(こと)となつた。242附近(ふきん)の郷人(さとびと)は此(この)害(がい)を防(ふせ)がむ為(ため)に、243飯依彦(いひよりひこの)神(かみ)の末裔(まつえい)たる飯依別(いひよりわけ)に神宣(しんせん)を請(こ)はしめた。244此(この)時(とき)、245大蛇(をろち)の霊(れい)、246憑依(ひようい)して云(い)ふ……
247大蛇の霊『汝(なんぢ)等(ら)、248愛児(あいじ)の生命(いのち)を取(と)らるるを悲(かな)しと思(おも)はば、249所在(あらゆる)果物(くだもの)を以(もつ)て酒(さけ)を醸(つく)り、250彼(か)の滝壺(たきつぼ)に満(みた)して我(われ)に献(けん)ぜよ。251さすれば汝(なんぢ)等(ら)が愛児(あいじ)を呑(の)む事(こと)を止(とど)めむ』
252と云(い)つた。253それより郷人(さとびと)は数多(あまた)の果物(くだもの)を集(あつ)め酒(さけ)を造(つく)り、254此(この)山坂(やまさか)を登(のぼ)り来(きた)つて、255此(この)滝壺(たきつぼ)に酒(さけ)を満(み)たす事(こと)を仕事(しごと)の如(ごと)くにして居(ゐ)た。256大蛇(をろち)は月(つき)に一回(いつくわい)づつ現(あら)はれ来(きた)り、257滝壺(たきつぼ)の酒(さけ)を一滴(いつてき)も残(のこ)らず呑(の)み干(ほ)す事(こと)が例(れい)となつて居(ゐ)た。
258 一(いち)年(ねん)に一回(いつくわい)位(くらゐ)ならば如何(どう)なつと仕様(しやう)もあるが、259数十石(すうじつこく)を満(みた)す此(この)滝壺(たきつぼ)に、260毎月(まいつき)果物(くだもの)の酒(さけ)を充(みた)さねばならぬと云(い)ふ事(こと)は、261余(あま)り多(おほ)からぬ郷人(さとびと)に取(と)つては、262此(この)上(うへ)なき大苦痛(だいくつう)であつた。263一(いつ)ケ月(げつ)にても之(これ)を怠(おこた)りし時(とき)は、264大蛇(をろち)忽(たちま)ち来(きた)りて郷(さと)の児(こ)を呑(の)み喰(くら)ひ、265足(た)らざる時(とき)は若(わか)き妙齢(めうれい)の女(をんな)を片(かた)ツ端(ぱし)から呑(の)んで了(しま)ふ。266此(この)惨状(さんじやう)を如何(いか)にもして逃(のが)れむと郷人(さとびと)諜(しめ)し合(あは)せ酒(さけ)に茴香(ういきやう)の粉末(ふんまつ)を混(こん)じ、267香(にほひ)よき酒(さけ)となし、268此(この)滝壺(たきつぼ)に充(みた)し置(お)き、269大蛇(をろち)の来(きた)り呑(の)むを、270木蔭(こかげ)に潜(ひそ)んで息(いき)をこらして待(ま)つて居(ゐ)た。
271 大蛇(をろち)は二三(にさん)日前(にちまへ)より此処(ここ)に現(あら)はれ、272数十石(すうじつこく)の酒(さけ)を悠々(いういう)として呑(の)み干(ほ)し、273最早(もはや)半分(はんぶん)許(ばか)り三日間(みつかかん)に呑(の)み終(をは)り、274毒(どく)が廻(まは)つて悶(もだ)え苦(くるし)みつつあつた。275そこへ飯依別(いひよりわけ)、276久木別(くきわけ)、277久々別(くくわけ)の神司(かむづかさ)は、278数多(あまた)の郷人(さとびと)と共(とも)に、279大蛇(をろち)を中(なか)に四方(しはう)を取囲(とりかこ)み、280一(いち)時(じ)も早(はや)く毒(どく)が大蛇(をろち)の全身(ぜんしん)に廻(まは)り、281亡(ほろ)びます様(やう)と祈願(きぐわん)をこめつつあつたのである。282大蛇(をろち)は一丈(いちぢやう)許(ばか)りの大口(おほぐち)をパツと開(ひら)いて、283首(くび)をシヤクリ乍(なが)ら死物狂(しにものぐるひ)になつて、284郷人(さとびと)を目蒐(めが)けて噛(か)みつかむとする。285飯依別(いひよりわけ)外(ほか)二人(ふたり)は、286其(その)度(たび)毎(ごと)に大蛇(をろち)の比礼(ひれ)と称(しよう)する、287大麻(おほぬさ)を打振(うちふ)り打振(うちふ)り大蛇(をろち)を悩(なや)ませて居(ゐ)た。
288 されど巨大(きよだい)なる蛇体(じやたい)に茴香(ういきやう)の毒(どく)位(くらゐ)にては、289人間(にんげん)が悪酔(わるゑひ)した時(とき)の様(やう)なもので、290生命(いのち)に関(かか)はる丈(だけ)の効果(かうくわ)はない。291そこで酔(ゑひ)が醒(さ)めたる上(うへ)は、292此(この)大蛇(をろち)再(ふたた)び来(きた)りて如何(いか)なる復讐(ふくしう)をなすかも知(し)れずと、293心(こころ)も心(こころ)ならず、294数多(あまた)の郷人(さとびと)は寄(よ)つて集(たか)つて、295大蛇(をろち)退治(たいぢ)の祈願(きぐわん)を凝(こ)らしつつあつたのである。296斬(き)れども突(つ)けども鱗(うろこ)堅(かた)くして鋼鉄(かうてつ)の如(ごと)く、297到底(たうてい)人間(にんげん)としては如何(いかん)ともする事(こと)が出来(でき)なかつた。298此(この)村(むら)の土人(どじん)にしてタリヤと云(い)ふ力強(ちからづよ)の男(をとこ)、299大鎌(おほかま)を携(たづさ)へ大蛇(をろち)にワザと呑(の)まれ、300腹中(ふくちゆう)にて鎌(かま)を以(もつ)て臓腑(ざうふ)を斬(き)り破(やぶ)り、301大蛇(をろち)を殪(たふ)さむと試(こころ)み、302二三(にさん)日(にち)以前(いぜん)にワザと呑(の)まれて了(しま)つたのだが、303今(いま)に其(その)男(をとこ)は如何(どう)なつたか、304唯(ただ)大蛇(をろち)は少(すこ)しく目(め)の色(いろ)を変(か)へて苦(くる)しげに狂(くる)ふ計(ばか)りである。305されどさう急(きふ)に死(し)にさうにもなし、306人間(にんげん)が酒(さけ)の酔(ゑひ)に少々(せうせう)酩酊(めいてい)して首(くび)を振(ふ)つてる位(くらゐ)な態度(たいど)とよりか見(み)えないので、307飯依別(いひよりわけ)始(はじ)め一同(いちどう)の心配(しんぱい)は容易(ようい)でなかつた。308唯(ただ)此(この)上(うへ)は神(かみ)の力(ちから)に依(よ)りて大蛇(をろち)を退治(たいぢ)し貰(もら)はむと祈(いの)るより外(ほか)に道(みち)がなかつたのである。
309 清公(きよこう)は木蔭(こかげ)に潜(ひそ)み、310稍(やや)胸(むね)を躍(をど)らせ乍(なが)ら此(この)態(てい)を熟視(じゆくし)して居(ゐ)た。311何時(いつ)の間(ま)にか身体(からだ)の各部(かくぶ)に痳痺(まひ)を感(かん)じ、312一寸(ちよつと)も自由(じいう)の利(き)かぬ様(やう)になつて居(を)る事(こと)に気(き)が付(つ)いた。313大蛇(をろち)は今度(こんど)はノソリノソリと人垣(ひとがき)を破(やぶ)つて広(ひろ)く這(は)ひ出(だ)し、314尾(を)を頻(しき)りに振(ふ)つて、315四辺(あたり)の樹木(じゆもく)をしばき倒(たふ)し暴(あ)れ狂(くる)ふ。316郷人(さとびと)は尾(を)の先(さき)に叩(たた)かれて死(し)する者(もの)刻々(こくこく)に殖(ふ)えて来(く)る。317大蛇(をろち)は益々(ますます)暴(あば)れ狂(くる)ふ。318茴香(ういきやう)の毒(どく)が全身(ぜんしん)に廻(まは)つたのと、319蛇体(じやたい)に最(もつと)も有毒(いうどく)なる鉄製鎌(てつせいかま)の悩(なや)みとに依(よ)つて、320流石(さすが)の大蛇(をろち)も死物狂(しにものぐる)ひになり、321苦(くる)しみ出(だ)したのである。322清公(きよこう)は其(その)尾(を)に振(ふ)られて二三丁(にさんちやう)許(ばか)り中空(ちうくう)に捲上(まきあ)げられ、323チヤンキー、324モンキーの腰(こし)を抜(ぬ)かして待(ま)つて居(ゐ)る岩石(がんせき)の傍(かたはら)にドサリと降(ふ)つて来(き)た。325愈(いよいよ)此処(ここ)に三(さん)人(にん)の躄(ゐざり)が揃(そろ)つた訳(わけ)だ。326嗚呼(ああ)、327大蛇(をろち)の身体(からだ)を始(はじ)め此(この)三(さん)人(にん)の運命(うんめい)は如何(どう)なるであらうか。
328(大正一一・七・八 旧閏五・一四 松村真澄録)
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